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コラム 瓦版一気読み(11月9日)

  情報は時とともに劣化する・・・

  【1面トップ】
  ●さあ、どうする米国メディア―二転三転の大統領選報道で「困った!」
  米大統領選が異様な盛り上がりをみせている。史上まれにみる大接戦であったことと同時に、フロリダ州の開票結果をやり直す羽目になったことで、選挙結果が日本時間の昨日午後から夜にかけて二転三転しているからだ。よって「米大統領選、異例の再集計」(東京、都内最終版、以下同)、「当選決まらず、フロリダ再集計へ」(朝日)、「大接戦 異例の再集計 米大統領選 州法を適用」(産経)、「米大統領選 決着持ち越す ブッシュ、ゴア氏譲らず」(日経)、「異例の再集計 小差、判定できず」(毎日)、「決着持ち越す 空前の大接戦」(読売)と、いずれも似たような見出しが躍っている。どこかにちょっとしたひねりを効かした見出しはないかと探してみたがそれは皆無だった。

  事の経緯はこうだ。昨日の午前8時(日本時間)から始まった開票作業によって刻一刻とその結果が出されていくものの、ゴア氏の地元であるテネシー州で勝ったブッシュ氏と、ニューヨークとカリフォルニアの大票田州を抑えたゴア氏がいずれも一進一退。カリフォルニア州の開票結果によって、いったんはゴア氏が「ほぼ当確」と伝えられたものの、その後も相譲らず、フロリダ州など2州を残しても当選に必要な選挙人数には届かずにフロリダが優劣を決める決戦場となった。

  ここで米国の各メディアは出口調査を元に「フロリダ州でブッシュ氏が勝利、大統領にブッシュ氏」と一斉に打った。ところが同州の暫定得票結果は「得票差が1,210票まで縮まりその差が0.5%以下となった」ところで、州法を適用。集計をやり直すことになってしまい、各メディアも「ブッシュ氏当確」を撤回するに至っている。

  ◇それにしても昨夜、日本でも放映された米国メディアの狼狽ぶりはなんとも情けない様子だった。CNNの男性ニュースキャスターは「なんと言ったらいいのか、こんなことは初めてです。もう早く帰宅したいのですが・・・。とにかく精一杯分かる限りのことをお伝えしましょう」ってな具合。スケールは段違いだが日本の選挙でもしょっちゅう問題になるのが「出口調査」。各社独自の調べに基づいて得票を読み、“当確”を他局や他紙より早く打つというもの。しかし、選挙である以上、さらに投票する人間が多ければ多い以上、得票数の割り出しや読みなど至難の業であることくらいどんな人でも納得できる。

  ◇さらに今回、米国メディアの旗色を悪くしたのは出口調査の仕組みにもある。3大ネットなどが共同で出資する調査会社「ボーダー・ドット・コム」の数字を各メディアが“独自情報”として使えるからくりがあるからだ。こうなってしまっては調査会社が「ほぼ確実」とか「当確決まる見通し」などと流せば、メディアは我れ先に、と雪崩を打ったように当確情報が流れ、既定の事実が出来上がってしまう。インターネットが新しいメディアとして認知された今、情報の伝達は誰もが思う以上に速く、そしてその結果は事実として完成されてしまう。

  ◇だが、大切なことは日本のメディアが対岸の火事と笑っていられないことであろう。当確、当確取り消しなどのお粗末な結果は、日本のテレビでも何度も起きている。NHKテレビは朝のニュースで「報道姿勢見直しが迫られよう」といったニュアンスで伝えていたが、まずは我が身を今一度振り返った方がよろしいかとも思う。

  【IT】
  ●あれは単なる風物詩か、歳暮商戦の出陣式
  11月も前半が終わる今、先週末から大手百貨店による“歳暮商戦”がスタート。読売は「知恵比べ」として「インターネットによる販売に各社が力を入れている」とまとめている。

  伊勢丹新宿店では1,000点、高島屋も2,000点をインターネットで購入できるよう準備している、という。際限の無い地盤沈下に陥った百貨店業態、窮地脱出のためにはあの手この手が必要なことは言うまでも無く、遅きに失したネット利用も当然ながら「年末商戦午後9時まで営業、働く女性の心をつかめ」(日経)と苦肉の策も相次いでいる。ただし、歳暮商戦皮切りを示す“出陣式”の風景はいつになっても変わらない。「エイエイオー」の掛け声もろとも「売って売って売りまくるずぉ~」と気合が入る。あれは要するに“風物詩”なのか。気合が入っていることも分かるけど、風物詩以外の何物にも見えないそのことが、百貨店の衰退ぶりを逆説的に伝えている。苦笑してテレビ映像を見ている人も恐らくは多いのではないか。ま、はっきり言うと取り立てて今日は大きなニュースが無いからと言って、エイエイオーを放映するテレビ局もテレビ局だけど。

  【トピック】
  ●それって誰?国際手配から25年で逮捕の重信容疑者
  日本赤軍最高幹部の重信房子容疑者(55)が8日、大阪府で逮捕された(朝日など各紙1面)。国際手配から25年、「えっ、生きてたの?」、「それって誰?」、「今になって日本に帰ってきて捕まるなんて・・・」。本来、米大統領選をしのぐニュースでありながら冷めた声しか聞こえてこないのは、時間本来が持つ残酷な現実なのか。朝日は重信容疑者と同世代の人の声も掲載している。「これで60年代から続いた一つの時代が、完全に終わりを告げたような気がする」(漫画家・弘兼憲史)、「この30年で世界情勢がすっかり変わり、行き場もなくなってしまったのだろう。自分としてはもういいんじゃないのという感じだ」(映画監督・崔洋一)。大きくうねり時代は変わる。大阪から東京へ移送される本人は両手の親指を突き立てて「頑張るからね」。何を、どう、どんな理由で“頑張る”のかは、それを見ていたほとんどの人には分かり得ない。妙に悲しい映像だった。

  [メディア批評家 増山広朗]

■URL
・瓦版一気読み バックナンバー
http://www.watch.impress.co.jp/finance/kawaraban/

2000/11/09 09:07
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