西田宗千佳のイマトミライ
第274回
「人がAIと共同作業する未来」へ突き進む 2025年のAIを予測する
2025年1月6日 08:20
みなさんの2025年はどう始まっただろうか?
筆者は例年通り、年初からラスベガスへ出張。「CES 2025」の取材からスタートしている。といっても、この記事が掲載されるタイミングでは、CESも本格スタート前だ。
だがこの段階でもはっきり分かっていることがある。
それは「2025年もAIは大きなテーマである」ということだ。本記事はCES開催前に執筆しているため、CES出展各社発表の詳細は不明だ。しかし各社のリリースには「AI」「Gen AI(生成AI)」のキーワードが踊る。比率だけでいえば、昨年よりも多いのではないだろうか。
では、その「AI」は昨年どのように進化し、扱われてきたのだろうか? そこから、2025年の流れについてヒントが掴めるのではないかと思うのだ。
AIへの「加熱投資」はまだまだ続く
本連載ではいわゆるビッグテックの動向を扱うことが多い。筆者の主な取材対象であり、多くの人の生活に影響するものでもあるからだ。
同時に、生成AIに関する話題がビッグテックに集中しやすいのは、それだけ「コストがかかる」存在であるから……という側面が大きい。
トップクラスの生成AIを学習するには驚くほどのコストがかかる。そのことは、ビッグテックであろうとも「生成AIを早期に有料化」していることからも自明だ。
OpenAIにしろマイクロソフトにしろGoogleにしろ、差別化した新しいサービスは「まず有料プラン」から導入している。例外はアップルだが、彼らは「ソフトで自社のハードウェアを差別化し、高付加価値な状態で売る」ビジネスモデルを軸にしているので、他社ほど率先して有料化する方針にない……というところだろう。
それでも、各社の生成AIへの投資はまったく「黒字化」していない。
OpenAIは特にそうだ。同社は昨年末、より高価なサブスクである月額200ドル(約3万円)の「ChatGPT Pro」をスタートし、組織も正式に「営利企業」へと転換した。売上も、2024年度には34億ドルに達するとの報道がある。しかし、同時に50億ドルもの損失を出していると予測されており、投資回収の目処は見えない。
これをある種のバブルであり、危険な徴候だと見る人もいるだろう。
確かに、今日の時点で存在する各機能が「投資に見合うだけの価値を消費者にもたらしているか」は疑問だ。
2024年は、チャットインターフェースのAIを超え、スマートフォンやPCの中に組み込まれはじめた年でもあった。
Windows PCでは「Copilot+ PC」、Androidでは「Gemini」の搭載、iPhoneを初めとしたアップル製品では「Apple Intelligence」がそれにあたる。ChatGPTやPerplexityのようなサービスもスマホやPCの中の窓口になるべく、専用アプリの投入と機能アップも続く。
ただ、「価値を体感できない」という人も多いだろう。ハイエンドな機種から活用が進んでいること、日本語ではまだ使えない機能も多いことなどから、「まだちゃんと使えていない」人の方が多い状況だとは思うが、1つの感触として「これがあるから買い替える」という強い軸になっているとは言い難い部分はある。
しかし前述のように、ビッグテックは投資を緩めていない。AIの搭載が競争軸であり、手綱を緩めることはできないと判断しているからだ。
「人がAIと共同作業する未来」へ突き進む
では、AIはどのように我々とコンピュータの関係を変えるのか?
それは「人とAIが共同で作業するようになる」ということだろう。
今も我々はコンピュータとネットワークを使っている。しかしその本質は「なにをすべきか人間が考え、機能に分解してからコンピュータを使う」という姿のままだ。
「人に用件を伝える」というシンプルな作業を例に考えてみよう。
現状我々は脳内でまず「メールやメッセージングアプリを立ち上げ、メッセージを送る相手を選んで文面を書く」という作業に分解して進めている。冷静に考えれば細かな手順だが、我々は慣れてしまったから、それをあたりまえのように行なっているだけだ。
もっと複雑なことはどうだろう?
