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会社のお引っ越し。本店移転登記を電子申請してみた
2021年3月10日 08:20
テレワーク化が進み、広いオフィススペースが不要になったことで、都市部から地方へ移転したり、最小限のコンパクトなオフィスに切り替えたりする会社が増えているそうだ。筆者も1人会社を経営しながら、一応は都心にオフィスを借りていたものの、すっかり通わなくなってしまった。完全に在宅勤務で、一歩も外に出ない日すらある。なので、年末のうちにオフィスを退去し、遅まきながら会社住所を自宅に変えることにしたのだった。
しかしながら、単純にオフィスにある物を自宅に移動すれば終わり、というわけにはいかない。会社の場合、本社の拠点は「本店」と呼ばれ、登記簿謄本(および会社設立時の定款)で明記している。そのため、本店の住所に変更があった場合は、それらを新しい情報にアップデートしなければならない。つまり、国に「移転しましたよ」という届出をする必要があるのだ。
ただ、かつては必ず紙書類でやりとりしなければならなかったこの移転登記の手続きも、今や自宅からでも電子的に行なえるようになっている。であれば、感染防止の意味でも、書類作成や移動にかかるコスト削減の意味でも、自分の手で電子手続きでやってしまいたい。というわけで、初めての移転登記を電子申請でチャレンジしてみることにした。筆者と同じように1人会社を経営する人の参考になれば幸いだ。
- 電子証明書(移転前用)を取得する
- 定款の内容を変更する旨の議事録と、株主リストを作る
- 必要書類と電子証明書を使って電子申請を行なう
- 印鑑届出書を作成し、窓口に送付する
- 年金事務所への住所変更の届出
移転登記に必要な手続きと大まかな流れ
あらかじめ断っておくと、今回の手順はあくまでも「社長1人で従業員がいない株式会社」における移転登記の手続きとなる。なので、社長以外に従業員が1名以上いる会社では、一部の手続きが異なっていたり、手続きが増える可能性がある。いずれにしても会社ごとに少なからず事情は異なるはずなので、不明なところがあるのなら、移転手続きを支援・代行してくれる専門業者や、登記変更の届出先となる法務局などに相談するのがおすすめだ。
さて、会社の移転にあたっては、移転登記の手続きを含め他にもいくつかしなければならないことがあり、費用もかかる。主要なところをざっと挙げると以下の通りだ。
必要な手続き
1. 郵便物の転送
2. 定款の変更、移転登記
3. 年金事務所への届出
4. 税務署への届出
必要な費用
移転登記の手数料:3万円、または6万円
電子証明書発行手数料:3カ月分2,500円×2回
登記簿謄本(履歴事項全部証明書)発行手数料:一部480円~
最初の「1. 郵便物の転送」は、普通に自宅を引っ越すときと同じだ。日本郵便のWebサイトで、郵便物の転送開始日を指定して手続きできるので、移転先が決まっていて郵便物が受け取れる状態になっているのであれば、早めに転送を開始しておくと良いだろう。
このとき、移転元がシェアオフィスだったりして1つの住所に複数の事業者がひもづいていると、まとめて転送されてしまう可能性もゼロではないので、誤解されないように正しい情報で申請しておきたい(筆者もシェアオフィスだったので、申込み後に郵便局から確認の電話があった)。
キモとなるのは2番目以降の手続きになるのだが、このうち「4. 税務署への届出」だけはお世話になっている税理士の方に代行してもらうことにした。というわけで、今回は主に2と3の手順について解説していきたい。
会社の移転に関わる手続きは、少なくとも電子申請でやろうとすると、とにかくあっちへ行ったり、こっちへ行ったり、複数のツールやWebサイトを横断するような形になる。時には法務局にも出向かなければいけない
法務局のWebサイトでは手続きの仕方もある程度案内されている。が、そこには含まれていない作業が実際には必要になったり、どこからどこまでが電子で、どこからが紙での手続きになるのか、といったところは判然としなかったりもする。結局のところ最初から窓口に行って手順を確認し、紙で手続きした方がはるかに簡単に終わるのではないか、とさえ思える。
