中小店舗のキャッシュレス対応
第14回
現金・カード・QR・NFCタッチ 決済が一番早いのはどれ? お店のデータで検証
2020年10月15日 08:20
前回は、筆者の家族が経営する店「紀の善」での、クレジットカードのNFCタッチ決済対応について紹介しました。その中で、クレジットカードのICとNFCタッチ決済でどの程度決済にかかる時間が変わるかを紹介しましたが、今回はその他の手段の決済時間も計測して、決済手段による決済時間の違いについて紹介しようと思います。
レジ操作やレシート印刷なども含めた決済オペレーションの時間を計測
一般的に、キャッシュレス決済を導入すると決済にかかる時間を短縮できる、と言われています。実際に、多くのキャッシュレス決済代行業者が、スピーディーな決済が行なえるということを大きなメリットとして紹介していますし、多くの人が漠然とそのように思っているかもしれません。
確かに、現金決済のように、財布から現金を取り出して店員に渡し、店員がその金額をレジに入力してキャッシュドロワーからお釣りを取り出してレシートとともにお釣りを渡す、という一連の動作はかなり時間がかかるように見えます。それに対し電子マネーは、カードリーダーにカードやスマートフォンをタッチするだけで決済が完了するので、スピーディーに決済が行なえるように感じます。
純粋な決済にかかる時間は、現金よりもキャッシュレス決済のほうが短いのは間違いないでしょう。しかし、キャッシュレス決済でもクレジットカード決済については、決済時に暗証番号の入力やサインを行なう場合もあるので、そういった作業の時間を加えると、もう少し時間がかかることになります。また、お客様によっては、カードやスマートフォンを取り出すのに手間取ることもあります。
そして、レジオペレーション全体で考えると、レジへの入力やレシートの印刷などにも時間がかかります。ですので、純粋な決済時間だけを比較してもあまり意味はありません。店にとっては、1組のお客様のレジ対応にどれだけの時間がかかるのか、という点が最も重要なのです。
というわけで、今回の決済オペレーション時間の計測は、Airレジで商品を入力して「支払いへ進む」ボタンを押した時点から、決済を行なってレシートが印刷され、そのレシートをお客様にお渡しするまでの時間を計測しました。レジへの商品入力も計測に入れるべきか悩んだところですが、お客様によって飲食や購買の内容は異なりますので、そこは省くことにしました。
計測は以下の5種類に分類して行ないました。
- 現金決済
- クレジットカードのIC/サイン決済
- クレジットカードのNFCタッチ決済
- 交通系、iD、QUICPayを含めた電子マネー決済
- コード決済
また、結果が恣意的なものとならないように、それぞれ10月11日開店後の連続する20例についての時間を計測しています。なお、クレジットカードのNFCタッチ決済は10月11日だけで20例いかなかったので、10月7日までさかのぼりつつ連続する20例を計測しています。
最も時間がかかったのはクレジットカードのIC/サイン決済
計測結果は、下のグラフに示したとおりです。この結果は、各決済手段について20回計測した平均となります。
まず、最も時間が短かったのは電子マネーの約26秒でした。続いてクレジットカードのNFCタッチ決済とコード決済がいずれも約28秒で、現金決済は約29秒でした。これら4種類は、差があるとはいっても3秒差の中にひしめいていますので、ほぼ同じぐらいのオペレーション時間と考えていいでしょう。
現金決済がそれほど遅くないという結果には、実はそれほど驚きはありませんでした。紀の善の場合、キャッシュレス決済比率が比較的高いとは言っても、6割以上はまだ現金決済ですから、レジ担当の店員も現金決済のオペレーションに最も習熟しています。お釣りも比較的素早く取り出してお渡しできていますので、そこまで遅くはないだろうと思っていました。しかし、予想以上に電子マネーに近い結果が出ました。
そして、最も時間がかかったのがクレジットカードのIC/サイン決済でした。それも、約45秒と突出して時間がかかっていました。確かに、クレジットカードのIC/サイン決済は暗証番号の入力やサインが必要になるため比較的時間がかかるという印象でしたが、ここまで遅いというのは想定外でした。暗証番号やサインの入力にかかる時間はかなり大きいと、改めて思い知らされました。
そういった意味では、同じクレジットカード決済でもNFCタッチ決済は電子マネーとほぼ同じ時間なので、前回の記事で紹介したとおり、NFCタッチ決済は決済オペレーション時間の短縮に大いに役立つと言えます。
