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テレワークにこそLTE? 「Surface Pro 7 +」の大きな“プラス”

Surface Pro 7 +

マイクロソフトはこの春、例年とは違うサイクルで新製品を発表した。それが「Surface Pro 7 +」と「Surface Hub 2S 85インチ」だ。ポイントは、どちらも法人・教育市場向けである、という点だ。

Surface Pro 7 +は、既存のSurface Pro 7と全く同じボディでありながら、性能を大幅に強化しているのが特徴だ。だが、前述のように法人・教育市場向けで、一般店頭には並ばない。

今回、異例のタイミングで「法人向け」に新モデルを投入したのには、どのような意図があったのだろうか?

米マイクロソフトのSurfaceマーケティング担当コーポレートバイスプレデジデント、マット・バーロゥ氏に話を聞いた。

Surfaceマーケティング担当コーポレートバイスプレデジデント、マット・バーロゥ氏

法人需要倍増、「同じ形でより高い性能」を提供へ

まず、Surface Pro 7+の概要をおさらいしておこう。

ハードウエアのサイズ・デザイン的には、2019年10月に発売された「Surface Pro 7」とまったく同じだ。だが、中身は大きく違う。

まず、プロセッサーが第10世代のインテルCore iシリーズから、「第11世代」へと変わった。第11世代はCPU性能・GPU性能ともに大幅に向上しているのが特徴。マイクロソフトは「Surface Pro 7に比べ性能が倍になっている」としている。

バッテリーの搭載量も増えた。その結果、バッテリー動作時間はカタログ表記で「最大10.5時間」から「15時間」へと伸びている。

「LTE搭載モデル」が登場したのも大きい。Surface Proとしては2018年の第五世代(実質的に2017年モデル)以来の採用となる。

「今回、法人のために特別なタイミングでSurface Pro 7 +を市場投入したのか、と聞かれれば、答えはイエスです」

バーロゥ氏はそう明確に答える。理由は、それだけ法人市場でのニーズが逼迫していたからだ。バーロゥ氏によれば、コロナ禍で法人向けのSurface事業の伸びは、前年同期比で「ほぼ倍に増えている」という。

バーロゥ氏(以下敬称略):法人顧客の声を聞き、Surface Pro 7 +を製品化しました。法人のお客様からは、「リモート勤務がより長期のものになるとわかった」という声をいただいてます。彼らはLTEでの接続を求め、さらなるパフォーマンスも求めていましたが、Surface Pro 7とまったく同じ形を求めてもいました。非常にニーズが具体的です。

形状を変えて欲しくなかった、というのは、法人ならではのニーズに基づく。キーボードやACアダプター、ポートリプリケーターのような直接的な周辺機器はもちろん、ケースや収納、社内での管理など、外的な要因も絡む。要は、社内標準として一度導入した機器に合わせた環境を変えたくない、ということだ。

コンシューマから見るとデザインの変更がないことはちょっと残念だが、企業から見れば事情が異なる。

ただでさえテレワーク・リモートワーク需要が増え、企業側がPCを導入する量も増えている。Surface Pro 7の発売から1年以上が経過し、新プラットフォームも出てきた。そこで、過去のモデルをそのまま追加生産し続けるよりも、企業のニーズにあわせてパフォーマンスなどを改善したモデルを用意した方がいいし、それだけ需要が逼迫した状況にある……ということだろう。

もう一つ、Surface Pro 7+には重要な点がある。ストレージが正式に着脱可能になった、という点だ。実は2019年モデルから、Surfaceは内部的に「取り外し可能なSSD」を採用していた。だがこれは「修理の際に使うもの」とされ、交換などを前提としていなかった。だが今回は、それを正式に認めた。

「機材を交換する際にも、ストレージをそのまま入れ替えて対応できるのがメリット」とバーロゥ氏はいう。

これは主に企業向けで、内部でサポート担当などがいることが前提、という部分もある。セキュリティ面でも、暗号化を含めた対応がデフォルトで行なわれていて、それを前提に使える企業が中心、という部分はあるだろう。

「自宅からの仕事」でも高まるLTE搭載のニーズ

もう一つ大きな変化が「LTE」だ。バーロゥ氏は、「今回特に、日本も含めた法人から要望が大きかったのがLTEの搭載だった」と話す。

テレワークになって通信が必要になるのはわかる。だが、テレワークの場合、通常は自宅からの接続なので、Wi-Fiなどのネット環境があるはず。持ち歩く機会は減っているのでLTEの必要性は減るのでは……と思いがちだ。

だが、実際にはそうではない。

バーロゥ:2つの側面があります。

1つ目は、安定的な通信を確保するためです。Wi-Fiの帯域が厳しい場合、別の通信手段が必要になります。

実はこれは、私が経験しています。

先日自宅からミーティングを行ないましたが、同時に妻はNetflixを見ていて、娘はXboxをプレイしていた(笑)。結果的にWi-Fiの帯域が足りなくなり、通信が安定しなくなりました。そこでLTEに切り替えることで難を逃れました。

二つ目はセキュリティです。LTEはとてもセキュアなネットワークであり、企業顧客からのニーズも多い。LTE内蔵のオプションを用意し、フレキシブルな選択ができることが、日本のお客様には重要と考えました。

これは確かにその通り。都市部のマンションでは、テレワークによってマンション内の共有回線の帯域が足りず、通信速度が遅くなるという現象も起きている。モバイルの回線だって帯域が潤沢なわけではないが、いざという時に迂回路を持つことは大切。筆者も急に回線の調子が悪くなってモバイルへ……という逃げ方をしたことはある。また、公衆IP網を通らず、LTEで直接企業のネットワークに接続するというニーズは確実にある。

PCへのLTE搭載は「モバイル中心の機器向け」という企業が多かった。だが、「持ち運びにも据え置きでも使える」PCであっても、LTEがあるに越したことはない。現状5Gは、コストや開発タイミングの面で時期尚早かもしれないが。

そしてもう一つ、アピールされたのが「マイクとカメラ」の性能だ。そもそもSurfaceはこの2つを以前から重視してきた。Surface Pro 7+は、スペックこそ前モデルから変化していないものの、リリースなどでは「ビデオ会議が快適にできる性能」のアピールが増えた。これも、今の状況を受けてのことだ。

バーロゥ:今ほど、人と人とをつなげるテクノロジーが重要な時期はありません。マイクロソフトとしてもつながりを生み出すテクノロジーにコミットしており、どこでも仕事と学びを生み出すことが重要と考えています。現状Windowでは、Surfaceほど最も優れたマイクとカメラを備えた製品はないと考えています。