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大規模災害時のみ稼働 ドコモ品川ビル「大ゾーン基地局」を見てきた
2023年6月28日 08:00
NTTドコモは、携帯電話ネットワークの仕組みや災害対策に関する説明会を開催した。同社の東日本のネットワークを監視する中枢機能「ネットワークオペレーションセンター」が設置されているNTTドコモ品川ビルにて開催され、24時間体制で監視にあたっているオペレーションセンターの様子を公開したほか、同ビルに設置されている「大ゾーン基地局」用のアンテナと設備も公開。大ゾーン基地局がカバーするエリアを一望できるとして、屋上のヘリポートからの眺めも公開された。
近年の携帯電話ネットワークの安全対策は、2011年の東日本大震災を機に改められたり教訓にしたりしているものが多い。なかでも、東日本大震災において、災害発生直後は稼働していたにもかかわらず、時間をおいてダウンする基地局が多かった原因は、停電が続いたことによる予備バッテリーの枯渇だった。しかし数が多い基地局に対する予備バッテリーの強化といった電源対策には限界があるため、臨時的に広範囲をカバーする「中ゾーン基地局」「大ゾーン基地局」という考え方が導入され、人口の多いエリアや地域の重要施設、大型の基地局設備に対して設置されている。
中ゾーン基地局は、普段は通常の基地局と稼働しており、全国で2,000局以上が展開済み。災害発生時に中ゾーン基地局として稼働させる必要がある場合は、遠隔操作を含めたチューニングでエリアを拡大させる。中ゾーン基地局には停電時でも24時間以上の運用ができる電源対策のほか、伝送路の二重化などの対策も施されている。
一方の大ゾーン基地局は、普段は停波しており、周辺の基地局の約3割がダウンした時に稼働させる設備。1つの大ゾーン基地局で、最大で半径約7kmまでカバーできる。人口密集地や自治体の重要施設など全国106カ所に設置されており、都内には6カ所に設置されている。アンテナなどのハードウェアは通常の基地局と大きく変わらないものの、設置場所の高度が非常に高いなど、より広範囲をカバーできる場所に設置されているのが特徴になる。
大ゾーン基地局は従来、3Gのみの対応だったが、近年の改修で4GのLTEにも対応済み。これにより通信容量は従来の3倍に拡大されているという。
なお、大ゾーン基地局の設置が開始されてから、これまでに稼働した例は全国で1回のみ。2018年9月の北海道胆振東部地震の際で、地震の影響で釧路市中心部で停電が長期化、広範囲で基地局のダウンが発生したため、対象になる半径約3kmにカバーエリアをチューニングした上で、大ゾーン基地局を稼働させている。
大ゾーン基地局を稼働させる基準になっている「周辺の3割の基地局がダウン」という状況は、伝送路(光ファイバー)の寸断や建物の倒壊といった直接的な被害に当てはめると、未曾有の激甚災害になるレベル。ドコモの関係者は「稼働しないに越したことはない」と口を揃える。
釧路市の例のように、地震の直接的な被害でなくても、大規模かつ長時間の停電が発生した場合に大ゾーン基地局の稼働は起こりうるが、例えば東京都心では、電力網や光ファイバー網など、各インフラ会社はそれぞれ災害対策で強靭化を図っており、「3割ダウン」は相当に起こりにくいという見立てになっている。
品川駅から半径7kmをカバーする大ゾーン基地局
都心の大ゾーン基地局は、港区(2カ所)、千代田区、墨田区、渋谷区、立川市の6カ所に設置。このうち、NTTドコモ品川ビルに設置されている大ゾーン基地局が報道陣に公開された。
NTTドコモ品川ビルは、地上29階建てで、上層付近が張り出している独特な形が特徴。品川駅に近く、JR山手線などで品川駅から北に向かう途中に見ることもできる。各種のアンテナ設備はこの上層部の張り出している部分に設置されており、電波を通す特殊な布で“目隠し”されている形。
大ゾーン基地局のアンテナとアンプなどの設備は、ビルの最上階に相当する地上140m付近に設置。ビルの4隅に設置されており、周辺の360度をカバーできるようになっている。最大半径7kmで、周辺の約280の基地局のエリアを“救済措置”としてカバー可能。北は東京駅付近までカバーできるという。
また同ビルの非常用ヘリポートも公開され、NTTドコモ品川ビルの大ゾーン基地局がカバーするエリアを見渡すこともできた(視界はそれよりもはるかに広いが)。地上約145mという高度で、簡易な柵があるだけの場所とあって、眺めは抜群。大ゾーン基地局が稼働するような災害が起こらないことを祈るばかりだった。