西田宗千佳のイマトミライ

第118回

新SurfaceシリーズとWindows 11世代のPC

マイクロソフトが自社ブランドハードウェア「Surface」シリーズを一新した。ハードウェアとしても、Windows 11世代に合わせたものになる。

新Surface登場。2画面スマホ「Duo 2」や3スタイルの「Laptop Studio」

今回は新製品の概要を見つつ、マイクロソフトがWindows 11とSurfaceで狙うものを考えてみよう。

メインストリーム「Surface Pro 8」が大幅進化

新しいSurfaceシリーズは、核となる「新モデル」と、性能アップが主軸のモデルとに別れる。たとえば、低価格モデルの「Surface Go 3」は、CPUの世代変更に伴うリニューアルであり、ARM系CPU搭載の「Surface Pro X」も、Wi-Fiモデルを用意した実質的な価格改定と言える。

Surface Go 3
Surface Pro X

CPU強化の「Surface Go 3」。Wi-Fiモデル「Surface Pro X」の追加も

新モデルの中でもおそらく一番数が出ると思われるのが「Surface Pro 8」だ。キックスタンドのついた2-in-1であり、Surfaceといえばこのモデルを思い出す人も多いのではないだろうか。

Surface Pro 8

「Surface Pro 8」登場。キーボード変更/新ペン。Thunderbolt 4対応で性能2倍に

Surface Proはビジネス市場でも大量導入などの人気も出ているからか、ながらくデザインや周辺機器を変えないモデルになっていた。だが今回は、CPUなどのプラットフォームリニューアルと同時に、デザインなども大きく刷新した。その源泉となったのは「Surface Pro X」だ。薄く、画面が13インチでより大きなモデルとして魅力的だったのだが、その仕様がメインストリームである「Pro 8」に反映されたわけだ。

Surface Pro 8

厚みに関してはPro Xが7.3mm、Pro 8が9.3mmとなっているし、重量もPro Xの774gから891gに増えている。しかし、バッテリー動作時間は15時間と長く、最新の第11世代Core iシリーズを使っているため、パフォーマンスの面も十分だ。Pro 7に比べ、Pro 8は「倍の速度になった」とマイクロソフトは主張している。

Pro Xがベースになったことで、キーボード周りも変化した。タイプカバーキーボードはこれまでのモデルと互換性がなくなる代わりに、薄型の「Slim Pen」をタイプカバーキーボードに収納・充電できるようになった。

今回の新製品ではこのSlim Penへの移行も大きなテーマになっている。Pro Xシリーズで使っていたSlim Penからさらに進化した「Slim Pen 2」となっている。最大の特徴は「振動」が組み込まれたことだ。振動を発する機能がペンに組み込まれたことで、画面上で描いている時に「紙の上で描いているような感覚」を再現できるという。

Slim Pen 2

触覚信号で紙の書き心地を再現するSurface Slim Pen 2

このSlim Pen 2は、Pro XやPro 8だけでなく、この後に説明する2つの製品でも使われる。マイクロソフトが今後の標準的なペンとして使うものになる、重要な存在だ。

個人的にも、「振動が組み込まれた書き味」がどうなっているのか、試す時が楽しみである。

ラップトップにStudioの血をもたらす「Surface Laptop Studio」

2つ目の大きな新モデルが「Surface Laptop Studio」だ。

Surface Laptop Studio

「Surface Laptop Studio」。RTX 3050 Tiを搭載してフリップ

これは現在のハイエンドラインである「Surface Book」シリーズの後継と言える製品である。Surface Bookはクリエイター向けに、高性能なCPUとNVIDIAのディスクリートGPUを搭載した製品だった(低価格モデルではディスクリートGPUを搭載しないものもある)。

ディスプレイ部分がタブレットになって分離するのが特徴で、手軽なペンによる創作とGPUを生かしたグラフィックワークの両立を目指していた。

確かにいいPCなのだ。筆者も一時、Windowsでのメインマシンとして使っていた。だが、ディスプレイ部分にCPUなどが入っている関係上、ディスプレイ部が重く、どうしても「首がぐらぐら動く」ような部分が気になったのも事実だ。

今回のSurface Laptop Studioは、この課題を解決した。タブレットとしての分離構造を止めた代わりに、ディスプレイをパタパタと開き、変形するデザインに変えたのだ。

この構造は、日本市場だとVAIOが作っていた「VAIO Flip」や「VAIO Z フリップ型」に近い。

天板の中央ラインで液晶がひっくり返る「VAIO Fit 15A/14A/13A」

後追いにも見えるが、実のところこれは、Surfaceのデスクトップモデルである「Surface Studio」の構造をノート型に持ってきたもの、と考えることもできる。

