中小店舗のキャッシュレス対応

第19回

キャッシュレス化から2年半、決済を“お客様操作”に本格刷新

筆者の家族が経営する店、「紀の善」で、キャッシュレス決済を導入しておよそ2年半が経過しました。導入後の動向については本連載で紹介してきたとおりですが、現在に至るまで、ひとつ懸案がありました。それは、キャッシュレス決済時のオペレーションです。

そして、あるきっかけからキャッシュレス決済オペレーションを大きく見直すことになりました。今回はそちらについて紹介したいと思います。

きっかけはキャッシュレス決済端末の破損

紀の善でキャッシュレス決済を導入したのは2019年3月でした。きっかけは、2019年10月1日の消費増税と、それに合わせて実施された「キャッシュレス・消費者還元事業」で、それらの実施を見据えてレジシステムの入れ替えと合わせてキャッシュレス決済を導入することにしたのでした。

導入したのは、リクルートライフスタイルのmPOS「Airレジ」と、同社のキャッシュレス決済代行サービス「Airペイ」および「AirペイQR」でした。選択理由は、キャッシュレス決済を含めたレジオペレーションや会計処理の手間軽減です。

AirレジはAirペイやAirペイQRと連携して会計処理ができますし、AirペイQRはQRコードリーダーを利用してお客様のスマートフォンに表示されるバーコードを読み取って会計できるというように、スーパーやコンビニなどの本格的なPOSレジに近い利便性が実現できます。こういった点については、これまでの連載で紹介してきたとおりですが、導入以降細かなトラブルはありつつも、レジオペレーションや会計処理の手間軽減という部分についてはおおむね満足できています。

ただ、キャッシュレス決済のオペレーションについて、導入からずっと悩んでいる部分がありました。それは、決済端末の扱いです。

紀の善でキャッシュレス決済を導入した当時(といってもわずか2年半ほど前ですが)は、海外のように決済端末をお客様側に設置して、クレジットカード決済時の操作をお客様が行なうというオペレーションはまだ主流ではありませんでした。

また、Airペイの決済端末は英国Miura Systemsの「M010」という小型ワイヤレス決済端末で、カウンターなどに固定して設置するにはあまり向いていません。あわせて、その当時は電力供給用のUSBケーブルを接続したままでは一部電子マネーで決済がうまくいかないという問題があり(現在は解消されています)、決済時にはUSBケーブルを外す必要がありました。

そのため、まずは決済端末にワイヤレス充電アダプタを装着してUSBケーブル着脱の手間をなくしました。そして、電子マネーを利用するお客様には決済端末を差し出してタッチしていただき、クレジットカードについてはレジ係員がお客様からカードを受け取って決済端末に装着し、その後決済端末をお客様に手渡してPINを入力していただくか、タブレットにサインしていただいていました。

決済端末に非接触充電アダプタを取り付けて、ケーブルレスで利用できるようにしていた
クレジットカード決済では、お客様からカードを受け取って決済端末に装着し、その後決済端末を手渡ししてPINを入力してもらう形で決済していた

ただ、そういった中、ある事件が発生しました。それは、お客様が誤って決済端末を床に落としてしまったことで、決済端末が破損してしまい、決済が全く通らなくなったのです。

その時は、もう1台ある決済端末でなんとか凌ぎましたが、破損した決済端末は費用店舗負担で交換しなければなりません。お客様が誤って決済端末を落としてしまうことは結構頻繁にありますので、決済端末を新しくしたとしても、今後再び破損してしまう可能性も十分考えられます。そのため、できればこういったトラブルはなるべく避けるようにしたいと考えました。

あわせて、皆さんもご存じのとおり、新型コロナウイルス感染拡大以降、国内でもクレジットカード決済のオペレーションが大きく変わりました。スーパーやコンビニエンスストアなど多くの店舗が、店員と客との接触を減らすために、決済端末を客側に設置して、クレジットカード決済時の決済端末へのカード装着からPIN入力などの作業を全て客にやってもらうというオペレーションを採用しました。そのため、来店するお客様も自分で決済端末にクレジットカードを装着する決済手順に慣れてきていると考えました。

というわけで、紀の善でもレジ前のカウンターに決済端末を固定して設置し、クレジットカード決済時のカード挿入などの操作を全てお客様にやっていただくオペレーションを採用することにしたのです。

お客様が誤って床に落としてしまい、決済端末が故障。それをきっかけに、決済オペレーションを変更することにした

専用スタンドを購入し、決済端末をカウンターに固定

決済端末を固定して設置するには、クレードルなどの固定用グッズが必要となります。Miura SystemsはM010専用のクレードルをオプションとして用意してはいるのですが、残念ながら日本では売っているところを見つけられませんでした。

そういった中、プリンターメーカーのスター精密が、レシートプリンター「mC-Print2」用の周辺機器として、M010用のスタンド「mC-Stand」を販売していることがわかりました。こちらは、mC-Print2の上部に設置して利用することを想定した製品ではありますが、カウンターに設置して利用しても大きな問題はないだろう、と考えてこちらを選択しました。

