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いよいよ始まる「給与デジタル払い」 「PayPay給与受取」のメリットと難しさ

PayPayは21日、「給与デジタル払い」に向けた説明会を開催した。PayPayでは、2024年内にすべてのユーザーを対象に給与の一部をPayPayで受け取れる「PayPay給与受取」を提供予定で、8月からはソフトバンクグループ各社の従業員を対象に「PayPay給与受取」を開始した。

給与デジタル払いは、使用者(事業者)が労働者への賃金の一部を支払うもの。従来は、現金、銀行、証券総合口座のみが認められていたが、2023年4月から厚生労働大臣から指定を受けた「資金移動事業者」の口座も利用可能となり、8月14日にPayPayが国内で初めて厚生労働大臣から指定を受けた。これにより、PayPay上での給与受取が可能となった。

従業員(ユーザー)は、従来通りに給与を金融機関口座や現金で受け取るれるほか、給与の一部を「PayPayマネー残高(PayPayマネー(給与))」としても受取可能となる。

給与の一部をPayPayで直接受け取って使えるようになるため、PayPayとしては、給与日に手間なくPayPayという“財布”にお金が入る利便性を作り、PayPay経済圏での利用を拡大するほか、証券や保険などのサービス活用につなげていく。

仕組みとしては複雑な「PayPay給与受取」

ただし、給与デジタル払い対応のためには、いくつかの制限やハードルもある。

ユーザー側でわかりやすい制限は、給与として受け取れる「PayPayマネー(給与)」の保有残高上限額が20万円となること。通常のPayPayでは100万円までの残高に対応するが、給与受取を使うと20万円までのPayPayマネー(給与)と80万円までのPayPayマネーの枠設定となる。万一、20万円の残高上限を超過する場合は、ユーザー指定の金融機関口座へ即時自動送金する。

また利用開始には、事業者(会社)とユーザー側の双方の対応が必要だ。

まず、従業員(ユーザー)と雇用主(事業者)が、給与デジタル払い対応のために必要な「労使協定」を締結する必要がある。その後に、ユーザーが事業者)へ同意を申請することで、初めてPayPayアプリで「PayPay給与受取」が申し込めるようになる。例えユーザー個人が望んでも、企業と労使協定を結べなければ利用できない。

労使協定を締結し、利用同意して、PayPay給与受取に申し込むと、PayPay上でPayPay給与受取の給与受取口座への「入金用番号」が取得できる。この番号を勤務先に申請することで、登録が完了。給与日になるとPayPayアカウントに給与チャージされる。

PayPayで受け取る金額は、上限額の範囲でユーザーが指定可能。PayPay残高は、銀行口座へ送金できる「PayPayマネー(給与)」となる。厚労省のガイドラインで給与受取口座とそれ以外を分けるよう定められているため名称が異なっているが、基本的には「PayPayマネー」とほぼ同じだ。管理される残高が異なることから、名称も独自のものとなっている。

受け取ったPayPayマネー(給与)は本人名義の金融機関口座へ送金可能。月1回は無料で送金でき、2回目以降は手数料100円となる。PayPay銀行宛の場合は、送金手数料は無料。

ユーザー側のメリットは?

給与の一部がPayPayに直接振り込まれる「PayPay給与受取」。「できること」はわかりやすいが、「仕組み」はかなり難しいものになっている。また、現在でも銀行口座等からPayPayにチャージすれば同様のことはできるので、大きなメリットを感じない、という人もいるだろう。

PayPay執行役員 金融戦略本部長の柳瀬 将良氏

PayPay執行役員 金融事業統括本部 金融戦略本部長の柳瀬 将良氏は、「財布」を例に挙げながら、PayPayの利便性向上が期待できると説明。普段財布を持っていて、その中に現金が入っている人がほとんどだろう。そして、財布に「全ての給与」が入っているわけではない。

一方、現金よりPayPayを使う頻度が高いという人は多い。そうした人にとっては、PayPayに最初から入金されていたほうが手間は少なくなる。「給与がデジタルになり、お財布がデジタルになる。PayPayは支払い手段だったが、デジタルのお財布になっていく」と説明する。

かつては、賃金は現金受け渡しだったが、1975年から銀行等の金融機関で受取可能になり、2023年から資金移動口座でも受取可能と法改正された。日本では、5,967万人(2022年末)の給与所得者がいて、給与支払額が約231兆円。この大きな金額の“一部”が直接PayPayにつながることで、PayPayで受取、運用や貯蓄などお金に関わるあらゆるサービスをPayPay上に集約していく狙いだ。

PayPayに入金されたPayPayマネー(給与)は、残高を毎月1回定期的に送れる「おまかせ振分」で他のPayPayアカウントや銀行口座に送金可能。離れた家族への仕送りや子どものお小遣い、光熱費や家賃引き落とし口座への送金などを自動化できる。また、「PayPay資産運用」でつみたて設定をしておいて、給与を移動操作なしでそのまま積立できるなど、「デジタルのお財布」として、PayPayサービス内での活用を強化する。

事業者のメリットは特に無い だからこそ使いやすさに配慮

ユーザー側のメリットは、PayPayの使いやすさ向上だが、企業側にとってはどうだろうか?

柳瀬氏は「事業者側のメリットは非常に難しい」と認める。「手数料の問題でできなかった週払い・即払いを導入して採用につなげるとか、従業員の満足度向上など、直接的な効果ではない形でデジタル給与払いのメリットを出したい」とする。

そのため「PayPay給与受取」では、事業者の手間が発生しないシステム構築に配慮した。

通常の銀行振込で給与デジタル払いに対応可能とし、PayPayと事業者間での新たなサービス契約は不要。企業は入金用口座番号宛に銀行振り込みすることで給与を支払え、新たなシステム開発も不要とする。

しかし企業から見れば、通常の給与口座とPayPay給与受取用の口座の2つに銀行振込することになるため、2重の手数料負担が発生する。

この問題を回避するため、PayPay銀行の法人口座を使った振込手数料無料プログラムも展開する。当該法人がPayPay銀行の法人口座を開設し、同口座をPayPay給与受取の振込に使うことで、振込手数料分を翌月にキャッシュバックし、実質振込手数料無料で利用可能にする。

現在の給与払いは、月1回が一般的だが、給与デジタル払いの導入により、即日や毎週といった柔軟な支払いの導入が期待されてきた。柳瀬氏によれば、短い支払いサイクルでの利用を希望する声は非常に強いとのことで、こうした場合ではPayPay銀行の活用をオススメしていくという。

給与デジタル払い対応への引き合いは、8月9日の正式発表前から非常に多かったとのこと。発表後も問い合わせは続いており「3ケタ」の企業から関心が寄せられているという。

PayPayが厚労省に給与デジタル払いの申請を行なったのは、'23年4月。指定は'24年8月と1年以上の時間を要した。その理由については、「開発や検討の範囲が広かった。主に4点で、バーチャル口座のスキーム作り、保証のスキーム、おまかせ振分、人事給与ベンダー側の対応をどうするか。これらを同時進行しながら、開発しながら厚労省とのやり取りの中で追加の対応も行なった。そのための時間が必要だった」(柳瀬氏)とする。

また、21日には人事労務サービスの「奉行クラウド」を展開するオービックビジネスコンサルタントと給与デジタル払い対応での協力を発表。同社の「奉行Edge労務管理電子化クラウド」の機能を連携することで、入金用口座番号の誤りや口座収集業務の効率化などを図る。こうした外部サービスとの連携を進めながら年内の「PayPay給与受取」本格展開を目指す。