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【オタク家を買う】元都会民は郊外住宅街で生活できるのか?
2023年4月21日 08:20
前回の記事掲載(1月)からだいぶ間が空いてしまったが、その間の筆者はというと、1月末に完成した新居を引き渡され、引っ越しも概ね済ませ、ほぼほぼ新居で生活している。
そんなわけで実際に完成した新居の住み心地などをお届けしていこうと思うのだが、書きたいことは山ほどあり、1回ではまとめられそうにないので、まず今回は基本となる「土地」、すなわち「住む場所」として新居はどうか、というテーマでお送りする。
ちなみに筆者は両親の代から東京生まれの東京育ちで、これまで都外に住んだことがなかった。2023年1月までの30年間は渋谷区に居住し、大学在学中からの24年間は渋谷駅徒歩10分圏に住んでいた。あらゆるものが徒歩圏に揃っている都市での生活に慣れきった都会っ子(46歳オッサン)だ。
そんな都会暮らしをしていた筆者がいきなり東京を離れ、郊外の住宅街に引っ越してどうなったかをいくつかの観点からレポートする。
白根雅彦(46)が注文住宅を作るための苦闘を記録していく連載です。前回から3カ月経過し、家ができるとともに齢を一つ重ねました
東京から1時間でも、いまのところ不満なし
伏せたまま説明するのが難しいので大雑把に場所を明かしてしまうと、筆者が買った土地は千葉県木更津市だ。東京湾を横断する東京湾アクアラインにより、それなりの交通利便性を獲得した地域で、筆者が買った土地から東京駅までは徒歩+高速バスで大雑把に1時間ほどかかる。
筆者はフリーランスのライターで、引っ越しに際して木更津側に仕事を作ったわけでもない。仕事内容は東京に住んでいたときと変わらず、必要に応じて取材先に行き、自宅で原稿執筆する、といったイメージだ。
取材先はその時々で変わり、企業のオフィスだったりイベントスペースだったり様々だが、ほぼ都内の山手線内で、以前住んでいた渋谷からも東京駅からも、だいたい30分くらいで行ける。それが木更津からとなると、プラス60分の90分なので、渋谷に住んでいたころの約3倍の時間がかかることになる。毎日通えと言われるとツラい通勤時間だ。
しかしコロナ禍以降、発表会やインタビューといった取材のオンライン化が進んでいて、筆者自身もオンライン取材を優先している。そもそも元々そんなに仕事が多くない売れないライターでもあるので、オフラインの取材は週に1回もない状態が続いていた。
もちろん仕事以外の私用、事務手続きや買い物、会食で上京することはある。しかし筆者はもともと引きこもり気質で街を歩く趣味もなく、友人も少ないので、そういった私用を含めても、上京するのは週に1回未満だ。取材のついでに東京での用事を済ませたりもできるので、上京の回数は減らしやすい。
そうなると、東京駅まで1時間という交通利便性で不満を感じることはない。ただし、こうした環境で不自由も不満なく暮らせるのは、筆者が都市への依存が小さい、引きこもりライターだからでもある。
普通の会社員には、このような引っ越しは難しいだろう。リモートワーク中心の会社であっても、いつまでそれが続くかわからないし、転職する可能性だってある。自分は問題なくても、家族が郊外居住できないこともあるだろう。筆者ほど郊外移住しても問題ないのレアケースと思っていただきたい。
高速バスの善し悪し
新居から東京には、徒歩圏にあるバス停から高速バスを使う。鉄道を使うとなると、路線バスで駅前に出てから東京湾をぐるっと回ることになるので、アクアラインを使う高速バスに比べると所要時間がかなり大きくなり、よほどの理由がない限り実用的でない。
この高速バス、利点もあるが不便な点もあると感じている。
まずなんといっても不便なのは、鉄道に比べたときの時間の不確実さだ。始発駅以外は時刻表通りにバスが来ないことが多いので、待ち時間が発生することが多い。目的地の到着時刻も道路状況によって変動し、すいていると早く着くこともあるが、渋滞で遅延することも多く、新幹線などに乗り継ぐときは、それなりの余裕を持っておく必要がある。
また、高速バスは都内の鉄道ほど便数が多くない。筆者が使う路線は、通勤時間帯は10分おきくらいで走っているが、それ以外の時間帯は1時間に2本とかになり、やはり待ち時間が発生しやすい。最終便もそんなに遅くまではない。
しかし高速バスには高速バスならではの利点もある。
鉄道駅だと東京から離れても駅周辺は公共施設や商業施設などがあり、利便性が高い代わりに地価が高く、広い土地は売られにくい。一方の高速バスはその徒歩圏に何もないバス停も多く、鉄道駅周辺に比べると地価は安いし広い土地も確保しやすい。路線バスなどに乗り換える必要がなければ、合計の所要時間も短くなるし、徒歩の距離が短ければ天候や体調が悪いときの負担も減る。
