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薄型フィルムで握手などの触覚をリアルに再現 産総研ら

産総研、東北大学、筑波大学、Adansonsの4者は、極薄ハプティックMEMSによるハプティックデバイスを活用した「双方向リモート触覚伝達システム」を開発した。振動からリアルな触覚を再現する技術。

触覚デバイスと触覚信号編集技術を組み合わせることで、幅広い周波数帯域の触覚信号を体験可能。指先で触れる操作や握手などの触覚情報を手首で計測し、相手側に伝えることができる。エンターテインメント領域でのよりリアルな振動配信の創出、遠隔地での振動体験の共有などの使用例を想定している。

現在、「触覚技術」はエンターテインメント領域でも盛んに利用されているが、スマートフォンや家庭用ゲーム機のコントローラーなどに搭載されている従来のLRA型振動発生素子では、利用できる振動帯域が限られること(150~250ヘルツ程度)や、振動発生のみの単機能であること、実装スペースの確保が必要であることなどの課題があった。

また、コンテンツ作成の際に必要となる「体感振動計測」においても、既存のソフトウエア技術では、計測時に本来伝えたい振動信号のほか、運動によるノイズや身体に由来する心臓の鼓動音などの振動も含まれてしまうことで振動信号が不明瞭になってしまうという課題もある。

こうした課題に対し、これまで産総研はオムロンと共同で、極薄MEMSを実装した世界最薄・最軽量のハプティック用フィルムを開発していた。今回開発された技術は、このフィルムを搭載したデバイスに、各種の信号処理技術を適用することで、振動によるリアルな体感・体験の共有を実現。「ヒトが感じることのできる全ての周波数帯域の振動を表現可能」で「伝えたい振動を強調できる」触覚共有システムを開発した。

デバイスとしては、振動を表現できるだけでなく計測もできるデバイスを開発。厚さ10μmの極薄MEMS素子を使い、「リストバンド型」や「ネイル型」、「指輪型」、「ペン型」などのデバイスを製作可能で、スマートフォンを使いながらや、触覚を共有しながら工場作業などの技能を伝達するなどのシーンで活用できる。

東北大学は、信号処理技術「ISM(Intensity Segment Modulation)」を開発。接触振動や音響振動などの高周波信号に対し、ヒトの触覚知覚特性に基づいて計算を行なうことで、触感を保ちながらデバイスで再生しやすい低周波の信号に変換する。これにより、小型の振動子でもより広帯域な体感振動の提供が可能で、「ユーザーが感じやすい振動体験」を創出する。

このほか、Adansonsが開発した独自の「参照系AI」技術により、元データから必要なデータを瞬時に抽出可能で、伝えたい振動のみを抽出できる。筑波大学は、オンライン会議などの場で、表情や生理反応などの非言語的行動が伝わりにくい課題を解決するための独自の双方向リモート触覚伝達システムを開発。脈拍のデータをデフォルメした疑似脈拍データを生成し、通信回線でリモート再生した効果を検証している。