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国宝、伊藤若冲や狩野永徳の傑作を展示! 皇居三の丸尚蔵館 開館記念展
2024年5月25日 08:30
旧江戸城の大手門を入ったところにある皇居三の丸尚蔵館で、「皇室のみやび−受け継ぐ美−」の第4期「三の丸尚蔵館の名品」が、5月21日から6月23日までの会期で始まった。
同館は、皇室に代々伝えられてきた美術工芸品が収蔵されている博物館であり美術館。昨年11月3日に一部がリニューアルオープンし、「皇室のみやび−受け継ぐ美−」展が始まり、現在の第4期が最終期にあたる。なお、全館の開館は2026年を予定している。
(第4期:「三の丸尚蔵館の名品」)
第4期の会期:2024年5月21日(火)〜2024年6月23日(日)
会場:皇居三の丸尚蔵館
入館料:一般 1,000円、大学生 500円
※会期中、一部の作品の展示替え・頁替えが行なわれる。
※出品作品は全て国(皇居三の丸尚蔵館収蔵)の作品
なお日時指定予約制のため、あらかじめネットにてチケットを購入しておく必要がある。同館でのチケット販売は行なわないため、注意が必要だ。
また個人利用に限って、撮影できる作品がある。
伊藤若冲や狩野永徳などの国宝3件を展示
今回の第4期では、約14件(26点)が出品される。展示替えされる作品があるため、一度に見られるのは約13件。少なく感じられるかもしれないが、「三の丸尚蔵館の名品」と謳うだけあり、そのラインナップは豪華だ。
例えば、国宝に指定されているものだけでも、人気の伊藤若冲の《動植綵絵》や狩野永徳の《唐獅子図屏風》、《春日権現験記絵》が展示されている。さらに、おそらく近いうちに国宝に指定されるだろう(詳細は後述)、伝 藤原行成の《粘葉本和漢朗詠集》のほか、重要文化財に指定済みまたは指定が決定した品なども見られる。
伊藤若冲は江戸時代中期、18世紀の絵師。40歳頃から約10年をかけて、花鳥を中心に魚貝に至るまでを描いた30幅を完成させ、京都の相国寺に寄進。そんな全30幅の《動植綵絵(どうしょくさいえ)》は、伊藤若冲の最高傑作とも言われる逸品で、人気も高い。今回展示されているのは、そのうちの《老松孔雀図》、《諸魚図》、《蓮池遊魚図》、《芙蓉双鶏図》の4幅。
解説パネルに記されているとおり「遠くからでも明快で奇抜なデザインが目を惹きますが、細部は驚くほど緻密」。同館では、ゆとりのある間隔で展示されているため、映り込みも少なく、またガラスから展示品までの距離が近いため、細部までよく見られる。さらに単眼鏡などを持っていれば、その緻密な描写を確認しやすいだろう。
同じ展示室にある国宝の《春日権現験記絵》は、藤原氏の氏神を祀る奈良・春日大社の創建と霊験を語る絵巻。詞書と絵が交互に展開されるが、その絵を担当したのが高階隆兼。同展の第一期では、同じシリーズの《巻十二》が出品されていたが、今回は《巻一》の第三段、「竹林殿事」の途中から見られる。鎌倉時代の延慶2年(1309)頃に描かれたものだが、非常に状態が良く、色鮮やかなうえに描かれている人物の表情まで視認できる。
狩野永徳が描いた国宝の《唐獅子図屏風(からじしずびょうぶ)》の右隻(うせき)は、16世紀の桃山時代を代表する作品。教科書でおなじみなので、多くの人が記憶に留めているはず。だが、初めて本物を目の前にすると「こんなに大きなものだったのか」と驚く。この右隻の高さは約2m23cmで、広げた時の幅は約4m51cmにもなる。
なお屏風の左側(左隻)は、狩野永徳のひ孫の狩野常信が江戸時代に描いたもの。
国宝・重文以外にも見逃してはいけない!
