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国交省、ベビーカーや車椅子、ロボットも自由に往来できる街づくり
2023年1月26日 10:01
国土交通省は1月24日、未来の歩行空間の在り方を探るシンポジウム「バリアフリー・ナビプロジェクト〜人とロボットがスマートに共創する未来〜」を東洋大学INIADホールとオンラインのハイブリッドで開催した。「バリアフリー・ナビプロジェクト」とは、車椅子や高齢者、子連れのベビーカーでも、ICTを利用して歩きやすい道をナビゲーションし、気楽に町歩きができる世の中を目指すプロジェクト。
シンポジウムでは東京都北区・赤羽台で行なわれた「自動配送ロボット」の実証実験の紹介やURによる今後の団地のあり方のほか、「ICTを活用した歩行者移動支援の普及促進検討委員会」委員長で、東洋大学情報連携学部(INIAD)学部長の坂村健氏がモデレーターとなり、バリアフリーのまちづくりに関するパネルディスカッションなどが行なわれた。
ロボットも人も動きやすい街づくり、そのためのデータ整備
「バリアフリー・ナビプロジェクト」はもともとは障害者や高齢者を対象にしたバリアフリーな街づくりのためにICTを活用しようというプロジェクトだったが、近年、少子高齢化と人手不足を背景に、屋内外でのロボット活用への取り組みが活発になってきた。ロボットも車椅子も段差や坂道に弱い。また高精度三次元マップや位置インフラなど、ロボットを動かすために必要な基盤データ整備やハードウェア整備と、障害者誘導のための各種要件は類似点が多い。そこで人間だけではなくロボットにも対象を拡大し、ユニバーサルな街づくり、未来の道路作りをしたいと考えて、現在、各種取り組みを行なっているという。
本記事ではティアフォーの岡崎慎一郎氏による自動配送ロボットの実験と、都市再生機構(UR都市機構)の渡邊美樹氏による今後の団地作りに関する講演を主にレポートする。
北区・赤羽台での配送ロボット実験
ティアフォー 事業本部 Vice Presidentの岡崎慎一郎氏は、赤羽で2022年11月に行なわれた配送ロボットの実験について紹介した。ティアフォーは2015年12月に名古屋大学発スタートアップとして創業。現在の社員数は300人程度で自動運転に取り組んでいる。自動運転ソフトウェア「Autoware」を開発している。「Autoware」はオープンソースとして開発されており、500社以上が使っているという。開発を加速するための業界団体「AWF」設立も主導し、オープンエコシステムを形成して開発を行なっている。
自動運転は難しい。登山に例えると、まずオープンソースで山の五合目まで進み、事業としては各社がその後を作り込んでいくことが重要だと考えているという。今回の配送ロボットにも「Autoware」が使われている。岡崎氏は「ロボットを使いたい人ができるだけ早く開発できるようにする。それが価値だ」と述べた。
実証実験は、赤羽駅からURの「ヌーヴェル赤羽台」敷地までの約800mの公道で行なわれた。経路には信号が2箇所、公道のなかだがエレベーター1台がある。走行時間は片道20-30分程度、時速3,4km程度で主に歩道をゆっくりと走行した。時間の幅が出たのは、住民の使用を優先したエレベータの混み具合によるもの。総走行日数は7日間。
ロボットのハードウェアは川崎重工業製。それに自動運転用のPCとLiDAR(レーザーセンサー)、遠隔監視用カメラ等を追加した。
自動運転のしくみは事前に作成された高精度の地図データと車両のセンサーから得られるスキャンデータの組み合わせ。リアルタイムに自分がどこにいるかを判断する。もともとの地図にはない障害物なども検知して回避できる。
法律的には歩行者と同等の「みなし歩行者」という扱いになる。自動配送ロボットはこれまではルールが複雑で、人が近くにいるか、原付扱いになっていた。つまりロボットが無人で走行することは法律的に難しかった。4月からは改正道路交通法が施行され、「遠隔操作型小型車」は一定の基準を満たせば、都道府県公安委員会への届け出で走行可能となり、ロボットが走りやすくなると期待されている。
2022年1月には業界団体として一般社団法人ロボットデリバリー協会も発足。ティアフォー含めて正会員20社、賛助会員8社が参加し、安全基準の策定や普及に取り組んでいる。
