西田宗千佳のイマトミライ

第86回

「ミニLED」「巻き取り有機EL」。CESに見るディスプレイ新潮流

2021年は年初から、ディスプレイ及びテレビ関連の新発表が相次いだ。オンライン開催となった「CES 2021」に絡んでのことだが、今年は例年よりも目立っていたような印象を受ける。

それは、コロナ禍において人と人とをつなぐ上で「ディスプレイ」が欠かせないテクノロジーであり、エンターテインメントを支えるものになっているからではないだろうか。だから、継続的に進んでいたディスプレイ技術の進化にフォーカスする形になったと思っている。

今回は、そんな「今年のテレビとディスプレイ」について、少し解説してみたい。

今年注目の「ミニLED」とはなにか

CESでは「ミニLED」を採用したテレビの発表が相次いだ。

LG、「液晶よりはるかに優れる」ミニLED搭載「QNED Mini LED TV」

サムスン、量子ドット+ミニLED搭載テレビ「Neo QLED」

TCL、極薄ミニLED技術「OD Zero」搭載8Kテレビ

ミニLEDについては、2018年あたりから注目が集まり始め、実は2020年のCESでも話題にはなっていた。

「CES 2020」を前に今年のテックトレンドを考える。先読みの難しいCES

また、あくまで噂レベルであり、実際に出るかどうかはわからないが、アップルが次世代のiPadやハイエンドMacBook ProなどでミニLEDを採用する、という話もある。そんなこともあって、「ミニLED」という言葉を耳にする機会は増えているはずだ。

ミニLEDはあくまでバックライト技術であり、まったく新しいディスプレイではない。ディスプレイの後ろに発光体を置いて使う「直下型バックライト」技術の一つだ。

現在の直下型バックライト技術ではLEDを多数並べ、それぞれを制御することで映像の暗いところを明るいところでバックライトの輝度を変える「エリア分割制御」が行なわれている。

ミニLEDは直下型バックライトで使われているLEDをより小型のものにして、数を増やそうというアプローチである。小型になればテレビが薄型になり、光の制御も精密になる。

LGのCESプレスカンファレンス映像より。ミニLEDでは小さなLEDチップを多数使い、バックライトを構成する
従来型のLEDバックライト。ミニLEDとは違い、大型のものに光を拡散させる機構を組み合わせて使っている

小型のLEDになるということは、テレビよりも小型の機器、すなわちPCやタブレットにも搭載が可能になる。そうすれば、PC/タブレットでのディスプレイのダイナミックレンジ改善が進み、HDR表現がしやすくなる。MacなどのPCへの採用が……という話はここからくるのだろう。

一方で、搭載しているバックライトの数だけ光るエリアをコントロールしている、というわけではない。現状のミニLEDでは、いくつかのLEDを組み合わせて「エリア」を作る。画像はLGのテレビでの例だが、3万のLEDを搭載しているにもかかわらず、エリアの分割は2,500前後とされている。

LGのCESプレスカンファレンス映像より。3万のLEDを使いつつ、エリア分割は2,500前後

単に分割数だけで言えば、既存のLEDでも問題ない。本体の薄型化やコスト、消費電力などを考えると、全てのシーンでミニLEDがプラス、というわけではない。ソニーは今年もミニLEDを使わないが、「検討の上、メリットを考えると今年は採用しなかった」とコメントしている。

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またPCなどでは、LEDの増加により消費電力と発熱が上がる可能性が高いことも考慮しておくべきだろう。

ミニLEDとは違う「マイクロLED」、日本は今年も有機ELが中心に

ミニLEDに似た技術に「マイクロLED」がある。こちらはさらに小さいLEDそのものを並べてディスプレイを作る技術だ。なにが「ミニ」でなにが「マイクロ」か、というサイズ上の厳密な定義があるわけではないが、一般的にミニLEDは「液晶のバックライト」の技術であり、マイクロLEDは「それ自体でディスプレイを構成する」もの、と考えていい。

マイクロLEDの用途としては、広告やバーチャルプロダクション向けの大型ディスプレイ(俗にLEDウォールなどと呼ばれる)が主軸だ。どんな風に使っているかは筆者が取材したこちらの記事をお読みいただきたい。

