小寺信良のシティ・カントリー・シティ
第44回
感染リスクか高ストレスか 選択を迫られる夏祭り
2022年7月30日 09:30
7月23日、例年宮崎市内で行なわれてきた恒例の夏祭り「まつり えれこっちゃみやざき2022」が、3年ぶりに開催された。従来は7月最後の土日の2日間の開催であったが、今年は規模を縮小し1日だけ、さらに開催時間も13時から20時までに短縮された。
以前は市内の目抜き通りである「橘通り」で行なわれてきたが、今回は2020年に再開発された宮崎駅前から西側に伸びる「高千穂通り」に変更された。この通りは、駅前にオープンした「アミュプラザみやざき」への導線として、2021年12月に社会実験が行なわれたところである。
地方の著名なまつりと言えば、多くは神仏行事の一環として行なわれるものが多い。また秋の収穫祭にしても、地元の神社への奉納と五穀豊穣祈願を行なう神事の一環であることが多い。
筆者が子供の頃は、例年10月に行なわれる宮崎神宮の「神武大祭」が最大のお祭りだった。10月とはいえ、南国宮崎では秋という感じでもない。残暑に近い暑さの中、宮崎神宮を起点に市役所に至るまで、橘通り全域を通行止めにして、2日間盛大なパレードが執り行なわれたものだった。警察音楽隊や宮崎名物のシャンシャン馬、大人神輿や獅子舞、ひょっとこ踊りなどが、数時間かけて大通りを練り歩く。夜は交通規制が解除されて車が通れるようになるが、広い歩道には屋台が立ち並び、それを彩る提灯の列が滲んで、子供心にはさながら夢の街のような風情があったものだ。
逆に夏は、納涼花火大会などは開かれていたものの、小規模な神社の縁日程度しかなかった。夏にまつりがないのは寂しいということもあり、筆者が中学生ぐらいのころから、地元テレビ局の主催で「まつり宮崎」というイベントが行なわれるようになった。最初は大淀川河川敷に特設ステージなどを設えて、その前に屋台が並ぶといった格好だったが、やがて橘通りを通行止めにしての開催に変わっていった。
そのころにはすでに筆者は宮崎を離れていたが、神武大祭の規模が縮小する代わりに、こうした神事とは関係ない独自イベントとしての夏祭りが勢いを伸ばしていったようである。ただ、元々神事といった根拠はないので、継続は難しい。筆者の記憶では、2000年頃にはなくなってしまった。
現在行なわれている「まつり宮崎」は、その当時とは主催形態を変えた、別のイベントである。
「マスクと消毒」の中で
冒頭の「まつりえれこっちゃみやざき」は、宮崎市や宮崎商工会議所などが主催する、比較的新しい夏まつりである。筆者も宮崎に転居して初めて見ることとなったが、例年であれば「市民総おどり」といった総勢3,000人規模のイベントが開催されるそうだ。踊りのステージも2019年は11ステージあったものが、今回は5ステージに縮小された。
踊りが中心のイベントということで、会場の舞台では、市内にある高校のダンス部などが次々とパフォーマンスを披露した。筆者の母校のダンス部も出場していたが、もちろん筆者の在学時にはそんな部活動は存在しなかった。日本では2012年より中学校の保健体育教育の一環として、男女ともダンスが必修となったことから、パフォーマンスとしてのダンスへの理解が拡がっていった。
コロナ禍に突入した2020年初頭からほぼ全ての行事が中止となったわけだから、披露する場もなく今年3月に卒業してしまったダンス部員もいるはずである。その思いもあってか、各校のパフォーマンスにも、応援する保護者にも力が入る。
主催者によれば、今年の来場者数は約8万人と発表された。これはコロナ禍前の2019年開催時と同数である。気温は30度を超える真夏日であったが、マスクなしの来場者はみかけなかった。
ただ長時間の祭りゆえに、飲食は避けられない。飲食用のテーブル席も設けられており、そこへの入場は検温と手指の消毒が義務付けられていた。飲み物を口にしながら、あるいはヤキトリにかぶりつきながら通りを歩く中学生も見かけたが、飲食スペースの席が十分に足りるわけではないことから、ある程度は致し方ないところだろう。生ビールや缶チューハイなどのアルコールも販売されていたが、飲んでいる人をあまり見かけなかったのは、やはり時期が時期だけに自粛した人が多かったようだ。
現在またコロナ感染者の増加が始まったタイミングだが、宮崎県でも7月21日には最多の感染者2,000人越えとなっている。そんなタイミングでの開催となったが、否定的な意見はあまり聞こえてこない。
今後宮崎市では、8月6日の「みやざき納涼花火大会」と、翌日7日の「まつり大淀21」は、今のところ予定通り開催される見込みである。一方宮崎市東側にある植物園で例年8月上旬からお盆過ぎまで開催される「みやざきグルメとランタンナイト」は、中止が決定している。これはかなり長期間のイベントで、アルコールを伴う飲食がメインであるため、中止はやむを得ないだろう。
同じく8月下旬の「まつり宮崎2022」は、今のところ開催とも中止ともアナウンスがない状態が続いている。昨年の経験では、お盆休みの帰省のタイミング後の8月21日あたりで感染者数のピークを迎えている。したがって8月後半のイベントは、難しいかもしれない。
ただ、閉じこもって何もしない、させないでは、経済活動が滞るだけでなく、人にもストレスがかかる。感染には十分な注意と対策が必要だが、昔からの行事を後世に伝えるという意味でも、イベント開催は地方でも好意的に受け止められる傾向にある。