西田宗千佳のイマトミライ

第181回

ネット動画の老舗「GYAO!」はなぜ終了するのか 変わる動画配信の風景

動画配信サービスの「GYAO!」。サービス画面には、3月末終了の告知が出ている

動画配信サービスの「GYAO!」が、3月末に終了することになった。

GYAO!は2005年にサービスを開始した、非常に歴史の長いサービスである。同じ2005年にYouTubeがスタートしている。そして、世界最大の映像配信事業者であるNetflixがスタートしたのは2007年である。

それを考えると、当時はきわめて先進的なサービスであった、と言えるだろう。

だが、現在の映像配信の中で、GYAO!の存在感は薄くなっていた。

なぜそうなったのか?

現在の映像配信がどのような状況であるか、という視点から少し考えてみよう。

GYAO!とはどんなサービスなのか

GYAO!(スタート当時の表記はGyaO)は、前出のように2005年にスタートした。

当時のキャッチフレーズは「完全無料パソコンテレビ」。ブロードバンドネットワークをビジネスとしていたUSENが、高速回線を活用してもらうためのサービスとしてスタートしたものだ。

発想としてはストレートなものではあるが、先進的であったのは間違いない。ただ、日本国内でこの種のサービスを始めるのが流行りだったのも事実なのだ。Yahoo! JAPANも2003年に「Yahoo!動画」をスタートしているし、NTT東日本も「フレッツ・オンデマンド」をそのさらに前、2001年からスタートしている。

GyaOは積極的にコンテンツ開拓を行ない、ブランド力を強化してきた。ただ、収益性では苦戦し続けた。当時のPCだけでは、プラットフォームを維持できるだけの収益性が確保しづらかったからだ。

結果として、2009年にUSENから切り離され、日本最大のポータルであるYahoo! JAPANの子会社になる。現在のGYAO!はこれがもとであり、2014年に増資・名称変更した後の存在と言える。

GYAO!は有料のサービスも展開してきたが、多くのユーザーは広告・無料で視聴していた。以下に、2017年に筆者が行なったインタビューを掲出しておくが、彼らもそこを強みと考えていたのは間違いない。

GYAO!がビジネスを続けてこられたことには、1つ大きな理由がある。

それは「公式配信」を多く手掛けていた、ということだ。

テレビ番組の見逃し配信は、いまでこそ珍しいものではない。だが、2010年代前半まで、テレビで放送された番組がコンテンツとして提供されるサービスはまれだった。

しかし「見たい」人は多い。だから、番組が動画共有サイトに違法アップロードされ、それを検索して見る……という人も今よりずっと多かった。

その対策として、配信を請け負っていたのがGYAO!である。比率は少ないながらもテレビ局が資本参加し、確固たる地位を築いていた。

TVer・ABEMAにYouTube ライバルに迫られたGYAO!

そんなGYAO!も、急速に地位を落としていく。

理由は2つある。そして、その2つは相互に関連している。

1つ目は「見逃し配信」について、別のサービスが広がっていったことだ。民放は乗り合いサービスである「TVer」を強く推し、同時にYouTubeが使われることも増えていった。ABEMAのような新興勢力もある。

2つ目はスマホへの対応が遅れたことだ。スマホアプリは初期から提供していたが、「ヤフー」はやはりPCで強い認知のあるサービスでもあった。その結果、スマホ世代への認知・利用の面において、スタートダッシュで他のサービスに押されたことはあったろう。

以下は、NTTドコモ傘下「モバイル社会研究所」が、2022年12月5日に発表した「TVerの認知」に関するアンケート調査の結果だ。すでに認知でも利用率でも、GYAO!はYouTube・TVerに大きく差をつけられており、ABEMAも同レベルになっている。

モバイル社会研究所が2022年12月5日に発表した「TVerの認知」に関するアンケート調査の結果。GYAO!も一定の認知を持っているが、上下から新興勢力に追い立てられている状況でもある

調査報告によれば、TVerの認知率は、2019年の46.4%から、2022年には72%まで急速に上昇している。

ライバルの増加と認知拡大が、GYAO!のビジネスを危うくしていたのは間違いないだろう。もはや見逃し配信のためだけにGYAO!を選ぶ必然性はなく、独自コンテンツに頼る必要が出てきたわけだが、そこではABEMAという新興勢力が力をつけてきている。ニュースなどでもGYAO!の名を目にする機会は減っていた。

