200万契約突破で勢いが止まらないWiMAXだが、そのダイナミックな戦略を支える重要な要素が端末ビジネスだ。WiMAX内蔵PCが便利なのはわかっているし、+WiMAXでスマートフォン対応も進んでいる。だが、iPadやiPod touch、ゲーム機など、非対応機器をWiMAX接続したいというニーズもある。そんなユーザーに欠かせない端末がモバイルWiMAXルーターだ。
そして、この春、モバイルルーター史上最薄のコンパクトボディを引き下げて登場したのがシンセイコーポレーションのURoad-SS10だ。先行して発売されたURoad-HomeのWiMAX接続性や性能などがきわめて高いこともあり、濃いWiMAXユーザーからも注目されている製品だ。今回は、そのあらましをシンセイコーポレーションの林範植氏(専務取締役)と大西知徳氏(東京事務所 所長)にきいてみる。
―モバイルルーター史上最薄の厚み約11.8mm、約86gというコンパクトさは驚きです。ついにここまできたのかという印象です。
林最近の端末の要求トレンドとして、高いパフォーマンスと高機能があります。そこで今回は、スタイリッシュでコンパクトなボディと、パフォーマンスおよび機能面の両方を充実させることを目指しました。コンセプトは「スリム&ストロング」で、型番の「SS」はそれに由来します。
「スリム」に関しては、モバイルルーター最薄で、重さも約86gと軽量です。デザイン的におしゃれでコンパクトなボディを持っています。塗装にしても表面は光沢のあるメタル感が映え、裏面はマット加工で、ちょっとした高級感を演出しています。
それに加えて「ストロング」なパフォーマンスに注目してください。約9時間の連続通信ができて、待受も連続約20時間です。休止状態なら連続約250時間を実現しています。専用ボタンで休止解除することで即座に接続が復帰します。
当然WiMAXハイパワーによる弱電界対応や、64QAMによる強電界でのアップロード速度向上といったWiMAXの新フィーチャーにも対応しています。
―構造的には無理なくできたのでしょうか。
大西最初にデザインありきで開発を進めました。URoad-8000までは、ボディの上層に基板を、下層にバッテリーを配置する二層構造でしたが、今回は、ボディに対して並列に左半分が基板、右半分がバッテリーという構造にしました。基板を大幅にシュリンクすることで、この構造が可能になりました。使われているチップなどは基本的にURoad-8000と同じなのですが、こちらはこちらで格段に最適化を進めています。
林内部設計を示すブロック図はURoad-8000とほぼ同じなんですが、まったく別物といっていい性能に仕上がっています。
―評判の良いURoad-Homeとの性能差という点ではいかがでしょう。
林URoadーHomeは、ボディサイズに関するリミットがないので、いろいろ工夫ができました。たとえば、Wi-Fiのハイパワー化などにも比較的柔軟に対応ができています。
大西ご自宅で使われるのであれば、Wi-Fiの到達距離という点でホームルーターがいいと思います。でも、モバイルルーターの場合は接続するWi-Fi端末の近くに置いて使うことがほとんどでしょうから、Wi-Fiの出力についてはさほど重要視されない傾向にあります。基本的に違いはそこだけで、WiMAXの接続性はURoad-Homeと今回のURoad-SS10は同等を確認しています。まったく同じと考えてくださってかまいません。
―新しい機能として「休止状態」がサポートされましたね。
大西「ウェイティング」と「休止状態」、そして「電源オフ」の3つの状態を遷移します。今回新しいのは、高速起動のための休止状態をサポートしたことです。
Wi-Fi機器の接続がないことと、WiMAXトラフィックがないことが検知されると「ウェイティング」に遷移します。WiMAX、Wi-Fiともに待受状態になります。それによって、端末の中で使っていない部分の機能を電力消費を抑えることができます。当然、ずっと連続で通信しているときよりも、バッテリーが長持ちします。この機能は、昨年末のファームウェアアップデートでURoad-8000も対応しています。
