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ジェフ・ペゾスも開発進める 大型ロケット「ヘビーリフター」とは?

2025年1月16日、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏が率いる宇宙開発企業Blue Origin(ブルーオリジン)が大型ロケットの打上げに初めて成功しました。

2024年夏には欧州が次世代大型ロケットの初打上げに成功、2024年頭にはボーイングとロッキード・マーティン合弁企業も大型ロケットの打上げに成功しています。こうした「ヘビーリフト・ローンチ・ヴィークル(HLV)」と呼ばれる大型のロケット群は、日本のH3と同様に2020年のデビューを目指していたものが多くありました。さまざまな開発の困難に遭遇しながらも、出揃ってきた"2020年組"ともいえる米欧のHLVをその特色と共に概観してみましょう。

HLVまたはヘビーリフターというロケットにはいくつかの定義があり、また年代によっても変化しますが、おおむね地球低軌道(LEO)に20トンを超えるペイロードを投入できる能力を持つとされます。1機あたり数トンある大型の衛星や月・惑星を目指す探査機、国際宇宙ステーションへの物資輸送機などの打上げに力を発揮する大型ロケットが該当します。

米国のシンクタンク「ランド研究所」の推計によれば、2007年から2023年までのHLVによる打上げは年間で15~25回程度で推移しており平均すると年間19回。主要なペイロードは通信衛星が占めていて、主に静止通信衛星であることがうかがえます。

続いて地球観測衛星と地球科学衛星が続き、2017年以降から「ライドシェア」と呼ばれる小型衛星を複数機搭載する相乗りミッションが徐々に増えてきました。衛星コンステレーションや技術実証衛星の増加を反映して、ライドシェアの機会は今後も求められると思われます。

また打上げに占める探査機や軌道上サービス向けの衛星などのシェアは小さいものの、宇宙機関を新たに設立するなど宇宙開発に力を入れ始めた新興国が自国の衛星の打上げを依頼するといった国際協力の動きが需要の背景にあるといいます。

2022年まで、HLV市場には米欧だけでなくロシアのプロトン、アンガラやインドのGSLVといったロケットがあり競い合っていました。これが一変したのはロシアによるウクライナへの侵攻で、米欧の衛星事業者はロシアのロケットを選択肢から外さざるを得ませんでした。

インドは現在も商業打上げが可能ですが、スケジュールが不安定という点が衛星事業者から疑問視されているといいます。

米欧の衛星市場ではSpaceXのFalcon 9が圧倒的なシェアを誇っていますが、SpaceXへの独占を危惧する意見もある上に、同じSpaceXの通信衛星コンステレーション「Starlink」と競合する衛星コンステレーション事業者からすれば衛星を競争相手に預けなくてはならない状況は好ましくありません。

実際に、英OneWebはロシアのウクライナへの侵攻でFalcon 9に乗り換えざるを得ない状況が発生し、SpaceXとの間で周波数調整の交渉を迫られたという報道もあります。こうした事情を背景として、米欧の「SpaceX以外」のHLVが注視されているのです。

ジェフ・ベゾスの大型ロケット「New Glenn」

2025年1月16日、ジェフ・ベゾス氏が2001年に設立した宇宙開発企業ブルーオリジンの2段型大型ロケット「New Glenn(ニューグレン)」が2015年の開発表明からおよそ10年で初の打上げに成功しました。

2025年1月16日New Glennの初飛行(Credit: Blue Origin)

ブルーオリジンのロケットは、再使用型の弾道飛行ロケット「New Sheperd(ニューシェパード)」が米国初の宇宙飛行士アラン・シェパードから、ニューグレンは米国で初めて軌道飛行に成功した宇宙飛行士ジョン・グレンにちなんでおり、米国宇宙開発史を反映した名前となっています。

ニューグレンは、1段にメタン/液体酸素を推進剤とするブルーオリジン開発の「BE-4」エンジンを7基、2段に液体水素/液体酸素を推進剤とする同社の「BE-3U」を2基搭載した再利用型ロケットです。

打上げ前のNew Glenn(Credit: Blue Origin)

25回の再使用が可能で、地球低軌道(LEO)に45トン、静止トランスファ軌道(GTO)※に13トンの打上げ能力を持ち、GTOへの搭載能力では日本のH3ロケットのおよそ2倍となります。

※高度約36,000kmの静止軌道に衛星を投入するための中間的な役割を持つ楕円軌道。遠地点が高度約36,000kmで静止軌道に接する

7基のBE-4エンジン(Credit: Blue Origin)

