西田宗千佳のイマトミライ
第83回
国交省が日本の都市を3Dデータで公開。「Project “PLATEAU”」とはなにか
2020年12月28日 08:15
国土交通省は現在、「Project “PLATEAU”」という事業を進めている。12月22日にはその公式サイトが立ち上がり、情報公開がスタートした。狙いは、日本を3Dデータ化し、それを自由に使える形で公開することだ。
実世界の都市をサイバー空間に再現。国交省の3D都市モデル「PLATEAU」
Project “PLATEAU”(以下PLATEAU)はなぜ、どのようにして行なわれようとしているのだろうか? 詳細の報道はまだ少ない。
実は筆者は、PLATEAUの公式ページでのインタビュー記事構成を担当しており、計画の一端を知る立場にある。インサイダーというわけではなく、記事化に必要なことを取材の過程で知っているに過ぎないが、今回は、筆者が知る範囲で、国交省の狙いについて解説してみたいと思う。
全国50以上の都市を3Dデータとして無償公開
PLATEAUがなにを狙っているのか? それは、公式ページでも公開されている以下のプロモーション動画を見るのがわかりやすいかもしれない。
国交省は2020年度補正予算事業として、全国全国約50都市の「3Dマップ」の整備を進めている。この成果として得られたデータをいわゆる「オープンデータ」の形で公開し、広く活用を促していくのがPLATEAUの狙いだ。
どんなことができるのか? もっともシンプルな形は、PLATEAU公式サイトから利用できる「PLATEAU View」を使ってみるとわかる。
・PLATEAU View
https://plateauview.jp/
12月22日の段階では、東京23区のデータが入っている。このデータには、東京の各区ごとにほぼ全ての建物の概形が収録されているほか、渋谷や新宿など一部の地域では、詳細な形状とテクスチャデータも用意されている。
各モデルは単に「形」としてデータ化されているわけではなく、その上に各建物の高さや地域情報、河川氾濫時の浸水ランクといった情報が組み込まれている。
なぜこうなっているかといえば、ここで公開しているデータは、CGとしての表示に使うのはもちろん、各種統計やシミュレーションに活用することが想定されているからだ。
使われているデータ形式は「CityGML」という国際規格。形状・地域識別情報などが「ソフトウエアから認識する」前提で収録された形式だ。PLATEAU Viewでの表示はその応用例に過ぎず、本来はデータのまま公開されたものを利用する側で処理することを想定したものだ。
全国の都市データが2020年末に向けて整備されていき、公開されたデータをさまざまな企業や個人、そして自治体自体が利用することを想定している。
なぜ国交省は「都市の3Dデータ」を公開するのか
地図の3D化は、多くの民間企業も手がけている。実のところ、地図のテクスチャの精細度だけでいえば、Googleやアップルが公開しているものの方がずっと上である。
ではなぜ国が税を出して作るのか? それは、海外の民間企業に頼るわけにはいかないからだ。誰もが自由に使えるものを整備することで産業は促進される。民間企業が作るとどうしても「採算性重視」になる部分があるが、行政の仕事となると少し違う。
PLATEAUで使われるデータは、新たに飛行機を飛ばして撮影された写真とLiDARなどのセンサーで得られた情報、それに「都市計画基本図」などの二次元の地図を組み合わせて作られている。
もともと行政では、都市計画や災害対策などの観点から日本の地理・地形を日常的に計測しており、今回のデータ整備もその一環ではある。また地方自治体によっては、独自に詳細な3Dデータ制作を行なっているところもある。
過去には人間が見るための2D地図だったが、現在は建築データ・測量データともに、機械で可視化・シミュレーションを行なうことを前提にした3D化が進行中だ。それをさらに、単純な形状データとしてでなく、機械からも活用可能な意味を持つデータ、すなわち「セマンティック」デザインが重要になる。
そうした活用を前提に作られたフォーマットが、前出の「CityGML」。これを活用して都市計画や建設に関わる行政を進めていくことは、「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」とでもいうべきものだ。
海外で進む先行事例、日本も「都市のデジタルツイン」作りを目指す
日本ももちろんそれを進めたいと考えているわけだが、実際にはもう他国が先に進んでいる。シンガポールは全国土の3D化を「バーチャルシンガポール」のかけごけとともに進め、フィンランドのヘルシンキも「Helsinki 3D+」という計画を進行した。
こうした諸国に負けず、日本もやっていく必要がある。デジタルの中で「自由に使ったり、加工したり、シミュレーションに使ったりできる国土」、すなわちデジタルツインとしての国土の存在は、デジタル技術によるまちづくりやビジネス検討を促進するために役立つからだ。そのためには、「自由に」「色々なことに」使えることが重要。だから、行政によるオープンデータの形を採ることが必須でもあるのだ。
実際にもくろみ通りに成功するかはわからないが、PLATEAUは、日本のオープンデータにおける興味深い取り組みの一つになるのは間違いない。
なお、PLATEAUでは、1月16日にアイデアソンが、2月13日にハッカソンが行なわれる。気になる方は、公式ホームページをチェックしてみていただきたい。