WiMAXはさまざまなテクノロジーによって支えられたインフラだ。エンドユーザーの目には見えないところで、さまざまな努力が積み重ねられ、ひとつひとつのノウハウが育っている。いわば縁の下の力持ちともいえる存在がWiMAXを支えている。今回は、UQコミュニケーションズから渡辺文夫氏(執行役員CTO)、福島徹哉氏(執行役員建設部門長)、要海敏和氏(技術部門副部門長兼ネットワーク技術部長)らに、特に技術的な面からWiMAXにスポットライトをあて、現状を見つめるとともに、少し先の話を聞いてきた。
― これからのWiMAXは、どのように飛躍していくのでしょうか。
渡辺来年のための仕込み作業を続けているところですが、IPv6の対応やマルチキャストでのマーケット拡大を目指そうという計画があります。また何よりも、通信のキャパシティを増やしていきます。トラフィックが伸びているのでこれは必須です。KDDIのWiMAX搭載スマートフォンが出てきていますし、さらに、KDDIのWi-FiアクセスポイントはWiMAXがバックホールになっているという事情もあります。各基地局でのユーザーの利用動向を分析しつつ、対処していきます。
希望としては、やはり、なんとか新しい周波数がほしいところです。来るべきWiMAX 2のためにも。
― WiMAX 2も、そろそろ現実的味を帯びてきました。大きな期待が寄せられています。
渡辺WiMAX 2 の技術的な枠組みは、総務省の審議会で議論を進めていただいていていて、来年の早い時期に準備ができると思います。懸念は、やはり追加周波数ですね。今、オークション議論が交錯していますので、いつ頃になるのかまだかわからない状況です。UQとしては2013年早期にサービスインを目指して、準備を進めているところです。
WiMAX 2端末用のチップはエンジニアリングサンプルが既にできています。テストをした上で、最終的に大丈夫ということがわかったところでコマーシャル生産に入ります。
表面的にはトップスピードが速いというのがWiMAX 2の最たる特徴ですが、そのことがまわりまわって、根っこではキャパシティが増えることにつながります。見かけだけではなくて、使っているときの体感スピードが速くなるはずですよ。エンドユーザーが感じるレスポンスの良さは、無線区間での遅延や端末やサーバーのレスポンスなど複合的な要件がからみあっているのですが、WiMAX 2はこの遅延を短くしていきます。
― WiMAXを企業や大学のLAN拡張に使う動きも出てきていますね。
渡辺慶応大学の案件ですね。WiMAXにつなぐと、インターネットを介さずに慶応大学の学内ネットワークに入っていけるということで、業界全体の評判にもなっているようです。他の大学からも導入検討の話をいただいており、順次拡張していく予定です。きっと、1月には詳しい話ができると思います。
― 単にエンドユーザーがインターネット接続に使うためだけのインフラではないということですね。
渡辺そうですね。企業系では、MVNOとしてビジネスをしたいという方たちとの話が進んでいます。これらは、量販店やISPなどのMVNOとはちょっと違う、特定業務に使うタイプなんですね。何かというと、スマホやパソコン以外のマシン to マシン、いわゆる無線機組込機器の類です。今後は、そういったマーケットが伸びていく可能性が出てきました。
そのあたり、WiMAXには強みがあって、それはSIMカードがないということです。OverTheAir(OTA)で加入手続き、有効化や無効化がコントロールできるということです。今後、たとえばいろいろな家電製品に無線機が搭載される時代を考えて、それらにいちいちSIMを入れるかというと、そんなことはしたくないじゃないですか。製造コストもかさみますしね。その点で、取り外し可能なSIMカードには限界があります。移動体通信各社はそのことを知っていますが、SIMこそが彼らの利益の源泉ともいえるものですから、WiMAX のようなソフトウェア的方法ではなく、SIMを機器内にくくりつけたエンベデッドSIMという方向に向かってるのが現状ですね。
ところがWiMAXなら、ローコストにWAN通信デバイスが内蔵できるメリット、買ったときには契約は真っ白で、家に帰ってから自分で事業者の選択ができるというメリット、そして、通信契約の有無に関わらず製品を量販店頭に並べられるというメリットがあります。
UQコミュニケーションズは、マシン to マシンビジネスの可能性を追求する立場にもあります。セルラー各社のビジネスとは、サイズ感で桁違いかもしれませんが、われわれはインターネット屋さんと仲良くやっているという自負があります。それがおもしろい展開につながっていきそうです。
― 地下鉄トンネル内でのWiMAXですが、すでに着工されたそうですね。携帯電話事業各社は漏洩同軸ケーブルでの実現に向けて動き出したようですが、それよりも一足先に実現できるということになりますね。
福島私たちWiMAXも移動通信基盤整備協会に参加しているので、漏洩ケーブルでの対策も考えたのですが、今回の計画ではケーブルが我々の帯域に対応していないという事もあり、地下鉄駅ホームからトンネル内に向けて電波を飛ばすという我々の方法なら、早期に工事を完了させ速やかにサービスを開始することができます。
11月28日に着工し、すでに都営三田線大手町駅ホームに無線機やアンテナが設置されています。あとは接続して、実際の基地局として動かすだけです。
最初に着工した都営地下鉄については路線ごとに工事を進めていく予定です。2012年内には完了したいですね。また、東京メトロとも基本合意はできていて、そろそろ着工日をアナウンスできるタイミングです。そのほか、今、大阪市営や福岡市営、東急電鉄などとも話し合いをさせて頂いております。