2020年に初飛行が予定されていましたが、エンジン開発が難航したことから打上げは数回延期され、またブルーオリジンがBE-4エンジンを他社に供給する事業に専念する時期があったため、ロケット全体の統合試験が行なわれたのは2024年12月となりました。

2024年中の打上げを目指していましたが、初飛行は1月に延期。1月16日の打上げでは、ペイロードに米空軍との契約で開発した衛星の軌道調節や推進剤補給の機能を持つ機構「Blue Ring Pathfinder(ブルーリング・パスファインダー)」の試験を行なう形でフロリダ州のケープカナベラル空軍基地LC-36発射台から打上げられました。

予定していた2,400×19,300kmの楕円軌道にブルーリングを投入することに成功し、同時に1号機から海上プラットフォームへの着陸試験を行なう計画でしたが、1段ブースターは大西洋に落下したため、着陸試験はできませんでした。

再利用では今後も試験を続ける必要がありますが、最初にペイロードの軌道投入に成功したことから比較的順調なデビューを果たしたといえます。そして注目されている機能に、「直径7mのフェアリング」があります。

New Glennの特徴は7mフェアリング

フェアリングとは、大気中を飛行する際に衛星を保護するためロケット先端に取り付けられたカバーです。衛星を覆うことから実質的に衛星のサイズや形状を規定する性質があります。

スペースシャトルの場合は、フェアリングに相当するカーゴベイの直径が4.6mでした。米空軍が米国の大型ロケットに求めたフェアリング直径は4~5mとなっていて、ULAのAtlas V、Titan IVという2種類のロケットがこれを実現しました。

フェアリング直径5mという数字は一種の「業界標準」を形成していましたが、2022年に打上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の場合、直径5.4mのフェアリングを持つ欧州の「Ariane 5(アリアン5)」でさえ直径6m以上の主鏡を折りたたまなくては収納することができませんでした。JWSTの主鏡展開は無事に成功していますが、展開時に1箇所でもアライメントが狂うと性能を発揮できないという足かせにもなりました。

より大型のフェアリングとより大型のペイロード搭載を求める動きは、米国の超大型ロケット「Space Launch System(SLS)」で実現する計画で、直径8.4mと直径10m、長短合わせて実に9種類ものフェアリングのバリエーション構想がありました。

しかしSLSは本来2017年初飛行の予定が2022年にずれ込み、現在もその1回しか飛行していないという状況にあります。NASAが計画していた科学衛星にはSLSから別のロケットに載せ替えられた例もあり、大型フェアリングによる多様なミッションは実現のめどが立っていません。

SpaceXが開発中の「Starship(スターシップ)」は直径が最大で8mという大型のカーゴベイを備え、大型の衛星を搭載できる計画ですが、現状ではまだ完全な飛行実証には成功していません。2025年1月の飛行試験で飛行中に墜落したことから開発が足踏みすることも予想されます。飛行実証に成功し、現実的に利用可能な大型フェアリングという点では、ニューグレンは現在のところ他にない存在感を見せているのです。

ニューグレンが現在獲得している打上げ契約は、Amazonの通信衛星メガコンステレーション計画「Project Kuiper(プロジェクト・カイパー)」、NASAの火星磁気圏探査機「ESCAPADE」、超大型アンテナによる地上・衛星直接通信を提供するAST Spacemobileの「BlueBird(ブルーバード)」衛星などがあります。

特にAST Spacemobileの衛星は、7mのフェアリングは5mのフェアリングの2倍の容積を利用できることから、アンテナを大型化しやすい点が決め手となったようです。一度に多数の衛星を打上げるプロジェクト・カイパーの衛星も容積の大型化で搭載しやすくなることから、27回の打上げ契約を結んでいます。

また、SpaceXに続いてブルーオリジンがNASAと契約した月探査計画「アルテミス計画」における月着陸機「Blue Moon Mark1(ブルームーン・マーク1)」も直径7mのフェアリングを活かして3トンのペイロードを月面に運ぶ計画です。

ニューグレンは今後、2025年3月ごろからブルームーン・マーク1、ESCAPADE、カイパー衛星など数回の打上げを計画しています。月遷移軌道や惑星間軌道への投入、複数衛星の分離といった高度なミッションを実現し、デビュー後の存在感を確立できるかどうかが注目されるところでしょう。

また元の構想では100回だった再利用回数の構想は25回に後退しています。まずは再利用を成功させることが重要ですが、打上げ間隔を短縮してコスト削減を実現できるかといった点も重要です。

