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大阪万博「未来の都市」全貌公開 12者が描く社会・モビリティ・エネルギー

「未来の都市」パビリオン 画像提供:2025年日本国際博覧会協会

2025年日本国際博覧会協会は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の未来社会ショーケース事業業・フューチャーライフ万博「未来の都市」のパビリオンについて、協賛12者が主体として実施する「個者展示」の概要を発表した。博覧会協会が主体の「共通展示」とあわせ、15のアトラクションを展開する。

大阪・関西万博は、2025年4月13日から10月13日までの184日間、大阪府の夢洲(ゆめしま)にて開催される。8月28日時点で、開幕まで228日となる。

「未来の都市」は、博覧会協会と12者の企業・団体による共同出展事業。それぞれの知見と技術力を活かし、経済発展と社会課題の解決を両立する「Society 5.0が目指す未来の都市」をともに考え、描いていくことを目指している。

会場は、万博会場西側のウォーターフロントに位置し、施設面積約4,800m2(長さ約150m、幅約33m)、展示面積約3,300m2と、大阪・関西万博の中でも大規模なパビリオンとなる。

8月9日の現地の様子

今回発表されたのは協賛12者による個者展示で、博覧会協会が主体の共通展示については7月17日に発表されている。

出展する協賛12者は以下の通り。

  • 日立製作所
  • KDDI
  • 川崎重工業
  • 商船三井
  • 関西電力送配電
  • 日本特殊陶業
  • 日立造船
  • IHI
  • 神戸製鋼所
  • 青木あすなろ建設および小松製作所
  • CPコンクリートコンソーシアム
  • クボタ

パビリオンの展示演出テーマは「幸せの都市へ」。個者展示では、「Society 5.0と未来の都市」「交通・モビリティ」「環境・エネルギー」「ものづくり・まちづくり」「食と農」といった5つの分野で展開する。

パビリオン内の模型

Society 5.0と未来の都市

「Society 5.0と未来の都市」については、日立製作所とKDDIが共同で出展。「未来は自分たちで変えられる」をコンセプトに、未来の課題に対する解決策を来場者が自ら選択することを通して、未来の都市がどのように変わるのかをシミュレーションにより体験できる。

これまでの社会は、物事の決定を委ねる代表者を選ぶというやり方が一般的だった。それに対して近年は、インターネットを駆使して1人1人の声が世の中に広がり、インパクトを与えるというようなことも起きている。そういった中で、1つ1つの声をつなぎ合わせて相乗を生み出し、未来の社会の変化を作っていくという基盤が必要になるのではないかという考えに基づいた展示を行なう。

展示は、「シアターゾーン」と「アクションゾーン」で構成する。

シアターゾーンは、来場者120人が一度に入場できるシアター形式の施設で、スマートデバイスを活用して未来の都市を創るインタラクティブな体験が可能。サイバー空間と物理的(フィジカル)空間を高度なITシステムで連携し、現状分析や将来予測を行なうことで社会課題解決を行なう「サイバーフィジカルシステム」を体現したものとなる。シアターゾーンと同様の体験をメタバース上に構築予定で、大阪・関西万博の会場外からも体験できるようになる。

シアターゾーン イメージ

シアターゾーンの設定は、来場者が「2035年の未来をのぞき、課題解決に参加できるサイバー空間」というもの。来場者は、2035年の未来に住む子どもから、身近なテーマについてのSOSを受け取り、ナビゲーターとともに未来の課題や選択肢について理解を深めながら、解決策を選択する。

SOSを出す2035年の未来に住む子ども イメージ

アクションゾーンは、子どもが体を動かしながら楽しく参加できるゲームコンテンツ。1人1人の行動が都市の課題を解決に導き、未来の都市を変えられることを体験できる。詳細は今後発表する。

アクションゾーン イメージ
展示エリアおよび未来の都市の模型

交通・モビリティ

「交通・モビリティ」については、川崎重工業、商船三井、関西電力送配電が出展。人やモノが単に移動するだけでなく、移動シーンに環境貢献などの新たな価値が生まれ、重なり合っていく様子を紹介する。3者はそれぞれが展示を行なうが、壁で隔てない形で展開する。

川崎重工業の展示テーマは「移動本能」。「移動することによって幸せを感じる」といった仕組みが遺伝子レベルで組み込まれているという研究結果を基にして考えている。また、初めての場所へ移動して幸せを感じると、脳内の記憶と意欲などに関わる領域が強く結びつくということも脳画像分析から判明しているという。こういったことから、人のDNAには「移動本能」が存在し、それを叶えるためにモビリティが生まれ、進化してきたものと考察している。

