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「キャッシュレス法」11月施行。車検費用や交通反則金など
2022年8月24日 00:00
デジタル庁は8月23日と24日の2日間にわたり、設立から1周年に向けて同庁の現在の活動について報告する記者向け説明会を開催している。23日には省庁業務サービスグループ・キャッシュレス担当(法・システム)による「キャッシュレス」の解説が行なわれ、特に国の歳入におけるキャッシュレス納付の現状と今後が示された。
日本のキャッシュレス対応は諸外国に比べて遅れているといわれる。例えばアジアだけを見ても、韓国の94.7%、中国の77.3%、シンガポールの57.6%に対し、2020年の日本のキャッシュレス決済比率は29.7%で、2021年の調査で32.5%とようやく30%の壁を乗り越えた。
政府が2018年6月に示した成長戦略フォローアップでは「2025年までに約4割程度とすることを目指す」とされており、少なくとも現状ペースでの伸びを維持しなければ目標達成は難しい。日本における現金決済比率の高さはさまざまな理由が取り沙汰されるが、一方でキャッシュレス化の先にあるデジタルデータの利活用など、商取引の活発化につながるメリットを享受するためにもある程度のシフトが必要となるのが実際だ。
だがそこに到達する前の段階で、さまざまな障害が立ち塞がっているのもまた事実。分かりやすいのが行政機関における収入印紙を用いた納付作業で、現状で感染リスクがあるなかで外出しつつ、現金を用意して収入印紙を入手し、指定の窓口に営業時間内に出向いて手続きをしなければならない。
一方で、これらをクレジットカードなどのオンラインにも対応した支払い手段や、身近なコンビニエンスストアなどでの納付書支払いに代替できれば、好きなタイミングでより簡便に手続きが行なえる。
従来まで、法整備を始めとするさまざまな制約から切り替えが難しかったこれら手続きだが、国民に向けた行政サービス拡充の観点から徐々に移行が進みつつある。各省庁と連携しつつ、足回りを整備して国のキャッシュレス決済比率向上に向けた下支えを行なっていくのがデジタル庁の役割だ。
続々とキャッシュレス対応する公金納付
どこまで公金納付のキャッシュレス化が進んでいるのか? 令和4年度(2022年度)の「自動車検査登録手数料」を皮切りに、旅券発給手数料、登記関連手数料、交通反則金などの対応が予定されている。詳細は下記の表にあるが、かなりの手続きがキャッシュレス的手段で代替可能になる(厳密にいうとコンビニ決済はキャッシュレスではなく、従来とは異なる便利な納付方法という位置付け)。
旅券発給手数料、つまりパスポート発行手数料が令和4年度以降順次となっているが、これは国内の自治体のみならず海外での発行なども含まれるため、一律対応が難しいことによる。
すべての手続きが一斉に切り替わるのではなく、順次できるものから対応していくという流れになっているが、気になるのは「なぜ、この手続きはキャッシュレス決済が適用されて、ほかの手続きは適用されないのか?」といった疑問だろう。これについてデジタル庁 企画官の占部祥氏は「年間の納付件数が多いものから狙った結果」という。
「今回表に導入検討中として挙げられている『自動車検査登録手数料』『旅券発給手数料』『登記関連手数料』『交通反則金』は、それぞれ5,000万件、400万件(コロナ前の数字)、4,500万件、500万件と多い。これに『特許(登録)料』の100万件以上を合わせた5つが納付件数100万件を超えるものであり、優先すべき手続きとして選ばれている。もちろん全部やることが望ましいが、コストや手間を鑑みつつ、まずは費用対効果で件数の多いものを選ばせてもらった」(占部氏)
キャッシュレス化においてはシステム改修など手間や費用が必ず発生するため、あくまで優先順位付けが必要になるというのがデジタル庁側の考えだ。
ただ、単純にすべてをキャッシュレス化しようとした場合、利用件数の少ない手続きについてはシステム改修費用などが大幅に上回ってしまい、効率面でマイナスだ。そこで後述の「キャッシュレス法」の指針では、年間1万件以上の利用がある手続きについてキャッシュレス化が望ましいとしている。