URoad-SS10で新採用された「休止状態」は、Wi-Fi側の待ち受けもストップし、さらに消費電力が低くなります。通常状態への復帰には専用のボタンを使い、約15秒という短時間で通信可能な状態に復帰させることができます。
休止状態からの復帰用に専用の休止ボタンを用意し、電源ボタンとの併用などの方針はとりませんでした。ですから操作を間違うことがありません。インジケーターのLED表示もわかりやすさを優先しています。カバンやポケットの中からルーターを取りだして、パッと見たときに、今、ルーターがどのような状態にあるのか即座にわからないのでは意味が無いですから。
また、モバイルブラウザ向けのUIも用意しましたから、スマートフォンなどで状態を確認するのも簡単です。
大西もちろん連続通信時間は約9時間という長時間駆動です。これらのスペックは、WiMAXがもっている実力でもあるんですよ。バッテリーの持ちが良かったり、あるいは速度の伸びが良かったりするのは、おそらくチップベンダー、セットベンダーの作り込みによるところが大きいんです。
―開発段階では、どのような点に苦労されましたか。
大西いちばん苦労したのは連続待機時間のチェックでしょうか。なにしろ休止状態で約250時間ですから、10日以上ですよね。一回のテストに日数がかかるんです。結果が出て修正する作業の繰り返しです。休止状態での持続時間が飛び抜けているのは、やはり、チップのチューニングの差だと認識しています。
林URoad-8000からは正常進化ではありますが、企画自体はゼロから考えたもので、モバイルルーターの市場に大きなインパクトを与えるものに仕上がったと考えています。その根底にあるのは、モバイルルーターとして余計なものをつけないということでした。
大西ですから、クレードル対応なども入れていません。モバイルルーターとして特化することを優先したのです。
―これからまだまだ進化は続くのでしょうか。
林先日スペイン・バルセロナで、モバイルワールドコングレス2012(MWC)にいってきました。今回、そこでは今後のモバイルの世界に関する4つのキーワードがフィーチャーされていました。
「ABCD」の頭文字を持つ4つのキーワードなんですが、まず、Aはアジアの市場です。アジアのマーケットでできたものが世界に進出していくということです。Bはボーダーレスです。境目のないことですねタブレットとかPCとかスマートフォンといったデバイスのカテゴリが曖昧になっていきます。Cはコネクティビティです。基地局との接続性やデバイス間の接続が、これからどうなっていくかを考えなければなりません。Dは開発、デベロップですね。どんどんアップグレードしていくことが求められます。
日本のWiMAXは上記の4つを満たしているといえるでしょう。技術的には日本のWiMAXが世界でもっとも進んでいるはずです。世界一ということは、当然、アジアでもいちばんということですね。もともとはアメリカ発の技術ですが、すでにUQ WiMAXがトップを走っています。
だからこそ、WiMAX2には期待しています。他のキャリアに負けないものであり、ユーザーの期待に十分に応えられるものではないでしょうか。
そのほか、マシンtoマシンの組み込み型などの分野でもWiMAXに期待が集まっています。これらに取り組むことで、社会に貢献できる強みを見つけていきたいですね。それがシンセイコーポレーションのデバイスベンダーとしての責任でもあると考えています。
―国際化という点ではどうでしょう。端末のグローバル化なども視野にありますか。開発体制も気になります。
大西URoad-SS10は完全に日本向け企画の商品となります。開発拠点は韓国ですが、細かなブラッシュアップは日本側で行っています。UQさんのラボが芝浦にあるのですが、いったん開発に入ると、エンジニアは2カ月はラボに缶詰といった状況です。
林新しい製品が誕生するには、関係者の協力が大切です。そういう意味では、うまく協力体制ができているんじゃないでしょうか。
大西そんな状況ですが、日本、韓国、アメリカ、そしてこれからのアジア諸国など各国で使えるグローバルルーターや、WiMAX2ルーターなど、着々と開発は進んでいます。これからのシンセイコーポレーションにご期待ください。
―ありがとうございました。
(Reported by 山田祥平)