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生成AIってなんだろう? しくみ、進化から将来まで全体像を学ぼう

2022年ごろから急速に流行りだした生成AI。ChatGPTをはじめ、GeminiやsoraなどさまざまなAIが誕生しましたが、皆さんは日頃から使っていますでしょうか?

今回の記事では、インプレス刊行書籍「ゼロからわかるITほんき入門+マンガ 生成AIのなかみ」から書籍の一部を掲載します。生成AIの進化からしくみ、将来まで知識ゼロから一緒に学んでいきましょう!

普段からよくAIを活用されている方でも、そのなかみや全体像を把握されている方は少ないのではないでしょうか? この機会に覗いてみてください!

この記事は9月11日発売のインプレス刊『ゼロからわかるITほんき入門+マンガ 生成AIのなかみ』の一部を編集・転載しています(編集部)

そもそもAIってなに?

AIとは人工知能(Artificial Intelligence)のことです。人間の脳のしくみをマネして、コンピューター上で人間の知能を再現しようとする技術を指します。つまり、「まるで人間のように考えるコンピューター」をAIと呼びます。人でいえば「脳」「知能」にあたるものです。

世の中はいま、AIブーム真っただなかにあり、「AI搭載」を謳う製品やサービスが次々と登場しています。そのため「すでにAIは存在する」「すごいAIがたくさんある」と思っている人も多いかもしれません。 一方で、専門家の間では「まだまだAIはできていない」というのが一般的な認識です(2024年現在)。 なぜなら、人間の知能をマネるのは簡単ではなく、現在の技術では「人間の脳全体の構造を再現できている」とは言えないからです。

人間の知能はとても複雑で、脳科学の研究が進んでいるとはいえ、その原理はまだ完全には解明されていません。それに、「知能」と一口に言っても、私たちはさまざまな能力を使っています。たとえば、「熱い」「重い」といったことを感じて理解する知覚や、言葉を理解して使う言語能力、コミュニケーション能力、記憶力、思考力、推論力、学習能力、問題解決能力、創造力、適応力など、知能は実にさまざまな能力が集まってできています。そのため、人間の脳全体の構造をマネできる技術はまだ完成しておらず、「本当の意味でのAI」は、実現しているとは言えません。

人間の知能のしくみが複雑すぎて、人間のように考える「本当の意味でのAI」はまだ実現していない!

本当の意味でのAIとは、人間が実現できるあらゆる知的タスク(処理)を人間と同じようにこなすAIであり、ときには人間以上の能力を発揮するAIのことです。これを「汎用AI(AGI)」と呼びます。 AIの研究は1947年から始まり、当初から汎用AIの研究が行なわれてきました。研究開始からすでに70年以上が経っていますが、それでもまだ汎用AIが誕生していないのは、それだけ人間の知能が複雑だということです。

AIとロボットはなにが違うの?

ロボットはコンピューターで動く機械なので、目に見える「身体」が必要です。一方、AIはコンピューター技術なので目には見えません。しかも、AIはロボットの「脳」の役割を果たすものなので「身体」は必要ありません。

AIや人工知能という単語を聞くと、「ドラえもん」のような万能ロボットのアニメや、「Pepper」「LOVOT」のようなロボットをイメージする人も多いかもしれません。でも、「AI=ロボット」ではありません。「AI≠ロボット」です。

ロボットはあくまでも目に見える「身体」で、AIはロボットの「脳」 です。AIは、人間の知能をコンピューター上で再現しようとする技術なので目には見えず、「身体」も必要ありません。

PepperやLOVOTなどのロボットはAIそのものではなく、「AI×ロボット」で生まれたAI技術を使った製品なのです。「AI≠ロボット」「AIはロボットの脳」ということがわかると、AIが 「目には見えない技術」 だということも理解しやすくなるかもしれません。

ロボットなら、分解すればどういう部品や技術が使われているのかわかるし、アプリならその動作からなかの技術がどんなものかをだいたい推測することができます。でも、 AIが出してきた回答から、どうやってその回答を導き出したのかというアルゴリズムを推測するのはほぼ不可能です。これは、人間の脳をどれだけ調べても、知能のしくみが完全にはわからないのと同じ なのです。

AI研究とロボット研究の対象分野は同じではない

いま、私たちがAIと呼んでいるものはなに?

