2011年はWiMAX、そしてモバイルシーンにとって話題が多く、間違いなく、何かが大きく変わった飛躍の年だったといえるだろう。そして、いよいよ今年も残りわずか。今回は、UQコミュニケーションズの野坂章雄氏(代表取締役社長)、片岡浩一氏(取締役執行役員副社長)、そしてフリーランスライターの本田雅一、山田祥平両氏の4人がWiMAXの2011年を振り返るとともに、これからのWiMAXを語った。
山田2011年は、WiMAXにとって、どんな年だったといえるでしょう。
野坂ちょうど去年のクリスマスイブにドコモさんがLTEのサービスを開始し、次世代通信という戦場にドコモさんが参入された形になります。WiMAXは、今年の3月末に80万件契約を達成したものの、年度の前半は苦労したことを覚えています。
でも、先月発表したように、年度後半はいろんな施策を進めることができました。固定ルータのURoad-Home、地下鉄トンネル間のエリア化、アップリンク速度の向上、ファミ得パック、WiMAX内蔵タブレット端末GALAPAGOSのリリースなどですね。10月には、ケータイも含めた中での純増数で3位になりました。このあたりで、苦しさを通り超え、一皮むけたようなところがありました。これが、2011年度の感想といったところでしょうか。RBB TODAYさんと価格.comさんからは総合満足度ナンバーワンの評価もいただいています。
エリアはまだまだ拡げていかなければなりませんが、大きなアドバンテージはあります。ようやくここまできたWiMAXという想いが強いですね。いよいよ実人口カバー1億人が目前なわけですから。
本田少なくとも首都圏についてはエリアが完成されてきた印象です。そこから一気に伸びたんでしょうね。ユーザー層も厚くなりつつあるようですね。モバイルルータなどはマニアックなユーザーには重宝されていたようですが、それを普通の人が使い始めてきたんじゃないですか。それによって、WiMAXの使われ方が以前とは違ってきている気もするんですが。
野坂確かにユーザー層は二極化しています。ヘビーなユーザーは厳然と存在しますが、女性層を含めて一般層が増えてきています。
本田モバイルと固定という面ではどうでしょう。
野坂URoad-Homeを出したタイミングなんですが、直販での評判がよくて、契約回線数にかなり貢献しています。新規で二台というのが結構あるようです。それに解約もあまり出ていません。正月に実家に帰省したときに、URoad-Homeを使う、という方が多いようです。そして、実家にそのルータを置きっぱなしで帰ってくるのかもしれません。そうすると、実家の両親がURoad-HomeとWiMAXでインターネットを使えると。
本田ホームルーターは、来春の新生活シーズンでものすごく増えそうですね。なにしろ、電話回線をひかないで済ませる若者が増えていますから。
山田僕の周りにもそういう人が多いんですよね。モバイル用の回線だけで十分で、固定回線は要らない、というのが。
野坂学生に向けても、大学生協などでWiMAXのプロモーションを進めています。その相乗効果でWiMAXパソコンが学生に入っていくはずです。さらに、マイクロソフトとのアライアンスも進んでいます。直近では、東芝のウルトラブックなど、薄くて軽くて、そしてWiMAXが内蔵されているパソコンを全面支援しながら、いっしょにプロモーションをやっていくことになりました。今もインテルと「すぐネットPC」をやっているのですが、それをさらに広げるイメージですね。具体的には、今度の4月に3年生になる大学生層に対して、就活などの中でWiMAXを認知してもらおうとしています。
本田自宅に光やCATV、ADSLなどの固定回線インターネットをひかずに、WiMAXだけを活用する人たちと、モバイルでWiMAXを使う人たちとの比率はどうなっているんでしょう。
野坂現時点では2:1でイエナカ利用が多い感じです。もちろん、固定とモバイルを行ったり来たりも多いんですよ。NECアクセステクニカのAtermWM3500Rのように、クレイドルのオプションがかなりの率で売れていて、家の中で固定ルータのようにして使われていることがわかります。
山田WiMAXの認知度もずいぶん上がってきましたよね。
片岡都市部ではよく知られるようになってきていますが、地方ではなかなか認知度があがってこないのが悩みの種でした。でも、今回、auのスマートフォンに内蔵されるようになりました。やはりKDDIは全国区ですから、それに伴って、認知度が急上昇しています。
野坂なんといっても嵐のCMはすごかったですよ。一気に知れ渡った印象です。