同氏によれば、該当する手続きは160あり、これらを将来的に関係省庁をまたいでキャッシュレス化していくのが狙いだ。ただし前出の収入印紙の話を含め、国の歳入などの納付方法について定めた法令の規定により、単純に置き換えが難しいケースがある。そこで既存の規定を越えてキャッシュレス的な決済手段での納付を可能にすべく、一種の救済手段として適用されるのが「キャッシュレス法」となる。
2022年5月9日公布、11月1日に施行となるこの法律では、国の歳入の納付に関する他の法令の規定にかかわらず、インターネットバンキングなどの情報通信技術を利用しての納付を可能とさせる。
例えば収入印紙であったり、現金以外の納付方法を定めているケースなどがあり手続きが煩雑化するが、これを納付者が選んだ方法で手続きさせることがキャッシュレス法の狙いだ。
ただし前述のようにすべての手続きが一律で切り替わるわけではなく、あくまで各省庁が判断して準備が整ったものから順番に主務省令に手続きが加えられていく流れとなる。また利用可能な決済手段はポジティブリスト方式で定められ、手続きによって利用可能なものが異なり、すべてに一律適用されるわけではない。
また概要の説明で2点ほどポイントがある。1つは概要の2番目の項目で「指定納付受託者に当該歳入等の納付を委託して納付する方法(クレジットカード、電子マネー、コンビニ決済等)」とあるが、「コンビニ決済等」の「等」の部分だ。占部氏によれば、これは「将来的に登場しうるであろう便利な決済手段」のことを指すという。つまり、キャッシュレス決済手段が増えるたびにキャッシュレス法を改正していくのではなく、将来的な発展を見越して検討が行なわれているということだ。
もう1つはキャッシュレス的決済手段を受け入れる「指定納付受託者」の話で、中間業者を介して納付が行なわれる以上、国の歳入として国庫に納まるまでの日程的なラグが存在しうる。この場合、委託を受けた日、つまり国民である納付者が支払いを行なった時点で納付が行なわれたものとみなし、遅延による手続き上の不利を被らないようにすることが示されている。こうしたトラブルは起こりうる話で、キャッシュレス対応ならではの事情が考慮されているといえる。
なお、キャッシュレス法で規定されるのは各省庁をはじめとする国の機関が対象で、地方自治体などはその限りではない。先ほどキャッシュレス法では160の手続きが将来的にキャッシュレス対応するとしたが、このうち約50件はすでに他の法令で措置済みであり、残り約110件の手続きをキャッシュレス化していくのが同法の狙いとなる。
決済手数料と公的決済基盤
キャッシュレス化において毎回大きな問題となるのが「決済手数料」の話だ。これは公金の納付においても同様で、現状で国民年金保険料のように国側が予算で負担しているケースもあれば、別途カード決済手数料が上乗せされる手続きも存在する。これについて占部氏は次のように話す。
「対応がバラバラという指摘はもっともで、デジタル庁が関係省庁と一緒に整理が必要というのは確か。実際に、衆議院の付帯決議において決済手数料のあり方について考えるよう求められている。ただ統一も含め、それが実際に可能かも含めた検討が必要。例えば歳入が多くなるとそれだけ手数料も増え、結果的に国の財政負担を多くする原因にもなる。この場合、国民全体の負担となるが、利益享受者はあくまでキャッシュレス決済を利用する人であり、残りの人たちがそれを一方的に負担するのが正しいのかの議論が必要」(同氏)
キャッシュレス化におけるシステム対応のコスト的負担も含め、その負担はいずれどこかが吸収せざるを得ないため、このような形で優先順位付けや享受者の判断も含め、バランスを取っているのが現状といえる。また将来的に共通の公的決済基盤の導入もデジタル庁では検討に入っているようだ。デジタル庁 CTOの藤本真樹氏は英国の「GOV.UK Pay」を例に出し、国として決済用APIを提供する先行事例を見極めつつ勉強している段階だと述べている。
「やるべきこととやらない方がいいことを見極めつつ進めている段階で、実際に(投資が)“ペイ”するのかも含めて難しい基盤の共通化を判断していく。理想はコストが安くなり、結果として税金を安くすることだが、仮に支払い部分だけをオンライン化できても、それ以外の手続きが伴わないようであれば意味がない」(藤本氏)
いずれにせよ使えるリソースは限られており、これを活用しつつ最大限の効果を出すべくつねに取捨選択を行なっているのが、国の歳入におけるキャッシュレス化の現状となる。