ニューグレンとエンジンを共有する「Vulcan Centaur」

ニューグレンに先行すること約1年、2024年1月8日にユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)の新型ロケット、ヴァルカン・セントールがケープカナベラル空軍基地からAstrobothicの民間月着陸機「Peregrine Mission 1(PM1)」を搭載して打上げられました。PM1は機体の問題で月への軌道に乗ることができませんでしたが、打上げは成功しヴァルカンは無事デビューを果たしました。

ケープカナベラル空軍基地の射点へ移動するVulcan Centaur。米軍の認証を受ける打上げのため、ミッション名は「Cert-1」(Credit: United Launch Alliance)

ヴァルカン・セントールは、ブルーオリジンから供給を受けたBE-4エンジンを2基搭載した1段と、「Centaur V(セントール5)」という強力な上段の組み合わせによる2段型液体ロケットです。日本のH3などと同じ固体ロケットブースターを組み合わせており、0基から6基まで固体ロケットブースター(SRB)を使い分けることでLEOから静止軌道、月遷移軌道まで多様なミッションに対応できます。最大のSRB 6基構成ではLEOに25.8トン、GTOに14.5トンのペイロードを投入でき、これはH3ロケットの2.2倍にあたります。

2024年10月にはヴァルカン2回目の打上げが行なわれていますが、SRBの一部が飛行中に破損し、メインエンジンの補正でかろうじてミッションを維持するという結果となりました。2回目は米空軍による安全保障衛星の打上げに関わる認証のための打上げだったということもあり、空軍が飛行中のトラブルをどのように評価するのか注目されています。

ULAは2006年にボーイングとロッキード・マーティンによる合弁企業として設立され、長く米国の安全保障衛星の打上げを担ってきました。商業衛星の打上げも可能ですが、NASAの科学衛星も含めてほぼ政府系の衛星に特化したサービスといってよく、2024年7月にはNRO(国家偵察局)の衛星で累計100機もの安全保障衛星の打上げを達成しました。

これまでのULAの主力ロケットは「Atlas V(アトラス5)」と「Delta IV(デルタ4)」といい、デルタ4は2024年にすべてのミッションを終えて現在は運用を終了しています。アトラス5はまだ運用中ですが、2014年にロシアがクリミア半島に侵攻したことからロシア製エンジン「RD-180」を利用することができなくなり、エンジン在庫の終了を持って引退することになっています。

2015年にSpaceXのイーロン・マスクCEOはアトラス5のエンジンがロシア製であることを厳しく批判し、GPSなど安全保障に関わる衛星を打ち上げるロケットの認証制度(Evolved Expendable Launch Vehicle:EELV)をULA以外の企業にも開放するよう強く求めました。EELV制度は現在「国家安全保障輸送プログラム(National Security Space Launch:NSSL)」と名を変え、2018年に次世代ロケットの開発支援と認証プログラムを開始しました。

NSSL次世代ロケットの開発資金を提供する「フェーズ1」では、ブルーオリジンのニューグレン、ノースロップ・グラマンの「OmegaA(オメガA)」、そしてULAのヴァルカンが選定されました。このうちオメガAは開発計画を中止して脱落し、ニューグレンは2022年から2026年までの安全保障衛星打上げを担うフェーズ2には選定されませんでした。

結果的に、ULAとSpaceXの2社がフェーズ2に選定され、およそ6対4の配分で米国の安全保障衛星を打上げることになったのです。

NSSLフェーズ2の契約では、ULAはアトラス5の使用も認められていますが、最終的には全て米国産ロケットであるヴァルカンへの移行を求められています。

当初は2021年に飛行を開始する予定だったヴァルカンは、2段セントールエンジンの試験中の失敗や同じく試験中のBE-4エンジンの爆発などのため、2024年頭まで初飛行がずれ込みました。BE-4エンジンを供給するブルーオリジンはエンジン開発に専念したため自社のニューグレン開発も遅れたという経緯があります。

ヴァルカンの大きな特徴は、長くEELVを背負ってきた経験を元にした多様な打上げ形態と特殊な軌道への投入能力でしょう。

また、衛星を静止トランスファ軌道ではなく静止軌道(GEO)へ直接投入という能力を持っています。GEOへの直接投入能力は巨大な推力や2段エンジンの複雑な制御を必要とするためごく一部のロケットしか対応できない能力で、Falcon Heavyでも2022年にようやく初めて達成しています。