前項で紹介した国宝3件のほかにも、重要文化財の《萬国絵図屏風》や、今年度、重要文化財に指定されることが決まった《天子摂関御影 天皇巻》など、見どころは少なくない。
重要文化財に指定されている作品と同じか、それ以上に見逃してはいけないのが、11世紀の平安時代に、藤原行成によってしるされたと伝わる《粘葉本和漢朗詠集》。
同館には、いずれも国宝に指定されている第1期に展示された小野道風の《屏風土代(びょうぶどだい)》や、第3期に展示されていた《雲紙本(くもがみぼん)和漢朗詠集》と藤原定家の《更級日記》など、とにかく名蹟が多い。そんななかで、同館副館長の朝賀浩さんが「天下一品」と評したのが、いまだ無指定の《粘葉本(でっちょうぼん)和漢朗詠集》だ。
朝賀さんは、記者陣を前に「《粘葉本和漢朗詠集》のように、国宝などに指定されていないけれど、すごく価値が高いものもある」と言っていた。だが作品を見ただけでは、筆者には価値の高低が分からない。やはり大河ドラマ『光る君へ』にも出てくる、藤原行成(ゆきなり・こうぜい)の筆だから価値が高いのかと、朝賀さんに質問してみた。すると、それもあるが、同作が藤和行成筆というのは、あくまでも伝承によるものでしかないという。そこは、それほどポイントではないようだ。
同氏の説明によれば、和様の書の変遷を見ると、9世紀頃に空海などが中国風の書を書き始めた。それが時代が下るほどに、筆致が柔らかくなっていったという。
「そうした和様の書の特徴が、三蹟と呼ばれる小野道風くらいから始まり、藤原佐理を経て、今回の藤原行成の頃に完成しました。その後の時代は、藤原行成の頃の書を手本にして、日本風の柔らかい書を達筆と評価したんです。《粘葉本和漢朗詠集》は、そういう字体を作った人というか、和様が完成した時代に記されたもの。日本の古筆の頂点にあるものと言って良く、(指定するなら)まずこれからやらなきゃいけないとも言えます」
同氏によれば、《粘葉本和漢朗詠集》が真っ先に指定されるべきだけれど、まだ指定されていないということだが、もちろん、理由がないわけではない。まずは文化庁が、古いものから指定しているのかもしれないということ。また現在は修理されたが、その前は状態が悪く、専門家でも、なかなか見られる機会や調査する機会がなかったという。
ちなみに同館の収蔵品は、9,600点を超える。それらの多くが皇室の御物(ぎょぶつ)だったもので、長らく国宝や重要文化財の指定対象ではなかった。令和4年(2022)の「三の丸尚蔵館の開館準備有識者会議」で配布された資料では、それらをA〜Cの3ランクに分類している。最も高いAランクは「国宝、重要文化財の候補になるレベルの質を持っているもの。作品が制作された時代において、重要なもの。皇室の歴史と文化との関わりにおいて重要なもの」とされ、その数は2,484点に及ぶとしている。各時代、各ジャンルを代表する逸品が揃っているのだ。
あくまで筆者の推測だが、同館の収蔵品には、重要文化財や国宝に指定されるのを待っている状態のものが、少なくないのだろう。
その逸品揃いの同館収蔵品のうち、特に選りすぐりのものが集められたのが、第4期「三の丸尚蔵館の名品」展とも言える。この好機を、逃す手はない。
最後に、同館館長の島谷弘幸さんは、「皇室のみやび−受け継ぐ美−」展の最終期にあたる今展にも、多くの人が来ると予想している。そこで、来館にあたっておすすめしたいのが、会期の早い段階で来ること。そして来館時間を、早めの夕方に予約することだという。というのも、会期の終わりが近づくにつれて混む傾向があり、また開館時間すぐの午前中は混むのだという。そうした、おすすめの時期と時間に行くと、よりじっくりと名品を楽しめそうだ。