高速バスは必ず座れるというのも利点だ。混んでる時間帯は知らない人の横に座ることになるが、それでもフカフカでヘッドレストもあるシートに座れるのはありがたい。スマホ充電用の電源が使える車両もある。
個人的には満員の通勤電車が苦手なので、15分ほど立って踏ん張るより、1時間高速バスに乗った方がマシだと思う。家を出る時間が早くなるかもしれないが、高速バスなら寝たければ寝られるし、通勤で体力を大きく消耗することもない。帰路の寝過ごしにだけ気をつければ、通勤手段としては快適な部類に入ると思う。
クルマ抜きでの周辺生活環境
筆者新居は、鉄道駅や街道からは離れた歴史の浅い住宅街なので、都内に比べると徒歩圏に商業施設が少ない。徒歩圏内にはスーパーとコンビニ、病院、駐在所、あとは飲食店が数軒あるが、それ以外となると、徒歩30分くらいの距離とかになる。
郊外あるいは田舎に居住している人は、「それはマシな方」と思われるかもしれないが、元都会っ子からすると、「お店が少ない」と感じる。とくに飲食店が少なく、Uber Eatsや出前館の対応店舗も少ないので、外食に頼っている人は暮らしていけないだろう。筆者は以前から自炊していたので困っていないが、それでも外食は減っているので、摂取カロリーと摂取アルコールと支出が減っている。あれ、イイことのような気もする。
このほかにも「イオンネットスーパー」は対象エリア内だ(渋谷はエリア外だった)。トップバリュが捗っている。あとはAmazonはプライム会員なら翌日配達できることもある。これらと徒歩圏のスーパーと合わせると、日用品の調達には不便はない。
本来ならばクルマが移動のメインとなる地域だが、徒歩圏に最低限の商業施設があり、ネット通販は都市圏と変わらず利用でき、ネットスーパーに至っては都市圏よりも使いやすい部分すらある。おかげでクルマの納車待ちの筆者でも、あまり不便なく暮らせている。
騒音はちょっと不満ポイント
騒音や臭いといった周辺環境要素も、土地を選ぶときに注意したい要素だ。筆者の買った土地は1km圏に農地や山林があるが、農業や畜産業の臭いが気になることはない。冬場、野焼きとおぼしき煙臭さを感じたことがあったが、1年に数回ペースのようなので許容範囲だろう。それより庭で焼肉や薪ストーブをやりたいので、筆者自身が煙の発生源になる可能性すらある。
騒音については、ちょっと残念だったとも感じている。というのも、木更津市は羽田空港の着陸ルート直下なのだ。北風時のみで、天候次第で飛行ルートや便数は変わってくるが、条件の悪い日には深夜早朝以外、ひっきりなしに飛行音が聞こえる。
この飛行音、土地購入前に気が付いてはいたが、実際に住んでみたところ、想定よりも大きかったと感じている。室内であれば会話などが遮られるような騒音量ではないが、静かな映画などを見ていると雰囲気がぶち壊しになりそうなレベルではある。
ちょっと残念であり、もうちょっと対処を考えれば良かったとは思うものの、騒音対策は「窓を減らす」「重たい壁=RC造を採用する」くらいしか対処しようがないので、筆者の予算とコンセプトでは無理だったな、とも思っている。
実は筆者が前に住んでいた渋谷のマンションも羽田空港への着陸ルートの直下で、しかもさらに空港に近かったので飛行高度も低く、もっとうるさかった。それに比べればかなりマシとも言えるが、逆にいうとそのような環境に住んでいたからこそ、飛行音のない環境に住みたかったなぁ、とも感じている。
あとは高速道路も近く、クルマの走行音も聞こえる。ただ、これは生活音や風の音でかき消されるレベルでもあり、そこまで気にならない。また、こうした騒音は交通利便性の付属品なので、ある程度は歓迎するべきものとも思う。
大きめの国道からは離れているが、たまに、いわゆる暴走族だか走り屋だかの爆音が響き渡ることがある。元都会民からすると、「まだ生きてたのかっ!」と感心するくらいの存在だが、この辺りも都会との違いを感じる。
あとは山林や農地が近いせいか野鳥が多く、季節にもよると思うが、スズメっぽいチュンチュンという鳴き声は室内に居てもよく聞こえる。都会と違ってカラスや鳩は少なく、スズメのような小鳥が主だが、着工前に見に来たとき、キジらしき鳥も見かけた。いまのところ敷地内に巣を見かけたことはないが、このあたりは警戒が必要かもしれない。
一般的には低評価な土地形状も筆者は大満足
筆者の土地は高台にあり、法面(斜面)がオマケについている。法面は擁壁が不要な角度、いわゆる安息角(30度)くらいで、油断すると転げ落ちるくらいの角度だが、頑張れば普通の靴で真っ直ぐに登ることもできる。