社会の変化を見ても、より沢山の獲物を求めて遠くに行くため、より沢山の農作物を育てるため、より沢山の工業製品を運ぶため、画面で見たきれいな景色をより早く快適に見に行くためと、時代に合ったモビリティを開発・進化させてきた。

「未来の都市」のテーマであるSociety 5.0の社会では、モビリティがさらに進化するものとし、「移動本能」を解き放つことをテーマとした、ひと・もの・こころを動かすパーソナルモビリティとマスモビリティを実物大で展示する。

パーソナルモビリティは、今の乗り物では行けなかった場所に、より安全に行ける、新感覚の乗車体験が可能なモビリティを提案する。

パーソナルモビリティの位置づけは「Society 5.0 CONCEPT 01」

マスモビリティは、旅や移動の概念を変える新しい公共交通システムを表現。陸・海・空それぞれの輸送機器を手掛ける同社グループだからこそ実現可能な、誰もが自由で快適な移動を楽しめるシステムとしている。

マスモビリティの位置づけは「Society 5.0 CONCEPT 02」

詳細やビジュアルは万博までは非公開だが、ともに水素を動力にしたモビリティをコンセプトとすることを明らかにしている。

川崎重工業の展示エリアイメージ。実際にはモビリティが展示される

商船三井は、「『風と船』が作る、未来のエネルギー」をテーマに、従来の船や海運の概念や常識を覆す、新しいモビリティの可能性を体験できる展示とする。体験を通じて、海や地球環境全体への興味・関心を引き出し、来場者と未来を共創するきっかけを提供することを目指す。

展示コンセプトは「WIND VISION」で、無尽蔵の自然エネルギーである“風”を最新の技術で活用するグリーン水素生産船「ウインドハンター」を提案する。

ウインドハンターでは、ウインドチャレンジャープロジェクトで培ってきた帆の技術を使い、さらなる技術を適用。洋上風でグリーン水素を創る・貯める・運ぶを兼ね備えた、動く洋上風力発電と水素生産設備が融合したハイブリットプラントとなる。

ウインドハンターの模型

展示のメインアトラクションは、ウインドハンターを体感する参加型の「Wind Vision attraction」。来場者が風を起こすことで、風の強さや向きに合わせて帆が動くとともに、水素製造や陸上に供給していく仕組みについての映像と連動する。そのほか、海運と船の可能性を示す5つのテーマ映像を放映する。

関西電力送配電は、モビリティ・防災・観光等への用途が期待されるプラットフォーム「スマートポール」を展示する。モビリティでは自動運転制御やEV充電、防災では非常時の給電や避難誘導、観光では観光情報掲出や混雑緩和、モビリティ連携などへの活用に向けた実証が進められている。

未来の都市では、パビリオン建屋エントランス前に設置し、風力およびペロブスカイト太陽電池による発電、気象センサーによる環境計測、巻付型サイネージによる情報掲出、ワイヤレス充電、AIカメラによる迷子探査等の性能を評価する。

展示エリアでは、スマートポールが実現する未来の街を、来場者の分身となるアバターが探索する没入型体験コンテンツ「ミライスコープ」を展開する。

環境・エネルギー

「環境・エネルギー」については、日本特殊陶業、日立造船、IHIが出展。さまざまな「循環」をつくることで、エネルギーの新しい恵みを創り出す、持続可能な地球への進化した取り組みを紹介する。

Niterraグループ 日本特殊陶業は、循環技術の課題として資源エネルギーを固定場所に集める必要があり、全ての人に平等に届けられないことを挙げる。これに対して、「CyclusNiterrium(サイクラスニテリウム)-Niterraの循環型社会実験場-」をコンセプトに、どこへでも、誰にでも持続可能な資源エネルギーを届ける「自律可搬型循環技術」を紹介する。

また、同社の超音波技術を用いた最新の疑似体験装置を通して、循環技術を宿した生命体「ニテオン」たちと触れ合うことができる。

ニテオン

日立造船は、人と地球のつながりを体現するベースとして「世界樹(World tree)」を設定し、「In the world tree」をコンセプトとした展示を行なう。

ブースの中心に配置された世界樹の幹には4つのミラーサイネージの体験装置(E-motion device)が設けられており、来場者は体験装置を通じ、IoTやAIと資源循環・脱炭素技術が融合したSociety 5.0の社会および同社のビジョンを体を動かして楽しみながら感じられるとしている。

