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国立科学博物館、海の謎を知る特別展「海 ―生命のみなもと―」
2023年7月21日 08:00
国立科学博物館(東京・上野公園)は特別展「海 ―生命のみなもと―」を開催している。会期は7月15日~10月9日。主催は国立科学博物館、海洋研究開発機構、NHK、NHKプロモーション、読売新聞社。
開館時間は9時~17時(入場は16時30分まで)、8月11日(金・祝)~8月20日(日)は夜間開館で19時閉館(入場は18時30分まで)。休館日は9月4日(月)・11日(月)・19日(火)・25日(月)。
チケットは一般・大学生2,000円、小・中・高校生は600円。9月1日(金)~10月6日(金)の平日限定のオータム平日ペアチケットは3,000円など。
海を知り、未来を考える展覧会
海は生命のみなもと。私たちの身近にある「海」の誕生から現在について、多様な生物や人と海の関わりを紹介し、さらには海との未来を考えていく特別展。海で生まれ、進化し、海のめぐみとともに生きてきた生物の姿を知ることで、私たちが今後どのように海と関わっていけばいいのかを考えるヒントを与える展示となっているという。
監修者は以下の6名。
国立科学博物館
・田島 木綿子氏(動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹)
・谷 健一郎氏(地学研究部 鉱物科学研究グループ 研究主幹)
・藤田 祐樹氏(人類研究部 人類史研究グループ 研究主幹)
海洋研究開発機構(JAMSTEC)
・藤倉 克則氏(地球環境部門海洋生物環境影響研究センター)
・川口 慎介氏(地球環境部門海洋生物環境影響研究センター)
・野牧 秀隆氏(超先鋭研究開発部門超先鋭研究開発プログラム)
展示は4章構成
7月14日は内覧会が行なわれた。展示は以下の4章に分かれている。
第1章:海と生命のはじまり
第2章:海と生き物のつながり
第3章:海からのめぐみ
第4章:海との共存、そして未来へ
展示の順番に従って、写真で主だった展示を紹介する。
第1章:海と生命のはじまり
「第1章:海と生命のはじまり」ではまず、小惑星探査機「はやぶさ2」、そして小惑星「リュウグウ」の展示から始まる海の来歴、生命起源の場としての海、約40億年前の深海熱水活動域等をジオラマで再現。また、海の生物の進化を、化石と現生生物で比較展示している。
監修者の一人、海底火山や海の地質を研究している国立科学博物館 地学研究部 鉱物科学研究グループ 研究主幹の谷 健一郎氏は、海の成り立ちから地学現象の展示を作ったと内覧会で行なわれたトークショーで語った。「なぜ地球に海があるんだろうというところから始めた。だから最初に小惑星リュウグウから始まる。小惑星に含まれる水や二酸化炭素から海が生まれた。そこから始まったんだと思ってほしい」と述べた。
海洋研究開発機構(JAMSTEC) 地球環境部門海洋生物環境影響研究センターの川口慎介氏は「炭酸塩チムニー」の展示と展示の終わりのほうの人間と海の付き合い方に関する展示を担当した。「チムニー」とは海底から温泉が湧き出て煙突状になっている構造のこと。これまで1,000個くらいの熱水噴出孔が見つかっており、チムニーは全て黒い。だが2001年に真っ白なチムニーが見つかった。それは今でも唯一であり珍しい。川口氏は「20年前に、ここが40億年前に生命が生まれた場所なのではないかと多くの研究者を刺激した。スイスの研究所のものを持ってきたので、細かい構造まで見てほしい」と語った。
第2章:海と生き物のつながり
「第2章:海と生き物のつながり」では展示の目玉である高さ約4.7mのナガスクジラの上半身標本が展示されている。クジラが潜ったり浮かんだりする垂直運動である「ホエールポンプ」が海にもたらす効果の紹介のほか、黒潮と親潮が育む日本の海の豊かな生態系について多数の剥製や標本で解説している。
