西田宗千佳のイマトミライ

第30回

ドコモ・Amazon提携の理由。5Gに向け広がる「サービスで割引」

NTTドコモが、通信料金プランについてキャンペーン展開を続々発表している。

11月25日にはまず、ディズニーと組んで展開中の映像配信サービス「Disney DELUXE(ディズニーデラックス)」について。ドコモのスマートフォン向け料金プラン「ギガホ」または「ギガライト」の契約者向けに、Disney DELUXE(月額700円)と契約している場合、12カ月間、毎月700円の割引を受けられる。この「『ギガホ』『ギガライト』&『ディズニーデラックス』セット割」キャンペーンは、12月1日からスタートする。

ドコモ、ギガホとDisney DELUXEをセットで700円引

11月26日には都内で会見を開き、Amazonとの提携を発表した。「ギガホ」の契約者について、Amazonの会員制サービスである「Amazon Prime」の利用料金(税込4,900円/年)を、一年分提供する。当面の間は低価格パケットサービスである「ギガライト」の契約者にも提供される。

ドコモの「ギガホ」、Amazon プライムが1年(4,900円)ついてくる

これは圧倒的にお得だ。両サービスの利用者であれば、合計で1万3,300円分もの割引がついてくることになる。筆者の場合、実はギガホ契約者でどちらのサービスも使っているので、この割引のメリットが最大限に活かせる。

では、ドコモはなぜこのような割引キャンペーンを展開するに至ったのか? そしてこのことはどのような影響をもたらすのだろうか? その点を考察してみよう。

端末が割り引けないならサービスで

なぜ割り引くのか? 11月26日の会見にて、NTTドコモの吉澤和弘社長は「かつてのような端末割引ではなく、ギガホのサービスを磨いていきたい」と語った。要は、「分離プラン」の導入によって端末を割り引くことができないので、料金プランと関わりの深いサービスで割り引こう、というのが狙いである。

ドコモ吉澤社長とAmazonジャパンのジャスパー・チャン社長

10月1日からは法規制により、通信料金と端末料金を明確に分け、「長期契約や通信サービス契約に伴う端末の割引」が基本的に禁止された。長期契約ボーナスはポイント付与になり、毎月の端末料金支払いを割り引く料金モデルは使えない。

そうすると、価格の高いプランはシンプルに言えば不利になる。

しかし、NTTドコモをはじめとした大手携帯電話事業者は、顧客一人当たりの売り上げ(ARPU)を下げたくない。また、今後5Gが来ることを考えても、「より多くデータを使うプラン」へと顧客を誘導したいと考えている。

そこで考えたのが、サービスでの割引だ。端末をバンドルし価格を割り引くのはダメでも、通信契約利用者に他のサービスを割安に使えるキャンペーンを提供するのは禁じられていない。

今回のAmazonとの提携では、Amazon Primeの利用料金をNTTドコモが顧客の代わりにAmazonに支払うようなスキームになっている。相応のマーケティング費が出ていくのは間違いない。だがNTTドコモから見れば、携帯電話端末に数万円の割引をつけるよりも割安になる可能性が高く、実のところ、そこまで懐は痛む施策でもない。

Disney DELUXEについては、そもそもドコモがディズニーと連携して展開しており、ドコモは拡販する側の立場でもある。動画配信サービスは「使ってもらうまで」が大変。その入り口を提供できると思えば、これもまたドコモとしては納得できる出費である。

こうしたサービスバンドルモデルは、他の大手も考えている。KDDIはNetflixと組んで「Netflixパック」を提供している。Netflix側としても、大容量プランをNetflixの魅力で販売できて、「解約率も低い」(KDDI・髙橋誠社長)と満足度が高い。Netflixは急速に利用者を伸ばし、9月には「日本国内で300万加入を超えた」ことを発表している。この数についても、KDDIとの提携が大きく影響している可能性が高い。

