西田宗千佳のイマトミライ

第11回

小型軽量で戦う日本メーカーと突然のMacBook Air投入から考えるPCの今

FCCLがフルラインナップ刷新(出典:人を想わなければ生まれてこないPC」を目指すFMV)

先週、国内PCメーカーが相次いで新製品を発表した。富士通クライアントコンピューティング(FCCL)がフルラインナップを刷新し、VAIOがソニーからの独立5周年に合わせて新モデルを発表した。Dynabookも法人向けモデルを発表した。そして、アップルもMacBook Pro 13インチモデルとMacBook Airを刷新している。

「人を想わなければ生まれてこないPC」を目指すFMV

VAIO SX12

「VAIO SX12」はビジネスノートの新スタンダードを目指した最後のピース

dynabook S73/DN

Dynabook、法人向け13.3型モバイルノート「dynabook S73/DN」

MacBook Pro

4コアCPU搭載で139,800円からの「MacBook Pro」

MacBook Air

True ToneのRetinaディスプレイを搭載「MacBook Air」

こうした発表は、別に示し合わせたものではない。7月は従来の「PCの商戦期」から言えばちょっと遅い。そもそも同じ商戦期でも、アメリカと日本では事情がまったく異なる(詳しくは後述する)。

偶然か否かはともかくとして、海外勢も含め、主要なPCが市場に出揃ったことに違いはない。なのでここで、今年の夏PCの総覧をしていきたいと思う。各モデルの方向性に対する見方は筆者の私見も含まれるので、その点はご了承いただきたい。

「小型軽量」で独自のバランスを模索する日本メーカー

昨年、日本国内におけるPCメーカーの再編はほぼ完了した。結果として、今年のモデルはようやく「新体制における製品」が出揃った、といっていい状況である。

特にFCCL・VAIO・NECパーソナルコンピュータは、小型・軽量路線を強調している。小型軽量といってもとにかく小さく、という話ではなく、ビジネス向けとしての実用性と重量のバランスを考えた、12インチ〜13インチクラスでの軽量路線、ということになる。1kgを切る製品はこのクラスが中心になり、日本メーカー製とLGエレクトロニクスの「LG gram」などが対象になってくる。

これらの製品は、軽さや大きさの面で秀でており、端子の収納方法や堅牢さ維持の面でも、多数の工夫が凝らされている。重量を1kg~1.4kgくらいまでとし、13インチクラス以上のディスプレイにすれば、条件を満たす製品はたくさんある。だが、自分達が差別化しやすいこと、日本にニーズが集中していることなどから、こうした製品に特化する戦略を採ったのだろう。

しかも、各社ともに若干方向性が変わってきているのが面白い。

FCCLは、クラムシェル型の「LIFEBOOK UH-X」、コンバーチブル型2-in-1での「LIFEBOOK UH95」と、とにかく最軽量を目指している。

LIFEBOOK UH95

富士通、世界最軽量868gのワコムペン内蔵13.3型2in1

それに対し、NEC PCやVAIOは最軽量からは降りたが、独自のバランスを目指した製品になっている。

NEC PCの「LAVIE Pro Mobile」はデザインと堅牢性、2-in-1まで含めた幅広いチョイスが特徴で、VAIOは、12.5型で13型に近い操作性を実現しつつ、11型だったVAIO S11に近いサイズ感に抑えている。

LAVIE Pro Mobile

デザイン/軽さ/頑丈さ/長時間駆動の13.3型「LAVIE Pro Mobile」

性能と操作性に妥協なし。900g切りの12.5型メインマシン「VAIO SX12」

特にVAIO SX12については「勝色」モデルの存在が特徴的だ。PCは工業製品であるがゆえに、どの製品も同じ仕様で作られる。公差を超えた、ユーザーにはっきりわかるような「違い」が同じ製品に存在するのは御法度だ。だが、勝色モデルは1つ1つ色合いが若干異なる。自然藍を染料に使ったアルマイト染色を採用した結果、少しずつ色合いが変わってしまう。だが、勝色の美しさは特筆すべきものがあり、生産時のズレすら個性として持ち主が許容しうる。こういう考え方でPCが作られるのは例がなく、限定数生産で高付加価値モデルゆえの特徴だ。数年持ち歩いて使うPCならば、こういう判断があってもいい時代ではないだろうか。

VAIO SX12は「勝色モデル」を展開

一方で、これらのモデルはどうしても高価なものになっている。ビジネスユースを考えたサイズ・価格帯であり、20万円を超えるモデルがほとんどだ。重量・サイズで若干妥協した他社の製品に比べて数万円高い。これは逆にいえば、日本市場をターゲットに「同じ価格帯で勝負する」のが厳しく、だからこそ、付加価値で勝負できるゾーンへとシフトしている、という見方ができる。

