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「本物の5G・低遅延」へ。AWSとKDDIが実現する「AWS Wavelength」
2020年12月24日 08:15
KDDIとアマゾン・ウェブサービス(AWS)は、12月16日よりエッジ型クラウドサービス「AWS Wavelength」を東京エリアでスタートした。
AWS Wavelengthは、5Gにおける「低遅延でのサービス」を実現するために重要なプラットフォームであり、産業的な価値も大きい。一方で、その価値が見えづらいところがあるのも事実だ。今回はAWS本社・日本法人、そしてKDDIの3者に、その価値と狙いを聞いた。
「5Gの低遅延」を本当に実現するには
Wavelengthとはどういうサービスなのか? ちょうど1年前、同サービスが、AWSの年次イベント「re:invent 2019」の基調講演で発表された時、アンディ・ジャシーCEOが語った言葉を引用するのがわかりやすいだろう。
5Gで実現されると言われていることについて、人々は『それは本当に実現するのだろうか?』と懐疑心を持ち始めている。事実、そこには多くの誤解や間違った知識への誘導がある。だからこそ、我々は、ほんとうの5Gを実現していきたいと考えている
ここでいう「5Gで実現しそうでなかなか難しいこと」とは、低遅延のことだ。
5Gは最新の無線通信技術を使い、高速でより多くの人が同時に使えて、通信に対する反応が速い(すなわち遅延が短い)状況を作る……と言われている。特に遅延については、自動運転や遠隔地医療など、多くの可能性がある。
だが、5Gのサービスが始まってみると、これらはなかなか実現できていない。理由はシンプル。5Gのこれらの特性は「無線部」だけのことで、インターネット部を含めると話は違うのだ。
例えば、アメリカにあるサーバーまでデータが届くには、だいたい百数十ミリ秒かかる。5Gの無線部は数ミリ秒まで遅延が短くなっているが、アメリカのサーバーへアクセスしに行った段階で、もう遅延は一定量、必ず発生する。
ならどうすればいいのか?
遠くでなく、基地局の近く、都市レベルの距離にサーバー群を置けばいいのだ。携帯電話事業者と連携し、携帯電話事業者のネットワーク内にサーバーをおけば遅延は最低限に抑えられる。
この考え方を「モバイルエッジ・コンピューティング(MEC)」などと呼ぶ。AWS Wavelengthは、AWSの提供するクラウドインフラのうち、いくつかをMECとして提供することだ。
AWSはクラウドインフラの巨人であり、AWSで動作することを前提に作られたアプリケーションは、サービスがAWS Wavelengthに対応していれば、さほど手間なくMEC対応し、低遅延なサービスを実現できる。
この辺については、昨年、「re:invent 2019」を取材した際に記事にしている。
アメリカで実証されたWavelengthの価値とは
AWS Wavelengthは、昨年末の段階では、米Verizonと提携し、シカゴで実験を行なっている段階だった。だが、1年が経過する間に、アメリカではいくつかの都市でのサービスが始まり、ついにその流れは日本にやってきた。
米AWS・EC2 コアプロダクトディレクター/ゼネラルマネージャーのGeorge Elissaios氏は、1年の変化について次のように説明する。
Elissaios:1年の間、我々はVerizonと共同で開発にあたりました。8月には本格的な稼働を開始し、現在はベイエリア、ボストンに加えて、アトランタ、ニューヨーク、ワシントン、ワシントンDC、ダラス、マイアミ、ラスベガスと、8つのゾーンでサービスを提供済みです。そして、日本ではKDDIとパートナーシップを組んで、東京でサービスを開始します
では具体的に何ができているのか? それは、Verizonが公開している動画を見るのがわかりやすい。特にわかりやすいのが、スポーツと製造、映像への応用事例だろう。
映像認識にはある程度のマシンパワーを必要とし、そこでクラウドが使われることが多いが、それをMECにすることで低遅延化する、という使い方が多い。
Elissaios:例えばソニーは、アメリカでは、高解像度かつ超低遅延なビデオライブビデオストリーミングと、忠実度の高いオーディオ配信システムを構築しています。
いくつも有用な例はありますが、個人的に面白いと思っているのがVRでの利用です。今はローカルで処理する量が多いので、重いヘッドセットを付けなければいけませんが、MECを使えば処理系をクラウドに移行し、ヘッドセットを軽いものにできます。遅延が重要なので、こういう使い方はWavelengthが有用です。物理的に近い距離であることが重要で、ネットワークのホップ数が少ない必要があるのです。つまり、遅延が数十ミリ秒から数百ミリ秒だったものが、数十ミリ秒から数十ミリ秒以下になることもある、ということです。