EELV、NSSL認証の要件の一つでもあり、ULAは2023年末の時点でヴァルカンの打上げ契約を70件近く抱えていると述べていて、その多くが安全保障衛星の打上げだといいます。2025年からは米宇宙軍の赤外線ミサイル探知衛星など静止軌道直接投入ミッションを数多く控えています。

NASAとの契約で国際宇宙ステーションへの新たな輸送を担うシエラ・ネヴァダ・スペースの「Dream Chaser(ドリームチェイサー)」試験飛行もヴァルカン・セントールを利用することになっており、豊富な打上げ経験を背景に米国の政府系衛星のミッション消化が急務となっています。

ヴァルカン・セントールはニューグレンと異なり、1段ブースターの帰還・回収といった再使用を可能にする機能を持っていません。ですがULAはセントール上段を衛星のように宇宙で打上げ時と異なるミッションを実行させてから再突入、回収する上段再利用や、エンジンのみのコンポーネント再利用といった異なるアプローチでの再利用性獲得に向けた構想を表明しています。

静止衛星商業打上げを切り開いてきたシリーズ最新型「Ariance 6」

2024年7月、仏領ギアナに位置するギアナ宇宙センターから、欧州の新型ロケット「Ariane 6(アリアン6)が初打ち上げに成功しました。

アリアン6は液体水素・液体酸素を推進剤とする「Vulcain 2.1」エンジンを2基搭載した1段と、同じく液体水素・液体酸素を推進剤とする「Vinci」エンジンを搭載した2段で構成され、固体ロケットブースター2本の「Ariane 62」と4本の「Ariane 64」があります。

Ariane 6の2段「Vinci」エンジン(Credits: ESA-M. Pédoussat)

大型の64構成ではLEOに21.65トン、GTOに11.5トンのペイロードを搭載でき、これはH3のおよそ1.8倍にあたります。64形態では静止軌道へ5トンまでのペイロードの直接投入も可能で多彩な打上げ能力を持っています。

打上げ前のAriane 6(Credits: ESA-S. Corvaja)

アリアン6の将来の前に、大国間の競争と商業打上げ市場の創出に関わってきたアリアンシリーズロケットの歴史を振り返ってみましょう。

欧州宇宙政策研究所(ESPI)の報告書によれば、アリアンロケットを運用する欧州の打上げサービス企業アリアンスペースは、1980年に欧州の宇宙輸送の自立性確保と衛星打ち上げを商業化する目的で設立されました。

世界の宇宙開発でトップにいた米国は1970年代後半からスペースシャトルによる商業宇宙輸送を目指していましたが、1986年のチャレンジャー号の事故によって、宇宙輸送を一元化することのリスクを認識していました。

そのため後のEELVの前進であるELV計画を開始し、ボーイング(デルタロケット)とロッキード・マーティン(アトラスロケット)の維持を模索するようになります。政策の変化が激しかった米国に対して、競争力のあるアリアン4開発に成功した欧州は、静止通信衛星の打上げで市場の大きなシェアを獲得するようになりました。

1990年代に入ると、ソ連崩壊後のロシアがソユーズ、プロトンという実績あるロケットを市場に投入してくるようになり、HLVの供給過剰が懸念されるようになりました。

1990年代後半から2000年初頭にかけて、静止通信衛星だけでなくLEOに多数の小型通信衛星を打上げ、地球全体をカバーする衛星コンステレーションの計画が勃興し、新たな打上げ需要の高まりが期待されるようになります。

しかし結局は事業者の破綻や計画中止が相次ぎ、HLVの商業需要は静止通信衛星に集約していきます。

欧州は静止衛星を2機搭載できる「デュアルローンチ」が可能な大型フェアリングを持つアリアン5と、北緯5度という最も赤道に近い場所にある射場のギアナ宇宙センターを活かして堅調な静止衛星市場を取り込む方向へと進みました。

一方で米国はロケット2企業をULAに統合してコストを削減しつつ商業市場をほぼあきらめ、空軍主導のEELV計画の下で政府衛星の打上げ需要を満たして企業を維持することになりました。

2000年代にアリアンスペースと静止衛星の商業打上げでシェアを二分していたのはロシアのプロトンロケットですが、技術者の維持と世代交代に問題が生じ、打上げ失敗が相次ぐようになります。

