鈴木淳也のPay Attention
第27回
RFID、ついにくる? 世界最大の小売展示会「NRF 2020」でみた一大潮流
2020年1月17日 16:44
全米小売協会(NRF)主催のリテールや流通業界を対象とした展示会「NRF 2020 Retail's Big Show」が今年も米ニューヨークで1月11日から14日までの4日間の会期で開催された(展示会場は3日間)。昨年主催者側のプッシュもあり「Amazon Go」型の無人店舗に関する技術展示が多く見受けられ、会場入り口にはAiFiというスタートアップ企業の専用の展示コーナーで、実際に体験も可能になっていた。なお、このAiFiは最近になり米カリフォルニア州キャンベルのガソリンスタンド併設のコンビニとしてリアル店舗がオープンしており、2020年には同種の店舗がさらに増えそうな予感がある。
今年はこうした目立つ“推し”のようなテーマはなかったものの、今後2-3年先のトレンドを占うような技術展示がいくつか見受けられた。今回はそのうちの1つを紹介したい。
RFIDはそろそろブレイクするかもしれない
RFIDは無線での遠距離スキャンが可能な仕組みで、これを流通インフラに載る個々の商品に“タグ”として貼付しておくことで、その動きを逐次追跡可能としたものだ。
タグはたとえ物陰にあってもスキャナーを通して把握できるため、例えば商品が大量に詰め込まれたパレットで輸送されてきたとしても、パレットごとスキャンすれば全商品の読み取りが可能だし、いちど小売店舗のバックヤードや商品棚に陳列された状態にあっても、やはり全体をスキャンすることで商品の棚卸しが容易になる。会計時にはまとめてスキャンするため、個々にバーコードなどで商品を読み取る必要はない。
しかもバーコードとは異なり、ロット単位ではなく商品個別にユニークな“変更不可能な”識別番号を埋め込めるため、いわゆる完全な「トレーサビリティ」が実現できる。
このように省力化やトレーサビリティではメリットだらけに思えるRFIDだが、現時点でいくつか致命的な欠点が存在する。その最たるものが「タグのコスト」であり、現状で単価が十数円から数十円、安いものでも数円程度とされている。発注のロット数にも依存するが、十数円程度が単価の分岐点にあると考えられる。しかも、商品によっては貼付にコストがかかり(場合によっては人力で作業する)、流通の早めの段階で載せる場合にはメーカーがそのコストを負担する構図になるなど、どこかにしわ寄せがいくことが問題とされる。
ゆえに「便利になることはわかっているが……」ということで、ブレイクしそうでブレイクしない足踏み状態が長く続いていた。
この鶏と卵論争に終止符を打つべく、政府自らが乗り出してRFID普及に乗り出したのが日本だ。経済産業省は2018年春に「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」の名称で2025年までにコンビニを中心とした流通インフラにRFIDを載せ、文字通りタグを量産することでコストを押し下げる試みを発表している。
現在は問題の洗い出しを行なっている段階だが、いろいろ関係者に取材していると評価はまちまちであり、「できる」「できない」の意見が混在している。
こうした経緯もあるのか、NRFにおけるRFID関連の展示も以前から日本メーカーが中心であり、それ以外でこの技術に触れていたのは流通向けソリューションを持つZebraくらいだった。
だが、今年のNRFではかなり踏み込んだ展示が増えており、過去のNRFでは最も気合いの入った展示だったといえる内容になっている。
まずはRFID関連の小売店向け展示では常連の富士通からだ。
会計処理を簡略化するRFID
今回富士通ブースで目立ったのはウォークスルーゲートだ。
まずゲート入り口にある“手のひら認証”の「PalmSecure」を使って本人認証を行ない、RFIDタグの付いた商品を持った状態でゲートを通過するだけだ。商品はバッグなどに入れた状態でも問題ない。通過中にゲートでRFIDタグのスキャンが行なわれ、PalmSecureに結びついた決済情報で自動的に支払いまでが完了する。途中で立ち止まる動作もなく、1秒未満で会計まで含めて処理が行なわれる。
