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「闇バイト」による押し込み強盗 個人で入手可能なガジェットで対策できる?

今回はガジェットレベルで押し込み強盗対策となりうる製品は存在するのかを検証する。写真はセンサーライト搭載のカメラ「Ring Spotlight Cam Plus」

「闇バイト」と呼ばれる、住宅に押し入ってのいわゆる押し込み強盗が、大きな社会問題となっている。仕事内容を明らかにせず高額のバイトという形で実行者を一般から募集すること、また家人が在宅していても構わず侵入し、危害を加えることも辞さないのが大きな特徴だ。

昨今販売されている監視カメラを始めとしたセキュリティ製品は、そのほとんどが空き巣への対応を前提としており、こうした押し込み強盗にはほぼ無力だ。特に「闇バイト」では、主犯格は現場にいないことから、例え何らかの形で侵入者を怯ませられても、自身の判断で取りやめるとは考えにくいのも理由のひとつだ。

こうした場合に、既存のセキュリティ関連のガジェット・デバイスやスマートサービスを使った対策に効果はあるのだろうか? 今回はこれらについて考察してみた。

本来はセキュリティ会社の守備範囲だが…

のっけから結論を書いてしまうと、押し込み強盗に対してガジェットだけで対策を行なうのは無謀と言っていい。なぜなら家に侵入され、侵入者と顔を合わせてしまえば、ガジェットレベルでできることはほぼ無いからだ。

こうした押し込み強盗対策は本来、セキュリティ会社が提供するホームセキュリティの守備範囲だ。例えばセコムの場合は、玄関や窓に取り付けたセンサーが反応した時点でセコムに通報される「在宅セコム」なるモードが用意されている。在宅中にこれらを有効にしておけば、玄関や窓からの侵入があった時点で警報が鳴り、セコムに通報されるとともに、ガードマンが駆けつけてくれる。

セコムは「セコム・ホームセキュリティ」で在宅中の侵入監視サービス「在宅セコムモード」を提供している
セコムと並ぶホームセキュリティ会社のALSOKは「HOME ALSOK Connect」のメニューのひとつとして侵入監視サービスを提供している

ここでポイントとなるのは、センサーに反応があると、通報が自動的に行なわれる仕組みであることだ。

同種のサービスの中には、センサーが反応したあと住人がその内容を確認し、自力でガードマンを呼ぶという段取りを要するプランもあるが、これだと侵入後すぐに危害を加えられる可能性のある押し込み強盗には対応できない。またガードマンを呼ぶごとに料金が発生するプランは、肝心な時にためらってしまう可能性があるので、避けたほうが無難だろう。

ちなみにこれらホームセキュリティは月額制で、センサー機器の構成や、それらがレンタルなのか買い取りなのかによって金額が上下する。一軒家で機器買い取りの場合、月数千円~1万円程度というのが、ひとつの目安だと考えられる。

選択肢その1:センサーライトとカメラ

ホームセキュリティの導入はコストの問題もあって難しく、可能な範囲で手を打てればよいという場合、候補として挙げられるのは、センサーライトを搭載したカメラだろう。これがあれば、侵入があった時にその姿をカメラで記録しつつ、ライトを照らしたり、サイレンを鳴らしたりすることが可能になる。

そもそも夜間に侵入してくるのは、人目につきたくないという意図が少なからずあるわけで、敷地に足を踏み入れた時点でライトが点灯するというのは、運がよければ威嚇程度の効果は期待できる。もしも押し込み強盗の本番ではなく下見の段階であれば、本番時に対象から外れるかもしれない。

同様に、サイレンを鳴らせるカメラについても、威嚇の効果はゼロではないと考えられる。ただしセンサーと連動して自動的にサイレンを鳴らすのは、誤動作などの問題もあって導入がややためらわれる。そもそもサイレンが鳴ったところで、ご近所が警察に通報してくれるかは未知数だし、効果は限定的と考えたほうがよい。

屋外対応でセンサーライトを搭載するカメラはそう多くはない。例えばAmazon傘下の「Ring Spotlight Cam Plus」(左)はライトを搭載するが、Googleの「Google Nest Cam(屋内、屋外対応/バッテリー式)」(右)は非搭載だ
「Ring Spotlight Cam Plus」はセンサーが反応すると内蔵のライトが点灯する。同種製品の中でもその光量はかなりのものだ
「Ring Spotlight Cam Plus」はネジで固定するタイプなので、賃貸物件への設置は一工夫が必要

そんなわけで、いずれにしても「やらないよりはやったほうがマシ」というレベルでしかないのだが、ひとつ注意しておきたいのは、そもそもカメラを設置するのは、犯人の姿を撮影するのが目的ではないということだ。

