ミニレビュー
スマートリング「EVERING」で電車に乗る 指輪デバイスの可能性・実用性
2024年8月2日 08:20
NTTドコモは、5月10日よりVisaのタッチ決済に対応したプリペイド式スマートリング「EVERING(エブリング)」を、全国のドコモショップのうち一部店舗で発売した。
EVERINGは2021年から発売されているが、ドコモが取り扱い開始するとともに、活用シーンも広がっている。実際に試す機会を得たので、使い勝手などを検証してみた。
機能強化していく「EVERING」
EVERINGは、日本初のVisaのタッチ決済に対応したスマートリングとして2021年に株式会社EVERINGが発売を開始。当初はVisaのタッチ決済の利用のみが可能だったが、その後スマートロック「bitlock」「SESAMI」の施錠・解錠や、オフィスへの入館時に利用する社員証代わりとして利用できたり、2024年6月28日からは公共交通機関での利用に対応するなどの進化を遂げている。
そして、今回ドコモが発売したEVERINGの仕様も、すでに発売済みのものと基本的には同じだ。
ドコモが扱うカラーはブラック、ホワイト、シルバーの3色。販売価格は、一括購入の場合ブラックとホワイトが19,800円、シルバーが21,450円。定額プランではブラックとホワイトが月額550円、シルバーは初月2,200円で2カ月目以降は月額550円。保証期間は一括購入時は1年、定額プランは2年。
素材はジルコニアセラミックで、シルバーのみ微量の金属を含んでいる。充電は不要で、通常のタッチ決済対応カードと同じように決済端末からの電波を受けて発電し動作する。もちろん防水仕様で、指にはめたまま水に濡れても全く問題はない。
Visaのタッチ決済機能はVisaプリペイドカードをベースに実現しており、仕様もVisaプリペイドカードにほぼ準じている。
決済はあらかじめチャージした残高の範囲内で利用できる。チャージできる金額は1回あたり1,000円以上最大3万円、1カ月あたり累計12万円まで。チャージ残高の上限は10万円。チャージ残高が設定した金額を下回った場合に、自動で指定した金額をチャージするオートチャージ機能も用意している。
チャージは、専用アプリに登録したクレジットカードを利用して行なう。セキュリティ上の理由からデビットカードやプリペイドカードでのチャージは不可能な場合があり、推奨していない。
EVERINGにはアクティベーションから4年間の有効期限が定められている。また、決済の累計上限額は100万円で、EVERINGの有効期限内に累計決済額が100万円に達した場合には決済が行なえなくなるが、新しいEVERINGと無償交換することで残高を引き継いで利用できる。有効期限に到達すると累計決済額が100万円未満であっても決済できなくなるが、新しいEVERINGに更新することでチャージ残高を引き継ぎ、新たな有効期限で利用できる。ただし、解約するとチャージ残高は返金されず無効となる。
この他、アプリでは取引履歴を確認したり、決済機能のロックが可能。万が一EVERINGを紛失した場合には、決済機能をロックすることで決済を行なえなくして不正利用を防げるとともに、新しいEVERINGに再登録することで、それまでのチャージ残高を引き継いで利用できる。
決済端末へのタッチにはコツが必要
では、実際の使い勝手を見ていこう。とはいっても、こちらも既存EVERINGと何ら変わることはない。
Visaのタッチ決済に対応する店舗で決済を行う場合には、Visaのタッチ決済で決済することを伝えて、EVERINGを決済端末にかざせばいい。また、決済時に暗証番号やサインを求められることもない。今回は1,000円未満の少額決済しか行なっていないが、PIN/サイン不要で決済できる点はなかなか便利だ。
ただし、カードと違いEVERINGは決済端末にかざす場合には少々コツがいる。
EVERINGは小型かつ指輪状のデバイスということもあって、決済端末のリーダー部分とEVERINGが水平になるようにかざす必要がある。具体的には、EVERINGを指にはめた状態で手を軽く握り、指の先端側をリーダーにタッチする、といった具合だ。手を開いてタッチしたり、手を握ってEVERING部分をタッチしようとすると、リーダーに対してEVERINGが垂直になってしまい、正常に決済できない場合があるので注意が必要だ。このあたりは、使いながら慣れる必要がありそうだ。
とはいえ、コツさえ掴めば軽快な決済が可能。実際にVisaのタッチ決済が利用可能なコンビニや飲食店、スーパーなどで使ってみたが、特に問題なくスムーズな利用が可能だった。
公共交通機関での利用もスムーズ
