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FTX破綻、国内への影響は? 問われる日本の規制基準
2022年11月22日 16:40
暗号資産交換業大手のFTX Trading(以下FTX)が経営破綻したことを受けて、欧米ではニュース・議論が噴出している。暗号資産業界へのインパクトも大きいとして、日本のブロックチェーン推進協会(BCCC)は業界関係者および報道関係者を対象にした緊急の説明会を開催。BCCC理事でJPYC代表取締役の岡部典孝氏が、FTXが破綻に至るまでの概要や今後の国内外への影響を、予測とともに解説した。
FTXの破綻とは
総資産約140億ドル以上ともいわれ取引高で世界トップ3に入る暗号資産交換業の大手FTX(本社登記はバハマ)が、11月11日に米連邦破産法11条の適用を申請した。
発端は、11月2日、創業者らによって一体運営されていたグループ会社のアラメダ・リサーチの資産の多くが、FTXが発行している仮想通貨のFTX Token(FTT)であると報じられたことだった。アラメダがFTTを大量に保有していた理由は、春先に起こったほかの仮想通貨の暴落による損失を補填するため、FTXが注入したためとされる。グループが発行するFTTを大量に資産として保有していたことでバランスシートに大きな疑念が生じ、7日には暗号資産交換業で最大手のバイナンス(Binance)が、保有しているFTTをすべて売却すると発表。アラメダが市場価格を下回る水準でバイナンスに買い取りを申し出たこともあり、市場ではFTTの売却が数時間にわたって大量に行なわれ、FTTの価格が急落。FTXに対しても取り付け騒ぎのような事態になり、大量の出金が行なわれ、8日深夜にはFTXが出金を停止する事態に発展した。9日未明にはバイナンスが救済策としてFTXの買収を発表するも、(FTX内部の実態を見た後と思われる)翌日の早朝にこれを撤回。11日深夜に、FTXは米連邦破産法11条をデラウェア州に申請し、経営破綻することになった。
天才的なトレーダーとして名を馳せ、FTX創業者のひとりであるCEOのサム・バンクマン・フリード氏は、11条申請により辞任、破産管理人として新CEOにはジョン・レイ氏が就任した。ジョン・レイ氏は企業再建で40年以上の活動歴があり、米国最大の企業不正事件とされるエンロン事件の精算も担当した人物。同氏が提出した関連書類により、FTXの経営実態と問題点が次々に明らかになっている。また破綻が確定した12日にはFTXがハッキングされ6.6億ドル相当の資産が流出、一部はほかの取引所に移動されており、これらも当局の監視対象になっている。
ジョン・レイ氏の最初の報告は業界に衝撃を与えている。総括すると、FTXには、米国企業に一般的な(最低限の)コーポレートガバナンスがほぼ存在していなかった。顧客資金を不正に流用した疑いが強く、「約100億ドルを勝手にアラメダに注入したとされる件は、経済犯罪になる可能性がある」(岡部氏)。
取引所の顧客は約100万人とされるほか、FTXに出資した投資機関、FTXが出資するなどしてFTTを資産として保有するパートナー企業など、利害関係者は数多い(一部には年金機関なども含まれる)。FTXに連鎖して経営危機を迎える企業は今後も増加するものとみられている。
またすでに米国では債権者から集団訴訟も起こされている。被告には宣伝に出演した著名人(大谷翔平、大坂なおみを含む)も含まれ、世間の注目をさらに集めている。
もっとも、FTXが広告・宣伝のために出資した先は数多い。NBAマイアミ・ヒートの本拠地は「FTXアリーナ」と命名されており、F1に参戦するメルセデスAMGは、スポンサーとしてノーズの目立つ位置にFTXのロゴを付けていた(どちらも契約を破棄)。これらはFTXに限ったことではなく、バイナンスをはじめ、資金面で勢いのある暗号資産取引所はプロスポーツを含め、さまざまな業界でスポンサーを務めている。
そうした取引所の大手であり、しかも業界内でクリーンなイメージを維持していたFTXが衝撃的な破綻をしたことで、市民レベルでは暗号資産の業界全体に疑わしい目が向けられているという状況。各国の金融関係者にも、暗号資産の存在そのものに疑問を呈し声高にそれを表明する人が増えている。
サム・バンクマン・フリード氏の凋落
FTXの成長と成功は、サム・バンクマン・フリード氏と切っても切れない関係にある。有名トレーダーだった同氏の開発したFTXは、自動化ツールが充実するなど、トレーダーから高い評価を得て成長。またアラメダなどグループ会社を通じてスタートアップの支援を積極的に行ない、同業他社の救済も多く手掛けたことで、業界内で氏に感謝する人は少なくなかった(今回の破綻で親会社を失ったスタートアップは多いことになる)。
常にTシャツ・短パンとスニーカー、特徴的なアフロヘアでメディアの前に登場する氏の飾らない風貌や、「寄付のために稼ぐ」といった思想へのコミットメントを含め、氏を聖人のように捉える向き(あるいはそういう報道)も多かったとされる。
ワシントンでは積極的にロビー活動を行ない、米国の政党への献金も多大な額に上った。ブラックロックといった著名投資機関からの投資を受けたことも、FTXや氏への信頼につながっていたことは否定できない。