片岡それと、春の震災ですね。被災された方々には心からお見舞い申し上げますが、WiMAXが震災に強いことが証明できたのは大きかったですね。震災発生が金曜日で、その土日に契約が一気に増えたという現象も確認しています。明らかに非常用回線が確保された結果だと分析しています。
他社がネットワークの高速化をアピールする中で、WiMAX2の発表ができたのも良いタイミングでした。さらに、6月くらいからパソコンやタブレットなどをオトクに購入できる「まとめてプラン」を始めたことで、扱える商品群が増えてきました。それによって、バラエティをもった提案ができるようになりました。
本田スピードという点では、ほかのところも同じような感じで値が出ているわけですが、実際のスピードとスペック上のスピードとの乖離はどうなんでしょう?WiMAXって、基地局の打ち方がすごく密で、どこで使っても強いんですが、それがうまく伝えられているのでしょうか。
片岡一般の人にまでWiMAXと3Gとの違いのようなものを、きちんと理解していただいているかどうかというと、それはちょっと難しいかもしれませんね。ですから、WiMAXは、スループットを高くするために、電波品質の良いエリアを懸命に作っているのだということを、違うかたちでアピールすることを考えていきたいと思っています。
本田確かに伝えにくいですね。そういう意味ではコアなマニア層にテクノロジーを伝え、それを一般に伝導してもらうような二段階浸透が重要かもしれません。
野坂UQがやっていることを、いろんな形で伝えなければなりません。今回のアップリンク速度改善では、発表会でネットワーク技術部長の要海に、メガホンを使ったユニークなテクノロジー解説をさせたところ、反響が大きく、各マスコミでも取り上げられました。あれは、弊社広報の女性に仕組みを説明するために本人が思いついたことのようですね。
片岡同じ事を店頭でやるというのは難しいかもしれないですね。
本田でも、秋葉原のイベントなどでやれば、かなりうけると思いますよ。
山田インターネットは今年はソーシャルの年という印象も強いのですが、WiMAXとしても、そのあたりのクチコミの影響もあったんですか。
野坂震災のとき、まさにWiMAXならつながるという情報がソーシャル系のメディアでたくさん流れました。3Gは規制でだめだったんですが、WiMAXは大丈夫と。
本田確かにどこで使えるのかという情報をほしがる人たちが多かったように記憶しています。特に、計画停電のときなどは、どこに行けば、確実にWiMAXが使えるのかを知りたいじゃないですか。
片岡災害が起きたときには、その状況をインフォメーションするのにも限界があります。われわれができなくて、ある意味伝わらないところをソーシャル系のクチコミでサポートしてもらえたのはありがたかったですね。わからないことのストレスよりも、わかることのうれしさが重要なのだということが伝わってきました。
本田ソーシャルでは良い評判が目立たず、悪い評判はすぐに広がりますから、難しいところですが、WiMAXの場合は悪評をほとんど目にしない一方で、ポジティブな意見をちょくちょく目にするところがすごいですね。……そういえば、9月には大規模なサービス障害がありましたよね。
片岡あのときの事故は一人前の事業者になるための試練でしたね。つらかったです。
野坂台風のときに重なった事故なので余計にご心配をおかけしました。物理的な原因もあるのですが、内部的なことも見直して、あのようなことは二度と起こらないようにしました。ユーザーの方にご迷惑をおかけしないように、やることはいっぱいあるのだということを痛感しました。その反省を糧にしてサービス改善に努めた結果、11月末で140万契約くらいまで来ることができました。去年のペースよりずっと早いテンポです。
山田WiMAX端末は今後どうなっていくのでしょうね。
野坂やはり通信の基本的なインターフェースは端末です。これが出てこなければ話になりませんから、力を入れていきます。WiMAXならではのコンテンツをお届けするためにも、ですね。先日、業界のある方と食事をしたのですが、小さなスピーカーを携帯されていて、呑みながらジュークボックスのように、YouTubeで音楽を聴かせてくれたりするんですよ。そういうリッチな使い方をもっと普及させたいと思います。最後の砦はコンテンツをうまく扱えるデバイスじゃないでしょうか。だからこそ、GALAPAGOS メディアタブレットには期待しています。
本田今の契約数はauスマートフォンの+WiMAXも含んでいるんですか。
野坂含んでいますね。
本田ということは、契約数はもっと増えるんですね。KDDIでは、ベーシックな端末にはすべて+WiMAX対応させると明言しているので、これからはもっともっと増えていくことになりますね。来年以降はどうなるのでしょう。
