中堅生保の東京生命保険が23日、自力再建が困難になったとして更生特例法の適用を申請、事実上破綻した。この1年間で千代田生命保険など5社が立て続けに破綻。生保危機が広がる中で解約が続出、外資との提携交渉が不調に終わったことと大和銀行(8319)の支援断念がだめを押す形となった。が、その遠因を辿ると、護送船団行政時代のもたれ合いの構図が崩れ、限られたパイの中でサバイバルレースにしのぎを削る生保業界の窮状が透けて見える。
●“弱者”を追い込む大手生保
「これは『飛ばし』だ」―。3月初め、東京生命との提携交渉に臨んでいた米大手ノンバンクのGEキャピタルの担当者は、東京生命側から提示された再建スキーム案に驚愕、その場で突き返した。
東京生命の親密行である大和銀行が中心になって作り上げたそのスキームは、不良債権を切り離して別会社化し、本体に残る既存契約の維持・管理や新規契約の募集など保険本業部門に外資系の出資を求めるという内容だ。
大和銀は、「不良債権保有会社」に出資するが、償却原資は資本金のみ。いずれ破綻するのは目に見えている。最終的に提携先にしわ寄せが及ぶ代物で、東京生命との交渉に臨んだ別の外資の担当者も「法的に到底認められない」と、スキームのお粗末さに呆れ返る。
創業1895年の老舗生保が、なぜそこまで追い込まれたのか。話は、かつて大手の一角を占めた千代田生命保険と協栄生命保険が破綻に追い込まれた昨年10月に遡る。
「次はどこだ」。相次ぐ破綻で生保危機が再燃、契約者の間に不安感が広がり、中堅・中小生保が解約ラッシュにさらされた。
不安を増幅したのは、過激な見出しで生保危機をあおるマスコミだけではない。「今度は東京生命が危ない」「早く解約しないと保険金が減額される」などと、同業他社から発信されたらしい誹謗中傷が、団体年金保険を預ける大手企業・団体の運用責任者を中心に流布された。
米国景気の急減速を背景に、日本の景気低迷の出口がさらに見えにくくなる中、「体力の弱いところから契約をはぎ取る」(大手生保幹部)という同業他社のなりふり構わぬ営業姿勢が、持ちつ持たれつの業界秩序を崩壊させ、“はぎ取られる側”の東京生命を窮地に追い込んだのである。
●腰が引けていた大和銀の支援姿勢
世界最大の生命保険市場である日本では、生保商品の世帯普及率が9割を超え、消費が伸び悩む中での新規契約獲得は至難の業。「限られたパイを奪い合う構図が、“弱者いじめ”を引き起こしている」(業界関係者)。
プレーヤーの間引きをしないと、「勝ち組み」に数えられる優良企業も、いずれ共倒れしかねない状況は、ゼネコン業界と酷似している。
ともあれ、誹謗中傷の効果はてきめん。東京生命の資産流出は凄ましく、個人契約者に加え団体年金や団体保険の契約もごっそり抜け、2000年9月末時点で1兆円を超えていた総資産は、3月中旬には8,000億円を切るまで減少。解約に応じるための現金調達では、株安の中で有価証券を売却せざるを得ず、さらなる資産劣化を招く悪循環に陥った。
超低金利下では、どの生保も、運用実績が契約者に保証した利回り(予定利率)を下回る「逆ザヤ」にあえいでいる。が、東京生命の中村健一前社長は更生特例法の適用を申請した直後の記者会見で、「年間100億円の逆ザヤも収益を圧迫したが、風評リスクが大きかった」と無念さをあらわにした。
一方、同社から資本増強の要請を受けた大和銀行は、当初、これに応じる意向を示していた。だが、ニューヨーク支店の巨額損失事件(1995年)で株主代表訴訟を起こされ、莫大な賠償を求められた経営陣には慎重論が根強く、「外資との提携」(幹部)を前提にした「起死回生の再建スキーム」も、前述したように所詮は“絵に画いた餅”でしかなかった。
案の定、提携を打診されたGEキャピタルや米保険大手AIG、投資銀行のクレディスイス・ファーストボストンは、ことごとく再建案を拒否。破綻直前には、交渉の仲介役だった大和首脳が「提携しなくてもいい。『提携交渉を継続する』というだけでいいから一筆書いてくれ」と外資に懇願する場面もあったという。
結局、破綻の前日に開いた大和銀の臨時取締役会では、交渉に携わった3人の役員を除く全役員が、東京生命への支援に反対。決議はわずか数分で終わり、その瞬間、東京生命の取りうる選択肢は、「自力再建断念、更生特例法の適用申請」しか残されていなかった。
■URL
・東京生命(契約者へのメッセージ)
http://www.tokyo-life.co.jp/
・東京生命が更生特例法を申請~生保破たん、戦後7社目に
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/23/doc2351.htm
・コラム 瓦版一気読み~生保破綻と不良債権
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/23/doc2349.htm
(小倉豊・斎藤三郎)
2001/03/30
10:29
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