「実証例」拡大のためにKDDIとパートナーシップ
KDDIはAWS Wavelengthに、初期パートナーの一つとして取り組んできた。AWSとの関係を選んだ理由はなんだったのだろうか? KDDI・ソリューション事業本部 サービス企画開発本部 副本部長で執行役員の丸田徹氏は、経緯を次のように説明する。
丸田:もともと5Gをやるなら、MECとスライシング(ネットワークの仮想化と分割)をやらなければいけない、とは思っていました。
そこで、プライベートなMECとパブリックな(オープンにサービスしている外部事業者を活用した)MECが必要になるわけです。そのため、弊社からAWSにアプローチした、という形です。2019年の夏くらいですかね。Verizonの事例とどちらが先かはわかりませんが、とにかく一緒に進めよう、ということになりました。
AWSジャパン・技術統括本部長で執行役員の岡嵜禎氏は、次のように語る。
岡嵜:AWSとしてはサービスを大きくスケールさせたいと思っていました。そこで、Verizonだけでなくワールドワイドにパートナーを求めていた。そこで、信頼性も含めてKDDIと一緒にやることを選んだ、ということです。もともとMECのような領域では、一緒にユースケースを作っていくことも重要です。
丸田:結局、事例とサービスは両輪ですから。MECは必要、というのは普通の発想です。しかし、「どう使うか」は試行錯誤が発生します。そこで、先にお客様も巻き込んだ形で事例を作っていくことを、最初の時点からさせていただいたほうがいいだろう、ということです。
ではどのくらい低遅延になるのか?
AWSとKDDIが組んで行なった実証実験では、「数値は公開していないが、4Gが5Gになることで、遅延が約半分になっている」(丸田氏)という。数値公開がないのは、無線やインターネットを使っており、確定的にはいえない性質があるからだ。だが、大雑把に言って、「5G+Wavelengthなら悪くても数十ミリ秒以内に収まる」と期待して良さそうだ。
実は、Wavelenghのサーバーは東京エリアのKDDIのインフラに置かれている。その結果、5Gからも4Gからもアクセスできる。4Gと5Gを見分けてサービスを止めることも「できるだろうが今はしてない」状況だ。「遅延は半分」というのは、そのレベルでの話だ。すなわち、ネットワークの向こうにあるサーバーへのアクセスであれば、もっと差が生まれる。
利用パートナーや地域は顧客次第。今はローンチパートナー重視
ただし、Wavelengthのような技術が活用されるには、日本の多くの地域でサポートされる必要がある。今はまだ「東京で使える」段階であり、次には「大阪」でのサポートが予定されている。ただ、どのくらいの規模の都市に、どのくらいの量を展開すべきかも、今はまだ検討中。現在は、産業からエンターテインメントまで多くの顧客が、KDDI+AWSのWavelengthをテスト中だという。
丸田:正直、今は「まず東京で開きました」というのが現状です。しかし、一カ所提供を開始すると技術的ノウハウの蓄積は大きく変わりますし、実際に使ってみると、お客様も「なるほど、こういうことか」と理解が進みます。
岡嵜:今は、意外とゲームなどのエンターテインメントでの利用について興味を持っている人々も多いです。やはり、サーバーに行って、帰るまでの時間が短くなりますから。ゲームだけでなく、ライブエンターテイメントへのニーズは大きいですね。
丸田:どこで使えるのか、という課題はあるのですが、弊社は「バーチャル渋谷」やスタジアムトライアルなどもやっています。コンシューマ向けの用途はやはり、世の中での関心が大きい。コンシューマ向けサービスとしては、限定した地域だけで使えるようなものを……ということも考えています。
なお、この仕組みの場合、AWS Wavelenghを使った遅延の低減は、「KDDIを回線に使っている顧客」だけがメリットを受ける。
AWSとしては、必ずしも「KDDIだけに日本のパートナーを限っているわけでない」としつつ、次のようにコメントしている。
岡嵜:あくまで「お客様のにニーズに合わせて」と考えていますので、(他キャリアについては)今後のニーズを見て、ということになると思います。
Elissaios:どのパートナーで使いたいかということについて、お客様からのフィードバックを得ています。もしお客様が地域拡大やネットワーク拡大を求めるなら、非常に真剣にそのすべてを検討しています。
私たちはオープンにしていますし、世界中のプロバイダーと話をしています。しかし、私たちは今は、ローンチパートナーに焦点をあてています。