長く使う、自分の道具だから付加価値によるコスト差を許容するか、それともワールドワイドモデルゆえの価格競争力を選ぶか。日本のPCユーザーは、まずそこを選んでから製品を選ぶべきなのかもしれない。

なぜこの時期に「低価格Mac」が追加されたのか

ワールドワイドモデルゆえの価格競争力、という意味では、突如発表されたMacBook AirやMacBook Pro 13インチモデルこそ、その典型例である。このタイミングでの新製品発表に驚いた人は多かったようだ。筆者も例外ではない。

だが、アメリカでのプレスリリースを見れば、狙いは明白で疑問も氷解する。日本のプレスリリースでは「MacBook AirとMacBook Proをアップデート」となっているが、アメリカのプレスリリースは「MacBook Air and MacBook Pro updated for back-to-school season」(back-to-schoolシーズンに向けてアップデート)となっている。

back-to-schoolとは、アメリカなどの新学期シーズンのこと。ご存じのように、アメリカを含む多くの国では、新入学シーズンは9月。そのため、特に学生向けの低価格なPCについては、初夏に商戦期が存在する。だから今回も、MacBook AirやMacBook Pro 13インチといった比較的低価格なモデルについて、コストパフォーマンスを改善する方向での新モデルが出ている。

例年だと、back-to-school向けの製品は6月に発表されることが多く、7月はちょっと遅い。その点も驚きにつながったのだろう。

今回の新製品は低価格モデルが中心であり、その性質上、ハイエンドモデルは対象外。ということは、「今年中にもう新製品は出ない」という話ではない、ということになる。

おそらく、新製品以上の驚きだったのは、12インチディスプレイを採用したMacBookがラインナップから消えたことだろう。

だが、これは昨年MacBook Airが出た時から予想されたことでもある。機能的にもサイズ的にも近しく、棲み分けは価格くらいだった。パーツが世代交代してコスト面でのバランスが変われば、MacBookの居所はなくなってしまう。そのタイミングが今だった、ということだと推察される。

12インチと13インチの違い、重量さにこだわる市場はあまりない。その違いにこだわる人の多い日本は、特殊な市場ではある。VAIOやFCCL、NECなどがこだわる点は、非常に「日本市場的」な部分である。一方で、その点は高付加価値モデル偏重にもなり、コストパフォーマンスに影響する。

よくも悪くも、そこが違いになっていることが明確になってきた、とも言える。

固定化された「マスモデル」のスペックを問い直すべきでは

モバイルモデル以外を見ると、筆者にはちょっと残念な点がある。

ほとんどの機種でディスプレイが「1,920×1,080ドット」である、ということだ。

現状、多くの低価格PCはこの解像度のパネルを使っているし、13インチクラスにも多い。消費電力やコストとの兼ね合いもあり、無理に高解像度化する必要はないのでは……という意見も理解はできる。

一方で、本当に「そのままでいいのか」という風にも考えてしまうのだ。

13インチクラスで縦の狭い1,920×1,080ドットのパネルを使い続けること、15インチ・17インチといった大型モデルで、150ppiを切る解像度の低いパネルを使い続けることは、利便性の面で進化を止めている、とも感じる。

PCは画面を長く見続ける製品だ。ならば、そろそろもう少し「文字などが美しくなる」解像度で使うべきだと思うし、ビジネス文書などを使うシーンでは、縦横比が4:3や3:2のディスプレイを選ぶべきだと思う。特にタブレット的に使う2-in-1で、「16:9のディスプレイを縦に持って使う」のはどうなのだろう。

1,920×1,080ドットのパネルの量産効果が高く、特に日本メーカーが価格競争力を維持しようと思うと、特別な解像度のパネルを選びづらい、という事情はわかっている。

だが、本当にそれが、すべてのPCにおいてベストな選択だろうか。高解像度パネルには、4K以外にも解像度には選択肢がある。サイズや価格のバランスを考え、「長く快適に使えるモデル」を用意すべきではないか。

その他にも、価格レンジを下げるために、まだ「メインメモリーを4GBにしたモデル」が存在したりする。これも、買う人のことを考えるとマイナスだ。これも問題の根幹は同じである。

価格重視の市場において、これらの要素は「消費者の求める声」としては聞こえてきづらいものだろう。だから、ニーズが大きい「価格」が最優先になるのはわかる。

しかし、そろそろ「多くのユーザーにとって必要な価値あるPCのスペックはなにか」を考え直すべきではないか。モバイルPCにおける軽さや堅牢さとは違う方向で、「PCはどれでも同じ」という常識を変えるバランスの提案があっていいようにも思う。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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