KDDIは、音楽サービスとしてApple Musicを半年間無料で提供するキャンペーンを行なっているが、これも、ドコモがやっていることにかなり近い。

ソフトバンクは現状、NTTドコモやKDDIほど目立ったキャンペーンこそないものの、PayPayと連動する形で大幅ポイントバック・キャンペーンを小まめに展開している。今後LINEとヤフーが経営統合する過程で、LINEが提供しているコンテンツサービス(LINE MUSICなど)と連携したキャンペーンが行なわれる可能性は高い、と筆者は見ている。

携帯キャリアは映像配信の味方。Disney+もNetflixも契約拡大

特に動画系についてキャンペーンでの連携が目立つが、これはなにも日本だけの話ではない。

アメリカ・カナダ・オランダでは11月12日から、ディズニーグループの定額制映像配信サービス「Disney+」がスタートした。ディズニーはアメリカの大手携帯電話事業者であるベライゾンと提携し、ベライゾンの使い放題プランや家庭向け5Gサービスに加入した場合、Disney+(月額6.99ドル)が1年間無料になるサービスを展開した。

ベライゾンはディズニーと提携、同社の使い放題プラン契約者に、Disney+が一年分無料で使えるキャンペーンを展開している

Disney+はスタートから10日以内で1,000万ユーザーを獲得したとみられているが、その大きな後押しになったのがベライゾンとの提携だった。

前出のように、日本でもNetflixはKDDIとの提携で加入者を増やしており、この種のキャンペーンは圧倒的に有利だ。

映像配信は魅力的なサービスだが、スマホで視聴することが多い場合、通信料金がやはり気になる。無制限、もしくはNTTドコモの「ギガホ」(一月あたり30GBまで)のような大容量プランの方が使いやすい。

5Gの時代になれば、大手は無制限に近いサービスを主軸にすると見られている。その時のことを視野に入れても、動画配信と提携しておくことには大きな価値がある。

ここで問題なのは、「ではなぜ身内でやらないのか」ということだ。NTTドコモはエイベックスと組んで「dTV」を展開しているし、KDDIは「ビデオパス」がある。しかし、ここで推すのはそれらではなく、ディズニーでありAmazon Prime Videoであり、Netflixだ。

世知辛い話だが、現在はオリジナルコンテンツ戦略について、海外系の大手が先行している。過去から展開している国内サービスよりも、新しいサービスの方が有利との判断があったのだろう。

サービスに「ロックイン」する危険性。しかし過大な規制は不要

一方で、この種の展開は、本当に諸手を挙げて賛成していいのだろうか?

大手携帯電話事業者が大手サービスと提携して有利なプランを打ち出すことは、特定のサービスをより強くする。

過去には「携帯電話事業者が自社のサービスを割引でごり押しするのは不公正だ」と言われたことがあるが、これもまた似た側面を持つ。過去と違うのは「ユーザーもすでに使っていて、喜ばれる可能性がより高い」という点だけだ。

サービスへのロックインを強めるという意味で、携帯電話事業者との組み合わせは危険な部分がある。特に5G以降ではサービスとの組み合わせが有効であり、規模の大きい事業者により有利だ。新興企業には厳しい。

「ならこれも規制すればいい」かというと、そうでもない。

ここで問題視すべきは、「そういう規制を繰り返す姿勢が、よりロックインの強いサービスとの提携を生み出した」という皮肉さだ。

正直筆者は、サービスへのロックインよりもハードの割引の方が競争はしやすい、と思っている。ハードは色々な選択肢があるし、割引を受けない=自由に買って自由に中古などで販売する、という方法もある。だがサービスは、選択肢がより狭くなりやすい。

こうした割引を禁止するのではなく、「多数の事業者が組みやすい方策」や「割引を受けずにサービスを選ぶ場合にも不利益が小さくなる方法論」を考えるべきだ。

割引をモグラ叩きのように潰していくのではなく、競争と活力として認めた上で、「では公正競争のためになにが必要か」という、本質的な議論を考える必要がある。そこにお役所が毎回顔を出すのもどうかと思うのだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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