クジラの研究者である国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹の田島 木綿子氏はナガスクジラの展示を担当。今回は、海のなかにいる大型生物が縦方向に移動することが海洋の物質循環に貢献する「ホエールポンプ」という概念の展示が一押しポイントだと述べ、「新しい生物の繋がりをわかってもらえれば」と語った。
第3章:海からのめぐみ
「第3章:海からのめぐみ」では、人類がどのようにして日本列島へ渡来したのか、3万年以上前の大航海を再現実験したプロジェクトを紹介するほか、4,500m級無人探査機「ハイパードルフィン」の実機を展示している。人類と海の関わりを学べる。
先史時代、海と人の歴史の関わりの展示を担当した国立科学博物館 人類研究部 人類史研究グループ 研究主幹の藤田祐樹氏は、沖縄県で見つかった「世界最古の釣り針」を挙げた。つまり旧石器人が23,000年前に釣りをしていたことを示すものだ。藤田氏は「人と海の付き合い方が古いことをイメージできると思う。細かいものがたくさんあるので穴が開くほど見てほしい」と語った。
JAMSTEC 超先鋭研究開発部門超先鋭研究開発プログラム 野牧秀隆氏は、旧石器時代から縄文、そして現代人とのつながりを担当。今回は4,500m級無人探査機「ハイパードルフィン」の実機を初展示。「ここ20年ずっと潜っている最新機器で、マニピュレータなどを見てほしい。20年使っているので傷や錆も出ている。深海の調査を行なってきた実機のリアル感を楽しんでもらいたい」と語った。なおトークショーで桝氏は「ガンダム好きとしてはちょっとデンドロビウム感がある」と受けた。
第4章:海との共存、そして未来へ
「第4章:海との共存、そして未来へ」はエピローグ。人類の活動が拡大にするにつれてさまざまな影響が現れはじめている海をめぐる課題が紹介され、持続可能なかたちで海を活用していく取り組みが紹介されている。
深海の特別展のほか、今回が3回目の海関連展示だというJAMSTEC 地球環境部門海洋生物環境影響研究センターの藤倉克則氏は、「ヨコヅナイワシ」という魚を紹介した。「我々は他の生き物を使わないと生きていけない。いわゆる『生態系サービス』を受けている。海の生物多様性も変化している。悪い方向への変化は否めない。人がいかに利用しつつ、保全とのバランスを取るかが世界的課題」と紹介。そして「海の保護区を作ろうという動きがあり、日本も作った。生態系の変動が機能しているかモニタリングしないといけない。そのなかで出てきた魚がヨコヅナイワシ。食物連鎖の一番上にいるキーストーン種で、それがいないとボロボロになってしまう。いることをモニターすることは重要」と語った。
「展示の出口が、海への入り口」
内覧会では元日本テレビアナウンサーで「海 ―生命のみなもと―」公式ナビゲーターの同志社大学助教の桝太一氏と監修者たちによるトークも行なわれた。サイエンス・コミュニケーションの研究をしている桝太一氏は「ふだん家族で来ているので嬉しい。博物館は科学を伝える代表的な存在。僕自身も学べることがある」と述べた。
そして「今回の展覧会は、展示を見たから全てわかるというものではない。まだまだわからないことがいっぱいあるんだな、いま謎を解き明かす真っ最中なんだなとわかる展覧会。展示を見ると、もっと知りたくなって、海へ行きたくなる。展示の出口が海への入り口」と挨拶した。
監修者たちのコメントを聞いたあと、桝氏は「海は一言ですませられる展示ではない。宇宙好き、深海好き、海の生き物好き、歴史好き、ロボット好き、社会課題や環境問題まで色々な視点で見られる。特に子供たちには夏休みの宿題のヒントが見つかる。多くの子どもたちに楽しんでもらいたい」と締めくくった。