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“タッチ”でフェリーに乗船。南海フェリーVisaのタッチ決済への取り組み

和歌山港から出港する南海フェリー

大阪から和歌山にかけてを結ぶ鉄道路線を抱える南海電鉄では、'21年4月から自動改札機におけるVisaのタッチ決済対応を進めている。現時点では実証実験という位置づけだが、対応改札を拡大するとともに、新たにフェリーとの乗り継ぎに対応した。クレジットカードのタッチ決済で乗り継ぎに対応したのは「世界初」だという。2022年3月25日のサービス開始に合わせて、南海フェリーの担当者に話を聞いた。

南海電鉄の改札は、難波駅、新今宮、関西空港、高野山、和歌山市といった16駅32改札でVisaのタッチ決済に対応。21年4月3日から12月12日までの期間での実験という位置づけだったが、コロナ禍で当初予定していたインバウンド客の利用が検証できなかったため、実験期間を1年間延長することを決めていた。

今回話を聞いた、南海フェリー営業部課長の福井和明氏(左)とQUADRACシニアマネージャーの坂野史典氏

結果として、2022年12月11日までの実験期間となり、加えて、今春からは泉北高速鉄道も参画する予定だが、それに先んじて対応したのが南海フェリーだ。南海電鉄と同じ南海グループのフェリー会社で、南海電鉄の和歌山港駅から徒歩1~2分で乗船口にアプローチできる。

南海電鉄難波駅など駅では、一部改札でVisaのタッチ決済に対応(写真は2021年4月のもの)
このようにクレジットカードをタッチすれば事前チャージや切符の購入なく電車に乗れる(同)

和歌山港から四国・徳島の徳島港を結ぶ定期客船の南海フェリーは、乗船時に券売機で現金を使ってチケットを購入、または窓口でクレジットカード・現金でチケットを購入することで乗船できる。

和歌山港のフェリー乗船口にある券売機。購入は現金のみ
窓口はあるが、駅から直結する乗船口は2階にあり、一度階下に降りる必要がある

また、「好きっぷ」と呼ばれる割引乗車券があり、南海電鉄の鉄道と南海フェリーの片道乗車券がセットで2,200円というチケットで、これは南海電鉄の窓口などでクレジットカードでも購入できる。南海フェリーは片道大人2,200円なので、このチケットを使えば事実上鉄道料金が無料になる形だ。和歌山県側は「とくしま好きっぷ」、徳島県側は「好きっぷ」という名称で、いずれもフェリーと南海電鉄の片道乗車券がセットになっている。

Visaのタッチ決済でフェリーに乗船

今回、南海フェリーでのVisaのタッチ決済対応に合わせて、和歌山港駅の改札もVisaのタッチ決済に対応。これによって、例えば難波駅でVisaのタッチ決済を使って乗車し、和歌山港駅でもタッチして改札を通り、そのままフェリーにもタッチで乗船して徳島まで行けるようになった。

料金は、自動的にとくしま好きっぷが適用されるため、Visaのタッチ決済を利用した場合、特に手続きをしなくても、自動的に乗車駅がどこでも片道2,200円で徳島まで移動できることになる。この好きっぷは、和歌山港駅で降車してから同日内にフェリーに乗車すれば自動適用になる。

南海フェリーターミナル
和歌山港駅に隣接しているのでアプローチは良い
和歌山港駅の改札は1カ所がVisaのタッチ決済対応
改札を抜けて傾斜のある通路を進んでいく
そのまま行くと乗船口にたどり着く
徳島港行の時刻表

南海フェリーは、これまでキャッシュレス決済の対応が遅れており、南海電鉄で交通系ICを使っても、乗船には現金で切符の自販機を購入するか、窓口まで行ってクレジットカードを使って購入するしかなかった。

今回、南海グループとしてVisaのタッチ決済へのサポートを拡大。鉄道に続いてフェリーにも対応を広げたことで、南海フェリーの乗船時のキャッシュレス決済が利用できるようになった。交通系ICの導入に比べてコスト的にも安価だったのが導入の1つの理由だったという。同時に、徳島県によるDX化に対する補助金の公募とタイミングも一致したことから、これを活用できたことも導入に繋がったそうだ。

乗船口に設置されたVisaのタッチ決済用リーダー
そのまま船内へ
和歌山港を背後に見ながら出港
この日は強風を受けながらの2時間ほどの船旅

導入したのは、南海電鉄や京都丹後鉄道、横浜市交通局などでも利用されているQUADRACのQ-move。タッチ決済用のリーダーは、他で使われているものと変わらないが、乗船口に設置されていることから、雨風もあるのでカバーを付けることで耐候性を高めているという。

徳島港の乗船口にもVisaのタッチ決済用リーダー。ただし、降船時にはタッチをする必要がなく、係員にタッチ決済を使った旨を申告する。もともと、紙のチケットを回収して乗船時と降船時の乗客数を確認する用途だったが、別途人数を数えているほか監視カメラもあるため、将来的には回収作業は不要になるかもしれないという。そうした場合、タッチ決済を使った旨の申告も不要になる
こちらは、京都丹後鉄道に導入されたVisaのタッチ決済用リーダー(撮影は2020年12月のもの)。一回り大きいようだ

すでに南海電鉄で導入があり、QUADRACも複数のエリアでの導入実績があることから、南海フェリーでのシステム構築は比較的早く、正式に構築に動き出したのは21年12月からで、3カ月ほどでリリースに至った形だ。リーダー自体はLTE回線で情報を送受信しており、クラウドのQ-move側で決済を管理している。

南海フェリーは基本的に現金利用が多かった関係で、クレジットカードのタッチ決済対応で決済手数料が発生するようになる。導入費用に加えてランニングコストが掛かり、なおかつフェリー業界全体の苦境も手伝って、様々な検討をしてきたという。最終的には手数料が追加しても耐えられるレベルということで導入に踏み切ったそうだ。

和歌山県側だけでなく、特に徳島県側の乗車でもタッチ決済対応のメリットがあるという。徳島港ではチケットを窓口で購入するしかなく、繁忙期には行列も発生していたそうで、タッチ決済でそのまま乗船できるのであれば、そうした行列の解消にも繋がると期待している。

徳島港のフェリーターミナル
ターミナル内でもVisaのタッチ決済をアピール
徳島市中心部から港までを結ぶ徳島市営バス内でもアピールされていた
なお、徳島市営バスはタッチ決済に非対応だが、試験的に一部QRコード決済に対応していた

南海フェリーは乗用車の積み込みも可能だが、今回はタッチ決済には対応していない。乗用車は乗車人数によって値段も変わるため、運賃体系が複雑なため、今回は対応を見送ったそうだ。

南海フェリーでは、南海電鉄と同様に今年12月までを実験期間として、タッチ決済の効果と問題点を測定する。リーダーの設置方法や繁忙期にタッチ決済利用者が増えたときに停滞せずに乗船できるかなど、さまざまな観点から検討を加えた上で、最終的には正式導入に繋げたい考えだ。