とはいえ一度電子申請の経験を積んで慣れておけば、後々なんらかの手続きが必要になったとき、最小限の手間で楽に、素早くこなせるようになる可能性はある。というか、そうなってほしい。筆者の自宅からだと最寄りの法務局の窓口は10kmは離れており、駅からも遠い。忙しい時期に法務局と自宅を往復する時間なんてとても作れないのだ(それでも今回の移転登記では何度も法務局へ通うことになったのだが……)。
そんなこんなで、まずは「2. 定款の変更、移転登記」である。この手続きに関わる大まかな流れを下記に示しているが、一連の手続きが終わるまでになんだかんだで2週間以上はかかると考えておいた方が良い。しかも移転前に登記の変更を申請することはできないので、ほとんど全てが移転日以降の作業になることも覚えておきたいところだ。
定款変更、移転登記の電子申請の流れ
1. 電子証明書(移転前用)を取得する
2. 定款の内容を変更する旨の議事録と、株主リストを作る
3. 必要書類と電子証明書を使って電子申請を行う
4. 印鑑届出書を作成し、窓口に送付する
1. 電子証明書(移転前用)を取得する
電子申請でとりあえず必要になるのは「電子証明書」だ。電子申請で添付ファイルを送信する場合、この電子証明書で自分の会社からの公式なデータであることを証明するのである。
なので、真っ先に電子証明書を発行すべきなのだが、発行元となる「認証局」は法務省が案内している「電子認証登記所(商業登記認証局)」の他、いくつかの民間企業もあって、どれを選ぶべきかがわかりにくい。でも今回の場合、電子証明書を取得する目的は「住所変更の電子申請」のため「だけ」であり、手続き上は電子証明書のデータ(ファイル)があればいい。
認証局のご案内 | e-Gov電子申請
https://shinsei.e-gov.go.jp/contents/preparation/certificate/certification-authority.html
電子認証登記所が発行しているなかで最も有効期間が短い「3カ月分2,500円」という証明書を取得すればOKだ(他の民間企業が発行する証明書は長期間使えるものや、ICカードで提供されるものもあるが、だいたいは高額となる)。
電子認証登記所が発行する電子証明書の取得には「商業登記電子認証ソフト」というアプリケーションを使う。下記の手順で発行しよう。
1. 「商業登記電子認証ソフト」をダウンロード、インストールする
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00027.html
2. 「鍵ペアファイル及び証明書発行申請ファイル作成」で、必要事項を入力し、ファイル作成を実行
3. 出力されたファイルのうち「SHINSEI」のみを外部メディア(USBメモリ、CD-Rなど)に保存する
4. 紙書類の「電子証明書発行申請書」を作成する
5. 現在の会社住所管轄の法務局窓口でファイルと書類を提出し、証明書取得に必要なシリアルコードを発行してもらう(2,500円分の印紙が必要)
6. 再び商業登記電子認証ソフトを起動し、「電子証明書取得」の画面でシリアルコードなどを入力して証明書をダウンロードする
以上の通り、電子証明書の発行は電子申請ではできない。
だが、なんと筆者が1月に申請を終えた後の2月15日以降、オンラインで発行できるようになっていた(オンラインによる商業登記電子証明書の請求について)。以降は筆者の行なった手続きについて記していく。
【訂正】電子証明書の発行の電子申請について追記(3月11日)
最初の申請に必要なデータを作るところと、最後に証明書をダウンロードするところはパソコン上だが、発行のためには必ず管轄の法務局の窓口に足を運ぶ必要がある。手数料となる2,500円の印紙も必要だ。窓口が混雑していなければ30~40分ほどでシリアルコードを発行してもらえるだろう。
ここではまだ移転登記を行なう前の段階のため、現時点の登記簿に記載されている住所をソフトに入力して申請ファイルを作成する、というところだけは間違えないようにしたい。