カメラを設置したことで、侵入の様子をバッチリ捉えることには成功したものの、その後の犯行は計画通り行なわれ、殺害されたあとに警察が犯人を探して逮捕するのには役立ちました、というのでは意味がない。カメラを往来からでも目立つ場所に設置し、侵入を抑止するというのが正しいあり方だろう。

そうした意味では、極論すれば録画機能のないダミーカメラでも構わないわけだが、とはいえ最近はWi-Fi利用で配線不要なタイプも数多く販売されているので、自宅にいながら屋外の様子が見られるというメリットも込で、本物のカメラを購入したほうがよいだろう。安いものならばそれこそ1万円程度からある。

またカメラ機能が不要であれば、シンプルなセンサーライトという選択肢もあるほか、人感センサー単体とスマートデバイスを組み合わせる方法も考えられる。いずれの場合も、適切な距離およびエリアできちんと反応してくれるかは設定してみなくてはわからないので、試行錯誤する手間は見込んでおく必要がある。

「Ring Spotlight Cam Plus」の設定画面。サイレン機能はセンサーとは連動せず、手動で操作する仕組み(左)被写体の種類ごとに、録画するか、アラートを送信するかを選べる(中央)モーション検知の感度を調整できるのはこうしたカメラの中でも一握りの製品だけだ(右)

選択肢その2:センサーによる侵入検知と通知

一方で、離れて暮らす家族など、自宅外に協力してもらえる人がいるのであれば、スマホに通知を飛ばすという方法が考えられる。前述のホームセキュリティ会社への通報が、そっくりそのまま身内への連絡に変わるイメージだ。通知を受け取った家族が警察に連絡を取り、現場に急行してもらう形になるだろう。

この場合、ドアに取り付ける開閉センサーというのが、現実的な選択肢になるだろう。ペアになったセンサーとその子機をドアとドア枠の両方に取り付けておき、ドアを開けることでそれらの距離が開くとスマホに通知が飛んだり、スマートホーム連携でライトを点けたりできるという仕組みだ。

SwitchBotが販売している「開閉センサー」。実売価格は2,980円
開閉センサーとその子機(磁石)。片方をドアに、もう片方をドアの枠に取り付け、距離が開くとドアが開いたとみなして通知を飛ばしてくれる
ドア・窓など取り付ける先によって設定を選べる(左)ドアに取り付ける場合は内側・外側を選んで取り付ける(右)
開閉センサーと子機がくっついていると閉まっていると認識される(左)距離が離れると開いたと認識されて通知が飛ぶ。ほかに「開けっ放し」の状態を認識することも可能だ(右)
通知はメールではなくアプリに対してプッシュされるので、家族にアプリをインストールしておいてもらうとよい(左)。ドアが開くと遠隔地にいる家族のスマホにプッシュ通知される(右)

ただこれらの製品は、前述のホームセキュリティのように就寝中はオン、そうでない時はオフにするといったモードを切り替える発想がなく、常時オンで運用することになる。そのためドアや窓の開閉が故意によるものか、侵入者がこじ開けたのかを問わず、通知がバンバン飛んでくる羽目になる。

そもそもこれらは押し込み強盗を想定した製品ではないため、すべてのケースで通知が行なわれるのはやむを得ないのだが、通知が多すぎて有事の異常に気づいてもらえないのは困りものだ。

対策としては、スケジュール設定の機能を使い、通知時間を夜中から早朝までに絞ることくらいだろうが、それでも日中はちょっとした出入りだけで通知が飛ぶことに変わりはなく、少々無理がある印象だ。

空き巣対策との違いは把握しておきたい

以上のように、押し込み強盗の対策となりうるガジェットは候補こそいくつもあるものの、実際に使ってみると、カユいところに絶妙に手が届いていない印象だ。そもそもが押し込み強盗を想定して設計されているわけではないので当然なのだが、ボタンひとつでセキュリティのオン・オフをすばやく切り替えられ、ガードマンも派遣するホームセキュリティとの違いは明らかだ。

セコムのホームセキュリティは、オンとオフをボタンによって簡単に切り替えられる。自宅のあちこちに取り付けたセンサーをグループ化しておき、ボタンひとつで一時的に対象から外すことも可能だ

コストの問題などもあってやむを得ず個人で導入できるガジェットでの対策を行なう場合、このようにプロが提供するホームセキュリティとはどうしても差ができてしまうことを理解しておくべきだろう。

またメーカーには、現在の社会情勢を踏まえてのガジェットへの機能追加や、新製品の投入を期待したいところだ。

山口真弘