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185gを切るSteamVRヘッドセット「MeganeX superlight 8K」

Shiftallは、マイクロOLEDパネルやパナソニックグループと共同開発したレンズを搭載する軽量・高性能なVRヘッドセット「MeganeX superlight 8K」(SVP-VG3B)を発表した。価格は249,900円。予約受付を開始しており、2025年1~2月に出荷される予定。

「MeganeX superlight 8K」(メガーヌエックス)は、SteamVRアプリの表示に対応するVRヘッドセット。PCと有線接続で利用する。

片目で1.35型/4K/90Hz/10bit対応のマイクロOLEDパネル(両目では7,104×3,840ピクセル、約2,700万画素)を搭載し、パナソニック独自開発の、樹脂レンズ3枚構成によるパンケーキレンズを搭載。SteamVRアプリケーションのHDR表示に対応し、世界最高水準のVR体験を提供すると謳う。

MeganeX superlight 8K
1.35型/4K/90Hz/10bit対応のマイクロOLEDパネル

本体にデュアルマイク、電動IPD(瞳孔間距離)調整機構(58~72mm)、メガネ要らずのピント調整機構(0D~-7D)を全て搭載した上で、本体部分は185g未満の軽さを実現。「装着感を忘れるほどの軽さと寝転んでも邪魔にならないヘッドバンドで長時間利用が快適」という。

ストラップは額パッドと後頭部を結ぶデザインで、本体は額パッドからぶら下がる形状。額パッドには本体を跳ね上げるフリップアップ機構が備わり、短時間のうちにVR空間と現実空間を行き来するような用途にも応える。このほか本体に装着する「手持ち棒アダプター」も同梱され、ストラップを使わない手持ちでの利用も可能。

額パッドにフリップアップ機構
額パッドのフリップアップ機構の使用イメージ
手持ち棒

SteamVRトラッキングでの6DoFトラッキングに対応。トラッキングのベースステーションは1.0または2.0を別途用意する。コントローラーについては、Shiftallが販売する「FlipVR」だけでなく、市場にあるさまざまなSteamVRトラッキング対応コントローラーと組み合わせた利用が可能。

Shiftallが販売する「FlipVR」

付属のコンバーターボックスを利用してPCと接続。PC側の接続端子はDisplayPort+USB 2.0で、ヘッドセット側はUSB Type-C。アダプターレンズに対応、メガネショップアイから発売される。

同梱のライトシェードなし
ライトシェードあり

すべてはVRChatのために

Shiftall 代表取締役CEOの岩佐琢磨氏

「MeganeX superlight 8K」は、コンシューマ向けの展開において、VRChatをはじめとする“VR SNS”に特化した仕様で開発されているのが特徴。

「我々のような小さなプレイヤーは、最初にチップセットや形状を決める段階で誰に向けて作るのか決めることが重要」(Shiftall 代表取締役CEOの岩佐琢磨氏)というように、すべての仕様がVR SNSに、事実上は「VRChat」に特化して、決定されている。

同社は1月の「CES 2024」で「MeganeX superlight」として片目2.6K、200gといった仕様の製品の概要を発表していたが、CESから3カ月程度経過した時点で“競争力不足”と判断し、開発を中止。仕様を刷新して新たに開発したのが「MeganeX superlight 8K」になる。

その開発過程では、用途を明確にして仕様を特化させるという同社製品の特徴を、さらに押し進めている。例えばノートPCの世界で、ビジネス用途に特化したパナソニックの「レッツノート」が厳しい競争を生き抜いてきたということを挙げ、VRヘッドセットにおいても、用途特化型が市場で生き残るカギになるという考えが説明されている。

そのVRアプリにおいて最も利用されているのがVRChatという。スタンドアローン型アプリなどでの利用を除いた、SteamVRの同時接続数だけをみても、VRChatの利用は1カ月平均で3万人を超えており、また直近4カ月で非常に大きく伸びている状況。ダウンロード数などで見るとほかのアプリも優勢だが、利用時間でみるとVRChatが圧倒的な一強状態という。

VRChatユーザーに最適化

そうしたVRChatの利用に特化して開発されたのが「MeganeX superlight 8K」。注力されたのはまず重量で、本体部分だけで約185g、額パッドとストラップを取り付けた状態で約250gと、徹底的に軽さが追求されている。

見え方に影響する高性能なマイクロOLEDパネルの仕様は、AppleのVision Proを上回る画素数を実現するなど妥協しない一方で、いくつかの要素をバッサリと省くことで軽量なボディを実現。軽いことにより、額パッドだけで本体を支えられ顔への圧迫感を軽減できる、ストラップをソフトで簡素化したデザインにできるなど、さまざまな好循環が生まれている。

