パナソニックのレッツノートが15周年を機に、新たなステージを迎えた。その先峰として登場したうちのひとつが「Let'snote SX1」だ。馴染み深い従来のレッツノートの面影やタフネスを保ちながら、ボディの厚みを2/3までダイエット、大幅なイメージチェンジを果たした。もちろん、WiMAXは標準搭載だ。
今回は、この新しいレッツノートの世界観、そしてワイヤレス性能へのこだわりを、商品企画を担当した井上剛志氏、並びに製品のワイヤレス設計・開発を担当した渡邊幸司氏にきいてみた。
―まさに驚きのイメージチェンジです。しかも全モデルがWiMAX標準搭載ですね。
井上レッツノートのコンセプトは「いつでもどこでも仕事ができる」という点が常に根本にあります。我々は頑丈、軽量、長時間駆動といったモバイルの基本要件を高いレベルで満たすノートPCを開発していますが、そこに加えてモバイル通信という、いわばモバイルPCの生命線を確保してくれるのがWiMAXです。
WiMAXは今や速度的にもエリア的にも、非常に安心感のあるソリューションに成長しました。とりわけビジネスマンにとってWiMAXは、今、もっとも便利で、柔軟性に富んだインターネット接続手段となっています。たとえば、1日だけつなげるワンデーパスなどは、ちょっと必要なときにだけ使える、緊急避難的にもあつかいやすいプランです。WiMAXを内蔵してさえいればそれを利用できるわけで、そのあたりがWiMAXパソコンの強みです。通信機能が内蔵されていれば、出先に持って行き忘れることもありません。内蔵WiMAXは、持ち歩いて使われることが多いレッツノートにかなり親和性が高いと考えています。
―発売されてからの反応はどうでしょうか。
井上とても好評です。B5サイズで光学ドライブ内蔵というカテゴリでは、販売面の数字を毎回更新しているのですが、今回も大きな成果が期待できそうです。今回は、弊社としては珍しくティザーを実施したり、ちょっと派手な発表会にチャレンジもしてみました。アナログな出荷式も関西の企業としては欠かせません(笑)。そうしたプロモーションによって認知もあがっているようで、瞬間的な立ち上がりのスピードは過去最高といっても良いんじゃないでしょうか。
―新レッツノートは従来のレッツノートの路線とはイメージが違いますね。
井上商品企画に際しては、さまざまな方面の要望を聞くわけですが、最近は薄さを求めるお客様の声が大きくなってきていました。以前は、堅牢性を犠牲にするくらいなら薄くしないでほしいという声もありましたが、やはり薄型化は時代の流れで、まさに機が熟した印象です。もちろん、堅牢さを十分に確保しつつ薄さを確保し、双方のベストバランスをめざしました。
―同梱品もずいぶん大盤振る舞いですね。
井上コンシューマー向けのモデルには、電源アダプタを2種類、バッテリーを2種類つけました※。出かける前に、その日必要とされるモバイルスタイルがどういったものか、バッテリー駆動時間はどれだけ必要か、考えながらお客様に自由な組み合わせをしてもらいたいということです。バッテリー駆動時間を優先するケースもあれば、持ち運びの際のコンパクトさや重量を重視するケースもある。それを都度選択できることで、ユーザーがコンパクトなパソコンを持って歩く際の自由をより広げることができるという判断です。(※)エントリーモデルを除く
―ユーザーとしては大歓迎です。その日の用事にあわせてレッツノートをインスタントにカスタマイズできますから。
―本体の薄型化によって、ワイヤレス関係の実装に問題はなかったのでしょうか。
渡邊スリム化しつつも、従来と同等のワイヤレス性能を維持するのに力を注ぎました。
アンテナは液晶の上部に実装しています。そこからケーブルで本体のモジュールまで配線するのですが、液晶部分が薄くなったことで、そのケーブル経路を確保するのに苦労しました。今回は、ディスプレイを迂回するようにしてケーブルを配線しています。もとより液晶はかなりのノイズを出すデバイスですから、そのノイズの押さえ込みもたいへんでした。
本当は配線を迂回することなくディスプレイ面をショートカットすればケーブルの長さが短くなり、最終的な感度は良くなるはずなんですが、レッツノートのアイデンティティである堅牢性を維持する上では今回、その選択肢はありませんでした。そんな中でも感度にこだわっていて、設計部門からはフラットケーブルを使えば薄くできるんではないか、などの話も出たのですが、無線性能を重視してやはりケーブルは同軸ケーブルだろう、と。
井上渡邊は今回のワイヤレス実装に際し、相当苦労したようです、ちょっと泣きが入っていたときもありました(笑)。しかしWiMAXの接続性は最優先ということで、チャレンジしてもらいました。
―アンテナのスペースも窮屈になっているようですね。
渡邊そうですね。WiMAXのアンテナを収めるディスプレイ上部のスペースは、体積でいうと3割減になっています。しかもその部分にWebカメラ、Bluetoothアンテナ、Wi-Fi/WiMAXアンテナ、そしてWWAN用アンテナ(※法人向けのみ)と、すべての要素が集中しています。そこまでしてディスプレイ上部にアンテナを詰め込むのは、やはりなるべく高くなる位置にアンテナを配置し、接続性を高めるためです。
渡邊Wi-Fi/WiMAXアンテナ自体は従来のものと同じで、Wi-Fiは2.4GHz/5GHz、WiMAXは2.5GHzで両方を同じアンテナで共用しています。アンテナパターンはオリジナルで、形式としてはモノポールアンテナですね。偏波は垂直でも水平でもありません。ノートPCを使用する際は、液晶を起こす角度は意外とまちまちなのですが、どんなケースでも利得を最大限にできるよう考える必要があります。
たとえば、液晶上部の出っ張りの部分に注目してください。デザイン的にもとがっている感じがしますが、それだけじゃないんです。これは、アンテナ性能を引き出すための工夫でもあるんですよ。
今回は、スマートフォンからのリモート起動機能等があるので、液晶を閉じたまま使う場合も考慮し、全てのアンテナをLCD側に配置する設計となっています。意味の無いデザインではないということなんですね。
―WiMAXのアンテナ技術としてはどのようなものなのでしょう。
渡邊お馴染みのMIMOの技術で、アンテナを2つ搭載するダイバーシティアンテナです。2ストリームを効率よく使っています。この場合、2つのアンテナが異なる電波を拾えば効率が上がりますので、2つの位置は離します。それぞれのアンテナの指向性が違えば違うほどスループットが上がるので、ふたつのアンテナの相関を考えながら位置関係を調整します。相関が高いと、つまり、ふたつのアンテナの特性が似通っているとスループットが出ないんですが、相関が低いと助け合う方向で働きます。
井上パソコンはデジタル機器とは言われますが、最終的には、ノイズ対策や、配線や、アンテナの配置などなど、アナログなすりあわせの話だらけになってくるということです。機構と設計の意地のはりあいのようなところもありますね。
そもそもネットワーク環境がなければモバイルパソコンは使いものになりません。レッツノートにとって、今、WiMAXがあるのは当たり前です。もう、ことさら意識することはなくなっています。やはり、いつでもどこでも、すぐにインターネットにつながることが優れたソリューションだといえるんじゃないでしょうか。それを満たす現状の最良の解がWiMAXだと考えています。
―ありがとうございました。
(Reported by 山田祥平)