小寺信良のシティ・カントリー・シティ
第48回
新型コロナ「届出対象外」を本当に体験した
2022年11月26日 09:30
11月12日の深夜、イヤな感じの喉の痛みで目が覚めた。風邪を引く前にありがちな痛みで、いつもならそのまま寝てしまうところだったが、悪くなりそうな予感がしたので風邪薬を飲み、もう一度寝た。
翌日は日曜日で、朝から熱っぽい感じはしたのだが、息子の英語検定の二次試験があり、会場となっている高校まで車で送迎した。やがてお昼頃から、急に熱が出た。妻は身内に不幸があり、実家に戻っているので、家には筆者と娘、息子だけである。
実家に居る妻から、念のために抗原検査キットで検査したらどうかと言われた。前回でお伝えした、ものすごくわかりにくい方法で入手した検査キットである。
検査キットは、細長い綿棒を鼻の奥まで入れて、粘液と細胞を接種する方式である。この検体を検査液に溶かし、測定カセットに垂らして反応を見る。15分で結果がわかるという事だったが、すでに5分経った時点で線が2本。陽性である。15分待ってみたが、2本線が消えることもなく、陽性が確定した。
感染経路は不明だが医師の診断のない「届出対象外」に
感染経路は不明であるが、ここのところ宮崎市外には出ていないので、市内のどこかで感染したものと思われる。接触通知アプリのCOCOAは、11月17日より機能停止版が配信されたが、実際には11月11日で更新が終了していたようである。
逆に考えれば、11日までは動作していたはずなので、接触の可能性があるのなら警告が出たはずだが、何も通知はなかった。つまり11日以降に感染したか、そもそもCOCOAのカバー範囲外での感染という事であろう。
国の方針として、9月26日よりすでにコロナ感染者の全数届出を中止している。COCOAの停止も、この方針を受けてのものだ。これまでコロナ感染した場合、医師が検査・判定したのち、対象保健所に届出を行なって、総数を確認していた。今後の届出は、以下の4つに該当する人に限られる。
- 65歳以上の者
- 入院を要する者
- 重症化リスクがあり、かつ、治療薬の投与が必要な者、又は重症化リスクがあり、かつ、新型コロナ罹患により新たに酸素投与が必要な者
- 妊婦
それ以外の場合は、「届出対象外」となる。筆者の場合は上記4条件に当てはまらず、かつ医師の診断ではなく自宅で検査キットによる感染確認ということで、「届出対象外」ということになる。
これはどういう扱いかというと、感染の報告は保健所ではなく、各都道府県に設置されている「陽性者登録センター」に行なう。従来は保健所単位で全数を把握していたため、市町村ごとの感染者数が集計できた。だが今後は届出対象外の人が出てくるため、市町村単位での感染者数は把握できなくなる。今後は、都道府県単位での総数だけで感染状況を追いかけていくという格好になる。
「届出対象外」の現状
抗体検査キットで陽性が判明した場合、キット内に同梱のQRコードを使って、県の陽性者登録センターへ向けて、Webで登録申請を行なう。まずメールアドレスを登録すると、メールで陽性者登録フォームのURLが送られてくる。そのフォームに氏名などの個人情報と、測定カセットの結果の写真、身分証明書の写真などをアップロードする。
13日は日曜日であったが、登録自体は実行できた。夜にもう一度アクセスしてみたところ、受付時間外で休止という案内が表示された。登録受付後の作業は人力なので夜は対応できないのかもしれないが、溜まったキューは翌日処理すればいいはずなので、エントリーぐらいは24時間動かしても良さそうなものである。Webフォームなのに、時間外で閉めてしまうというのは、いかにもお役所である。
登録してしばらく待っていると、メールで登録完了の通知とともに、届出対象外の場合の対応について、PDFが添付されてくる。紙の様式に名前や日付を手書きで記入したものを、スキャンしてPDF化したものだ。やはり背後は「紙に手書き」の世界で動いているようだ。
届出対象外となると、保健所からの連絡もないし、HER-SYSに日々の体温や症状を入力するといった健康観察もない。要するに病院にかからず市販薬を飲んで自宅待機せよという事である。自宅には風邪薬などの常備薬はあるのだが、解熱剤は切らしていた。
せめて解熱剤だけでももらえないかと最寄りの病院に電話してみたが、診察しなければ薬の処方はできないという。フォローアップセンターに連絡すればもらえるかも、という事だった。そこでフォローアップセンターに電話してみたが、そこには看護師はいるが医師や薬剤師は居ないので、薬は処方できないという。どこに電話してもあれこれ症状は聞かれるが、結局得られるものはなにもなく、疲弊するだけで終わってしまった。
仕方がないので、子供たちがコロナ感染した際に処方された解熱剤の残りを飲むことにした。今後は解熱剤も意識的に常備して置いた方が良さそうだ。
感染が確定すると、同居の家族も濃厚接触者となるため、買い出しもままならなくなる。そこで以前も依頼した食糧支援を申し込むことにした。以前は電話でしか申し込みができなかったが、今回は陽性者登録センターからのメールに食糧支援申し込み用のリンクが記載されており、Webのフォーム入力で申し込みができるようになっていた。
申し込みには個人情報を入力したのち、陽性者登録センターからのメールに添付されたPDFが必要であった。筆者はパソコンで入力したのでどうということもなかったが、スマートフォンだけでやるには、ちょっとした知識が必要になる。すべての人が対応できるわけではないだろうから、やっぱり最終手段としては電話、ということになるのかもしれない。
支援物資は2日後に到着
支援物資は申し込んだ13日から2日後に、通常の宅配便事業者を通じて、玄関先に置き配で届けられることになっていた。再配達はしないので、届ける前の電話連絡には必ず応答するようにと但し書きが付けられていた。
熱でボーッとした頭でなんとか起きて電話連絡を待っていたが、やはり前回と同じく電話連絡なしでいきなりピンポーンと手渡し配送されてきた。まあ基本的には外出できないので在宅の可能性は高いわけだが、受け取るのは感染者本人かもしれず、配送者への感染リスクは高い。相変わらず現場レベルではレギュレーションがちゃんと守られておらず、手順を省略しているようだった。
9月下旬から新たに届出対象外という枠を設けることで、医療のひっ迫を避ける狙いはあるのだろうが、そのぶん都道府県に負担が行く事になる。前回子供の感染で手続きしてから3カ月、宮崎県では破綻気味の電話対応1本から、Webも使える方法にシフトしたため、市民への負担は若干軽くなった。その点は評価できる。だがその一方で、行政の内側の負担は減っているのだろうか。
行政DXは、市民への負担減とともに、行政内部の負担減が実現されなければ意味がない。裏では人海戦術で乗りきるという方法では、単にこれまでの行政にDXのガワを被せただけであり、ガワの運用ぶんがそのまま負担増となってしまう。
宮崎県の感染者数は全国と傾向が同じで、第8波の兆候は見られるものの、まだ本格的に増えているわけではない。今後第7波を超える数の感染者が出た場合、公務員だって感染は免れない。それをこの人海戦術でどこまで耐えられるのか。これはどの都道府県でも、同じ課題を抱えていることだろう。