ブースの模型

4つの体験コンテンツのタイトルは「資源ごみで、クルマとまちを動かそう」「生ごみで、まちを支えよう」「紙ごみで、ひこうきを飛ばそう」「いろんなごみで、社会を動かそう」。

ブースアテンダントのユニフォームはゴールドウインが作成。AIを用いて生地の裁断時に発生する廃棄物を削減し、ファッションの新たな生産システムを探求することなどを目的としたゴールドウインのプロジェクトである「SYN-GRID(シングリッド)」を活用している。

ブースアテンダントのユニフォーム

IHIは、「自然と技術が調和する持続可能な社会とはどのようなものか」「その社会における環境やエネルギーの姿とは」「自然と共生しながら、安心安全で豊かな生活を実現することはできるか」について、来場者とともに考える場とすることを目指した展示を行なう。

展示スペースではキューブ型のシアターを設け、「不思議な空飛ぶキューブ」をモチーフとした、巨大な3面スクリーンの映像を映し出す。来場者はキューブに乗り、海の中、宇宙、ミクロの世界を駆け抜ける没入型映像を体験できる。

映像のテーマは「水の話、火の話」。「水の話」では災害を防ぎ、必要なところへ水を供給するスマートなインフラが安心・安全な暮らしを守る未来の技術を、「火の話」では燃焼時にCO2を出さないアンモニアが創り出すクリーンなエネルギーが豊かな暮らしを守る未来の技術を体感できる。

ものづくり・まちづくり

「ものづくり・まちづくり」については、神戸製鋼所、青木あすなろ建設および小松製作所、CPコンクリートコンソーシアムが出展。CO2削減、資源循環、災害対策などの社会課題に向き合い、自然との共生をかなえる取り組みを紹介する。

神戸製鋼所は、テーマの異なる3つのゾーンを巡ることで、ものづくりの未来・可能性を実感できる展示とする。直径2mの球体モニターや5.5mの大型モニターによる映像、映像と機械仕掛けでリアルに体験できるゾーンにより、「インパクト&イマジネーション訴求型展示」を体験できるとしている。

青木あすなろ建設および小松製作所は、「誰もが活躍・人々の命や暮らしを守る『未来の水中工事』」をテーマとした展示を行なう。

両社は、自然災害や、少子高齢化などによる工事の担い手不足といった社会課題の解決に向け、熟練技術がなくとも水中での工事を遠隔操縦で高精度かつ容易に施工可能な電動式の水中施工ロボットの開発に取り組んでいる。2023年7月にはコンセプトマシンが完成し、現在まで、河川や漁港などでの実証を行なってきた。

水陸両用ブルドーザー(左)と実証中の水中施工ロボット(右)

展示では水中施工ロボットのコンセプトマシンの大型模型や3Dディスプレイによる水中の体験演出のほか、「未来の水中工事」を3編のショートムービーにて、大型スクリーンを使って紹介する。

CPコンクリートコンソーシアムは開発中の、製造時から建設後もCO2を吸収し続ける次世代コンクリート「CPコンクリート」を紹介する。CPコンクリートにより、森や海と同様に、街でもCO2を吸収することで温暖化の阻止を図る。

来場者はエアシップに乗って、地球温暖化の危機を乗り越えた未来と、地球温暖化が進んだ未来を滑空しながら、地球を救う鍵は「CPコンクリート」であることを体感できる展示とする。万博の会場には、CPコンクリートで作られたベンチや歩道も設けられる。

食と農

「食と農」については、クボタが出展。つくる人・売る人・食べる人をつなぐ食のバリューチェーンによって、命のみなもとを守り、行き渡らせる様子を紹介する。

農業においては、未来に向けて人と地球にやさしく、世界中に幸せな食を届けることが求められているとし、食と農業を支えるテクノロジーを発信。全幅20m超の天幕スクリーンと巨大LEDモニターを活用した映像演出や、「食と農業」をテーマにした参加型のシミュレーションゲームなどを展開する。

バーチャルプラットフォームでパビリオンとは異なる体験も

KDDIは、大阪・関西万博会期中にバーチャルプラットフォーム上に未来の都市(バーチャル未来の都市)を構築し、パビリオンと違った体験を提供する。

バーチャル未来の都市はKDDIだけでなく、未来の都市のほかの協賛者とともに構築。バーチャル未来の都市への来場者はアバターとして街を散策し、協賛者の未来のテクノロジーに触れたり、街の住人と会話したりすることで、未来を考えることができる体験を提供する。詳細は今後発表する。