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銀行がVisaデビットを推せる理由 現金派にメリット提供

ビザ・ワールドワイド・ジャパン(Visa)は、地方銀行がVisaデビットを活用する例などを中心に、Visaが今後の5年で描いているという決済の未来の姿を解説した。

Visaデビットは現在、41の銀行が対応し、2,500万枚が発行され、右肩上がりで増加している。経産省のデータでは、デビットはほかのキャッシュレス決済(クレジット、電子マネー、コード決済)と比較して決済額では劣るものの、決済額の伸びはコード決済に次ぐ2番目の勢いで、2017年から2023年までの6年で3倍以上に拡大している。また日本銀行のデータでもデビットカード決済は右肩上がりで推移していることが示されており、「非常に順調に伸びている」(ビザ・ワールドワイド・ジャパン コンシューマーソリューションズ ディレクターの松本直久氏)とする。

デビットは6年で3.7兆円に
ビザ・ワールドワイド・ジャパン コンシューマーソリューションズ ディレクターの松本直久氏

Visaデビットだけに絞っても右肩上がりの推移は同様だが、この背景には、コロナ禍によるネット通販での利用や、この2~3年のVisaのタッチ決の普及で、いくつか盛り上がりをみせてきたことがある。特にタッチ決済で利用する比率は急速に拡大、現在は対面でVisaデビットを利用する際の約7割がタッチ決済になっている。Visaのタッチ決済を利用できる場所が拡大していることとあわせて、「現金で払う場所で、気軽にデビットを使うことが普及している」(松本氏)という。

Visaデビットの普及と背景

銀行アプリ+デビット

銀行口座と直接紐づくデビットカードが拡大しているのは、デビットカードを発行する銀行が、普及を後押ししてきたことが大きい。

銀行目線では、デビットカードを推進する理由はいくつもある。代表的なものは、預金が現金で引き出されるケースを減らし、口座に残高がある状態を維持しやすいこと。ほかにも、残高確認のために銀行アプリの利用頻度が飛躍的に高まること、そのアプリを起点に新たなキャンペーンやビジネスを展開できることなどが挙げられている。

銀行口座の使われ方が変化
銀行アプリの利用も高まる

また、若年層を取り込みやすく、つながりを維持できることもストーリーとして想定されている。例えば、若年層が地方銀行で口座を開設し、後に上京した場合でも、デビットカードなら利用を継続でき、地元への愛着の醸成にもつながるとする。

若年層を取り込める

口座開設とデビットカードをセットにする考えは海外でも定着しており、普通預金口座と銀行アプリ、デビットカードをセットでアピールすることが定番になっているという。

銀行側の経営面でもデビットカードが有効な点は多い。デビットカードのユーザーは、給料が振り込まれても口座に残高を残しておくためで、口座にお金が残っている時間が長いという意味で銀行経営にとってより望ましい形になる。

Visaにとってタッチ決済の盛り上がりや拡大は注力しているところだが、現在は全国チェーンや大手チェーンが主体で、「まだまだ足りない」(松本氏)という認識。外国人観光客の増加などもVisaのタッチ決済の普及・拡大を後押ししてきたが、その観光客はどんどん、地方や“マニアックなところ”を訪れるようになっており、クレジットカードやタッチ決済が使えない店に遭遇するケースが増えているという。

この意味でも、地方銀行がVisaデビットを推進し、地方でVisaの加盟店拡大を後押しすることは、Visaにとっても重要なポイントになるとしている。

地方の加盟店拡大は課題で、地銀の推進は助けになるという

地銀がVisaデビットや加盟店開拓を推進

そうした地方銀行のひとつである静岡銀行は、それまでのクレジットカードに加え、2024年に入ってVisaデビットカードの発行を開始。2023年にVisaのライセンスを取得して加盟店の拡大にも乗り出している。

静岡県はキャッシュレス比率が全国平均の35%(政府の目標は40%)を大きく下回る25%だったことから、同行は2023年策定の5カ年計画の中で「地域のキャッシュレス化」を明言、「先頭に立って推進する方針にした」(静岡銀行 デジタルチャネル営業部長の大石康太氏)という。

「地域のキャッシュレス化」を明言し、活性化につなげていく
静岡銀行 デジタルチャネル営業部長の大石康太氏

同行は、Visaデビットカードのユーザー向けに2%キャッシュバックの施策を用意。地域でVisaの加盟店を開拓しながら、Visaデビットカードのユーザーを加盟店に送客する施策を行なっている。また、伊豆地区など県内でキャッシュレス化の遅れが顕著な地域では、静岡県と連携し、県の補助を利用しながら加盟店のモニターを募集したり一部費用の無料化を実施したりしている。

加盟店の開拓も行ないキャッシュレスを後押しする
2024年に入り、Visaデビットに対応
2%還元を実施。キャンペーンのキャッシュバック施策はVisaのシステムを使い、銀行側の開発は不要だったとのこと

加盟店側にとって、静岡銀行は融資などで普段からつながりのある銀行であるほか、静岡銀行はVisaデビットの売上を最短3営業日で振り込む体制を構築しており、加盟店側からも好評という。

前述のように、Visaデビットのユーザーは銀行アプリを頻繁に利用するため、今後はアプリに加盟店のクーポンを掲載するといった施策も検討中で、地域の加盟店やVisaデビットの活性化を図っていく。

現金派を取り込む最終兵器

Visaにおいて、クレジット事業とデビット事業は平等に扱うものだが、ターゲット層は異なっている。長年提供してきたクレジットカード事業により明らかになっているのは、“現金派はいなくならない”“現金派をクレジットカードに移行させるのは難しい”ということだという。

Visaデビットは、口座から現金を引き出して使う現金派に対し、Visa加盟店でカードが使えるというメリットを提供する、折衷案のような形になっており、使いすぎを防ぎたいというユーザーや、クレジットカードに忌避感・警戒感の強いユーザーでも、キャッシュレスというメリットだけを便利に使える内容。多くの銀行では、利用がある度にメールで通知するなどの仕組みが用意され、仮に不正利用があっても気づきやすい環境になっている。

収入の状況についても、クレジットカードは収入が比較的高い層を想定しているのに対し、銀行口座があれば発行されるVisaデビットカードは、若年層をはじめ、口座残高や現金をなんとかやりくりしている層も対象にしたもので、本来はより庶民的な存在のサービスだ。

ポイント還元施策で存在感が高まっているクレジットカードに見劣りする側面はあるが、デビットは銀行口座と紐づく現金の代わりのサービスであり「現金の決済にポイントはつかない」という答えに行き着く。より高いポイント還元はクレジットカードで、という住み分けが実際のところになっている。

キャッシュレスを推進する立場の事業者からすると、最後に残った現金派を取り込めるのがVisaデビットという選択であり、銀行を中心として普及・拡大が推進される背景になっている。

iPhoneでデビットカード「近い将来、お話できる」

なお、Visaデビットカードをスマートフォンに登録して利用するケースにおいて、AppleのiPhoneでは利用できない現在の状況について問われると、Visaの松本氏は「近い将来、お話できるのではないか。現在は技術的な課題が残っている状況」と回答している。

Visaデビットカードは現在、AndroidスマートフォンのGoogle Payに登録可能。Visaのタッチ決済の端末にスマートフォンをかざすことで決済できる。またスマートデバイスとしてFitbit PayとGarmin Payにも登録できる。