各手段で決済にかかった時間の最長と最短もチェック
さて、決済にかかる時間の平均は紹介した通りですが、実際の計測時間を見てみると、それぞれにかなり幅があります。そこで、それぞれの計測時間の最長と最短もチェックしてみました。下のグラフがその結果です。
この結果を見ると一目瞭然ですが、現金決済では最短が約12秒と全ての決済手段の中で最も短かったのに対し、最長は約83秒と、突出して長くなっています。他の決済手段も最長と最短で結構な差がありますが、それでも20秒そこそこの違いでしかありません。現金決済の1分以上もの差は、なんともびっくりです。
現金決済でこのように大きな時間差がある理由については、おそらく多くの方がピンとくるはずです。
はじめから必要な現金を手にしてレジに来られるお客様もいれば、レジで支払い金額がわかってから財布を取り出すお客様もいます。また、小銭を探して取り出すために時間がかかるお客様もいます。加えて現金決済では、お釣りをお渡しする必要がありますので、レジ担当の店員がお釣りを取り出してお渡しするところでも時間もかかってしまいます。そういったことで現金決済では時間の幅が大きくなってしまうわけです。
実際、今回の計測で最も時間がかかったお客様は、多くの小銭を数えて取り出すのにかなり時間がかかっていました。
その他の決済手段でも、カードやスマートフォンを取り出すタイミングの差で時間差がありますが、現金のように小銭を数えたりお釣りをお渡しすることがないため、最長と最短で現金ほど大きな差が出なかったわけです。これも当然の結果と言っていいでしょう。とはいえ、現金決済の平均の決済オペレーション時間は電子マネーなどと大きく変わるものではありませんので、この長い例や短い例は非常に希なものと言っていいでしょう。
また、現金以外で最長と最短の差が比較的大きかったのが、クレジットカードのIC/サイン決済とコード決済です。こちらは、お客様が暗証番号の入力やサイン入力に手間取ったり、スマートフォンのコード画面の表示に手間取ったり、といったことが理由です。
差が最も短かった電子マネーについては、普段からお客様がよく使われていて慣れていることが大きいと思います。電子マネーを使われるお客様を見ていても、カードやスマートフォンを取り出すタイミングに差はあっても、その先では差はほとんどありません。
そして、クレジットカードのNFCタッチ決済ですが、こちらは電子マネーよりもわずかに差が大きくなっています。これはレジ担当の店員がまだ慣れていないため、時間がかかっていることが多いようです。今後慣れてくれば、電子マネー同様に差は縮まっていくと考えます。
キャッシュレス決済はレジオペレーションの時短には繋がらない
念のため、純粋な決済時間もチェックしてみました。そちらの結果は下のグラフのとおりです。現金決済は、その手順から平均時間そのものとなっています。
これを見ると一目瞭然ですが、電子マネーやクレジットカードのNFCタッチ決済、コード決済の実際の決済にかかる時間の短さは際立っています。にもかかわらず、決済オペレーション時間の平均は現金決済とほぼ変わりません。ただ、これも理由があります。
クレジットカードや電子マネー、コード決済の場合は、実際の決済を行なうまでの前処理の時間(決済端末が待受になるまでの時間など)がかかるのと、決済処理が終わった後にレシートの印刷が行われるために、やや待ち時間が多くなるのです。さらに紀の善では、クレジットカードと電子マネーについては明細とレシートの2枚を印刷していますので、その点でも余計に時間がかかってしまいます。
このように、クレジットカードや電子マネー、コード決済の実際の決済時間がいくら短くても、各種処理待ちが発生するために、トータルのオペレーション時間の短縮には繋がらないわけです。こう考えると、決済代行業者がキャッシュレス決済はスピーディー、と説明しているのはちょっと違うのでは、と思ってしまいます。
今回はAirレジ・Airペイの組み合わせでの検証ですので、他の決済代行業者のシステムでは同じとは限らないでしょう。ただ、基本的には同じような決済オペレーションの流れになるでしょうから、キャッシュレス決済がレジオペレーションの大幅な時短にはつながらないと考えていいでしょう。
とはいえ、キャッシュレス決済にはその他に多くのメリットがありますので、オペレーション時間が短くならないとしても利用を進めるべきと考えます。合わせて、現状時間のかかっているクレジットカード決済を素早くすませられるように、NFCタッチ決済のクレジットカードを早急に普及させてもらいたいと思います。