西田宗千佳のイマトミライ
第120回
「じっくり世代交代」していくWindows 11
2021年10月11日 08:20
Windows 11の正式公開が始まった。先日はSurfaceシリーズの新モデルが発表されたが、10月5日に合わせ、各PCメーカーからはWindows 11搭載PCが一斉に発表され、販売もスタートしている。
デル、XPSやAlienwareなどでWindows 11/Office 2021が選択可能に
「ThinkPad X1 Nano」などで注文時にWindows 11が選択可能に
NEC PC、Windows 11搭載PC発売11.6型ノートや一体型デスクトップ
富士通、Windows 11搭載の13.3型世界最軽量634gノート
Windows 11は「PCのハードを刷新するタイミング」として生まれたもの、といっても過言ではない。その意味を考えてみよう。
ハードの普及に合わせて浸透していくWindows 11
実のところ、筆者の手元にある機器の場合、Windows 11の動作対象になっているもの場合、アップデートでのトラブルは少なかった。
だが、世の中の人全てがそうではない。いくつかの環境ではパフォーマンスの低下も報告されている。筆者も「何かが動かない」といったトラブルはなかったのだが、下記のAMD CPUでの問題には直面している。
AMD CPUでWindows 11が重くなる不具合。ゲームでは1割の性能低下
Windows 11は10に比べ、動作条件が厳しい。主にCPUの世代やTPM 2.0の必須化などが理由だが、その点が以前から話題となっていた。
Windows 11、古いPCはインストールできない!? アップデート時の注意点
特にTPM 2.0については、マイクロソフトが公式に「回避方法」をアナウンスしており、非搭載PCでもなんとかインストールすることもできるようだ。
TPM 2.0チェックを回避してWindows 11をインストールする方法を公開
とはいえ、かなり面倒な方法だし、マイクロソフトの狙いを考えても、無理に回避してWindows 11をインストールすべきでもないだろう。
今回、CPUも含めて制約が厳しめになっているのは、「Windows 11世代のPC」に明確な線を引くためだろう。
マイクロソフトのチーフ・プロダクト・オフィサーであるパノス・パネイ氏は、Windows 11正式公開の数時間後、筆者を含むアジアのジャーナリストを囲んでのラウンドテーブル取材で、次のように答えている。
「3年後、2年後にどうなっているのかを考えなければなりません。2年後に必要とされるものに拡張できるハードウェアを含むプラットフォーム、製品を設計しています。重要なのは、今日と2~3年後の両方があり、そこへ行くための『橋渡し』をする必要があるということです。つまり、今日のために設計し、3年後のために準備し、最終的にはそこに到達するための手助けをするのです」(パネイ氏)
Windows 10のサポートは「2025年10月」まで続く。2015年に公開されたOSが10年使われるわけだ。PCの寿命は長くなってきているが、次の進化の基盤ということを考えると、「10年前のまま」というわけにもいかない。
マイクロソフトしては、数年後に多くのPCが「Windows 11世代」にリニューアルしていくことを想定し、過去のPCを「足切り」している部分があるようには思う。TPMなどのセキュリティ要件もそうだし、動作速度の面でもそうだ。
だから、Windows 10で動いているPCのすべてをWindows 11にアップグレードする必要はなかろう。対応していないPCはWindows 10のままでいいのだ。
アップグレード条件を満たさない時には、数年後にPCを買い替える際に「Windows 11にする」と思えばいい。
Microsoft Storeに見える「10と11の併存」
その傍証が「Microsoft Store」の存在だ。
アプリストアであるMicrosoft Storeの刷新は、Windows 11における大きな変化の一つだ。
Win 32アプリからWPAまで、Windowsの上で動くアプリならすべて配布可能になり、利用者・デベロッパー双方にとって価値が上がる。
また、自社で決済が行なえる事業者には「マイクロソフトを通さない決済」を認める。その場合にはマイクロソフトに手数料を支払う必要がなくなるので、デベロッパーが「Microsoft Store経由でアプリを配布するデメリット」もさらに小さくなる。
AdobeやAmazonが参加することは以前より公開されていたが、9月末にはEpic Gamesも参加することが決まった。ご存じのように、Epic GamesはAppleやGoogleとアプリストアを巡る独禁法訴訟の最中にある。Microsoft Storeへの参加は、マイクロソフトにとって「Windowsがオープンなビジネス環境である」ことをアピールする格好のパートナーと言える。
Windows 11のローンチタイミングには間に合わず、後日の公開となる「AndroidアプリのWindows上での動作」も、Microsoft Store内に「AmazonのAndroidアプリストア」が用意される構造になる。これもまた、Microsoft Storeをアピールするための武器という側面があった。
Androidアプリのサポートは別なのだが、新しいMicrosoft Store自体は、後日Windows 10向けにも提供することが決まっている。これは重要なことだ。
アプリストアというプラットフォームを広げるには、できるだけ対象となる機器が多い方がいい。しばらくはWindows 10を使う人が多い以上、マイクロソフトとしては、Microsoft StoreをWindows 11と10の両方を対象とした方がメリットは大きいわけだ。
逆にいえば、Microsoft StoreをWindows 10にも提供するということは、マイクロソフト自身が「ごく短期に、全てのWindowsが11になる」とは考えていない証とも言える。
「発売日がピーク」でなくなったWindowsのマーケティング
その昔、Windowsの「発売日」はお祭りのようだった。深夜販売で歴史的な騒ぎになったWindows 95の例はまあともかく、それ以外の時も、宣伝や深夜販売などで、「新しいWindows」が出ることが大きくアピールされた。
Windows 11の登場は、それに比べると静かなものだ。コロナ禍ということもあるだろうが、特別なイベントもなく、宣伝も派手にやっているわけではない。
考えてみれば、それWindowsのビジネスモデルが、今と昔ではそれだけ違うということなのだ。
パッケージでOSを売っていた時には、発売日のアピールがとても重要だった。だが、もはやOSは機器と共に売るのが中心で、ソフトのライセンスだけでコンシューマに売られるのは、自作向けなどの例外的なものだ。
アップデートは無償であり、ユーザーが自分の機器に合わせたタイミングで行うもの。企業なら動作検証が終わってからまとめて行うもので、「発売日」はなおさら関係ない。
新しいOSの導入はPCの導入と共に行われる場合の方が多く、その場合、PCメーカー側の事情にあったプロモーションが多くなる。
Windows 11のマーケティングも、こうした事情を加味すれば、過去でいうOSの発売日である「OSの正式公開日」をピークとする必然性は薄い。メジャーなアップデートのタイミングなども加味し、継続的に行っていく方が理に叶っている。これから数年をかけてWindows 11世代にハードが切り替わっていくなら、確かに、長期的にじっくりと認知を高めた方が良いだろう。