だとするならば、同じようなビジネスにリソースを注ぐよりも、全く別の方向であるスマホ上の縦型ショート動画「LINE VOOM」に集約を……というのもわかる。

Zホールディングスでエンタメ領域をカバーするLINEとしても、ライブ動画配信サービス「LINE LIVE」と「LINE LIVE-VIEWING」の終了を決めている。まさに経営資源を「縦動画」に集約している最中なのだ。

日本では圧倒的な「YouTube」 テレビ上で民放に迫る

一方、こうした変化の中では「YouTubeの強さ」を忘れてはいけない。縦・ショートといった形ではTikTokを含めたライバルが強いが、こと広い世代に見られているという意味では、他の動画サービスは、YouTubeにまったく敵わない。前掲の利用率調査でも、YouTubeだけが突出しているのがわかる。

特に日本では、YouTubeの利用率は「テレビ」の上でも圧倒的だ。

筆者がテレビメーカーなどからのヒヤリングで得た情報では、「テレビデバイス内での映像配信利用について、大半の時間がYouTubeで消費されている」ことがわかっている。有料サービスではAmazon Prime・Netflixのシェアが高くなっているが、それらを全て足しても、YouTubeにはかなわない。

公開データではないので直接の紹介は避けるが、テレビ内でのYouTubeの1日の視聴時間は40分台を超え、NHKや民放の視聴時間に並んでいる。

もちろん、これはYouTube全体でのものなので、実際には、チャンネル・配信者ごとに細分化されている。とはいえ、テレビだけでこれだけの時間が消費されているのだから、スマホも合わせると大変な時間であることは間違いなさそうだ。

そんな中で、公式コンテンツを軸に競合していくのはなかなか難しい。認知や利用がアップトレンドにあるTVer・ABEMAはともかく、ダウントレンドであったであろうGYAO!が事業を見直すのは無理もない。

アメリカでも、ここまでYouTubeは支持されてない。以下は2022年10月にNetflixが公開したニールセンのデータだ。NetflixとYouTubeは同程度の視聴時間であり、これはもう数年前から変わっていない。

2022年10月にNetflixが公開したニールセンのデータ。ストリーミングがCATV視聴を抜いているが、YouTubeとNetflixは同じくらいの利用量だ

日本での特異な「YouTube人気」は、いつまで続くのだろうか。一方でYouTube動画から得られる収益は低くなってきており、数多くのスタッフを抱えてコストをかけた配信の場合、数十万ユーザー規模では利益が出づらくなった……という声も聞こえてきている。

テレ東に近づくAmazon ヒットをてこにアジアを攻めるNetflix

一方、有料の映像配信では、Amazon Prime Videoが圧倒的なシェアを持っている。視聴時間も「テレビ東京のシェアに近づいてきた」という話が聞こえてきた。Netflixなどの2位以下のサービスはその半分以下と見られており、日本は「YouTubeとアマプラ」優位の状況が続く。

その中、Netflixはユーザー数が伸びているアジアにフォーカスを定めている。アメリカ・ヨーロッパのユーザー数増加が踊り場に達したことから、まだ伸びる余地の大きいアジアに注目しているわけだ。利益率は下がってしまったが、アジア地域の契約者数は伸びている。

またご存知のように、コンテンツの面でも、韓国が先にブレイクを果たしている。日本でも、アジアを中心に日本アニメとコミック由来の映画の視聴が伸びており、さらには、年末に公開された「First Love 初恋」「今際の国のアリス」シーズン2が大きなヒットを記録している。

特に「今際の国のアリス」シーズン2については、配信後4週間で視聴時間が2億時間を突破し、日本発作品としては最高記録を更新した。2週連続でNetflix週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)首位を獲得、4週連続TOP10入りしたのは大きい。

「今際の国のアリス」シーズン2は世界的なヒットに

Netflixは収益拡大に苦慮しているが、1997年の創業から同社を率いてきたリード・ヘイスティングス氏がCEOから「会長」となり、COO(最高執行責任者)兼CPO(最高プロダクト責任者)であったグレッグ・ピーターズ氏が、テッド・サランドス氏とともに共同CEOに就任する。

ピーターズ氏は2015年から2020年7月まで、日本法人の責任者を務めていた人物。筆者も何度も取材をしている。彼が個人的に日本市場に詳しい、ということもあっただろうが、それだけ「日本市場開拓」が難しく、同社の中でもトップクラスの人材を充てる必要があった、ということでもあったのかもしれない。彼がどのようにNetflixの舵取りをしていくのか、見守っていきたい。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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