ちなみにこの電子証明書を発行する作業は、実は移転登記が完了した後にもう一度行なうことになる。なぜなら、住所変更してしまうと電子証明書が無効になるからだ(移転の手続きをしているわけなので)。有効期間が短く安価な電子証明書を最初に選んだのは、移転前のたった一度きりしか使わないから、という理由もあったりする。
でもってもう1つ付け加えると、移転後の電子証明書のために、新しい住所を元にした申請ファイルと書類をこのタイミングでまとめて作成しておいてもいい。新しい電子証明書は、移転登記完了後、社会保険関連の住所変更のため、年金事務所への届出を電子申請する際に必要になる。もし他の手続きにも使う用事がありそうなら、ここでは長めの有効期間の電子証明書を選んでもいいだろう。
2. 定款の内容を変更する旨の議事録と、株主リストを作る
時間軸としてはこちらが先になるのだが、会社の本店移転にあたっては社内的もしくは社外的な承認手続きも必要だ。具体的には「株主総会」および「役員総会」を開き、本店住所を変更する旨の決議を行ない、承認を得る必要がある。さらに、定款に住所が記載されている場合にはその内容を新しい住所(地域)にする必要もある。それらの変更、決議は議事録として残しておかなければならない。
今回は筆者の「1人会社」なので、株主である自分1人のみの株主総会を実施し、めでたく満場一致で変更が承認された! ……ということを議事録として残す。そのうえで、決議時点における「株主リスト」も作成しておく。1人きりの会社だからある意味形式的なものではあるけれど、移転登記の手続きには必要になるのだ。
議事録と株主リストに決まった様式はないが、法務局のWebサイトにサンプルが用意されているので、それを参考に作成すると良いだろう。念のため付け足すと、当然ながら、移転より前の日付で株主総会を開き、決議していなければならないので、文書に記載する日付も間違いのないようにしておきたい。思い出したかのように移転後に株主総会を開いたりなんか、もちろん筆者はしていないのである。ホントホント。
議事録・株主リストの例(※「1-7 株式会社役員変更登記申請書(取締役会設置会社・役員の全員が重任)」などの記載例のPDF内にサンプルあり)
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/COMMERCE_11-1.html
そして、これら議事録と株主リストは、法務局(登記所)に電子申請するときに添付ファイルとして送信することになる。その際には電子証明書でファイルに「署名」を付与しておく必要があるので、Adobe Acrobat DCなど、PDFファイルに電子署名を付与できるソフトを用意しよう。
Acrobat DCは7日間の体験版があり、体験版のままでも署名付与を問題なくできるので、この時点で慌ててライセンス購入する必要はない(が、後半の年金事務所への届出を電子でやろうとすると、時期的に体験版の期限が過ぎてしまうので、いずれにしても購入することになる可能性が高い)。署名付与の手順は下記の通りだ。
1. Acrobat用の署名プラグイン「Signed PDF」をダウンロード、インストールする
https://www.touki-kyoutaku-online.moj.go.jp/cautions/security/pdf_sign_inst.html
2. Acrobat DCの「編集」メニューから「環境設定」→「一般」を選択
3. 「署名」の設定画面の「作成と表示方法」の「詳細」ボタンをクリック
4. 「デフォルトの署名方法」のプルダウンから「SignedPDF」を選んで「OK」
5. 「編集」メニューから「環境設定」→「SignedPDF」を選択
6. 「証明書ストア」を選び、「パスワード変更」ボタンをクリック
7. 「初期化」を選んだ状態で任意のパスワードを入力し「OK」
8. 「証明書ストア管理ツール」ボタンをクリック
9. 右上の「追加」ボタンから、取得していた移転前住所の電子証明書を追加、インストールする
10. 議事録のPDFファイルを開き、「署名」ツールの「電子署名」ボタンをクリックして、書類の任意の場所をドラッグで選択
