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科博の「昆虫展」がスタート! 夏休みの自由研究に最適!

東京・上野の国立科学博物館で始まった特別展「昆虫 MANIAC」

小中学校の夏休みがスタートしたのに合わせて、東京・上野の国立科学博物館では、7月13日から10月14日までの会期で、特別展「昆虫 MANIAC」が始まった。地球上で報告されている生物種の半数以上にのぼる、約100万種を占める最大の生物群である昆虫……その多様な生態に迫る展覧会です。

特別展「昆虫 MANIAC」

会場:国立科学博物館(東京・上野公園)
会期:2024年7月13日(土)~10月14日(月・祝)
入館料:一般・大学生2,100円、小・中・高校生600円

なお本展は、会場内の撮影が基本可能だが、映像展示の撮影は禁止となっている。

カブトムシやハチなど、5つのゾーンが楽しめる!

特別展の名前が「昆虫 MANIAC」……略して「昆虫展」となっているが、同展で展開されるのは「昆虫を含む陸上を生息域とする節足動物」たち。つまりカブトムシなどの甲虫はもちろん、トンボやバッタ、カマキリから、チョウやガ、それにクモに至るまでの……ムシたちが登場する。

まず会場に入ると、昆虫とは何かを説明するお勉強ゾーンがある。例えば、現在認識されているものだけでも100万種の昆虫がいることや、ほとんどの昆虫が幼虫から成虫へと変態すること、または基本的に6本の脚をもつ動物であること、さらに昆虫とムシの違いなどが解説されている。改めて見ると、大人でも「あぁ〜、そうだったよねぇ」とか「知らなかったなぁ」と興味深く巡れる。

小さな子供たちには文章を読むのが難しいかもしれないが、イラストも交えて解説されているので、保護者が内容を噛み砕いて教えてあげるといいだろう。また、第1章を抜ければ、すぐにムシの標本や模型などがたくさんある……子供たちの心を踊らせる第2章へと突入する。まずは第2章を見た後に、じっくりと第1章を巡るのもおすすめだ。

第1章の展示風景
第1章の展示では、例えばカブトムシであれば、その基本とマニアックな知識とが解説されている。その後、第2章のカブトムシなどの甲虫を紹介するゾーンへ行くと、より詳しく知ることができる

今展のメイン会場と言えるのが第2章。大きく5つのゾーンに分かれている。

  • 「トンボの扉」:トンボのほかバッタやセミなど
  • 「ハチの扉」:ハチのほかハエなど
  • 「チョウの扉」:チョウやガのチョウ目
  • 「クモの扉」:クモのほか、ダニやサソリ
  • 「カブトムシの扉」:カブトムシやクワガタムシなどの甲虫(コウチュウ目)

各ゾーンには、実際のムシを拡大した巨大模型が展示されているので、気になるムシの模型を目指して進むといいだろう。

「トンボの扉」にある、ギンヤンマのヤゴを約40倍に拡大した模型
「チョウの扉」にある、ウスバキチョウを約60倍に拡大した模型
「クモの扉」にある、オオナガトゲグモを約110倍に拡大した模型

例えばハチのゾーン「ハチの扉」には、「エゾオナガバチ」が産卵している姿を模型にしている。エゾオナガバチは、長い産卵管を木に突き立てて、樹木内にいる別種のハチ(キバチ)などの幼虫の体表に、産卵する寄生バチだ。

ハチを中心として紹介するゾーンに展示されている「エゾオナガバチ」の巨大模型。模型の中央にある黒い支柱のような棒が産卵管
寄生する側のエゾオナガバチと、寄生される側のクロヒラアシキバチ

「ハチの扉」の監修を担当したのは、国立科学博物館の研究員、井手竜也先生。井手先生は、今展全体の監修も担当している。そこで、井手先生に今展全体のコンセプトと、「ハチの扉」の魅力を語ってもらった。

