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ブリヂストンの"パンクしない"タイヤ「エアフリー」を試乗した
2024年10月25日 09:00
ブリヂストンは、パンクしない次世代タイヤ「AirFree(エアフリー)」の技術説明と、自治体向け試乗会を開催した。
AirFreeは、空気充填がいらないタイヤとして同社が2008年から開発を進めているもので、現在のモデルは第3世代目。空気の代わりに青色のスポークで荷重を支える構造で、パンクをすることがない。6月5日には、この技術を応用した「月面探査車用タイヤ」の実証実験の様子も公開されている。
第1世代は、2008年~2012年にかけて開発が行なわれたもので、対応車重は200kg程度。一人乗りのシニアカーなど超低速モビリティを想定していた。第2世代の対応車重は500kg程度で、1人乗りのモビリティが想定だが、車速は僅かに速いモビリティを想定。
現在の第3世代モデルは、車重1,000kg程度までを可能とし、2~4人乗りの小型EVや低速の小型EVバスなどを想定。車速は時速60km程度までで、より広範囲のモビリティへ適用が可能になっている。
現在は2023年から出光興産と共同で超小型EV向け実証実験を開始しており、2026年中の社会実装を目指してビジネス実証を推進している。
シンプルかつ強靱な構造
構造としては、専用設計のホイールと、独自形状の樹脂製スポークにタイヤのトレッド面を貼付けた形となる。
スポーク自体は強靱かつ柔軟性に優れる素材で作られており、多少の損傷では走行不能になることもないという。スポークのスキマに石や氷が挟まったテストも行なっているが、そうしたものが挟まっても、スポークが破損することはなく、自然とスポークの間から排出されるため走行に影響を与えることがないことも確認している。
スポークの構造は機械学習による最適化計算を繰り返すことで形成されたもので、素材を活かしつつ接地最適化や歪みの制御などを行なっている。
構造が単純で、リサイクル製の高さも特徴。一般的なエアタイアでは、ゴムだけでなく金属コードや有機繊維、金属ワイヤーなどさまざまな層で構成されており、リサイクル処理に手間がかかるが、AirFreeでは、トレッド面はゴムのみ、スポーク部分は樹脂パーツのみのため、それぞれを分解するだけでリサイクルが可能になる。特にスポークに使用されている樹脂はリサイクル製の高い素材となっており、回収した素材を再度加工して市場に戻すエコシステムを想定している。
トレッド面が消耗した場合は、トレッド面のみを交換することが可能で、スポークの耐久性は、小型EVの場合で10年程度を見込んでいる。ゴム部分は通常のタイヤと同等の耐久性。
スポーク部分のカラーは「Empowering Blue」と名付けられ、赤や黄色などよりも夕暮れ後の視認性が高いという。
パンクすることなく、空気充填や空気圧の管理なども不要なことから、メンテナンスを最小限にすることが可能で、移動が止るリスクが低い。このため、ドライバーがいない自動運転車両と相性がよく、運用効率の向上が期待できる。
反面、樹脂部分が増えているため、重量は通常のタイヤより増す。耐荷重量や車両速度についても現状では一般乗用車やトラックなどへの適用は難しいが、今後も開発を続けながらビジネスモデルを検討。2030年までに事業化の可能性を探っていく。
まずは「グリーンスローモビリティ」に導入
ブリヂストンでは2026年までを、ビジネスモデルの探索・実証フェーズと位置づけており、まずは、車重や速度などの親和性の高い「グリーンスローモビリティ」へのAirFree実装を目指す。このため、今回の試乗会では、グリーンスローモビリティを導入している4自治体が、AirFreeを搭載した車両の試乗会に参加した。
グリーンスローモビリティとは、時速20km以下で走行するEVによる公共交通サービスのこと。公共交通サービスが十分でないエリアにおいて、高齢者等の移動手段だけでなく、観光客向けの乗物としても注目されている。現状では、10人以下の車両は普通免許で運転が可能だが、富山市などでは自動運転車両も導入している。
試乗会は、市販の軽自動車にAirFreeを装着した車両を使い、東京都小平市のブリヂストン技術センターに設置されたテストコースで行なわれた。
試乗会には、滋賀県東近江市、富山県富山市、群馬県みなかみ町、東京都杉並区が参加。試乗会では「通常のタイヤと遜色が無い」と好評で、メンテナンスも容易であることから、導入を希望する声が多く聞かれた。
筆者も試乗の機会が得られたが、走行時には一般的なエアタイアとの差はほぼ感じなかった。AirFreeの外見から「多少はガタつきやグラつきなどがあるのでは?」と想像していたが、そうした違和感は覚えなかった。タイヤのロードノイズは若干独特な気もするが、気になるほどでもないといった印象で、時速20km以下で走行するグリーンスローモビリティでは、ほぼ問題にならないと思われる。現時点では普通自動車などへの導入は未知数だが、将来を期待させる仕上がりを十分感じることができた。