こうした法面は管理が大変なので、不動産としてはマイナスポイントだ。法面には4月頭から雑草が生え始めていて、いまから憂鬱な気分でもある。一方、法面のある高台なので、平屋でも隣家とは距離も高低差もあり、視界は遠くまで開けているので、開放感重視の筆者にとってはプラスポイントでもあった。
ちなみに固定資産税は330m2の平地部分が4万円弱、591m2の法面部分が400円ほどだ。法面の評価額は極端に安い。
あとこの土地、道路の突端部にあり、人やクルマの出入りに使える接道幅は4mしかない。旗竿地の竿が公道みたいな形状だ。これも不動産としてマイナスポイントだが、目の前の道の交通量が少なく、近隣の人や関係者しか通らないので監視カメラのモーション感度を高めに設定できるし、通行人の目をあまり気にする必要がないのも悪くない。
ただ、何度か近所のオッサンや子どもが不法侵入してくるのを見かけ、警告したことがある。監視カメラだけでなく警備会社も入れているが、昨今の情勢的に不法侵入には警戒が必要だ。というか子どもは知らないオッサンの家に近づいたらダメと教わらないのだろうか。この辺りも都会と感覚が違うところではある。
クルマが必須な環境であり、クルマが使いやすい環境でもある
筆者が1月まで居住していた渋谷駅周辺は、クルマを所有しやすい環境ではなかった。クルマも路駐も歩行者も多いのに道は狭くて電柱が生えてて一方通行だらけで駐車場は高い。たいていの用事は徒歩や鉄道の方が便利で速くて経済的だ。レンタカーもシェアカーも徒歩圏内にたくさんあるので、遠出や荷物運びでクルマが必要になっても困らない。
それに比べると新居周辺はクルマが必須で、かつクルマが使いやすい環境だ。現在の筆者は納車待ちでクルマは持っていないが、クルマがあれば暮らしやすいだろうなぁ、と感じることが多い。
筆者が土地を購入したのは、自家用車が普及したあと、いわゆるモータリゼーション以降に開発されたニュータウンだ。自家用車の運用を前提に区画整理されているので、交通量の多くなる主要な道は広くて見通しがききやすく、車道と歩道が分離している。そうでない枝道は通り抜けルートにならないようになっているし、そんな道でも幅は6m以上ある。筆者のようなペーパードライバーでも、ストレスも擦り傷もなく運転できるし、道を歩いていてクルマが怖いとか邪魔とか感じる場面もない。
市内の商業施設や公共施設はどこもクルマ移動を前提としているので、広い無料駐車場を併設しているケースがほとんどだ。
木更津市内にはコストコや三井アウトレットパークといったクルマ向けの郊外型の商業施設がたくさんある。このほかにも1時間圏内の房総半島エリアには多くの郊外型のレジャー・観光施設がある。そのため、毎週末のようにアクアラインは大渋滞が発生するが、木更津側に住んでいればその渋滞は関係なく、それらの施設を利用できる。ただし一般道の渋滞もヤバい木更津金田IC近辺には週末に近づかない方が良い。
といっても、現時点で筆者は納車待ち状態で、クルマを持っていない。
昨年、家が着工したあと、12月にクルマをオーダーしたので、そろそろ生産に入りそうなタイミングではある。しかし世界的に資材の不足と高騰が広がっている昨今、新車の納期は長く、半年以上待たされることもザラだという。
新居と同時にクルマも必要という人は、早めに動いた方が良いだろう。筆者はわりと後悔している。日産アリアが欲しかったんやけどなぁ……
筆者的にバランス良好な木更津
以前住んでいた渋谷は、交通も周辺施設も利便性が高かったが、筆者はそうした利便性に魅力を感じなくなり、逆に居心地の悪さも感じるようになっていた。そりゃそうである。渋谷は「外から来た人が快適に過ごせる街」であるべきで、地元のアラフィフオッサンにとって住み心地が良い街である必要はない。
一方で木更津はというと、筆者がもともと引きこもり生活に適応していたこともあり、自分でも意外なほど不満を感じない。筆者は30年渋谷に居住した元都会民だが、思っていたより都会の環境に依存していなかった。都会に住んでいる意味がなかったようだ。
注文住宅は建物が主役ではあるものの、どこに建てるか、「住む場所」も重要な要素だ。どんなに良い建物でも、所在地がダメなら快適な住まいとは言いにくい。かといって利便性の高い都会で広くて開放感のある家を建てるとなると、膨大なコストがかかる。どんな土地かは、注文住宅にとってもっとも重要と言えると思う。
立地の利便性と家の広さ、総コストのバランスは難しいところだが、そこそこ地価が安く、そこそこ都内に出やすい木更津あたりは、筆者にとってバランスの良い土地だった。筆者は土地探しの際、東京から大雑把に60km圏を広くチェックしたが、そのかいがあったと思っている。
都会は都会で魅力があるが、都会に縛られないことで得られるものも少なくない。これから注文住宅を建てるという人は、このことも頭の片隅にとどめておいて欲しい。