「全体のコンセプトとしては“マニアック”としていますが、ムシの知識がそれほどない人にも、ムシを理解できるようにしています。さらに各ゾーンを『ハチの扉』や『トンボの扉』という名前にしています。例えば『トンボの扉』であれば、トンボをはじめとする不完全変態昆虫を入り口にして、昆虫の世界の面白さを知ってほしいと思っています」

各ゾーンに入ると、見た目などで興味を引く展示構成が目立つ。例えば「ハチの扉」であれば「ハチによく似た“ハエ”」の標本が集められている。姿だけでなく、飛び方もハチとそっくりなハエもいるのだという。

『ハチの扉』のブース内に並ぶ様々なハチ

また、井手先生が楽しそうに語ってくれたのは、巨大模型となっているエゾオナガバチなどの寄生バチ。

「ハチの仲間は15万種くらいいますが、その半分以上は寄生バチの仲間なんです。なかでも面白いのは、寄生した相手を最終的には食べてしまう捕食寄生者です」

この寄生バチを説明するために、“寄生するもの”と“寄生されるもの”とが、展示されている。

「また、飼い殺し型寄生者というのもいます。例えばアオムシサムライコマユバチは、生きたモンシロチョウの幼虫に寄生します。そして寄主の幼虫の体液だけを吸ってから外に出て、繭(マユ)を作るんです……その一部始終をとらえた映像もここで見られます」

その他に、寄生するだけでなく、寄主の行動を操作する寄生バチもいるのだとか。この、ムシが苦手な人には少し刺激が強そうな、寄生バチの生態は、黒と黄色のストライプで囲われた場所で展示されている。また各ブースににも、こうした閲覧注意コーナーといった展示が、設定されている。

寄生バチが紹介されているコーナー

一般的にハチと言えば、ミツバチなど花の近くを飛んでいるイメージが筆者にはあったが、実は寄生バチの方が種としては多く、それだけ多様化しているということになるそう。

そうして寄生バチのことを楽しそうに説明してくれた井手先生だが、専門に研究されているのはタマバチ科のハチたちだという。同じく寄生バチだが、こちらは植物に卵を産み、植物に寄生するもの。寄生された植物には、葉の裏などに「虫こぶ」と呼ばれる変化が現れる。

今回の展示のために井手先生が作ったという虫こぶの標本

「わりと身近に観察できる虫こぶは、見ているだけで面白いのですが、マイクロCTで撮影して中を見ると、すごい構造をしている虫こぶもあるんですよ。あとは、世界で唯一ぴょんぴょん跳ねる、ジャンピング・ゴールワスプと呼ばれる虫こぶっていうのもあります。これ、虫こぶが地面に落ちて、跳ねながら少しずつ移動する。最終的に乾燥しないような場所に転がっていき、跳ねなくなるという習性を持っているんです。そうした色んな虫こぶの標本や映像が見られますよ」

跳ねる虫こぶは、意思を持っているわけではないそう。そのため、運が悪いと適していない場所へ行ってしまうこともある。会場にある映像で、跳ねる様子をが見られるので、ぜひ見てほしい。本当にぴょんぴょんと弾けるように、跳ねながら移動しているのが分かる。また同じ展示スペースには、大きなものから形が独特のものまで、各種の虫こぶが手で触れられるのも楽しい。

オスとメスが合体したムシたち

今展では、パッと見て「なにこれ?」とか「きれい!」とか思える展示が多いのも特徴だ。カブトムシやクワガタムシなど、甲虫に迫るエリア「カブトムシの扉」には、きらきらと光るキレイなムシや、オスとメスの特徴が1つに同居した「ギナンドロモルフ」と呼ばれるムシも見られる。

主に甲虫を紹介する「カブトムシの扉」
「カブトムシの扉」の上を飛ぶ、巨大なオオセンチコガネ
様々な甲虫が見られる
人気のカブトムシやクワガタムシ

筆者が興味深いと思ったのが、昆虫の性別を解説する流れで展示されている「ギナンドロモルフ」。研究員の野村周平先生は「オスとメスの特徴を合わせ持った個体が、何千匹か何万匹に1匹出てくるんですよ」と、展示を見ながら解説してくれた。