11. 表示されるダイアログに電子証明書のパスワードなどを入力し「OK」
12. 「はい」で署名を実行し、署名済みPDFファイルの出力先を選択して完了
13. 株主リストのPDFファイルも同様の手順で署名しておく
3. 必要書類と電子証明書を使って電子申請を行なう
いよいよ本題となる移転登記の電子申請である。署名したPDFファイルと電子証明書を手元に用意して、「登記・供託オンライン申請システム」(https://www.touki-kyoutaku-online.moj.go.jp/)の「申請用総合ソフト」を使い、電子申請する。まずは「申請用総合ソフト」を利用できるように、Webサイト上で「申請者情報登録」し、登録したID・パスワードでシステムにログインできるようにしておこう。
このシステム(アプリケーション)を使って移転登記の電子申請を行なうことになるが、あらかじめ注意しておきたいのが、移転することによって現在の会社住所を管轄している法務局(の支局・出張所)から別の法務局(の支局・出張所)に移る場合の「管轄外」と、そうでない場合の「管轄内」とで、手続きの内容が異なることだ。
たとえば、筆者の会社は移転前の住所が東京都千代田区であり、移転後の住所は東京都下となる。移転前の管轄は東京法務局だが、移転後は東京法務局の「●●支局」になるので、「管轄外」となる。千代田区内での移転なら「管轄内」だ。ちょっとややこしいのだけれど、同じ東京法務局であっても、支局・出張所が異なれば「管轄外」の扱いになる。法務局の管轄区域については法務局のWebサイトに掲載されているので確認しておきたい。
東京法務局 不動産登記/商業・法人登記の管轄区域一覧:東京法務局
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/kankatsu_index.html
管轄外と管轄内とで何が変わってくるのか。大きなところでは、管轄外になると「申請が1件増える」のと、すでに所有している社印の印鑑カードについて「再発行」が必要になること。申請が1件増えるというのは、現在の管轄の法務局への手続きに加えて、移転後の管轄の法務局への手続きも必要という意味だ。この手続き1件あたりの手数料が3万円だから、管轄外への移転には6万円かかることになる。
管轄外だと手間と費用が管轄内の倍かかるわけで、負担は大きい。できることなら管轄内に引っ越したいところだが、自宅が管轄外なのでどうしようもない。手数料を抑えるために自宅を引っ越すというのもおかしな話だろう。ちなみに印鑑カードは作り直しになるものの、これについては手数料なしで無料で行なえる。
そんなわけで、管轄外へ移転することを前提に「申請用総合ソフト」で電子申請するときの手順を紹介したい。……のだが、このあたりの詳しい手順については法務局が「操作手引き書」として用意している。なので、ここではその内容において特に注意すべきところだけ挙げておくことにしたい。
操作手引書のダウンロード | 登記・供託オンライン申請システム 登記ねっと 供託ねっと
https://www.touki-kyoutaku-online.moj.go.jp/download_manual.html#Soft
※「商業・法人登記」の「ダウンロード」ボタンからダウンロードできる「登記・供託オンライン申請システム 申請者操作手引書~商業・法人登記申請 申請用総合ソフト編~」のP.341以降を参照
現在の管轄の法務局に提出する申請で注意すべき点
・申請自体の署名には、移転前の電子証明書を使う
・添付ファイル(議事録と株主リスト)は必ず先ほどの手順で署名したPDFを選択する
・「印鑑届出の有無」は「無」を選ぶ
・「経由の有無」は「有」とし、「管轄登記所」は空欄にしておく
移転先の管轄の法務局に提出する申請で注意すべき点
・申請自体の署名には、移転前の電子証明書を使う
・添付ファイル(議事録と株主リスト)は必ず先ほどの手順で署名したPDFを選択する
・「印鑑届出の有無」は「有」を選ぶ
・「経由の有無」は「有」とし、「管轄登記所」は移転後の管轄の法務局を記入する