野坂おっしゃるとおり、スマホがたくさん出てくることを期待しています。もちろん、使用されるデータ量も増えることが予想されるので、その対策に取り組んでいます。ストリートセルなどを拡充して、まだまだ基地局数を増やさなければなりません。スマホのユーザーは使う場所を選びませんから、そうしたエリアのファインチューニングを施す必要があるのです。期待感が高まったのに、実際にきちんと使えないと、なんだとお叱りを受けるということになるので、そうならないようにがんばります。
本田基地局を計画的に設置していかないと、大変なことになりそうですね。
片岡すでに、これだけ密に基地局を打っていると、新たにいい場所を探すのがかなり大変になってきます。でも、小型基地局などでフォローしていきたいと考えています。
山田ユーザー層の広がりについてはどうなんでしょう。
本田まだ未開拓なユーザー層も当然いますよね。
野坂SOHOなどを含めて、もっと中小の法人などを獲得できるように、前向きにやっていきたいと考えています。
本田ビジネスツールとして、積極的にコンピュータを使っている人たちに、どう訴えかけるかが重要ですよね。きっと、来年はモバイルパソコンが、もう一度再認識される年になるでしょうし。
野坂ネットワークの使われ方のアーキテクチャも変化しつつあります。来年は、モバイルが本当に増えていくでしょう。使われる時間帯も変わりつつあり、それをどう処理していくかです。モバイラーは昼間、都心に動きます。その動きをフォローしていく必要があります。
本田でも、スマホのトラフィックは、ピークが23時だそうですよ。
野坂都心に関しては、昼間のトラフィックが多いですね。少なくとも今はそうです。
本田光をやめてWiMAXに、というアプローチはどうでしょう。
野坂それは来年の大きなテーマです。また、将来的にはマルチキャストの放送なども考えています。まだまだ構想や検討段階ですが、SIMレスの特徴を活かしたいろいろなネットワークの使い方を提案していくつもりです。
本田今年、いちばん印象に残ったWiMAX製品が、「URoad-Home」なんですよ。なぜかというと、ハイパワー化することで、自宅が圏外になってしまう状況というのがかなり解消されているはずなんです。UQさんはそうやって電波の入りにくいところをケアするために、総務省とも色々やりとりをして、この製品を出したわけで、まあ見た目は地味な子なんですが(笑)大きな意味があった製品なのかなと思います。
野坂UQの思いがようやく実現した製品とも言えるかもしれません。アメリカのWiMAX事業者であるClearwireなんかは、こっち(据置き製品)から始まってますからね。一方で弊社ではルーター製品はずっとモバイルルーター一本で。何か違う、違うと思っていたんです。
本田このURoad-Homeと、基地局側の強化と、そして2回線利用のファミ得パック。これらによって、UQ WiMAXのサービスとしての完成度が大きく上がったな、と感じています。来年はさらに一歩進んで、WiMAXとモバイルパソコンをビジネスツールとしてより多くの人が使いやすくなるような施策を期待していきたいですね。
さきほども少し言いましたが、来年はもう一度「パソコン」が「来る」んじゃないかと思っているんです。タブレットやスマートフォンなどが色々登場していますが、生産的なツールという観点からいえば、やはりパソコンが王様だということが再認識される年になるんじゃないでしょうか。その中でも特にモバイルパソコンですね。来年はウルトラブックも本格的に始動しますし。個人的には、よりバッテリー駆動時間を長くできるような無線通信の技術が出てこないかなあ、と期待しています。
山田僕はなんといっても、十年越しの悲願だった(笑)地下鉄の中での通信がWiMAXによって実現する、というニュースが何よりもうれしかったですし、当然、2012年もこれに期待しています。これで、飛行機に乗っている時間以外はずっとインターネットが使えるんじゃないかと。だから、年末に最初に大手町駅で開通したら真っ先に試しにいきたいです。
本田大手町の区間だけ何度も往復しちゃったりしてね(笑)。
野坂2012年中にはかなりのところまで広げていくつもりなので、期待してください。山田さんが、WiMAX Watchの第4回の連載で、韓国のWiMAX事情について書いてくださったじゃないですか。
山田韓国のWiMAXは地下鉄をはじめ、本当に良いんですよね。
野坂そうなんです。日本のWiMAXも、あんな感じでやらなくちゃいけませんね。
山田目指すはあの環境ですね。今後も日本のWiMAXの発展に期待したいと思います。本日はどうもありがとうございました。
(Reported by 山田祥平)