岡崎氏は「公道を走るロボットとバリアフリーは親和性が高い」と述べた。また、今後はロボットを遠隔監視する業務も生まれると考えて、そのための実証実験も行なわれた。たとえば歩道に自動車が停車しているような状況で、安全性をカメラ画像で確認しながら回避するといった役割が求められる。ロボットの遠隔監視・操作は障害者の今後の職種の一つとしても可能性があると考えられる。
エレベータに関しては、ロボット配車管理システムとエレベータ管制システムをAPIで接続して、ロボットがエレベータを自動で呼び出してドアを開け、行き先指示を出している。
ロボットは5cm以上の段差、歩道上にある車両、狭い歩道が苦手だ。岡崎氏は最後に、車椅子利用とも共通点の多い段差の少ないバリアフリー化や、連携可能なインフラの整備、また地域からの受容性などの環境を作っていくことが重要だと語った。
住まいだけでなく暮らしを支えるサービス提供も目指すUR
次に都市再生機構(UR都市機構) 本社 技術・コスト管理部 担当部長(新規施策)の渡邊美樹氏が講演した。UR賃貸は4大都市圏を中心に全国で約1500団地・70万個以上の賃貸住宅を運営している。そのうち6割弱が首都圏に集中している。建替も進められているが、いまの主軸は昭和40年代と50年代に作られた「標準設計」と呼ばれるエレベーターのない中層住宅。世帯別年齢分布を見ると、65歳以上が約半分となっており、独居も増えている。
そんな背景のなか、URは「多様な世代が生き生きと暮らし続けられる住まい・まち」をビジョンとして掲げて、安心して住み続けられる環境整備、持続可能で活力ある地域・まちづくりの推進、賃貸住宅ストックの価値向上を進めている。団地が地域の核となるよう「地域医療福祉拠点化」も進めており、様々なサービスを充実させていこうとしている。
渡邊氏は高齢者等多様な世代に対応した居住環境整備の状況を示した。床段差の解消や浴室ヒーター設置、スロープ設置などのバリアフリー化や健康寿命サポートを進めており、220団地では生活支援アドバイザーサービスを提供し、団地に住んでいる人の生活の相談にのっている。地域連携イベントも行われている。
また、屋外空間を活用した多世代交流の機会創出、集会所を活用したテレワークスペース提供など、若者世帯や子育て世帯を含むコミュニティ形成も進めている。
さらに次のステップとして、団地エリアを超えた地域との関係性、活動の場の提供、「住まい」から「暮らし」へ、サービスも加えた提供へと進もうとしているとし、赤羽台団地での取り組みを紹介した。赤羽台団地は建替により中層から高層化が進められている。
坂村氏が学部長を務める東洋大学情報連携学部(INIAD)とは2018年に覚書を締結。2030年を想定し、AIやIoTを活用した近未来のUR賃貸住宅のあり方を模索している。
これまでには、2019年に「オープンスマートUR研究会」を立ち上げ。登録有形文化財となった既存住棟を活用し、4部屋で設備機器・サービスのモニタリング調査実験を進めている。坂村氏が監修するモデルルームではいったんスケルトンにし、生活シーンが変えられるように電動の可動家具や多数のカメラやセンサー、スマートミラー等を設置したモデルルームを作っている。
また高齢者、若年ファミリー、壮年パートナー、若年単身とライフステージモデルを設定したリニューアルルームも作っている。こちらでは畳の部屋も残し、センサーなども後付けしている。
渡邊氏は「昔の住宅の悩ましいところは洗濯機置き場だ」という。洗濯機を置くと風呂やトイレが混み合うし、動線も厳しい、高さも出てしまう。「生活スタイルの変化と改修技術をどう進めなければならないのは課題」と述べた。
自動配送ロボットの実験は、赤羽台だけではなく、2021年10月には金沢シーサイドタウン並木一丁目第二団地でも行なわれた。
「ヌーヴェル赤羽台」の保存街区では9月に「UR まちとくらしのミュージアム」をオープンする予定。ここでは昔のアパートの再現などを行なうほか、中庭ではロボットの実証実験なども様々なトライアルを行なう予定だ。
渡邊氏は「団地は広い。団地のなかだけでもロボットの活用は重要。勾配や段差のあるところでのトライアルもしていきたい」と語った。