PalmSecureを利用する場合は事前登録が必要だが、そうでない利用者の場合はゲート出口付近にある決済端末を用いることになる。スキャン自体はゲート通過中に行なわれるので、後は支払いだけだ。富士通によれば、アパレルからコンビニまで、さまざまな用途での応用が可能だという。
同社では通常の小売店舗向けだけでなく、同じ商品が何度もやり取りされるレンタル衣装用途などでのRFIDタグ活用も進めている。例えば、タグを細長くして衣装に組み込むだけでなく、特殊加工を施してクリーニング時の薬剤耐性をつけたり、あるいはゴム皮膜をつけることで通常の100回から最大200回程度までリサイクル利用を可能にしたりと、用途に応じたタグを複数種類用意している。
同様に、NECでも富士通のような自動決済ゲート展示が行なわれていた。ゲート距離が短いせいかスキャンのためにいったん中で停止する必要があったが、仕組み的には似ている。
本人認証はQRコードのようなものを用い、これが決済情報やロイヤリティカードの情報を兼ねている。NECのNRFにおける展示は監視カメラの顔認証や物体認識技術が中心であり、RFIDタグを出してくるのは非常に珍しい。その意味で、「RFIDの波がやってきた」という印象を抱いた。
NECだけでなく、NCRもまたRFIDレジの展示を行なっていた。まだ技術展示に近いものだが、他の「画像認識レジ」「挙動を監視してエラーを発見するセルフレジ」といった技術展示群と合わせて紹介されており、自分の知る範囲としてはNCRとして初の小売向けRFIDソリューションだ。
NRFは小売向け展示会ではあるが、メインフロアでPOSレジやセルフレジを展示する主要メーカーの数はそれほど多くなく、東芝を除いてその多くがRFIDの話題に触れた点でインパクトがあると考えている。これは顧客となる小売各社も興味を持ち始めていることを意味しており、そう遠くないタイミングでより広範囲での導入が進むのではないかと予想する。
流通を改善するRFID
小売向けRFIDソリューションが珍しいNRFだが、流通向けでは以前よりRFID関連展示があったと記憶している。典型的なのがデンソーウェーブとZebraで、両社は流通や小売向けのRFIDスキャナの展示を以前から行なっており、流通倉庫での出入庫や小売店での棚卸しに使えるハンディスキャナを製品として紹介し、そのメリットを訴えている。
特にZebraでは、「SmartLens for Retail Gen II」の名称でRFIDタグと人などの移動状況を同時に記録するリアルタイムモニタリング技術を紹介している。
RFIDスキャナと監視カメラの組み合わせでフロアのある程度の広さを把握でき、盗難などでの商品ロスやモノの移動による配置のミスマッチ、さらには人の動線把握まで、業務改善に役立つ仕組みが複数含まれている。設置型なので、わざわざ人が出向いてスキャン動作をしなくても、逐一モニタリングが行なわれるのが特徴だ。
ただし、RFIDで使われているのはNFCなどと同様の13.56MHzや、それよりやや高い周波数帯域の電波であり、専用のスキャナ装置を必要とする。NFCであればスマートフォンでも対応しているが、ここまで挙げた遠距離でのスキャンには利用できない(出力の問題のため)。
そこで、より汎用的な装置でも利用できるよう「Bluetooth LE(BLE)」の技術を使ったタグを用意できないか考えている企業がある。
Wiliotというスタートアップ企業は、2.4GHzの電波に反応してBLEの信号出力を可能にするタグを開発しており、今回NRFのInnovation Labで展示を行なっていた。通常、BLEの電波を発信するビーコン装置などではバッテリを内蔵しており、この寿命やバッテリ実装分のサイズ増が大きな課題となっていたが、WiliotのソリューションではWi-FiやBluetoothでお馴染みの2.4GHzの帯域の電波でBLE信号を発するチップを開発し、これを“タグ”とすることでRFIDタグのような使い方を可能にする。
メリットとしては、スマートフォンを含む汎用装置をそのままスキャナに利用でき、仕様もBLEであることから、単純にタグの情報を読むだけのRFIDと比べてより複雑な作業をさせることが可能な点だという。また、現在の製品化前の状態では4m程度の到達距離だが、今後の改良でどんどん伸ばせるとしている。応用技術の1つとして注目かもしれない。