ネットから必要な情報を探し、その内容の妥当性を判断してまとめ直す、という作業を、我々は日々自分の力でやっているのではないだろうか? 「食事会の幹事なので、店を探して予定を調整して予約する」という作業も、やっていることは似たようなものだ。
これらのことを人に頼むなら「連絡しておいて」「いい感じの店、予約よろしく」で済むことだ。しかし自分で実際にやろうとすれば、「タスクを分解して情報をまとめ直して機械を操作する」ということになる。
AIが基盤の1つになるとは、こうした常識が変わっていくことに他ならない。
例えば、GoogleがGeminiを使った「Project Astra」で目指すことや、マイクロソフトが「Copilot Vision」で目指すこともその1つ。音声や周囲の画像、コンピュータ上の画面を活用し、人の命令に従って処理をする。
以前から同じようなビジョンはあったが、マルチモーダルAIによって「AIが扱えるデータ」が増え、人間の曖昧な命令が求めるものを把握してサポートすることを目指す機能が作れるようになってきたわけだ。
Apple Intelligenceを導入したSiriでは、まだ限定的ではあるが「利用者がどんなアプリのどんな画面を見ながら対話しているのか」を把握して働くような仕組みが導入されている。これもまた、AIが人の動きを理解しながらともに働く姿を目指したものだ。
いわゆる「AIエージェント」が注目されるのも、企業内での様々な作業について、より効率的かつ個人の力を最大限活用できるシステムを目指すには有用、と考えられているからだ。
ブラウザーをAIが操作する仕組みも登場しているため、前述のような「情報を探してまとめなおす」ことは十分に可能になっている。
以前から生成AIを翻訳や要約に使うことはできたが、それにしても「自分で読む代わりにやってもらう」と考えれば、そもそも「人間とAIの共同作業」だったと言える。
現在の投資は「パラダイムチェンジへの準備」だ
あらゆるアプリケーションやブラウズの操作にAIが関与することの価値や危険性の議論はあるし、AIがなにをしてくれると本当に便利なのか、という点の追求はまだ始まったばかりだ。だから、現時点では「いままで通り、人間が脳内でタスクを分解してアプリを使う」方が素早くて便利だろう。面倒な仕事はAIが積極的に奪ってくれた方がありがたいが、まだまだ発展途上であり、理想にはほど遠い。
しかし、このまま技術が進化していくのだとすれば、「人が直接操作するよりも命令する方が複雑で手早く終わる」時代が来る可能性は高い。そうなると、「ウェブを単語で検索し、そこに広告が紐付く」ことや、「スマホやPCの通知を気にしながら生活する」こと、「マウスで正確に特定の場所をクリックする」ことなどが過去のものになる時代も、いつかはやってくる。これはまさにパラダイムチェンジだ。
AIを語る時、我々は「賢さ」を話題にする。AIが人間を超えた知性になる可能性はもちろん興味深いが、それと併走するベクトルとして、「コンピュータのUIとしてのアシスタント」があたりまえになる世界が存在しうる。
難しい論文を読み、他の言語をなめらかに翻訳するのは別の「賢さ」だが、人が求めるステップを理解するという意味では、今以上の賢さが必要という話でもある。
2024年にマルチモーダルAIやAIエージェントが注目され、AI基盤への投資が止まらずに続いているのは、「ストレートな知性としてのAI」からのシフトチェンジがビジネス価値を持ち、新しいプラットフォーム競争につながる可能性を持ち始めたからに他ならない……と筆者は考えている。
「生成物」利用のルールが重要に
他方「生成AI」という話になると、画像や動画の生成についての話題も多かった。正確には「懸念も多かった」というべきだろうか。
ニュースではOpenAIやGoogle、Adobeなど大手の作る動画生成AIの話が多かったが、実際には多数のスタートアップや研究が集中しており、「リアルな画像や動画が作れる」という話であるなら、大手の外に多数の話題が存在している。
画像・動画の生成はもはやあたりまえの技術になった。まだ長時間かつ高解像度のものを作るのは難しいが、それはある意味「量の問題」に過ぎず、演算量と予算の問題に過ぎない。
他方で、それらが大々的にビジネスに使われる例はまだ少ない。安価かつジャンクな広告には使われているものの、メジャーな広告やビジネスでの利用例は目立ってはいない。
だが実際には、大手企業などでも「コンセプト段階では普通に使っている」という話を多数聞いている。「精査した上で使うのが大変なので、外に出しづらい」だけなのだ。
すなわち課題は画質など以上に「正しく使うための仕組み」にある。
大手は一斉に、電子透かしなどの手段を使った「来歴記録」を導入している。これは現状での法規制の流れに沿ったものだ。
ただ、記録された来歴を確認し、データ活用に活かす流れは弱い。報道機関やソーシャルメディアでの活用がもっと進む必要があるし、生成物を企業内で管理するシステムも必要になる。その過程では、法整備・企業利用ルールがどういう形で落ち着くのか、状況を精査する必要も出てくる。
特にアメリカの場合、第二次トランプ政権の発足により、AI法規制の考え方は大きく変わる。サービスを作る企業の多くが属する国でもあるので、良くも悪くも、日本を含めた「アメリカ以外」に影響が広がるのは間違いない。
そうした点も含め、2025年は「本格的活用ルール」の行方が定まる時期と言えそうだ。