まるでタブレットみたいな使い心地の一体型PC「Surface Studio」

ディスプレイを手前に引き出してペンでの作業をしやすくする「Studio」を、そのままラップトップ型のデザインに持ち込んだので「Laptop Studio」、と考えると意外とシンプルな話なのだ。

Surface Laptop Studioは本体が二段に分かれた構造に近く、下側で十分なエアフローを確保した上でノートPCとしてのコンパクトさを実現しているのがポイント。GPUとしてもNVIDIAのGeForce RTX 3050 Tiを搭載している。トップ性能のゲーミングPCには劣るものの、サイズ・デザインがこの仕上がりならば納得できる範囲だろう。

ただ、こちらは日本での発売時期が「2022年前半」となっており、しばらく触れるのは難しそうだ。

いよいよ日本発売、「Surface Duo 2」はヒットするか

もう一つ「2022年前半」の日本市場投入が発表されて話題なのが、2画面スマートフォンである「Surface Duo 2」だ。

異色の2画面Android端末「Surface Duo 2」

Surface Duoは2019年秋に発表されたが、あまり良い評判を得られなかった。5Gに対応していなかったとか、イン側にしかカメラがなかったとか、ハードウェア的にメインスマホとして使うのに足りない部分があったが、一番の問題は、ソフトウェアの熟成が足りず、使い勝手がいまひとつだった……というところだろう。

ソフトの改善についてはまだわからないが、ハード面での不満点については、Duo 2でかなり改善が進んでいる。

カメラはいまどきのスマホよろしく「3眼」になったし、5Gにも対応した。ペンはSlim Pen2対応で、本体に取り付けて無線充電までできる。

もともとこの製品は、2画面を生かしてOffice 365やTeamsなど、PCの持つプロダクティビティ・ツールをどこでも活用できるようにしよう……という狙いで生まれている。それはDuo 2でも変わらない。メインスマホとして買っても問題ないレベルにハードを引き上げることで、ようやく元の狙いが多くの人に伝わるようになるかもしれない。

薄く見栄えのするデザインなので、今度こそじっくり使ってみたい……とは思うが、こちらも前出のように「2022年前半登場」予定なので、試すまでにはしばらく時間がかかりそうだ。

「Windows 11世代のPC、かくあるべし」をアピールするパノス・パネイ

9月23日深夜1時からネット配信されたマイクロソフトのイベントを見ながら、筆者はちょっと妙な感慨に浸っていた。

「パノス・パネイは、もっともスタイルに忠実な『ジョブズの息子』なのかもなあ」と。

10月5日、スティーブ・ジョブズ氏没後10周年を迎える。もうそんなに経ったのか……と驚くほどだ。ジョブズ氏の功績をいまさら語るまでもないだろう。自らの美学とこだわりによってハードウェアを磨き、その内容を自らが伝えることで価値を消費者にアピールする。今もアップルの製品はその流れを汲んで作られている。

一方で、ジョブズ氏が作ったメソッドは広く、さまざまな企業へと拡散した。マイクロソフトで最高製品責任者(チーフ・プロダクト・オフィサー)を務めるパノス・パネイ氏は、Surfaceを自ら強いリーダーシップで開発し、自らプレゼンテーションしてアピールするのが常だ。筆者も何度か単独インタビューをしたことがあるが、自らの製品への自信とこだわりといい語り口といい、とてもユニークで、話していて楽しい人物だ。

今回の発表会で製品をアピールする、マイクロソフト・最高製品責任者のパノス・パネイ氏

2019年秋にはニューヨークでイベントを開いて新モデルを発表したが、コロナ禍ということもあってか、2020年は比較的小幅な刷新にとどまっていた。今年は主要モデルが一気にリニューアルした。それをアピールするパネイ氏の姿を見ていると、ちょっとジョブズ氏のことを思い出した。

そのくらい、マイクロソフトはSurfaceをこだわりを持って開発しており、実際ハードウェアの品質は高くなっている。9年前、Windows 8とともに登場した時にはまだ疑念もあったが、いまや、Windows PCの中でも強いブランド力を持った製品に育ったことは疑いない。

ただ、Surfaceは知名度の高いブランドではあるが、Windows PCの中で「最も売れている」わけではない。調査会社ガートナーの推計によると、2020年のノートPC出荷台数に占めるマイクロソフト製品のシェアは約3%に過ぎない。そして、マイクロソフト全体の売上の中でも、Surfaceが占める比率は5%程度に止まる。

それが悪いのではない。マイクロソフトは別に、他のWindows PCメーカーを打ち倒し、アップルのようにハードとソフトを全部提供する立場になりたいわけでもないのだろう。

だが、「Windows 11世代のPCとはこういうものである」ということをアピールするには、Surfaceのような存在は必要だ。そして、そこでこだわりを示す人物として、パネイ氏は最適な人物なのである。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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