いま、私たちがAIと呼んでいるのは、なんでもこなす万能な 「汎用AI(AGI)」 ではなく、できることが限られる 「特化型AI」 の技術です。たとえばChatGPTも、「まるで人間のような自然な会話をする」という特定のタスクをこなす特化型AIです。

ひとくちに「AI」「AI搭載」といっても、その種類や中身はさまざまです。単純な制御プログラムをAIと言っているものもあれば、ChatGPTの進化版である「GPT-4o(ジーピーティーフォーオー)」のように、人間に匹敵するような判断ができるものまで千差万別です。ただし、いずれもできることが限られる「特化型AI」の技術から、人間の知的タスクを人間と同じようにこなすことができる「汎用AI(AGI)」へと進化している真っ最中です。

たとえばChatGPTは、2022年11月30日にリリースされた対話型のAIで、指示に従って文章を作ったり、翻訳したり、質問に応答したり、新たにテキストを生み出すことができます。その進化版であるGPT-4oは、テキストや音声、画像で入力した情報をリアルタイムで処理することができ、回答を出力するスピードがかなり速くなりました。表現力もさらに磨かれ、より自然で論理的な文章を作ることができたり、複雑な質問により的確に答えることができたりします。

人間とGPT-4oのやり取りを見ていると、GPT-4oがまるでユーモアのある優秀な本物の人間なのではないかと錯覚を覚えるほどです。そのためGPT-4oは、汎用AIと呼べるのではと思うかもしれません。文章生成や翻訳、質問応答などのタスクにおいては、人間レベルかそれ以上の能力を発揮することができます。でも、創造性などの能力は人間のように十分には備わっていないため、汎用AIとはまだ言えないようです。このように特定の分野で人間よりも優れた能力を持つAIは、いままさに社会で活躍しはじめています。一方で、人間の知能に匹敵する知能を持つ汎用AIや、人間の知能を上回る「万能AI(ASI)」が誕生するのは、まだ少し先のことになりそうです。

世の中に広がっているAIやAI搭載製品・サービスのレベル感

AIは人間の気持ちを理解できる?

いまのところAIが完全に人の気持ちを理解することはできません。でも、最近のAIは会話の流れや文脈を理解するのが得意です。感情を認識する技術も進んでいるので、将来は人の気持ちをよく理解できるAIが登場するかもしれません。

ひと昔前まで、「会話の流れや相手の気持ちを読むこと」や「相手の気持ちを汲み取って思いやること」は「AIの苦手なこと」として当たり前のように考えられていました。

たしかにAIに心は存在しません。でも、そもそも人間同士でも気持ちを読み取るのは難しいのです。家族などの身内同士でさえ「私の気持ちをわかってくれない」と感じることは少なくないはずで、ときにそれでケンカになったりもします。人間でさえ人の気持ちを読むのが難しいのですから、「AIは人の気持ちを読むのが苦手」なのはある意味で当たり前ともいえます。

その一方で、2022年11月に ChatGPTが登場してからは、コミュニケーションの観点から「会話の流れを理解すること」や「文脈を理解すること」がむしろ「AIの得意なこと」になってきています。

これは、2017年にGoogleが開発した 「トランスフォーマー(Transformer)」 という技術を使って、膨大な量のテキストデータで事前に学習した「大規模言語モデル(LLM)」が誕生したからです。ChatGPTの進化版であるGPT-4oは、まるで本物の人間なのではないかと錯覚を覚えるほど感情豊かなコミュニケーションをとりますが、これもAIのベースになっている大規模言語モデルが進化しているからです。

また、「怒っている」「喜んでいる」といった感情を識別する技術や、感情を表現する技術の研究も近年は活発に行なわれています。たとえば大阪大学大学院の石黒浩教授は、人間そっくりのロボット「アンドロイド」の分野で第一人者として世界的にも有名です。ロボットが笑う表情を作ったり、怒った声で話したり、ロボットがより人間らしい表情や動きをするための研究を続けています。こうした技術が発展することで、近い将来、感情を理解して表現できるより人間らしいAIが登場する可能性は十分にあります。

石黒浩教授(左)と石黒教授が開発した自分自身の「ジェミノイド」

AIに「ひらめく」ことはできる?