「ギナンドロモルフという種ではなく、同じ種の中で、オスとメスとも決められない個体が出てくるんです。ここでは、そうした非常に稀な個体を展示しています」

カブトムシのギナンドロモルフ
チョウのギナンドロモルフは、左右だけでなく斜めに雌雄が分かれているものもある

ちなみに野村先生の専門は、アリヅカムシという土の中にいる、大きさが1mm以下の微小な甲虫だという。

「色んな昆虫を調べたり集めたりしてきましたが、微小な甲虫の中には、まだ名前の付いていない種類が非常に多いんです。だから、わりとすぐに新種に辿り着きます。ほかの人があまりやらない分野を掘り起こしていく、新天地を開拓していくようなおもしろさがありますよ」

ただし対象がものすごく小さいため、野や山へ行ってムシを採種して「あ! これは新種だ!」ということにはならない。まずは手当たり次第に(ではないと思うが)採種してきて、研究所に戻り電子顕微鏡などで調べた後……つまり採種してから2日も3日も経ってから「あっ!」となるのだという。

アリヅカムシが野村先生の専門。非常に微小なため、サンプルの隣には、拡大された画像パネルがある
アリヅカムシの一種。マクロレンズや虫眼鏡があると、観察しやすい

最近、そんな“新種”を発見した芸能人がいる。今展の公式サポーターを務めるアンガールズの山根良顕さんだ。昨年11月に、テレビ番組のロケ中に、新種の昆虫「モトナリヒメコバネナガハネカクシ」を発見した。山根さんは発見時の状況を次のように語る。

「見つけた時は(昆虫を専門とする)先生が一緒についていてくださったんです。その先生が『うわ! これ珍しいですね』って言われたんですけど、テレビ的なおべんちゃらで言ってるなと思ったんです。でも本当に新種だったので、びっくりしました」

発見時の様子を語る、アンガールズの山根良顕さん

この話について野村先生は「山根さんが最初に発見した、まさにその瞬間がカメラに収められている……こんなことは、ありえないこと」だと驚いていた。

展覧会の最後では、そんな山根さんが発見した新種、モトナリヒメコバネナガハネカクシの標本や、発見時の映像なども見られる。

アンガールズの山根さんが発見した、新種を紹介するコーナー
山根さんが採集した個体。しっかりと山根さんの名前が記されている。比和自然科学博物館蔵

おそらくこの記事を読んでいる人たちは、ムシが好き……もしくは嫌いではない人が大半だろう。だが世の中には、ムシが嫌いとか苦手という人も多いのが現実だ。前述の井手先生によれば「(多くの人が)ムシが嫌いなのではなく、得体のしれないものが嫌いっていうことなんですよね。だから、ムシが嫌いって自分に言い聞かせるんじゃなくて、もっと『ムシとは何か?』を知ってほしい」という。

「昆虫をテーマとした特別展の開催は6年ぶりです。当時来てくれた小学生は、みんな中学生や高校生になっているはず。ちょうどムシ嫌いになる境の時期に差し掛かっていると思うんです。そういう子供たちに、もっと新しい面白さを届けたいという思いで今回の特別展を作っていきました」

井手先生が語るように、国立科学博物館の特別展「昆虫 MANIAC」では、様々な切り口で「ムシとは何か?」に迫っている。ムシが好きで、今まさに夏休みの自由研究で昆虫採集している! とか、もっと新しいことを知りたい! という人はもちろん、筆者のように、好きではないけれど苦手でもないという人にも、おすすめしたい。

また特別展のほかにも、同館の常設展にはムシ関連の展示が豊富だ。まだ解明されていないことも多い、昆虫やムシたちの奥深い世界を楽しんでほしい。

平常展でもムシに関するマニアックな知識が得られる
昆虫採集の仕方を丁寧に解説するコーナーもある