2件の申請内容を作成したら「申請データ送信」ボタンを押す。少し待てば「到達・受付待ち」のステータスになるはずだ。さらに右端の「納付」ボタンが有効になったら、そのボタンをクリックし、インターネットバンキングなどを利用して手数料を振り込む手続きを行なう。申請1件につき3万円ずつを納付しよう。今回は3万円×2だ。痛い。
納付が完了すれば「審査中」のステータスに切り替わる。あとは審査が終わるまで待つだけとなるが、記入漏れなどがあれば「補正」が必要になり、申請内容の修正が求められる。法務局から電話がかかってきて、具体的な修正の方法を教えてくれることもあるので、サクッと対応しよう。筆者の場合、実は最初の申請ではPDFに署名を施すのを忘れてしまっていたので、改めて署名済みPDFファイルを送信することで無事受け付けてもらえた。
なお、この申請に限らず、行政絡みの手続きにおいてアプリケーションやウェブで記入する際の英数文字は、どんな箇所でもすべて全角にするのがおすすめだ。半角文字はエラーになることが多く、場合によってはどこがエラーになっているのかわかりにくいケースもあるので、最初から全角だけにしておけば混乱は少ない。
4. 印鑑届出書を作成し、窓口に送付する
電子申請した後は、管轄外か管轄内かに関わらず「印鑑届出書」というものの提出が必要になる。電子申請による提出はできない。法務局のWebサイトにあるPDFの専用用紙をダウンロードし、印刷して、記入・押印したうえで、現在の管轄の法務局の窓口に持って行くか、郵送する。
商業・法人登記の申請書様式:法務局(用紙は「印鑑(改印)届書」のリンクからダウンロード)
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/COMMERCE_11-1.html
印鑑届出書を法務局に届ければ、手続きとしては一段落となる。あとは移転登記の処理が無事完了することを祈るだけだ。今回は管轄外への移転だったため、現在の東京法務局から移転先の支局への書類の郵送という手順も(法務局内部で)行なわれるようで、その分の時間が余計にかかる。今回は、印鑑届出書が受理されてから約1週間で完了する、という話を法務局の担当の方から教えていただいた。
流れを整理すると、1月5日に「申請用総合ソフト」で電子申請し、補正の作業を行ない、印鑑届出書が郵送で法務局に到着して受理してもらえたのが1月12日。1月19日が「移転登記の完了予定日」となったので、ちょうど2週間かかったことになる。
登記の内容が変更されたかどうかは、直接移転先の管轄の法務局に電話などで問い合わせるか、「申請用総合ソフト」などに機能として用意されている「法人番号検索」で自社を検索し、住所の情報が新しくなっているかどうかで判断できる。筆者は1月19日に法務局に電話し、問題なく移転登記が完了していることを確認できたので、さっそく次の手続きに移ることにした。
年金事務所への届出の前準備
移転登記は完了したわけだが、会社の移転手続きとしてはまだまだすべきことがある。その1つが社会保険関連の住所変更だ。これは年金事務所に対して行なうことになり、電子申請には先ほどの「申請用総合ソフト」ではなく、新たに「e-Gov電子申請アプリケーション」というものを利用する。
で、その手続きのためにはまたいくつかの準備が必要だ。移転後の住所が記載された「登記簿謄本」(履歴事項全部証明書)を取得し、再び「電子証明書」を発行するという作業である。
e-Gov電子申請アプリケーションで年金事務所へ届出するには、住所変更したことを証明する書類が必要で、その書類にやっぱり署名を施さなければならないためだ。最初のステップでも電子証明書を取得していたが、ここでは移転後の住所で電子証明書を新たに発行することになる。電子証明書は登記されている現在の住所と合致していなければならないため、移転登記が完了するまで新しい電子署名は発行できないのだ。
ところで本来、会社住所などに変更があったときに年金事務所に届け出るのは「変更(移転)後5日以内」とされている。この「変更後」というのが会社が物理的に引っ越したタイミング(総会で決議した移転日付)なのか、法務局が移転登記の申請を受け付けた日なのか、あるいは移転登記が完了した日付かは明確になっていない。