一方で、出資を受ける会議をしながらビデオゲームをプレイしていたという話は有名。(トレーダーらしく)極度の“リスクジャンキー”だった側面を指摘していた人がいたという報道があるほか、イーロン・マスク氏は(独特の嗅覚でもって)距離を置いたとされる。
「トレーダーとしては優秀だった。好調な時は評判も大きく持ち上げられるもの。企業として拡大していく中で、ガバナンスできる体制を超え、周りの評価と(ずさんな実態という)乖離が起こったのではないか」(岡部氏)。
サム・バンクマン・フリード氏については、破綻の前(寄付のために稼ぎ、同業他社の救済も手掛ける聖人)と後(顧客資金を不正に流用、バハマの豪邸に住みプライベートジェットで移動)であまりにイメージが異なり、1週間程度で評判が天から地に落ちてしまった衝撃的な展開だったことから、すでに映画・ドラマ化が噂されているというほどだ。
FTX Japanはどうなるのか
FTXは、100%子会社として日本で取引所を運営しているFTX Japanを保有。この、親会社が経営破綻した形となるFTX Japanも直接的な影響を受けている。
ただし、FTX Japanは日本で取引所を運営していたリキッドを買収して設立されたもので、この体制を継承、世界でも最も厳しいとされる日本の暗号資産の規制に従って運営されていた。FTX Japanは資産超過で、年内にも顧客への返金を開始したい意向を示しているという。
ただし、FTX JapanはFTX本体の破産申請の対象になっているため、決定までに時間がかかるか、返金が難しくなる可能性もある。現在の観測では、リーマン・ブラザースなどの事例を参考に各国の資産処分が進められると想定されており、この最良のシナリオとなった場合は、FTX Japanは別企業に売却された上で、顧客への返金が進められると考えられている。
日本の厳しい規制基準、やっぱり良かった?
日本の金融庁は本件に対し、いち早く動いている。FTXが窮地に陥った(破産申請直前の)10日、FTX JapanはFTXに連動して出金を停止していたが、入金は停止していなかったため、金融庁は業務改善命令を発出している。
FTX本体の破産手続きにおいて、FTX Japanの資金が顧客に返金されるかどうかは、暗号資産に対する日本の厳しい規制が、危機に際して有効に機能するかどうかの試金石になる可能性がある。
本件における金融庁のメッセージは、「日本の投資家の資産を国外に流出させるな」というもので、FTX Japanに対しまっとうかつ迅速に行動している。しかし一方で、FTX Japanの資産が米国で一体的に債権者への返済に使われる可能性もあり、返金が難しくなるケースも考えられる。仮にそうなった場合、日本の厳しい規制基準には意味が無かったことになる。金融庁による暗号資産・仮想通貨の登録制度が開始されてから暗号資産交換業やその親会社が破綻するケースは初めてで、当局の間でも綱引きが展開されているという。
米国の現在までの規制は世界的にみても緩く、FTXの破綻を機に厳しい批判に晒されている。web3界隈での米国主導の勢いが弱まるとの観測もあり、翻って、煙たがられることも多かった日本の規制基準への評価が見直され、市場での存在が大きくなる可能性もある。その意味では業界関係者だけでなく規制当局にとっても重要な局面を迎えているといえる。
仮想通貨「理想と現実」
岡部氏は、ジョン・レイ氏の報告書を含め、総括として「FTXのコーポレートガバナンスが効いていない会社運営が明らかになった。詐欺まがいと言わざるをえない運営。既存の銀行システムの外にある“シャドーバンキング”への懸念が現実化した。今後、(米国では)規制が強化されるのは間違いないだろう」との見方を示している。
一方、今回の事件は仮想通貨に固有の問題というより、取引所という中央集権的なプラットフォームに規制の緩い市場環境が組み合わさって起こった横領事件に近いともしている。
ビットコインに端を発する暗号資産・仮想通貨は、国の法定通貨の中央主権的な管理を回避する意味で注目され支持されてきたが、現実の仮想通貨の多くは取引所に預けられたままで、取引所という中央集権的な仕組みに取り込まれている。これは規制当局にとってもある意味では都合がよく、取引所を規制すれば、暗号資産の流れを監視下に置くことができる。
投資は自己判断、金融商品は自己責任が前提と言われるが、「それをやれる人は少ない」(岡部氏)。
「自己責任でやれない人のために、誰かが代わりに預かる。それも経済の自由。預かったものを不正に流用すると被害が出るので、規制がなされる」(同)。
ユーザーが真に中央主権的な管理を回避したい場合、コールドウォレットなどとして書き出して個々人が手元に保管するしかなく、機動的に扱えないほか、手元のメモやデータを紛失すれば、誰も復活させられないという、現実の貨幣同様の課題も継承する。今回のFTXの破綻でも、“タンス預金”のようにコールドウォレットで保管されていた資産は、(市場価格は別として)取引所から引き出せないといった影響は受けなかったことになるが、大半は取引所に預けられたまま利用されていたとみられている。
暗号資産・仮想通貨は、当初の理念とは裏腹に、ユーザーの多くが中央集権的な管理(取引所の利用・預け入れ)を受け入れ、儲けるツールとして利用し、その世界的な規模が取引所の極大化につながっている。しかしながら、兆円規模の資産が数日で無くなってしまうという現実は、資産の価値、その源泉がどこにあるのか、改めて問う事態になっている。