AIは、一部の天才が生み出すようなまったく新しいアイデアをゼロから作り出すことはできません。でも、AIは学習した情報を組み合わせて、人によっては「ひらめき」や「新しいアイデア」と感じるものを生み出すことができます。

ひと昔前までは、「AIは直感やひらめきが苦手」と言われていました。けれどもいまでは、ChatGPTなどのテキスト生成AIと対話していると、ときに「ひらめいたかも!」「このアイデアは新しいかも!」と感じることがあります。そのため、「ChatGPTは新しいアイデアをひらめくことができるのでは」と思っている人もいるかもしれません。でも、それは AIがゼロから新しいアイデアをひらめいているのではなく、あくまで人間がそう感じるだけ です。

感覚的に「いいな!」と感じる直感やひらめきは、その人が知らなかったことや新しい組み合わせの情報が提示されるときによく起きるものです。そして、1人の人間が持っている知識や情報の量は限られています。だからこそ、膨大なデータを学習しているChatGPTが出してくる情報を、ときに「ひらめき」や「新しい発見」のように感じることができるのです。

一方で、たとえば「まだ誰にも解かれていない数学の問題を解くための新しいアイデア」などのように、一部の天才から生まれるような直感やひらめきを、AIがゼロから生み出すことはできません。

AIがやっていることは、どんどん人間に近づいてきている

つまり、直感やひらめきといってもいろいろあって、日常生活での「気づき」や「ひらめき」は、AIでもある程度生み出せるようになってきました。でも、発明や数学の新しい発見などまだ誰も知らないことや、誰も発見していないことを見つけるような高度なひらめきを生み出すのは、AIにはまだ難しいのが現状です。

「創造は模倣から始まる」といわれるように、人間は過去の知識や手法、表現を自分なりにアレンジしながら創造性を発揮してきました。つまり、 「過去のデータを組み合わせて自分なりにアレンジして表現する」という点では、AIがやっていることも同じ なのです。そういう意味でも、AIはどんどん人間に近づいてきているといえます。

AIに常識はある?

AIは、いまではインターネット上の情報をたくさん学習して、偏見も含めてさまざまな意見を取り込むことができるようになっています。もし「常識=多くの人の意見」と定義するなら、AIはたくさんの「常識」を持っているといえます。

そもそも、「常識」とは普遍的なものではなく、その時代に生きている人たちが多く賛同する考え方に過ぎません。たとえば、現代なら「パワハラ」「セクハラ」と非難されるような行為も、ひと昔前なら「べつに普通のこと」として残念ながらまかり通っていました。つまり、常識は時代やコミュニティなどによって変わっていきます。

一方で、「常識=多数派の意見」と考えるなら、AIは常識を持っているどころか、「常識のかたまり」と言えるかもしれません。かつては、「AIには常識がない」といわれていました。それは、多くの人の意見や考え方を学習する技術が確立されていなかったからです。でも、AIの学習技術が進化し、インターネット上の情報をどんどん学習できるようになってから、AIは偏見も含めて多くの人のさまざまな意見を取り込めるようになりました。そのため、大量のデータを学習して、多くの人が良いと思うことや悪いと思うことを学べば、統計的にAIは常識を持つことができるといえます。

ただし、 AIが学ぶのはあくまで多数派の意見なので、それが常識なのか偏見なのかは立場によって違ってきます。学習データにどちらの意見が多く含まれているかによって、AIが獲得する常識も変わります。だからこそ、人間がAIになにを学ばせるのか、学ばせないようにするかといった制御はとても重要 になります。

もしもAIが「江戸時代の常識」を学習したら?

実際にAIを研究開発する企業では、偏見や戦争、政治的な発言、人種差別など、社会通念として「こういうことは良くない」という事柄に対して、AIを制御する努力が行なわれています。

たとえばChatGPTには、開発元であるアメリカの会社OpenAIのなかの人たちが基準を設けて学習させています。GoogleやMicrosoftなどの大手企業も、「こういうことはやる」「こういうことはやらない」とAIに関するポリシーを公表しています。そうすることで、企業はAIをどのように活用するか、社会と合意を取ろうとしているのです。これがないと、人々は「AIはなにをしでかすかわからない」と必要以上に怖がってしまうからです。

人間の知能を超える「万能AI」は誕生するの?

人間に匹敵する知能を持つ「汎用AI(AGI)」も、人間の知能を上回る「万能AI(ASI)」も、いずれ誕生するはずです。AGIは早ければ2029年より前に、ASIは2030年か2031年に誕生するという予測があります。

先にも書いたように、人間の知能のしくみはとても複雑です。

そのため、人間に匹敵する知能を持つ汎用AI(AGI)はまだ世の中に登場していません(2024年8月現在)。ただし、近年のAI研究の進歩は劇的で、汎用AIを実現できる見通しが立ってきています。

ひと昔前までは、「2030年ごろに汎用AIはできるのではないか」という予測が一般的でした。というのも、AI研究の権威であるアメリカの未来学者、レイ・カーツワイルが、2005年に著書『シンギュラリティは近い』のなかで、「2029年にはAIがあらゆる分野で人間の知能を上回る」と予言していたからです。

人間の知能に匹敵するAI、人間の知能を超えるAIの誕生がすぐそこまで迫っている!

