石野純也のモバイル通信SE
第15回
iPhone 14シリーズ最大の特徴「衛星緊急SOS」を試す
2022年11月22日 08:20
アップルは、iPhone 14シリーズに搭載された新機能「衛星経由の緊急SOS」を11月15日(現地時間)に開始した。当初は、米国とカナダのみが対象だが、12月にはフランスやドイツ、英国、アイルランドにもサービスを拡大する予定だ。日本での開始時期は未定だが、日本で購入したiPhone 14シリーズも、衛星通信に利用する周波数には対応しており、対象国に持ち込んだ際には利用することができる。
かく言う筆者も、日本版のiPhone 14 Proで衛星経由の緊急SOS(のデモ)を試すことができた。15日から17日にかけ、米ハワイ州マウイ島で開催されていたクアルコムの「Snapdragon Summit」に参加していたためだ。あくまでデモではあるが、実際に衛星からの電波をキャッチし、メッセージを入力するところまでの操作はできる。同機能の使用感が分かりやすく、実践的なデモに仕上がっていた。ここでは、その手順等を解説する。
緊急SOS利用の流れ 衛星をつかむのは案外大変
衛星経由の緊急SOSが開始されたニュースを見て、iPhoneの設定アプリを開いたところ、機内モードの上に「緊急時に助けを求める」という項目が表示されていた。ここをタップするだけで、衛星経由の緊急SOSを試してみることができる(米国では)。
2回目以降は、「設定」の「緊急SOS」からこのデモを呼び出せる。ただし、「緊急SOS」から起動できるのは、あくまでデモだけ。後述するように、本当にこの機能を使う際には、「探す」アプリを開く必要がある点には注意が必要だ。
デモ画面を開くと、衛星経由の緊急SOSに関する簡単な説明が表示される。これを読んだあと、「衛星通信接続をテストする」をタップすると、モバイルデータ通信がオフに、衛星からの信号を受信するための画面に切り替わる。この画面では、どの方向に衛星があるかが表示されるので、ガイダンスに従いiPhoneを向ける位置を調整するといい。衛星の電波をキャッチすると、「接続されました」と表示され、レーダーのような扇状の図が緑色に変わる。
空から電波が降ってきているだけに、調整はなかなかシビアだ。当初はベランダでテストしてみたが、衛星の方向にiPhoneを向けると、ちょうど空が屋根で見えなくなってしまう。体を乗り出すとギリギリでつながるが、そのままメッセージを打ったりするのは危ないので、ベランダとは真逆の方向にある廊下に移動した。廊下も外に向かって開けているため、こちら側には衛星のある方角に遮蔽物がない。そのままiPhoneを空に向けていると、画面が切り替わり、メッセージアプリのようなチャット画面が表示された。
相手からのメッセージは、緊急事態の例や、iPhoneから送信された情報が記載されている。続けて届いたメッセージには質問が書かれており、それに沿うような形でハワイにいることや、助けが必要であることを送信してみた。本番では、この情報をいったんセンター(緊急通報指令係)が集約したあと、緊急通報機関に取り次ぐようだ。米国での緊急通報ながら、デモは日本語で表示されていた。特段言語が指定されていなかったため、日本語で返信してみたが、本番時にきちんと受理されるかどうかは不明。不安な場合は(米国やカナダでは)英語でメッセージを書くようにしたい。
一通りのやり取りが終わると、デモが終了する。いざという時に情報を更新するのは、なかなか大変なため、テストした機会に設定を見直してみるといいだろう。準備を促すだけでなく、電波のつかみ方を試せるのはなかなか実践的。緊急時の備えができるよう、きちんと設計されているように見えた。
本番の衛星経由の緊急SOSは、「探す」アプリから呼び出す。こちらから試してみたところ、位置情報の共有をオンにすることを促されたほか、メディカルIDを最新にするよう求められた。
その後は、デモと同様、衛星経由で位置情報を送信する画面に切り替わったが、モバイルネットワーク使用時には利用できない旨が表示された。緊急時でも、通常のモバイル通信が使えれば、そちらで連絡するだけで済む。条件的には圏外で、衛星経由でしか通信できない場合にしか起動しないようだ。
日本での衛星SOS対応はいつ?
ちなみに、日本帰国後も「設定」の「緊急SOS」には、衛星経由の緊急SOSの項目は残っていたが、非対応地域ということで呼び出すことができなかった。本番環境はもちろん、デモも対象となる地域でしか試せない。こればかりは、アップルがサービスを開始するのを待つほかないだろう。
衛星経由の緊急SOSは、米Globalstar社の低軌道衛星を利用している。同社のサービス自体は、日本でも展開されており、緊急時にSOSを送るメッセンジャーや盗難追跡装置、電話などが販売されている。電波を利用するための規制は、すでにクリアしているというわけだ。
ただ、衛星経由の緊急SOSは、ダイレクトに緊急通報機関にメッセージを送るわけではなく、センターがメッセージを取り次ぐ形になる。サービスを開始するには、こうしたインフラ的な準備が必要になる。警察や消防との連携も必要になるため、準備には時間がかかることも推察される。iPhone 14シリーズの“売り”の1つで、ニーズもありそうなだけに、サービスの早期対応に期待したい。