ただ、すでに説明してきたように、移転登記の申請は(電子でも紙でも)移転後でなければならず、電子申請の場合はどんなに頑張っても完了まで2週間はかかる。総会で決議した移転日付(電子申請の開始タイミング)から5日間では、とても間に合わない。法務局が申請を受理した日から5日間というのもかなり微妙な線だ。なので、「移転後5日以内」という文言を現実的に捉えるとすれば、移転登記の手続きが完全に終わった日から5日、と解すべきだろう。でなければ、e-Gov電子申請で会社の住所変更を受け付けている意味がない。
そのあたり念のため年金事務所に確認したところ、「法務局側での移転登記が完了した日から5日以内」という理解で正しいようだ。ただ、この「5日以内」に届け出なかったとしてもペナルティがあるわけではなく、あくまでも「移転後すみやかに届けるべし」という意味合いとのこと。いずれにしろ先延ばしにしてもいいことはないので、移転登記を終えたらさっさとやっつけてしまうべきだろう。
話を戻して、登記簿謄本の取得については、「登記・供託オンライン申請システム」で事前に発行申請をしておける。「申請用総合ソフト」を使ってもいいし、同システムのWebサイト版から申請することもできる。
どちらにしても登記簿謄本は窓口に取りに行かなければならない(または郵送してもらえる)ので、窓口で手続きしてもいいが、事前に電子申請した場合は移転登記と同様に手数料がオンラインでの納付となり、金額が480円となる。窓口で書類を記入して発行する場合は手数料が600円(郵送は500円)かかるので、わずかとはいえ経費を節約したいなら電子申請がおすすめだ。
ここでは、「登記・供託オンライン申請システム」のWebサイト版から登記簿謄本を発行申請する手順を紹介しよう。
登記簿謄本(履歴事項全部証明書)の発行申請手順
1. 「登記・供託オンライン申請システム」(https://www.touki-kyoutaku-online.moj.go.jp/index.html)にアクセスし、「かんたん証明書請求」から「申請用総合ソフト」と同じアカウントでログインする
2. 「証明書請求メニュー」ページの「登記事項証明書(商業・法人)」をクリック
3. 法人番号などから自分の会社を検索する
4. 管轄登記所(移転先の法務局)を指定し、請求する証明書の種類を選択する
5. 請求者(自分)の情報、受け取り方法などを入力
6. 請求内容を確認して「確定」
7. 申請を送信後、画面上部メニューの「処理状況照会」をクリック
8. 申請が「到達」してしばらくすると「納付」ボタンが表示される
9. 「納付」ボタンから電子納付手続きに進む
10. 納付額などを確認して「電子納付」を押す
11. 振込に利用する金融機関(インターネットバンキング)を選択
12. 窓口受け取りの場合の手数料「480円」を振り込む
13. 「処理状況照会」に戻り、「納付状況」が「納付済み」になったら法務局の窓口へ
電子証明書については、最初の方で説明した通り「商業登記電子認証ソフト」を使用する。移転後の住所を記入することだけ気を付ければ手順としては最初と全く同じだ。押印した書類と「SHINSEI」ファイルを保存したメディア、それと2,500円を握りしめて、改めて移転後住所管轄の法務局窓口へダッシュしよう。
年金事務所への住所変更の届出
登記簿謄本と電子証明書を無事手に入れたら、続いてe-Gov電子申請アプリケーションのアカウントを取得する。アカウントの取得自体はそう手間のかかるものでもないが、今後もさまざまな行政サービスをオンラインで利用することを想定して、筆者はe-Gov電子申請が連携している「GビズID」(https://gbiz-id.go.jp/)を取得し、これでログインできるようにした(純粋にe-Govアカウントを取得しても良い)。
GビズIDの発行には「gBizIDプライム」と「gBizIDエントリー」の2種類あるが、その場ですぐに発行される「gBizIDエントリー」で問題ない。e-Gov電子申請アプリケーションをダウンロードしたらGビズIDでe-Gov電子申請にログインし、年金事務所に対して会社住所変更の手続きをしよう。
