ニュース

全方位トレッドミルとディスプレイでデジタルツイン美術館を歩く

筑波大学 岩田研究室、武蔵野大学 石橋研究室、丹青社は、2月15日、サイバー空間の美術館を歩いて鑑賞できるようにするサービスを発表した。8台のプロジェクタを使った全方向空間没入型ディスプレイと、前後左右どの方向にも動ける「トーラストレッドミル」を用い、美術館のデジタルツインのなかを移動できる。

東京都の「5G等先端技術サービスプロジェクト」の一環。「歩行体験を提供する西新宿サイバーフィジカル美術館」として、2月27日〜3月19日の期間、京王プラザホテルの3階アートロビーで一般公開される。1回あたり5分間程度、誰でも体験できる。

一般公開は2月27日〜3月19日、11時~19時。京王プラザホテル3階アートロビー

歩くことは「人間の根源的な欲求」

筑波大学システム情報系 教授 岩田洋夫氏

「歩くことは人間の根源的な欲求だ」と筑波大学システム情報系 教授の岩田洋夫氏は語る。それはVR体験でも変わらないという。「VRでは瞬間移動は簡単。でも実際に歩くことは難しい。観光旅行でも楽しいのは街の散策などの自由行動。『歩いて探索すること』は人間にとって非常に重要だ」と考えて、今回のシステムを発案したという。

「トーラストレッドミル」は12個のベルトコンベアを数珠繋ぎにして、前後左右に自由に動くようにした床。センサーで歩行動作を認識し、歩いたぶんだけ床を逆向きに動かす。位置を変えることなく、好きな方向に好きなだけ無限に歩ける。

トーラストレッドミル
ベルトコンベアを数珠繋ぎにしている
正面に置かれたセンサーで足の動きを検出し、逆方向に床を動かす

「全方向空間没入型ディスプレイ」は8台のプロジェクタを使って、壁と床と天井の全てに映像が投影されるバーチャル展示室。全ての視野を映像が覆う。同時に、自分の身体もリアルに見えるので臨場感がある。壁は後ろ側から、床と天井はプロジェクタの穴を開けてそこから投影しており、トレッドミルの動きと連動する。このようなコンパクトさで全方向プロジェクションができる仕組みは世界初だという。

周囲は全方向空間没入型ディスプレイ
名画が投影されている

実際には小刻みに足を前へ動かすようにすると前へ、横に動くと横に動く。重心移動などは計測していない。足踏みだけではダメで、実際に前へ歩かなければならない。最初は慣れないが、慣れると面白い不思議な体験だ。

デジタルツインを美術館にも

設備全体

今回はこれらのデバイスを使って、武蔵野大学 データサイエンス学部 教授の石橋直樹氏らと共同で、コンテンツとして「アーティゾン美術館のデジタルツイン」を作成した。東京都中央区京橋にある石橋財団「アーティゾン美術館」の実際の展示室と展覧会用造作壁の3Dモデルを作り、サイバー空間に再現した。「石橋財団コレクション」の名画がバーチャルに展示される。西新宿で体験したいこととして「美術」という声があったことを反映させたという。

「バーチャルだが身体はリアル。美術館は空間全体が体験。だから海外旅行でもみんな美術館に行って実際に歩いて鑑賞する」(岩田氏)。「アーティゾン美術館」自体もDXが進んでいる美術館で、絵画データベースや建物データの整備が進められていることなどから、今回の体験展示へと繋がった。

今回は「アーティゾン美術館」オープニング時の壁を再現した。個々の作品のデジタル化だけではなく、空間全体のデジタル化へと広げようとしており、額も絵に合わせてフレキシブルに嵌められる額を作ったという。「サイバー・フィジカル」「デジタルツイン」は工場での活用が進んでいるが、それを工場以外にも広げる試みだ。

世界中の美術館の探索も可能に

また、トーラストレッドミルと5Gを活用し、アーティゾン美術館でカメラを搭載した全方向移動ロボットを操作する実験も行なった。トレッドミル上を歩くと、現地のロボットがそのぶんだけ動き、その360度映像を全方向ディスプレイで体験するしくみだ。

このような仕組みを使えば、世界中の美術館のバーチャル鑑賞体験が可能になる。美術館だけではなく「将来的には災害訓練や、健康寿命の延長にも活用できるのではないか」と岩田氏は語った。

世界の美術館を探索することも可能