西田宗千佳のイマトミライ
第129回
2022年、加速する「二つ折り」スマホの市場
2021年12月20日 08:15
12月15日、OPPOは製品発表イベント「OPPO INNO DAY 2021」を開催、その中で二つ折りスマートフォン「Find N」を発売した。中国向けには同日より予約が開始され、12月23日から発売になる。価格は7,699元(約13万8,000円)から。
日本での発売予定が公開されていないため、あまり興味を持てない人もいるかもしれない。だが、意欲的なその仕様は十分注目に値する。
サムスンの「Galaxy Z Fold」シリーズをライバルとし、強く意識した上で作られたことが明確にわかるこの製品は、二つ折りスマホ市場に大きな影響を与えるだろう。
サムスンを意識して差別化した「Find N」
Find Nがどんなスマホなのか分析するところから始めよう。
二つ折りスマホには本体を縦開きにする「コンパクトさ」を重視するものと、横開きにする「画面の広さ」を重視するものがある。Find Nは後者。二つ折りスマホが高価なハイエンド製品であり、広い画面を活かしたプロダクティビティの高さが求められる場合が多いからだろうか。
プロセッサーにはクアルコムの「Snapdragon 888」を採用、三眼で最大3,200万画素のソニー製イメージセンサーを使っている。この辺もまさに「ハイエンド」だ。
二つ折りとしてのもっとも大きな差別化点はディスプレイそのものだ。
Find Nのディスプレイは開いた際に7.1インチ、閉じた際で5.49インチ。閉じた際のアスペクト比は9:18、開いた際はほぼ1:1になる。
これは、現状二つ折りの最大手、というかほぼ独走状態にあるサムスン製品、特に「Galaxy Z Fold 3」を強く意識したものだ。
Galaxy Z Fold 3は開いた際のサイズが7.6インチ、閉じた際のサイズが6.2インチになっている。縦横比は閉じた際が9:24.5、開いた際が18:22.5で、より縦長になっている。
Galaxy Z Fold 3が縦長を採用したのは、閉じて使った時の持ちやすさを重視してのことだ。片手で持って電話するなら、確かに横幅が狭い方がいい。
だが、開いた状態でアプリを使う時は、もう少し横に広い方が使いやすい。これは、筆者自身がGalaxy Z Fold 3を毎日使っているユーザーであり、その中で感じることでもある。
アプリを全画面で使う場合には特に問題ないが、画面を二分割して2つのアプリを同時に表示して使うような場合、今の縦横比だと、1つのアプリの画面が縦長になりすぎて使いづらいのだ。
OPPOはプレゼンの中で、「開いた時にほぼ1:1」という縦横比が、使いやすさを重視したものであることを強くアピールしている。
同時に、二つ折りの機構やガラスについても優位性をアピールする。独自の複雑な構造を持つヒンジを採用することで、ガラスの中央に「折り目」を目立たせることなく、さらに、折り畳んだ時に両側がピッタリと密着する構造を実現した。
これも同様に、Galaxy Z Fold 3を意識したものだ。Galaxy Z Fold 3は折り畳んだ状態で多少隙間ができて、ガラス部の中央にも「折り目」が出る。実際の使い勝手において、折り目は見た目ほど影響はなく、日常的にはほぼ気にならない、というのが利用者としての実感だ。だが、折り目がない方が望ましいのは間違いない。
OPPOは直接名前を出すことはないものの、縦横比と折り畳み機構、そして「折り目」と、Galaxy Z Fold 3と違う点を次々にアピールしていた。Find NのハードウエアがGalaxy Z Foldシリーズをベンチマークとして作られていることは明白だ。
そして、ソフト面でも工夫している。
二つ折りや二画面を採用したスマホは、2つのアプリを同時に使う際に便利である、ということが大きな特徴である。一方で、その特徴を十分に活かすには、2つのアプリの起動が簡単でなくてはならない。これは、どのメーカーも苦労している点だ。
OPPOはここで面白いユーザーインターフェースを採用した。全画面で表示されているアプリの真ん中を二本指で「切る」ような動作をすると、そのアプリが画面分割状態になり、もう片方に別のアプリを呼び出せるようになるのだ。実際に使ってみるまで、これが本当に使いやすいかどうかはなんとも言えないが、なかなか面白い工夫であるのは間違いない。
その上で、Find Nは安い。
メモリー8GB/ストレージ256GBのモデルが7,699元(約13万8,000円)、12GB/512GBのモデルが8,999元(約16万1,000円)となっている。
Galaxy Z Fold 3が12GB/256GBで24万円弱(日本での販売価格)だから、かなり安価な水準になっている。
これは確かに競争力がありそうだ。
2022年、加速する「二つ折り」の市場
二つ折りスマホを商品化したメーカーはまだ少ない。高い技術力が必要、ということもあるが、それと同じくらい「ディスプレイパーツの供給を受ける」のが難しいのである。
サムスンが二つ折りスマホでトップメーカーになっているのは、彼らがハイエンドAndroidスマホのトップメーカーであるから、という事情だけではない。サムスングループ内には「サムスンディスプレイ」があり、スマホ向けの有機ELディスプレイではトップシェアを誇っている。その生産力・開発力をうまく活かしたのが「二つ折り」だ。均質化しやすいスマホ市場の中で、まだ高価なディスプレイパネルを活用し、垂直統合で差別化しているからこそ、二つ折りスマホでの優位性を保っていられるのだ。
だが、自社のためだけに二つ折り向けのディスプレイを作っていても、なかなか生産量が増えない。市場を拡大するには、自社以外にも販売を拡大していく必要がある。
OPPOが採用したディスプレイがどのメーカーで作られたものかはわからない。サムスンディスプレイが生産を拡大して自社以外に供給したものかもしれないし、BOEなどの他社が生産したパネルを採用したのかもしれない。現状、いくつかの噂によれば、パネルはサムスンディスプレイから供給を受けたようだが……。
どちらにしろ、そろそろ二つ折りスマホの市場が拡大フェーズに入るべき時期ではある。ハイエンドスマホを得意とするOPPOとしては、単価が高く注目も集めている二つ折りの市場で存在感を示したいはずだ。その場合には、サムスンを徹底的にマークする必要がある。
中国のハイエンドスマホ市場では、米中摩擦の影響から、ファーウェイの存在感が薄れている。ファーウェイはサムスン同様初期から二つ折りスマホに積極的だったが、ハイエンドスマホ市場そのものから締め出されてしまった格好であり、OPPOとしては、今のうちに優位な立場を確保したいのだろう。
OPPOは日本などでもビジネスを展開しているが、数量そのものは中国向けが多い。今回のような製品についても、中国向けが優先になるのは必然ではある。
では、2022年はどうなるだろう?
OPPOが中国以外の市場向けに供給を始めたとしても不思議ではない。そしてもちろん、サムスンは「2022年向け」の製品を用意し始めている。それらが市場でぶつかるのは必然だ。
二つ折りスマホ市場が活性化するには、こうした状況はとてもいいことだ。日本市場にとっても、いつまでも二つ折りが「20万円オーバー」では困る。
次の興味は、OPPO以外にどこが二つ折りに積極策をとってくるか、ということだ。その点を左右するのは、二つ折り製品向けのディスプレイを供給するメーカーがどのくらい増えるのか、ということにかかっている。