ニュース
「タワマンの配達大変過ぎ問題」解決へ ロボ活用で配送員負担を軽減
2024年2月29日 09:00
日鉄興和不動産、ソフトバンクロボティクス、日建設計、日建ハウジングシステムは2月28日、マンション玄関から各住戸までの「ラストワンマイル配達」におけるロボット活用実証実験を東京都江東区の「リビオメゾン南砂町」で行なった。出前館の協力のもとフードデリバリーを行ない、大規模集合住宅での配達・搬送の手間削減やロボットの有用性を検証する。
集合住宅でのロボット走行可否や配達員の負担軽減度合いに加え、ビジネス面での収益性を確かめる。今年度で3年目となる経済産業省の令和5年度「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」(ロボットフレンドリーな環境構築支援事業)の一環として実施し、ビル事業や住宅事業を手がける日鉄興和不動産が全体設計/管理、ソフトバンクロボティクスがロボットを提供、日建設計が既存建物のロボットフレンドリーレベルの調査と実証実験の支援、日建ハウジングシステムが既存建物調査と施設改修支援を行なう。
使用したロボットはソフトバンクロボティクスが提携し、国内で販売しているGaussian Robotics(ガウシアンロボティクス)の配膳・運搬ロボット「Delivery X1」。なお、ロボットとエレベーターとの連携は、今回は「工事時間がなかった」とのことで人が代替している。そのための技術自体はOcta Roboticsの「LCI」などが既にあり、研究グループでも導入を進めたいとしている。
タワマンでは一個の荷物を届けるまで30分かかる場合も
日鉄興和不動産は社内シンクタンクとして「リビオライフデザイン総研」を立ち上げ、異業種や大学との研究・共創、生活者視点でのくらし研究を進めている。今回の実証実験への取り組みもその一環だ。概要は日鉄興和不動産の鈴木英太氏が紹介した。
2019年度から2022年度までの宅配便等取り扱い個数の成長率は約15%と、宅配荷物の需要は年々増加傾向にある。4月には物流・運送業界のドライバーに労働時間上限が課され人手不足など様々な影響が見込まれる「物流の2024年問題」の本格化も控えており、一層の対策が求められている。働ける時間や人手が限られる中、再配達を含め配達の手間をいかに削減できるかが課題だ。
物流事業者は大規模集合住宅の高セキュリティ性から屋内荷物配送の時間効率に課題を抱えている。中でも、首都圏に約880棟あるとされる超高層マンションをはじめ、大規模集合住宅はセキュリティが厳しく、タワーマンション内に一個の荷物を届けるまで約30分もの時間がかかる場合もあるという事業者報告もあり、解決の目処が立っていない。こうした状況は配達員、住民双方へのストレス要因となっている。
そこで今回の実証実験では、集合住宅の入口から各住戸までの荷物配達(物流のラストワンマイル)をロボットに任せることでの課題解決を試みる。出前館協力のもと、住民が注文したフードデリバリーを集合住宅の玄関に設置したロボットに積載し、住民宅までスムーズに到着できるかを検証する。
配送業者は1階に荷物をまとめて置いて帰れるように
ソフトバンクロボティクスの平川博善氏は、まず現在の配送方法を示した。トラックから荷物を運ぶ上で、呼び出し、応答、開錠、移動などが特に時間を要する部分だ。もし1階に荷物をまとめて置いて帰れるようになれば、大幅な時間短縮が可能となる。ただし、この部分を人が担って補うのでは意味がないので、ロボットそのほかの自動化装置の役割が期待される。
宅配事業者一人当たり約120分の労働時間を代替可能
実証実験止まりとならないよう、事業性も検証する。仮説だけでなく、実際の課題を事業者にヒアリングし、実際にどのくらい時間がかかっているのか、タイムスタディを行なった。8時から20時まで業者にはりついて業務時間を計測したところ、一人の配送者が約1,000戸、50Fあるタワーマンションで約30件の配送を行なうためには、約4時間15分を必要としていた。計測した対象者は一人だけだが、実際には3人で配送するので、さらに多くの時間が投じられている。
それぞれの業務ごとの所要時間を計測した結果、エレベーターの待機時間がほとんどであることがわかった。現在よく問題となる再配達に必要とされる時間よりも、エレベーター待ち時間の長さのほうが問題であり、この部分を搬送ロボットに託すことができれば、大幅に時間短縮ができることがわかった。
ロボットが設備連携などもできる条件で概算すると、おおよそ120分くらいは労働時間を代替できる計算になる。これは一人あたり2時間ということになるので、さらに3名、4名の配送事業者の労働時間を代替することができれば、もっと時間効率は上がることになる。
実際にロボットを走らせるためには初期費用、運用費なども必要とされる。その費用を回収しようと思うと、館内物流費や物流事業者の物流委託費用から出すことになる。事業者の館内配送実費を見るとおおよそ一個あたり120円~180円くらいが相場であるようだ。
大手物流事業者ではタワーマンションでは一年間で世帯数×100個くらいの荷物が流れていると言われている。数量を12万個と見積もると、おおよそ2,000万円くらいの収益は上がることになる。そのくらいの収益が出るのであれば、ロボットとロボットをフォローする人間の費用くらいは出せるのではないかと見積もることができるというビジネスモデルを考えることができる。
これは1棟の話だけではなく、首都圏ではおおよそ880棟のタワーマンションがあり、約28万戸の世帯数がある。つまり2,000万個以上の荷物が流れていることになるので、マーケットとしては成り立つのではないかと考えているという。
ロボットを簡単に導入するための「ロボフレ」調査
以上のような背景と考えのもと、今回の実証実験は行なわれたもの。ロボットが実際に走行できるかどうか、そのために建物側がやるべきことは何か、住民に迷惑をかけないかといったことを検証する。
日建設計の光田祐介氏はロボットを導入する環境について、車輪付きロボットが実際に走行可能かどうかを示す「ロボフレレベル」調査について紹介した。実際にどんな課題があるか、どういうところに気をつければロボットが導入可能なのかを事前に調査することで、ロボットの導入が容易になる。ロボットフレンドリー施設推進機構(RFA)」が策定したものだ。
具体的にはエントランスや通路において、ガラスなどセンサーが透過するものや、直射日光によるエラーなどが発生しないか、エレベーターのかごサイズなどを調査する。エラーが出た場合は、カーテンやブラインドをつけるといった対策も検討する。
たとえばロボットは反射率の高い床を苦手とする。日建ハウジングシステムでは多くのマンション設計を手掛けており、今後、これらの知見を設計に事前に織り込むなど、横展開も視野に入れる。また、防火扉のような設備のある位置にロボットが止まってしまったりしないようにルールを事前に作っていく。
今回の実験では調査は2023年9月から2024年3月上旬まで行ない、走行実験はフードデリバリー以外の配送物を含めて週に1回行なった。配送の実験は住民に協力してもらい、3世帯、のべ3回行なったという。