当初EVERINGは、タッチ決済に対応する公共交通機関で利用できなかった。
しかし、6月28日より公共交通機関での利用に対応し、各地で増えつつあるタッチ決済対応交通機関でも利用が可能となった。
今回は、タッチ決済による乗車の実証実験を行なっている京王線で試してみた。京王線でのタッチ決済による乗車は、国内で標準的に利用されている三井住友カードの公共交通機関向けソリューション「stera transit」を利用している。3月末時点で18駅にタッチ決済対応自動改札機を設置しており、2024年度内に全駅での対応を予定している。実証実験中は、高尾山へのアクセス用として用意している企画きっぷ「高尾山きっぷ」をタッチ決済で利用できるようにしている。
今回は、府中駅から乗車して高尾山口駅で下車、また高尾山口駅から乗車して高尾駅で下車、の2パターンで利用してみたが、いずれもトラブルなく利用可能だった。タッチ決済は、SuicaなどFeliCaベースの交通系ICカードと比べると読み取り速度がやや遅いと言われるが、試した限りでは改札を通過する上で大きな妨げになるとは感じず、スムーズな改札通過が可能だった。
stera transitを利用しているため、1日分の運賃を合算して翌日に引き落としとなる。今回は、7月24日に乗車し、翌25日の午前4時過ぎに料金が引き落とされた。
ここで注意したいのは、チャージ残高不足での支払い失敗だ。もし翌日の引き落としの段階で残高不足だった場合、支払いが失敗となりEVERINGが「乗車拒否リスト」に入る。そうなると、乗車拒否リストから解除しない限り公共交通機関での利用ができなくなってしまう。
また、乗車拒否リストからの解除は、利用した公共交通機関の窓口に出向いて解除手続きを行なう必要がある。もし旅先の公共交通機関で利用し乗車拒否リストに入ってしまうと、解除手続きが非常に面倒となってしまうので、公共交通機関で利用する場合には、オートチャージを設定するなど、残高不足にならないよう配慮する必要がありそうだ。
ところで、stera transitベースのタッチ決済に対応する公共交通機関に乗車した場合、「Q-move」サイトで会員登録すると公共交通機関での利用履歴を細かく確認できる。ただしEVERINGは割り当てられているカード番号を確認できないため、Q-moveに会員登録できず(会員登録時に利用したクレジットカード番号の登録が必要)、利用履歴を参照できない。EVERINGの利用履歴で1日分の合算料金は確認できるが、細かな履歴は確認できないため、この点は改善してもらいたいところだ。
ドコモ独自仕様の可能性は?
今回は、ドコモ版EVERINGを使用したが、ここまで見てきたように、既存EVERINGとは異なる部分は見あたらず、既存製品をそのまま販売しているだけだ。
ではなぜ今、ドコモがEVERINGを扱うことになったのか。この点ドコモに聞いてみたところ、以下のような回答をいただいた。
「ドコモはこれまでも、より便利で効率的な社会の実現に向けたキャッシュレス化の推進のため、ライフスタイルに合わせて選べる、3つのキャッシュレスサービス「dカード」「d払い」「iD」を提供してきました。今回はさらなる決済シーンにおける体験価値の向上をめざし、指輪一つで決済ができるという便利で快適なライフスタイルを、お客さまに提供していこうと考えました。また現在、インバウンドなどを背景に、都市部を中心に公共交通機関でのVisaタッチ決済が普及され始めており、EVERINGをご利用いただけるシーンも大きく拡大しています。(2024年6月28日から、「EVERING」が公共交通機関でご利用可能になりました)」
つまり、ドコモが取り組んでいるキャッシュレス化推進を後押しするために取り扱いを決めたとのことだが、今のところ独自サービスの提供やドコモのサービスとの接点はない。
そこで、今後ドコモ独自サービスの提供などの展開も考えているのか聞いてみたところ、「デザインや仕組み面など、さまざまなバリエーションのスマートリングやその活用について検討する予定です」との回答だった。
ドコモは3月、株式会社EVERINGとスマートリングを活用したスマートライフ事業の推進に関する業務提携契約を締結している。今回のEVERING発売はその業務提携後最初の取り組みで、今後新機能提供の可能性を模索しているところなのかもしれない。
ただ、例えばd払いと組み合わせてd払い残高やdポイントをEVERINGのタッチ決済で利用する、といったことが実現できるのであれば、印象は大きく変わってくるはずだ。それだけにドコモには、EVERINGを売るだけでなく、より踏み込んだ活用方を実現してもらいたい。