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なぜ若者は「闇バイト」に参加してしまうのか いまできる対策

「闇バイト」による事件が相次いでいます。首都圏では、今年8月以降、闇バイトで集められた犯罪グループによると思われる強盗事件が10件以上発生しています。10月15日に横浜市青葉区で発生した強盗事件では70代男性が殺害されるなど、事態は深刻化する一方です。

これまで闇バイトといえば、特殊詐欺の「受け子」や「出し子」として実行役を担うことが多く、中高生を含む若い男性が加担してしまう傾向にありました。しかし、前述のような強盗事件のほか、フリマアプリでの架空取引、サケの密漁など、様々な犯罪に闇バイトでの犯罪グループが組織されるようになっています。実行役の年齢、性別も広がりを見せています。

闇バイトとは、指示役が一般的なアルバイトを装ってネットで募集をかけ、応募した人が犯罪の実行役をさせられるものです。闇バイトはXなどのSNSで「高額報酬」「即日払い」「運びの仕事」ありますなどの内容で募集されます。特殊詐欺の場合は、地元の先輩などから声をかけられて加担するケースもあるのですが、ほとんどがネット経由での応募です。

人生を大きく踏み外してしまう闇バイトになぜ応募し、なぜ犯罪を実行してしまうのか、それは指示役の手口が巧妙になっていることや若者の心理に理由があります。

SNSだけでなく求人サイトも闇バイトへの入り口に

闇バイトに若者が多い理由は、アルバイトを探す手段がSNSであることも要因です。マイナビキャリアリサーチLabが2023年5月31日に公表した調査では、SNSでアルバイト探しをしたことがある割合は高校生が50.0%、大学生が30.8%でした。

その理由は、「すぐに求人に応募できる(44.2%)」がもっとも多く、続いて「すぐに働くことができる(39.5%)」、「面倒な登録手続きがない(35.0%)」など、タイパ(タイムパフォーマンス)の重視が見られます。ハローワークや職業紹介企業などの第三者のチェックがなくても、特に危険はないと考える人も多いようです。

闇バイト募集は、特にXで行なわれています。「高額報酬」「即日即金」などのキーワードで検索すると、今でも多数の投稿がヒットします。警察庁はこうした投稿にリプライする形で「この投稿は犯罪実行者を募集しているおそれがある」などの警告をしていますが、いたちごっこの状況です。

募集の文章も巧妙になり、「ホワイト案件」とわざわざ明記したり、「引っ越し」業務を装う場合もあります。以下の投稿では、闇バイトではないことをうたっています。「報酬が低いから闇バイトではない」という、おかしな理屈を述べています。

Xでの闇バイト募集と警察による警告

闇バイトへの入り口は、SNSだけではありません。2023年3月には、大手求人サイトや掲示板サイトにも闇バイトの募集が潜んでいることが警察庁の発表で明らかになりました。運営会社も求人を行なう企業の審査や応募の際の注意喚起をするなどの対策をしていますが、追いついていない現状があります。

闇バイト、インディード・エンゲージ・ジモティーなど大手サイトに求人広告(読売新聞オンライン)

ネットで求人を探すことは、今や珍しくありません。それでも、若者が闇バイトに加担する割合が高いのは、指示役である犯人が「社会経験が少なく指示を素直に実行する」「体力がある」といった理由で雇っているからだと思われます。

山口県では中学生と高校生の3人が強盗予備の疑いで逮捕されています。3人には互いに面識がなく、「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」の可能性もあるとされています。

匿名・流動型犯罪グループとは、2023年7月に警察庁が定義した「SNSを通じて募集する闇バイトなど緩やかな結びつきで離合集散を繰り返す集団」です。暴力団などの組織とは異なり、その時々に指示役が集めた実行役によって犯罪が行なわれます。

強盗予備の疑い 14歳中学生など3人逮捕 互いに面識なく 山口(NHK)

匿名・流動型犯罪グループの動向と警察の取組

特定のメッセージアプリで個人情報を引き出させる

闇バイトに応募すると、秘匿性の高いメッセージアプリでのやり取りを求められます。よく利用されているのは、「Telegram(テレグラム)」や「Signal(シグナル)」です。

Signalはメッセージをエンドツーエンドで暗号化しています。Telegramは「シークレットチャット」という機能を使うと暗号化できます。サービス提供企業も含めた第三者は、メッセージを読むことができません。

また、相手が読むと自動でメッセージを消去したり、送信したメッセージをお互いの履歴から消すことができるため、犯人は指示した証拠を残さずに済みます。Telegramのシークレットチャットでは、スクリーンショットを撮ると相手にスクリーンショットを撮ったことが伝わり、メッセージは画像に映りません。

