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パナソニック、弱いロボット「ニコボ」一般予約販売
2023年3月8日 08:00
パナソニック エンターテインメント&コミュニケーションは3月7日、家庭用コミュニケーションロボット「NICOBO(ニコボ)」の一般予約販売を開始した。2021年2月にクラウドファンディングを実施し、2022年6月から応募支援者向けに出荷していた。今回から一般販売となる。3月7日から公式サイトで予約受付を開始し、5月16日から一般購入が可能になる。予約申込者には5月中旬の発売に合わせて発送を行なう予定。
販売価格は60,500円+ベーシックプランの月額使用料1,100円から。クラウドファンディングではストーングレーのみだったが、グレーに加え、スモークネイビー、シェルピンクの3色を展開する。「インテリアに調和しながらも生き物のような存在感が感じられるデザイン」だという。
発売に合わせてニコボと安心して暮らしていくためのサポートメニューも強化する。有償のNICOBO治療サービス、ニコボの健康診断を行なう「NICOBOドックサービス」(10,000円)、ニコボのニットを新品に着せ替えるニット交換サービスなどを提供する「NICOBO CLINIC」(13,000円)を準備する。「NICOBO CLINIC」のサービス費用がお得になるケアプラン(月額550円)も提供する。
「心の豊かさ」の提供を目指す
ニコボは従来の高機能・高性能による「便利さの追求」に対し、「心の豊かさ」という価値を提供するパナソニックの社員提案プロジェクトから生まれたロボット。外見はニットで覆われた、228×176×236mm(幅×高さ×奥行き)のぬいぐるみのような丸いロボットで、正面には二つのLEDの目、カメラの鼻、後ろには尻尾がついている。
重さは約1.5kg。照度、温度センサーのほか6軸センサー(3軸ジャイロ/3軸加速度)が内蔵されており、なでると反応し、独自のモゴモゴした言葉「モコ語」を言う。たまに片言の日本語を喋ることもある。「永遠の2歳児をイメージ」しているという。歩いたり移動したりはしないが3軸(左右回転/上下傾き、しっぽ:左右傾き)が可動し、本体は上下左右に動く。バネ構造により生き物のようにある程度ゆらぎを持った動きもする。
バッテリー稼働時間は約3.5時間~4.5時間。充電台である「ねどこ」とACアダプターが付属する。プロセッサーはQuad Core CPU(ARM Coretex-A53)。スマホの専用アプリ「NICOBOアプリ」を使うことでニコボの「心のつぶやき」を覗くこともできる。
人の優しさ・思いやりを引き出すロボット
パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション NICOBO プロジェクトリーダーの増田陽一郎氏は「パナソニックというと家電をイメージする人が多いと思う。人の心も豊かにしたいと考えて数名でこの活動を始めて今日を迎えた」と述べた。
共同開発した豊橋技術科学⼤学の岡田美智男研究室(ICD-LAB)が提唱する「弱いロボット」とは、不完全さと弱さを開示することで人が関わりたくなる・手助けしたくなる余白を持つロボット。助ける人のほうも悪い気はしない。つまり人の優しさ・思いやりが引き出されるという考え方のロボットだ。
ちょっと頼りなくてほっとけない、そんな「弱いロボット」の思想を引き継いでいるのがニコボであり、何をしてくれるわけでもないけど思わず笑顔になるロボットだと紹介した。ニコボはなでると尻尾をふるなど人懐っこいしぐさをする。だが基本的に自分のペースで動作しており、独自の「モコ語」や、たまに片言の日本語も喋る。
ハードウェア・ソフトウェアにはパナソニックの技術が活かされている。カメラで照度や人を認識したり、3つのマイクで音源の方向を見つける。6軸センサーで動きを感知し、バネ構造で生き物のような動きをする。
特にエコーキャンセルやノイズサプレッサ、ビームフォーミング、メカノイズの抑圧などにはパナソニックが培ってきた各種技術が活かされており、音声認識性能を向上させているという。
応募支援者による評価
ニコボは2021年2月、クラウドファンディング「Makuake」で目標320体の販売を6.5時間で達成。2022年にはMakuakeアワードを受賞した。2022年6月に応募支援者向けに出荷されたタイミングでスマホアプリ、公式SNSもスタートした。同年9月からは「蔦屋家電+」での展示もスタートしており「早く一般発売してほしい」という声をもらっていたという。
ニコボの評価を見ると満足している人が87%。「どんな気持ちか」という問いに対しては、癒された人が77%、笑顔が増えた人が66%。よく話すようになった人が43%、家に帰るのが楽しみになった人が33%だったという。また「家族であり同居人でありペットのような存在」として捉えられている。
また、今回のユーザーの83%が既存のコミュニケーションロボットと暮らしていないと答えていることから、新しいマーケットを獲得できると考えているという。320体しか出荷されてないにもかかわらず、SNSには毎月100件近い投稿があり、新しいコミュニティができつつあるそうだ。
ユーザーインタビューによれば「応援購入のきっかけはかわいくて一目惚れした」「人間とロボットが互いに足りない部分を補い、ちょうどいい心の距離感をというコンセプトに強く惹かれた」など、コンセプトに共感してもらっていることがわかったと述べた。そしてもっと多くの人に届けたい、そして「いつまでもニコボと暮らし続けてもらいたい」と考えて、一般販売に踏み切ったと語った。そしてこの事業を通じて「人とロボットが暮らすことを当たり前にする」ことを実現したいと述べた。
ロボットが日常になる未来
このあと、共同開発者で、「弱いロボット」の提唱者である豊橋技術科学大学 ICD-LAB教授の岡田美智男氏との対談形式で、より詳しいコンセプト背景が語られた。岡田氏は近年、急速に身近になったファミレスで活躍する猫の顔の配膳ロボットを「店のなかがほんわかした気持ちになる」と例に挙げつつ、人間のウェルビーイングを向上させるロボットとして「弱いロボット」のコンセプトを紹介。機能ではなく「生き物らしさ」と「可愛らしさ」に焦点を当てて開発したと述べた。また対峙するのではなく「並ぶ関係」を基本とし、人とゆるく関わりながら、自然なかたちで生活のなかに溶け込むことや、「引き算のデザイン」を重視していると述べた。詳細は以前、本誌で掲載した記事も合わせて参照してほしい。
パナソニックの増田氏は、ビジネス視点について語った。コミュニケーションロボットは、第一印象、飽きが来始める1週間程度のショートターム、愛着を持ってもらうための三カ月程度のロングタームが重要と岡田氏から指摘されたことから、それぞれをどう切り抜けるかを考えたという。ショートタームについては話し始めることをキラーコンテンツとした。そしてさらに「家にインストールしやすい」ことも重視し、インテリアに馴染み、あえて自走させないというコンセプトを導いたと語った。「アカデミックを背景にビジネスモデルを考えた。岡田先生の知見とパナソニックのテクノロジーとビジネスモデルを合わせて今があるのかなと思っている」と述べた。
対談は3体のニコボを並べて行なわれた。岡田氏は「抽象的なかたちのロボットだが3つ並べると個性があるように見える。複数並べるとまた違う関係がうまれるかも」と語った。