打ち上げ成功率が下がってプロトンへの信頼が揺らいだところで、相前後するように台頭してきたのイーロン・マスクCEO率いる米国のSpaceXでした。

アリアン5とプロトンの打上げ価格が1回あたり7,500万ドルから1億ドルとほぼ拮抗していた中で、SpaceXはファルコン9の打上げに6,200万ドルを提示します。プロトンが打上げ直後に爆発炎上するという衝撃的な失敗をした2013年、SpaceXは初の静止衛星打上げを成功させ、世界の打上げ市場でシェアを獲得するようになっていきます。

その翌年の2014年に欧州はアリアン6の開発を決定し、エアバスと仏航空宇宙企業サフランが共同で機体開発を始めました。当初はH3と同じ2020年初飛行を目指していましたが、エンジン開発の遅れやCOVID-19などにより2022年目標、そして実際には2024年まで初飛行はずれ込みました。2023年にはアリアン5が最後の飛行を終えていたたため、欧州の液体HLVで欧州の衛星を打上げることができない空白の期間が生じています。

米欧のロケットサービス企業の中で東京に事務所を置くアリアンスペースは日本とも関係が深い。2024年秋に来日したステファン・イズラエルCEO(中央)(撮影:小林伸)

遅れてはいてもアリアン6の打上げがほぼ成功(2段の再突入に向けた実証では不具合を残しました)したことで、アリアンスペースは欧州の測位衛星「ガリレオ」や通信衛星コンステレーション「プロジェクト・カイパー」の打上げ契約を消化する段階に入ってきました。

Ariane 6初号機の打上げ(Credits: ESA – S. Corvaja)

ヴァルカン・セントールと同じく再利用性を考慮した設計にはなっていません。米国では使い捨てと再利用、両方の選択肢を選ぶことができますが、欧州はHLVをアリアンロケットに絞っているため、開発時のこの決断が批判を受けています。

アリアン6の開発が決定した2014年当時は、SpaceXのロケット再利用構想に対して「本当に可能なのか」という懐疑的な声はロケット業界で多かったため、再利用性を取り入れなかったことはそれほど不思議ではありません。ただ、現在の状況で再利用性を全く考慮しないことも難しく、アリアンスペースは欧州のスタートアップ企業「Maia」を支援し、ロケット再利用に向けた開発を進めていく方針です。

2025年以降もデビューが相次ぐHLV

2020年初飛行を目指していた米欧のHLVが出揃う中で、構想から飛行までより短い期間で初飛行を迎えるロケットもあります。ニュージーランド発、電動ターボポンプを取り入れた独自のロケットで存在感を発揮するRocke Lab(ロケットラボ)は、全長43m、直径7mという大型ロケット「Neutron(ニュートロン)」の初飛行を2025年半ばに控えています。

ニュートロンは搭載能力だけ見ればLEOに13トンとHLVの定義からはやや外れる能力ではありますが、衛星メガコンステレーション向けに多数衛星を搭載する機能を持ち、火星・金星という惑星探査に向けたミッションを打ち出す、独自性の高い再利用ロケットです。

すでに2026年に3回、2027年に5回の打上げ契約を結んでいるといい、7mのフェアリングを持つ搭載性の高いロケットとして関心を呼びそうです。

NASAと打上げ契約を結び、エンジン試験を進めるNeutronロケット(Credit: Rocke Lab)

同じく2025年半ばに初飛行を迎える可能性があるのは、ノースロップ・グラマンが運用する「Antares(アンタレス)」ロケットの新型「Antares 330」です。アンタレスロケットはもともと1990年代に米国のオービタル・サイエンシズという企業が開発し、国際宇宙ステーション補給機「シグナス」の打上げを担っていました。オービタル・サイエンシズがノースロップ・グラマンに吸収されたことで現在はノースロップ・グラマンのロケットとなっています。

アンタレスはケロシン・液体酸素を推進剤とする旧ソ連製のエンジンを改良して使用していましたが、2014年の打上げ失敗後にロシア製のエンジンに切り替えて機体をアップグレードしました。

しかし2022年にロシアのウクライナ侵攻を受けてさらにエンジンが切り替えられることになり、米国のスタートアップ企業ファイアフライ・エアロスペースからエンジン供給を受けて3世代目の「アンタレス330」として再スタートを切ることになったのです。

エンジン供給が安定しないこと、またアンタレスシリーズはNASAとの契約によるシグナス打上げの機体という性質が強く、そのほかの商業市場をどこまで視野に入れているのかは不明ですが、新興企業と大手航空宇宙企業との協力の成果が注目されています。

秋山文野

サイエンスライター/翻訳者。1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。X(@ayano_kova)