決済端末をカウンターに固定するため、スター精密が発売している、M010用スタンド「mC-Stand」を用意した

このスタンドは、M010を固定して設置しても扱いやすいような工夫が随所に盛り込まれています。

まず、M010を斜めに装着するブラケットが上部に用意されていて、M010を固定できますが、このブラケット部は180度回転する構造で、お客様と店員が対面で操作する場合でも、どちら側からでも操作しやすいように工夫されています。

また、M010のテンキーを目隠しする開閉型のカバーも装着されています。カバーを開くとテンキーが目隠しされ、カバーを閉じると電子マネーなどをタッチする場合でも邪魔になりません。あわせて、M010に給電用のUSBケーブルを装着した状態でも邪魔にならないように、ケーブルをスタンド内部に通して後部に引き出せるようになっています。

こういった細かい工夫は、さすが日本メーカーらしいと感じます。

このように、上部ブラケットにM010を固定して設置できる。また、テンキーの目隠しカバーも装着できるようになっている
目隠しカバーを閉じると、電子マネーなどをタッチする場合でも邪魔にならない

紀の善では、M010をmC-Standに固定して、レジ前カウンターに固定することにしました。その場所には、これまでは合計金額などを表示するカスタマーディスプレイ用のスマートフォンを設置していましたが、そのスマートフォンをレシートプリンター上に移動させて設置場所を確保しました。

実際に設置してみても、思っていたほどカウンターがごちゃごちゃすることもなく、スッキリ設置できたという印象です。

これまでの運用スタイル。レシートプリンター上に決済端末を起き、その前にカスタマーディスプレイ用のスマートフォンを設置していた
新しい運用スタイル。レシートプリンター上にカスタマーディスプレイ用スマートフォンを設置して、その前のカウンターにM010を固定したmC-Standを設置した

トラブルはあるものの、運用はまずまず順調

このスタンドを利用した運用を始めたのは、7月中旬でした。当初はいろいろとトラブルもあるだろうと覚悟していたのですが、運用を始めてみると、思ったほど深刻なトラブルは発生しませんでした。このあたりは、スーパーやコンビニなどで同様の運用が広がっており、自分でクレジットカードを装着することに慣れているお客様が増えていることが大きいでしょう。

ただ、トラブルが全くなかったかというと、そうではありません。最も多く発生しているトラブルが、お客様がカードを抜き差しするタイミングによるものです。

M010でクレジットカード決済を行なう場合、端末側でクジレットカードの受け付けが可能になってからクレジットカードを挿入しないとエラーとなってしまうのですが、受け付け可能となる前にカードを挿入するお客様が少なからずいらっしゃいます。同様に、PIN入力後に決済処理が完了する前にカードを抜いてしまうお客様もいらっしゃいます。そういった場合、エラーをクリアして再度はじめから処理をやり直す必要があります。

これは、カードを受け取って処理を行なっていた場合には発生しなかったトラブルで、レジオペレーションの時間が長引く要因となっています。

ただ、このトラブルも、レジ担当の店員がクレジットカード抜き差しのタイミングをお客様にお声がけすることで減らせています。中にはこれまで同様に、クレジットカードを手渡してくるお客様もいらっしゃいますが、そういったお客様にも、自分でカードを装着するようにお願いすると、それほど戸惑うことなくカードを装着して決済できています。そういった意味で、おおむね大きなトラブルなく運用できていると言えます。

クレジットカードのNFCタッチ決済の認知はまだまだ

決済端末の運用方法を変更して3カ月ほど経過しましたが、その間に感じたことは、クレジットカードのNFCタッチ決済の認知度がまだまだ低い、というものです。

せっかく使っているクレジットカードがNFCタッチ決済に対応しているのに、タッチせず決済しようとするお客様が多くいらっしゃいます。NFCタッチ決済では、決済金額が1万円以下ならPIN入力やサイン不要ですし、なによりカードを決済端末にタッチするだけで決済できますので、お客様にとって非常に利便性が高い決済方法です。また、PIN入力やサイン不要ということで決済オペレーションの時間短縮になりますので、店側にとってもありがたいのです。

そこで、もっとNFCタッチ決済を利用してもらえるように、決済端末横に、NFCタッチ決済の利用を促すカードを作って貼り出しました。また、クレジットカードブランドが用意しているNFCタッチ決済をアピールするシールなども貼りました。合わせて、お客様が取り出したクレジットカードにNFCタッチ決済対応を示すリップルマークが見えると、タッチで決済するようにお声がけするようにもしています。

決済端末横に、NFCタッチ決済をアピールするカードを作って貼り出し
VisaやAMEXが提供しているタッチ決済対応を示すシールも貼り出した

以前と比べて、「クレジットカードのタッチ決済で」と言って決済を行おうとするお客様が増えているのは事実です。オリンピック期間中に、Visaがタッチ決済のCMを流していましたので、それを見て認識された人もいらっしゃるでしょう。また、アメリカン・エキスプレスも積極的にNFCタッチ決済をアピールしています。そういったアピールの効果もあって、少しずつではありますが、NFCタッチ決済の認知度が高まっているのは間違いないと思います。

とはいえ、店頭での決済の様子を見る限り、NFCタッチ決済についてきちんと認知できている人はまだまだ少数派となっているのも事実です。そのため、クレジット業界をあげてもっとNFCタッチ決済の利便性をアピールするなどして、認知度を高めてもらいたいと思います。

平澤 寿康