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タッチ決済乗車、関西エリアで一斉展開 万博を目前にオーバーツーリズムも対策
2024年10月29日 18:30
Osaka Metro(大阪市高速電気軌道)、近畿日本鉄道、阪急電鉄、阪神電気鉄道の関西鉄道4社は、10月29日より、三井住友カードの公共交通機関向けソリューション「stera transit」を利用したクレジットカードのタッチ決済による乗車サービスを一斉に開始した。
対応駅数は4事業者合わせて548駅で、各事業者をまたがる相互直通利用にも対応しており、異なる事業者をまたがる直通運転の列車に乗車する場合でも、交通系ICカード同様にクレジットカードのタッチ決済で乗車が可能。
対応するカードは、MasterCard以外の全国際ブランドのクレジットカード、デビットカード、プリペイドカード。MasterCardについては現在対応準備中で、2025年開催の大阪・関西万博開催前に対応する予定。
また、他のstera transit利用事業者と同様、QUADRACが提供する専用サイト「Q-moveポータル」において、リアルタイムで乗降履歴が確認できる。
今回のタッチ決済対応に合わせ、Osaka Metro、近畿日本鉄道、阪急電鉄の各社では、各駅にタッチ決済に対応する自動改札機を設置。対応する自動改札機の前後の床にはタッチ決済に対応していることを示す青色を基調とした共通の誘導ステッカーが張り出される。
阪神電気鉄道は、当初はタッチ決済対応自動改札機の設置は大阪難波駅のみで、それ以外の駅での導入は2025年春頃を予定しており、当面は改札口の係員にタッチ決済利用を告げて利用することになる。
関西エリアでは、南海電気鉄道、大阪モノレール、泉北高速鉄道、京都丹後鉄道、神戸電鉄、神戸市営地下鉄、新神戸交通、新神戸六甲鉄道(六甲ケーブル)の8社がすでにタッチ決済による乗車サービスを提供しており、今回の4事業者が加わったことで、関西エリアでタッチ決済による乗車サービスが大きく拡がることになった。
広がるタッチ乗車 「オーバーツーリズム」にも有効
サービス提供開始前日となる10月28日、上記鉄道4社と南海電気鉄道、三井住友カードによる合同記者会見を開催し、概要などを説明した。
三井住友カード 代表取締役社長兼最高執行役員の大西幸彦氏は、ワールドワイドでのクレジットカードのタッチ決済比率(全クレジットカード決済に対するタッチ決済の割合)はすでに8割を超えるとともに、海外の公共交通機関では830以上の事業者で対応と急拡大している。また、日本でのタッチ決済比率も、2023年春頃には10%程度だったのが直近では40%を超えるまで広がり、世界だけでなく日本でもタッチ決済の時代に突入していると紹介。
こうした中、今回の関西鉄道4社によるタッチ決済による乗車サービスの開始は、2025年4月13日に開幕する大阪・関西万博のインバウンド客への対応という側面もあるが、国内で先行してタッチ決済による乗車サービスを実施している事業者では9割近くが国内の利用者であるというデータを紹介。いつも買い物などで利用しているクレジットカードを使って鉄道に乗車することでポイントも貯めやすくなり、地域の人にも便利に使ってもらえると大西氏は説明した。
この他、新たなMaaSアプリの提供も予定。stera transitを利用する事業者に対して共通のプラットフォームとして提供し、複数の事業者にまたがるサービスや、乗車と購買を組み合わせたサービスなどを簡単に実現できるという。このMaaSアプリは2025年3月の提供開始を予定している。
Osaka Metro常務取締役の堀元治氏は、stera transit導入の背景や今後の展望を説明。近年の訪日外国人観光客の増加によって、Osaka Metroでも現金を使って券売機できっぷを購入し利用する割合が増え、券売機付近の混雑が日常的に見られている。しかも、2025年の大阪・関西万博には、約360万人の海外からの来場者が見込まれている。
そういった状況を背景に、訪日外国人観光客や交通系ICカードを持っていない利用客が、クレジットカードやスマートフォンだけで乗車できるという新たな乗車方法を提供することで、駅の混雑対策に非常に有効であると考え導入に至ったと説明。そして、1970年開催の前回の大阪万博の直前に、阪急電鉄北千里駅に初めて設置された自動改札機が日本全国に普及したの同じように、タッチ決済による乗車サービスも新たな乗車手段として定着してもらいたいとの期待感も示した。
そして、Osaka Metroでは、タッチ決済も含め様々なサービスに対応する高機能かつ高速な自動改札機の導入を進めるとともに、QRコードや顔認証を利用した様々な乗車サービスを提供することで、交通事業者としての責務を果たしていきたいと述べた。
南海電気鉄道 取締役 常務執行役員 公共交通グループ 鉄道事業本部長 梶谷知志氏は、先行して導入しているstera transitによるタッチ決済乗車サービスの現状を説明。
南海電気鉄道では、2021年4月に16駅でstera transitを導入し、2024年10月時点では42駅で対応、2024年度末までにほぼ全駅に導入する予定。
stera transitの利用状況としては、現在のところ国内の利用者が大半を占めているという。一方、海外の利用者としては、導入当初は欧米の利用客が中心だったのに対し、最近はアジアを中心とした利用が増え、中でも韓国の利用者が大きく伸びていると説明。
利用者数についても年々増えてきており、2023年度は2021年度の6倍以上に増加し、現在では月3万件程度の利用が見られるそうだ。
その上で今後は、今回の4事業者による対応に伴う利便性の向上により、海外の利用客の増加を期待するとともに、stera transitの特徴を活かした他社や商業施設などとの連携や、カード利用に伴うデータを活用した新たなサービスの提供なども検討したいと述べた。
三井住友カード Transit事業推進部長の石塚雅敏氏は、stera transitの現状やメリットについて説明。10月28日時点、stera transitは、国内で31都道府県の133の事業者が導入しているが、2025年度末までに42都道府県、全国の大手民鉄16社と公営地下鉄8社において約70%の駅での設置を見込んでいるという。
stera transit導入のメリットとしては、海外の利用者が現金不要で利用できるようになることで窓口の混雑を緩和したり、きっぷ購入の煩わしさを解消でき移動のハードルを低減できることなどを紹介。全国で問題となっているオーバーツーリズムへの対応策として有効であるとした。
国内利用者のメリットとしては、チャージの手間が不要で利用できることや、貯めたいポイントが貯まることなどを紹介。また、1日や1カ月の利用額に上限を設けたり、オフピーク割引きのような時間帯での割引やマイナンバーと連携した敬老パスなどのサービスなど、これまでにない乗車方法を提供できる点も示された。
またstera transitを起点とした新たなMaaSプラットフォームを2025年3月から提供。乗車に加え、各地域の販売店や観光施設などとの連携を深めていき、地域を活性化するプラットフォームに成長させていきたいという。そのうえで、利用者の移動や消費活動の最適化、交通事業者のコスト効率化、行政サービスとの連携などによって、快適な移動体験の実現を目指す。
その核となるMaaSアプリは、stera transitを利用する事業者のアプリにstera transitのサービスを組み込むことや、三井住友カード側が共通のアプリを構築することを想定しているとのこと。
また、クレジットカードの利用に伴い、移動と購買の活動データの相関性を見える化できるとし、そちらを活用した新たなサービスなどの提供につなげ、交通を含めた地域の体験価値の向上も目指したいと説明した。