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コラム 瓦版一気読み(11月7日)

  情報は時とともに劣化する・・・

  【1面トップ】
  ●どーにかしてよ、公共事業
  今朝の各紙1面トップはすべてばらばら、読み比べるには絶好の朝となった。朝日が「公共事業中止 与党勧告を3割拒否 自治体などの評価委」(都内最終版、以下同)と打てば、読売は「信用保証協会トップ 9割自治体から天下り」で対抗。さらに「障害ある子供 普通学校の門戸拡大」(毎日)、「外国人参政権 今国会成立を断念」(産経)、「三菱・ダイムラー 燃料電池車で提携」(日経)、「都が認証保証保育所制度」(東京)と、内容についても調査ものあり、中間報告の先取りあり、経済ネタありと話題満載の趣き。

  ただし、なんとなく華やかさや“これはウチの抜きですっ!!”といった緊張感に欠けるのはどうしてだろう。基本的にどの記事も1面頭ネタが見つからない中での苦肉の策的なムードに満ちていると言っては失礼か。

  ◇そんな中で朝日の公共事業ネタは目を引いた。「与党3党と建設、農水2省が事業の継続は無駄として中止を勧告した281の公共事業のうち」、評価が終わった235事業の3割に当たる69事業が「勧告を受け入れず継続、もしくは事業再開が可能な休止と答申された」といった内容だ。

  公共事業が俎上に上がったのは実は随分以前からだ。北海道の農業土木工事を例にあげると、水田農家が稲作を続けるには用水が足りない、と北海道や国(この場合は北海道開発庁と局が窓口だった)に陳情する。そこでダムを作ろうと話はまとまる。しかし、計画から設計、入札、工事開始、完成までには気の遠くなるような時間と月日が横たわる。陳情から着工まで10年、20年なんていうのはザラ。そのうちに稲作農家がどんどん廃業していく。この背景には国家の無策な農業政策もある。コメ作れ、どんどん作れと言ったその舌の根も渇かぬうちに減反だ、野菜に転作せよ、酪農も悪くないぞ、と方針が180度変わる。

  結局、着工するころ、もしくは完成する頃にはダムの恩恵を受ける農家は半減していたりほとんど皆無といった状況すら生まれる。笑い話にならないのは国の事業とは言っても地元負担と言って、ダムならその完成によって「益」を受ける人たちが事業の何パーセントかを支払わなければいけないことだ。益を受ける人が減れば、当然一戸あたりの負担金もアップする。同様に地元自治体の負担も増幅していく。

  だがそれでもこれまで公共事業が中止や休止に追い込まれたケースは皆無と言っていい。事業の持つ意味がなくなるのであれば、途中で考え直したり、方向修正するのはどんな場面でも当たり前のことなのだが、それが日本の公共事業では出来なかった。確たる理由はそこには無い。ただ単に公共事業にぶらさがる政治家、政府、自治体、建設企業などがそれを許さなかっただけのことである。

  朝日によれば、中止に反対する理由の中には「すでに終了間近で途中でやめては投資効果が薄れる」といったものすらある。あきれて声が出ない。どういった投資効果が出るのか、当初と状況が変わったのであれば違う使い道を明確に提案できるのか。あくまでも“善”の存在だった公共事業が“悪”の代名詞のようになってしまったのは、政治家を含む国にも地元自治体にも責任がある。

  【IT】
  ●もっと多方面からの視点を!
  イトーヨーカ堂グループによる「IY(アイワイ)バンク」が予備認可申請にこぎつけた。各紙の取り上げ方に温度差があって面白い。日経が「ICカードで買い物決済」と盛り上げれば、毎日は「難問 3年目の黒字、収益重視に計画修正」、東京が「規模縮小し年内にも開業 決済専門を断念」と対照的だ。

  日経の本文を読み通せば分かることだが、IYバンクの問題点や疑問点を指摘する個所がどこにもない。ごく普通の読者でも「上手くいくんかいな」と感じるのは当たり前なのであって、「既存銀行は店舗見直しも」、「ATMの主導権は確実に既存銀行からヨーカ堂に移る」とまで言い切る同紙のスタンスは理解に苦しむ。さまざまな要素を挙げて、読んでいる者に“こうなったらこの可能性もある”と指摘するのが経済専門紙の重責なのではないか。

  【トピック】
  ●あまりのやり切れなさ
  元ヤクルトスワローズのエース、高野光さん(39)が6日、東京都内で自殺したニュースが各紙の社会面に掲載されている。今年春からは仕事がなく精神的に不安定な状態が続いており、妻と子供の目の前でマンションから飛び降りた、という。死のうとしている人間の心など常人には分かり得ない。しかしそれでも、残された人たちの心をえぐり深い傷を刻んでしまった重さもまた、死んでしまった本人には何ら関係が無いというのだろうか。なんともやり切れない。

  [メディア批評家 増山広朗]

■URL
・瓦版一気読み バックナンバー
http://www.watch.impress.co.jp/finance/kawaraban/

2000/11/07 09:08
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