省かれた機能の代表例は、外部カメラ。一般に、インサイドアウト方式のトラッキング(ユーザーの位置の判定)や、周囲の様子をとらえ映し出すMR機能向けに搭載されることが多いが、製品コンセプトがMR向けでないことや、重量増の要因として、外部カメラは非搭載。代わりに物理的なフリップアップ機構を搭載して、本体を跳ね上げて周囲を簡単に見られるようにしている。

無線接続機能も非対応。Wi-Fiの仕様の面で、片目4Kクラスの映像の綺麗さを保ったままの伝送は事実上困難という理由のほか、無線接続=バッテリー駆動が必須という課題もある。片目4Kといった高精細な映像が特徴の本製品は、バッテリー駆動ができたとしても稼働時間が1~1.5時間程度にとどまり、VRChatのような長時間利用するケースにはそぐわないとする。また長時間の稼働が可能なバッテリーは重量増にもつながるため、搭載されていない。

ほかにもスピーカーは搭載されておらず、音を聞く場合は本体下部のUSB Type-Cポートにヘッドセットやイヤホンを付けて利用する。このUSB端子はハンドトラッキングセンサーなど一部のセンサーを取り付けて利用することもできる。

本製品単体ではトラッキング(ユーザーの位置の判定)ができず、SteamVRトラッキングに対応するベースステーションの設置が必要。コントローラーも同様に別途用意する必要がある。なお、SteamVRトラッキング用のセンサーが内蔵されているため、従来品のMeganeXのように、本体にオプションパーツを取り付ける必要はない。

このほかPCと接続するUSBポートは本体上部に設けて、左右に突起がないデザイン。前述の柔らかい素材のストラップと合わせて、寝転んでも快適に利用できるというVRChatユーザーに優しい仕様としている。

一方、省かれずに搭載されているのは、電動の瞳孔間距離(IPD)調整機構や、手動のピント調整機構。これらは家族や友人と一緒に使う際や、法人向けの利用シーンでも便利に使える機構として搭載されている。本体下部にアルミプレートを装着して、ミニ三脚や手持ち棒を装着できるようにしたのも、女性向けやビジネスシーンでの活用を見越した仕様となる。

岩佐氏は「全部欲しいけど、全部入れると結局中途半端になる」として、「MeganeX superlight 8K」の仕様の大胆な取捨選択について語っている。「VRChat、VR SNSに特化して作ったということを、つよく強く申し上げたい」(岩佐氏)と、用途特化型製品であることを強くアピールしていた。

ビジネス展開するパナソニックは?

「我々の展開にVRChatは関係ないが(笑)、特化したほうがいいだろう、となった。Shiftallのユーザーと我々の顧客はまったく違うが、リクワイア(要求)は同じ」と語るのは、パナソニック 事業開発センター XR統括の小塚雅之氏。

パナソニックは前述のように製品に搭載されるパンケーキレンズ部分の開発を行なったほか、製品のビジネス展開もパナソニックの営業網を駆使して行なっていく。

パナソニックグループが狙う分野

PC VRの製品は、自動車メーカーの製品開発現場での活用、CADソフトウェアメーカーでの応用など、幅広い分野に展開できるが、従来製品であるMeganeXを展開した際の課題や、ビジネス市場で大きなシェアを占めるVarjoの製品と比較して、新製品は強みを発揮できる部分が多いと紹介する。

画質、特に画素数が従来のMeganeXから向上

その一例は重量で、ハイスペックなVarjoの製品は重量が1kgを超え、長時間の利用に耐えないという声も少なくないという。

重量と画素数の関係をプロットした比較。Shiftallの新製品は独自のポジションを確立している

また「MeganeX superlight 8K」は業務用モニターと同レベルの画質を実現したといい、プロの現場でも、業務用PCモニターと行き来するような場面で、色や素材感のチェックに使用できるレベルに到達できているとしている。

解像度については従来のMeganeXでは不足が指摘されることが多かったといい、今回の2,700万画素超の「MeganeX superlight 8K」でこれを解消した形。10bitでHDRに対応できる点も強みで、自動車の外装・内装のデザインチェックなど、明暗差の激しい描写に対応できる。いっぽうで、軽量で装着性に優れる点や手持ち棒で簡単に確認できるといった仕様は、幅広いビジネスシーンで歓迎されるものになっている。

小塚氏が独自にプロットした比較では、Varjo XR-4と比較してリフレッシュレート以外の画質は同等か上回るレベルで、高画質と軽量化を両立した、競争力のある製品に仕上がっていることが紹介されている。

MeganeX、MeganeX superlight 8K、Varjo XR-4の比較
約250gは額パッド、ストラップ、シェード込みの重量