そのほか、主要な鉄道について20数社と協議が進行中です。まあ、地道に一歩一歩やっているといったところでしょうか。
実は、地下トンネルで電波を飛ばすのは、経験がないわけではないんですよ。たとえば、東京駅の地下ホームと前後のトンネル区間はすでにサービスエリアです。今回の地下鉄トンネル内エリア化は、その経験をふまえているといえます。電波の直進性が強いからトンネル内でも大丈夫といっていますが、アンテナから発射された電波はトンネル内に拡散されて中にしみこんでいくイメージです。もちろん一般の基地局で使われているものよりも、はるかに指向性の強いアンテナを使います。その電波をどうやってユーザーに届けるのかという点からいうと、トンネルという管の中に電波を反射を繰り返して充満させるといったところでしょうか。まさに導波管のイメージです。ですから、最先頭車両や最後部車両でなく、編成の真ん中くらいの車両でも電波をつかめます。
― 周波数が近いWi-Fiでも同様のことができるのでしょうか。
要海WiMAXはWi-Fiとはそもそも通信の概念が違います。Wi-Fiは自律通信で各端末が勝手にやっているというシステムですが、WiMAXは基地局がすべての端末の状態を把握しています。だからこそ、100人のユーザーが同時にハンドオーバーしても大丈夫なんです。地下鉄の駅から駅に電車が移動し、車内の端末がいっせいにハンドオーバーしても何の問題もありません。実はすでにテスト済みです。
福島電車といえば、おもしろい話があるんですよ。JRの成田エクスプレスの車内には、WiMAXレピーターが設置されているのですが、お客様目線での環境測定のため、路線を何度も往復することがあります。しかし、成田エクスプレスは全席指定席なので必ず一度改札を出なければなりません。もちろん、ちゃんと切符を買っていますよ。測定器はPCなんですが、GPS連動させているので、PCを閉じてしまうと地上に出ての再同期が必要になってしまいます。そのため、PCを開いたままの状態で改札口を出ることもあり、駅員さんに不思議そうな顔で見られたというこぼれ話もあります。
― サービス品質の向上もたいへんなのですね。エリアについても、地図上では塗りつぶされていても、つながらないところがあれば、そこをつぶしていくような地道な作業があるのでしょうね。
福島WiMAXは、電波を重ねない方がスピードが上がるんです。そうすると、東京駅の丸の内側のように高層ビルが多く、電波の反射が多いところはなかなか難しい調整が必要で、少しでも状況をよくしようと試行錯誤を続けているところです。
基地局の設置については、WiMAXの知名度が重要ですが、最近はauの+WiMAXが知名度をグンと上げてくれました。それで、基地局の設置についても、建物のオーナーさんの理解をかなり得やすくなりました。
― 屋内対策はどうでしょう。
要海さきほどいったようにWiMAXは基地局がすべてを知っていて細かく端末を制御するシステムです。そのために各基地局が絶対的な時刻情報を共有する必要があります。WiMAXは、同じ周波数を時分割し、基地局同士が同期をして動くTDD(Time Division Duplex、時分割複信)方式ですから、マイクロ秒の精度が求められます。ですから、基地局はすべてGPSを内蔵し、現在時刻を取得しています。
ところが、屋内基地局では、GPSの衛星が見えません。そこで、アンテナは屋外に設置し、基地局そのものは屋内に設置するという方法をとることになります。それは設置もたいへんですから、何とかならないかということで、新型の小型基地局では、複数の基地局でクラスタを構成し、GPS信号を共有することができるようにして、同期を維持する方法を考えました。これで、屋内基地局設置の自由度が大きく高まりました。これでまたサービスエリアが広がります。
― 端末のバッテリー消費量の削減などもいいニュースですね。
要海はい、端末が通信を休止している時間を長くする試みです。結果として今までよりもバッテリー消費量が少なくなります。つまり、目覚まし時計で、端末が自分自身に呼び起こされる仕組みなのですが、アラームが鳴る周期を長くするわけです。スマートフォンの場合には、2倍といっていますが、本当はもっと伸びます。
WiMAXは常時接続がひとつの特徴になっています。その常時接続をスマホのユーザーに提供するに際しても、WiMAXは常にオンにしておいてほしいじゃないですか。でも、それで電池消耗が増えてしまうのでは意味がありません。ですから、こうした仕組みを導入したわけです。
このテクノロジーについては、わりと早い段階で、実装の議論をしていたので、あとはネットワーク側の処理のみです。すでに、12月頭には全国のネットワークをアップデートする作業が終わりましたから、端末のバッテリ消費量は知らないうちに激減しているはずですよ。
― 上り速度の向上についてはいかがですか?
要海新しい64QAM(上り15.4Mbps対応)などの導入に際しては、本来の法律の解釈では端末ごとのTELEC認証を取り直し、認証で付与された番号を全ての端末に貼り直す必要がでてきます。
出荷済みの端末で、これは現実には中々たいへんです。その必要がないように新たな番号に読み替えることができる改定が施行されました。現在、ネットワーク側で機能をオンにする作業をしています。
12/16に公示されましたので、本年内のリリースに向けて最終調整をしているところです。予定通り、年内には開始できそうです。
そのほかにも色々な改善を日々行なっています。
― 本日はどうもありがとうございました。
(Reported by 山田祥平)