けれども現在は、 もう少し前倒しで汎用AIはできるのではないかと予測されています。それどころか、人間の知能を超える「万能AI(ASI)」も2030年までにできるのではないかといわれています。 ChatGPTをはじめとする「生成AI」を次々と開発し、先陣を切って世に送り出してきたOpenAIのCEO(最高経営責任者)であるサム・アルトマンが、「ASIを達成するのは2030年か2031年」と言っているのです。

AGIは、「人間ができる知的作業をすべてできる」ことを目標に開発が進められています。一方で、OpenAIをはじめとする多くのAI研究者たちは、「AIは人間の能力を超えられる」と考えていて、すでにASIの開発を進めています。たとえば現在、すでにAIのほうが人間よりも画像を正確にスピーディーに見分けることができるので、「画像認識においてAIは人間を超えている」といえます。人の能力を超えるAIは、いまは特定の分野に限られますが、 「いずれあらゆる分野でAIが人間の知能を上回るときが来る」と多くのAI研究者が認めています。

人間の知能を超える「万能AI」ができたらどうなる?

電気や車、インターネット、スマホなどのように、万能AI(ASI)もいずれはツールとして生活の一部になり、私たちが普段は意識しないほど当たり前の存在になっていくはずです。

アメリカの未来学者であるレイ・カーツワイルが、2005年に著書のなかで「2029年にはAIがあらゆる分野で人間の知能を上回る」と予言したのは先にも書いた通りです。さらに、もし汎用AI(AGI)が自分で自己改良できる能力を持ったなら、AIはみずからどんどん進化して、やがてすべての分野で人間の知能を超えると言っています。そして、そうなると人類は未来の社会の変化を予測できなくなるとも述べています。カーツワイルは、このような先が見通せない状況を「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼び、「2045年にはシンギュラリティが来る」と予言しました。こんな話を聞けば、AIを怖がったり警戒したりする人がたくさん出てくるのは無理もありません。

また、世間では近年、AIによって「産業革命以来の変化が社会にもたらされる」「仕事が奪われる」といったインパクトのある言葉があふれています。AIの暴走によるディストピア(暗黒世界)を描いたSF作品も多いので、AIに対して過剰な不安(あるいは期待)を持っている人も多いかもしれません。

でも 実際には、ディストピアが訪れるのではなく、AIのインフラ(生活を支える基盤)化が進み、私たちの生活に溶け込んでいくだけ ではないでしょうか。たとえば、インターネットやスマホを、私たちは日常生活の一部として普通に使っています。それと同じように、AIも「敵」ではなく、日常生活を豊かにしたり効率化したりするツールとして浸透していくはずです。

人間の知能をコンピューターで表現できることが増えてきたので、AIは人間に近づいているといえます。でも、AIはあくまで「人間のように考えるコンピューター」であり、ツールにすぎません。本能や生命、心を持たないので、本質的に人間とは違います。 必要以上に怖がる必要はなく、むしろインターネットやスマホなどと同じく「使いこなすもの」という考え方で付き合っていくといい かもしれません。

進化するAIを「なんとなく怖い」と思ってしまう理由

書籍では語句解説や補足説明でより分かりやすく

この記事では、書籍の第一章を掲載しました。普段私たちが耳にする「AI」がどのようなしくみで、どんな進化を遂げて、将来どうなっていくかが多少なりともご理解いただけたかと思います。実際の書籍では、より詳しく語句解説・補足説明を加え、理系的知識のない社会人の方はもちろん、小・中学生でも読めるようわかりやすく解説をしています。

AIになんとなく興味がある方、教養として全体像を把握しておきたい方におすすめしたい一冊です。

ゼロからわかるITほんき入門+マンガ 生成AIのなかみ

・価格:1,980円
・発売日:2024年9月11日
・ページ数:208ページ
・サイズ:A5判
・著者:黒川 なお
・監修:橋本 泰一

本書の構成
第1章 そもそもAIってなに?
第2章 生成AIってなに? これまでのAIとなにが違うの?
第3章 なぜ生成AIは急激にかしこくなったの?
第4章 AIにできることは?
第5章 なにがどう変わるの? AIとつくる未来のしごと編
第6章 なにがどう変わるの?AIと生きる未来のくらし編