Telegramのシークレットチャット画面。このスクリーンショットを撮影しても、メッセージは映らない
前の画面のシークレットチャット画面のスクリーンショット
Signalの画面。指示役が実行役の画面からメッセージを消すこともできる

メッセージアプリで連絡が取れると、相手は身分証明書を持った自撮り写真、LINEのアカウント、自宅の住所、銀行口座、家族の連絡先や住所などを伝えるように指示してきます。通常のアルバイトでは必要のない個人情報を伝えさせられます。

その後、具体的な仕事が送られてきます。「指示された場所に行って荷物を受け取って運ぶ」「指示された家でキャッシュカードを入れ替える」など、全体像が見えない仕事の一部を依頼されます。

他にも、特殊詐欺の電話をかける「かけ子」、強盗の運転手役、クレカの不正使用、口座買い取りなども闇バイトで行なわれています。Xの投稿では、自宅に訪問してきた若者が工事に必要だからと家の中の写真を撮りたいと言ってきたが、工事の事情をよくわかっていなかったため、強盗の下見だったのではないかといった話もありました。

仕事の内容から闇バイトだと気づいたら、そこで手を引けばいいのですが、仕事を続行してしまう人もいます。その理由は、「個人情報を先方に送っている」、「家族に迷惑をかけるのではないか」、「バレずに済めば高額報酬が手に入る」、「自分以外にも実行役がいる(集団心理)」、「すぐに借金を返したい」といったことが挙げられます。強盗の場合は、車で現地に連れて行かれ、財布やスマホを取り上げられるケースもあるようです。

犯行により逮捕に至っても、実行役だけが捕まり、指示役にたどりつかないことも闇バイトの特徴です。指示役は匿名を使って複数人で分業しており、報酬の管理は暗号資産を使うなど、犯人特定を難しくする仕組みにしているからです。

闇バイトに申し込んでしまった、すでに個人情報を送ってしまったという場合でも、警察に相談すれば保護してくれます。警察庁は10月18日、Xにおいて動画での呼びかけを行ないました。

闇バイトで加害者、被害者にならないためには

闇バイトから身を守るにはどうしたらいいのでしょうか。自分や自分の家族が加害者にならないためには、当たり前のことではありますが「闇バイトに応募しない」ことです。真っ当な求人なのか、闇バイトかを見抜くのは難しくなってきていますが、求人の内容を精査すると不審な箇所が見つかるかもしれません。

報酬が高すぎたり、業務の内容が不明瞭なときは注意が必要です。子どもには、バイトに応募するときは事前に親に相談するように約束し、犯罪を犯すとどうなるかなどを普段から家族で話し合っておくことも大切です。

また、連絡の手段にTelegramやSignalを指定されたら、その時点で怪しいと判断してもいいでしょう。子どもがいる家庭であれば、子どものスマホにフィルタリングを設定しておくと、アプリのインストールを許可制にできます。

もし、これらのアプリをインストールしたいと要求された場合には、理由を尋ねます。友人との交流にこれらのアプリが必要になることはほとんどないと思います。その時点であれば、実行前に止めることができます。

もし応募したバイト先で連絡手段にTelegramやSignalを指定されたら闇バイトの可能性が高いです

また、強盗の被害者にならないために、普段から戸締りに気を付け、防犯カメラを付けるなどの対策を検討してもいいかもしれません。侵入に時間がかかる家は襲われにくいと言われています。また、SNSで「明日から旅行」「今から寝る」など侵入の機会を与える投稿も控えたほうが良いでしょう。自宅の場所が特定されるような投稿も狙われる危険が高まります。

万が一家の中に入られた場合は、とにかく「外へ逃げる」こと。相手に追い詰められないよう外に通じる窓がある場所へ移動し、相手がどんな凶器を持っているかもわからないので、トイレなど逃げ場のない場所にはいかないことも鉄則です。

特殊詐欺に関しては、祖父母との連絡を密にしておくなどの対策も考えられます。業者らしき人物に少しでも不審に思う事象があったら、警察に相談しておくと良さそうです。

相談は、最寄りの警察署、警視庁総合相談センター(#9110)、またはヤング・テレホン・コーナー(警視庁少年育成課少年相談係)などで受け付けています。

鈴木 朋子

ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー 身近なITサービスやスマホの使い方に関連する記事を多く手がける。SNSを中心に、10代が生み出すデジタルカルチャーに詳しい。子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など多数。