CG+ディスプレイでロケ代替、ソニーPCL「バーチャルプロダクション」

ソニーはCESで新たな「Crystal LEDディスプレイ」を発表しているが、こちらは低輝度で安価な「Cシリーズ」と、高輝度でバーチャルプロダクションなどに使う「Bシリーズ」に別れる。ちなみに、同社のCrystal LEDではずっと自社製LEDを採用してきたが、今年のモデルではCシリーズなどで一部他社製LEDを採用し、コストダウンを図るようだ。

ソニー「Crystal LED「C/Bシリーズ」

米ソニー、新Crystal LED「C/Bシリーズ」。軽量低コストで湾曲配置も可能

マイクロLEDは大量にLEDを並べる(4Kならば約829万個)関係上、大型で消費電力もコストも高いものになり、家庭にはなかなか入ってきづらい。だがサムスンは、マイクロLEDを使った家庭用テレビを発表している。ただし、価格は1億7,000万ウォン(約1,595万円)でサイズも110インチと、一般家庭向けとは言い難い。

MicroLED TV

サムスン、CESでMicroLEDなど各種テレビ紹介。アーム付き家庭用ロボも

ドットが全て発光してディスプレイを構成しているという意味では、有機ELがそれに当たる。ソニーやパナソニックは有機ELの新型を発表しており、日本では今年も、ハイエンドは有機ELになると思われる。

テレビ向け有機ELパネル供給元のLGディスプレイは、今年向けのパネルで大幅な輝度向上を実現しており、2021年の有機ELは「明るくなる」と想定される。また、PC向けディスプレイやタブレット向けとしても、スマホからサイズを拡大するという意味で、有機ELの方が有利だ。

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そもそも、今回CESでミニLEDが注目されたのは、「CESがアメリカ市場を軸にしたイベントである」からに他ならない。

現状、アメリカ市場と中国市場は、他国以上に大型化の傾向が強い。70インチ・80インチといったサイズが普通に求められる。現状のコストでは、テレビ向け有機ELは40から70インチまでが主軸で、65インチを超える大型サイズはやはり液晶の方が生産コスト的に有利だ。その中でHDR表現を高めて差別化して行こうとすると、「今までのLEDと違う、という」アピールも含め、どうしてもミニLEDに注目せざるを得ない。

ミニLEDに言及した記事をいくつか並べてみたが、そこで元気なのは特に中国企業だ。中国メーカーはコスト競争力という意味でも自国市場対応という意味でも、液晶をある程度大切にせざるを得ない。「ミニLEDブーム」が中国メーカー発で盛り上がっているのには、そんな理由もあるのだ。

新しいディスプレイの使い方が次の10年を変える

一方、PCなどで有機ELではなくミニLEDを選ぶ理由としては、「焼きつき対策」が考えられる。PCのように同じ画面を表示し続けることの多いディスプレイでは、テレビに比べリスクは確かに高い。そして、現状PCの消費者ライフサイクル(買い替えまでの期間)は、スマホより長めで、ディスプレイ寿命の点がさらに課題となる可能性もある。

そうした部分は一長一短であり、企業側での判断が別れる部分と言える。

ミニLEDは保守的な選択だが、それゆえに消費電力と発熱以外の問題は出づらい。一方有機ELは、「巻き取り式」や「カメラをディスプレイの後ろに配置する」などの新要素も考えられる。定着まで時間はかかるだろうが、より未来的だ。

Samsung、カメラ埋め込めみでほぼフレームがないノート向けOLED

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TCLがプレスカンファレンスの中で公開した「巻き取り式ディスプレイ」の採用例。映像はあくまでCGであり本物ではないが、16インチを目処に開発は進んでいるようだ

またマイクロLEDの採用例としては、「スマートグラス」のようなものもある。

業務用HMDの老舗、VuzixがCESで発表したスマートグラス。ARではなく、スマホからの情報をメガネの中に表示するタイプ

こうした「ディスプレイの進化」が、ここから10年のデジタルデバイスの変化に大きく関わってくるのは間違いない。

ただ、日本メーカーは2010年代、相次いでディスプレイパネル事業から撤退してしまった。結果として、こうした発表の中で日本企業が主軸になれないのは、10年前のCESを思い返すと、非常に残念なことだとは感じる。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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