と言いたいところなのだが、もう2つほど前準備がある。1つは登記簿謄本への電子署名だ。紙で取得しているのでいったんスキャナーでスキャンし、PDFファイルにしたうえで、株主総会議事録や株主リストのときと同じように電子証明書で署名を施しておく。当然、新しい移転後の電子証明書になるので、「SignedPDF」の設定画面で電子署名を入れ替えるのを忘れないようにしよう。
もう1つは、Webブラウザーに電子証明書を取り込むという作業。e-Gov電子申請はアプリケーションの体裁をとっているものの、実態としてはWebブラウザーだ。Webブラウザー上で扱える電子証明書は、あらかじめシステムに登録してあるものだけになっている。現時点ではまだ証明書ファイルをダウンロードしただけなので、そのファイルをダブルクリックしてシステムに登録しよう。
電子証明書をシステムに取り込む手順
1. 取得した電子証明書ファイルをダブルクリックする
2. 「インポートウィザード」では「現在のユーザー」を選んで「次へ」
3. 設定していた電子証明書のパスワードを入力
4.「証明書をすべて次のストアに配置する」を選び、「参照」ボタンをクリック
5.「個人」を選んで「OK」し、「次へ」で完了となる
以上の準備が終わったら、下記の手順で電子申請だ。
年金事務所への「e-Gov電子申請」を使った住所変更手続きの手順
1. 「e-Gov電子申請」(https://shinsei.e-gov.go.jp/)にアクセスし、「ログイン」ボタンからアプリケーションをダウンロードする
2.アプリケーションを起動してログインし、「手続検索」をクリック
3.「事業(所)の所在地又は名称等の変更」内にある「健康保険・厚生年金保険適用事業所所在地名称変更(訂正)届」を選択
4. 必要事項を入力する
5. 添付書類は「法人登記簿謄本」を選択、提出先は移転前の住所における管轄の年金事務所を指定する
6. 「書類を添付」ボタンから署名済みの登記簿謄本のPDFファイルを指定する
7.「内容を確認」ボタンを押すと証明書の選択画面に
8.「その他」から先ほどシステムに登録した電子証明書を選ぶ
9.内容を確認して問題なければ「提出」ボタンをクリック
10.その後は「e-Gov電子申請」のホーム画面で手続きの状況を確認できる
年金事務所での手続きには時間がかかる。まず1月19日に申請した後、2週間近く一切ステータスに変化がなかった。2月2日になってようやく動きがあり、千代田区の年金事務所から移転後住所管轄の年金事務所への「書類の転送が完了した」旨の通知を受け取ることができた。しかしそれから1カ月、ステータスは「審査中」のまま……。
一体どうなっているのか。もしかして正しく申請できていないのかと不安になって年金事務所に確認してみると、どうやらステータス変更は1カ月単位での処理になっているようで、2月下旬に電話で確認したときにはすでに住所変更の手続き自体は無事完了していたようだ。実際にe-Gov上でのステータスが変わるのは3月に入ってから、とのことで、ステータスに変化がなくても裏側ではきっちり進んでいる、と信じてよさそう。心配なら電話で確認するのがいいだろう。
できるなら移転登記なんかしたくない!
以上で会社の移転に関わる手続きはひと通り完了したことになる(役員以外の従業員のいる会社であれば労働保険関連の手続きなども必要になるが、それも「e-Gov電子申請」から行なえる)。が、これら電子申請とは関係ないところでも、会社の銀行口座、名刺、取引先に登録されている企業情報、ホームページ上に記載している会社概要、法人として契約しているクラウドサービスの登録情報、あるいはメールの署名、住所印などなど……もすべて更新しなければならない。
単に住所を変更するだけでも、法人の場合は何かと手間がかかる部分が多いし、登記の手続き以外にもわりと費用はかかる。できるなら本店移転なんかしたくなかったなあ、というのが正直なところだ。まあ、そのへんの手続きをやってくれる人も含めて、たくさんの従業員を抱えるような会社規模になれば、きっと自分の手間なんて気にすることもないのだろうけども……。