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コマツ、AWSで「コト」を繋ぐ建設現場のDX
2021年6月25日 20:00
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWS)は6月25日、コマツが世界の建設現場のデジタルトランスフォーメーションを推進するために展開しているソリューション「デジタルトランスフォーメーション・スマートコンストラクション(DXスマートコンストラクション)」に、AWSを採用したと発表した。
DXスマートコンストラクションは、コマツの顧客の建設生産プロセス全体の「モノ」データをICTで繋ぐことで現場データすべてを「見える化」し、安全で生産性の高いスマートでクリーンな「未来の現場」を創造していくソリューション。コマツは、コンテナ、サーバーレス、データベースなどのAWSのサービスを活用し、DXスマートコンストラクションの様々な機能を日本、米国、欧州で提供していく。
たとえばDXスマートコンストラクションの機能の一つである「SMART CONSTRUCTION Dashboard」は、AWSを利用して建設現場のデジタルツインを構築する。
ドローンで測量した建造物や樹木などを取り除いた地表面を表す3D地形データに、ICT建機やドローンからの施工進捗データをつなぎ、デジタルツインを3Dで視覚的に示す。このデジタルツイン上に、Amazon Elastic Container Service(Amazon ECS)などを利用して、完成地形設計データを重ね合わせることで、生産性の高い施工計画をたて、土砂の運搬に求められるダンプトラックの走行経路を最適化できる。
コマツは従来型の建設機械をICT建機化できる「SMART CONSTRUCTION Retrofit」も提供している。建設機械のオペレーターは、ICT建機の専用モニタや、SMART CONSTRUCTION Retrofit搭載の建機では市販のスマートフォンやタブレットを使い、リアルタイムに施工状況が反映される3D地形データを見ながら、自立した土木作業を高品質で行なうことができる。
さらに、どこからでも施工の進捗を管理できるため、監督者が作業員への作業の割り当てなどの施工計画をリアルタイムに調整し、大規模工事の効率化および短期化を通じて環境負荷の軽減を実現している。
ミッションクリティカルな領域で使われるAWS
AWS執行役員 エンタープライズ事業統括本部長の佐藤知成(さとう・ともなり)氏は会見で、Amazonの顧客志向を強調。AWSは200を超えるワークロードをサポートしている。日本では数十万の顧客を抱え、数百のパートナーと連携しており、ユーザーコミュニティ参加者数は5万人を超えている。AWSは様々な顧客に用いられているが、特に最近では様々な業界でのミッションクリティカルな領域、公共分野でのクラウド活用が進んで来ているという。
特に製造業では、設計・開発、製造、プロダクトサービスの3領域に特に注力している。そして「AWSはSociety 5.0を支えるプラットフォームだ」と述べ、業界プラットフォームを目指すコマツにも今回採用されたと紹介した。スマートコンストラクションはあらゆる産業の社会基盤だと考えているという。
13,700現場で活用されている「スマートコンストラクション」
コマツ執行役員 スマートコンストラクション推進本部長の四家千佳史(しけ・ちかし)氏は、まず建設業の課題を紹介。建設現場に出る技能労働者の数は今後どんどん減少しているという。いっぽう、社会インフラの維持需要は現在以上の水準を維持する必要がある。数年以内に最大120万人の労働力が不足すると見られている。解決法としては労働生産性をあげて、これまでよりも少ない人数で多くの工事をしなければならない。労働者不足に対しては先手を打つ必要がある。だが建設業の多くは中小企業で、日々の業務のなか、今後のことを考えるのは難しい。
コマツは建設機械から顧客をサポートしている。しかし建設機械は工事全体を見ると、その一部分にしか使われていない。つまり、生産性を上げられる機械をコマツが提供できたとしても、部分最適しかできない。もし、機械導入の手前にボトルネックがあったら建設現場全体の効率・生産性は上がらない。多くの建機メーカー・製造メーカーでは、この点に気づいてもいない。自分たちの製品からしか現場オペレーションを見ていないからだ。だが全体を俯瞰してみると、部分最適だけを頑張っても全体最適にならないことに気づく。
そこでコマツは2015年に、プロダクトサポートだけではなく、現場全体を見て、コマツ以外の製品も使って様々なものを解決していこうと決めた。これが「スマートコンストラクション」である。顧客のオペレーションを理解し、課題を見つけて、それを一緒に解決することを目指す。
スタートしたのは2015年2月。コンセプトは「安全で生産性の高いスマートな未来の現場をつくろう」。そのときに見つけた課題を、そのときに使える技術で一つ一つ解決してきた。たとえば現場の土量をドローンを使って3次元測量したりしてきた。一つ一つの技術はその後、徐々に進化してきた。
いっぽう、2016年4月からは国土交通省が生産性を向上させるために「i-Construction」をスタート。同年9月には未来投資会議で当時の安倍総理が「建設業の生産性革命と推進」を宣言した。
「スマートコンストラクション」とは、一言でいうと、現場を最初から最後までデジタルデータで繋ぐものだ。工事が始まる前の現況をドローンやレーザースキャナーを使って測量して3次元化する。それに対して最終ゴールであるデジタル図面を重ねる。そうするとどこをどのくらい掘削・盛り土すればいいかわかる。そこにICTで自動・半自動制御される建機を投入する。
いっぽう、毎日の日々の施工状態はデジタルデータになってクラウドに上がってくる。今までは現場監督が自分の目で工事の進捗を経験から考えていたが、正確に進捗と遅れがわかるようになる。また最後は完成すると、再び測量して3次元データと設計データが合っているかをコンピュータ上であわせることで、合格不合格がその場でわかるようになる。
2015年2月当時はICT建機とドローンくらいしかなかったが、2021年3月末現在では13,700現場以上にスマートコンストラクションを導入している。四家氏は「13,700現場に我々が自ら立って、顧客の課題を理解できた。そのうち2、3割は解決できた。まだ解決できてないこともあるが、何よりも現場で顧客が直面している課題を理解できたのがこの数だ」と述べた。
部分最適から全体最適へ。デジタルでプロセスを変革
2年ほど前からは次のステップに移ろうとしているという。スマートコンストラクションは、まずは一つ一つのプロセスのデジタル化を進めてきた。だが、これでは部分最適にしかならない。安全・生産性の向上は限定的なものに留まってしまう。
そこで、全てのプロセスがデジタル化されたときに、それが横に繋がり、そのことによって必要ないプロセスが出て来たり、後ろのプロセスが前に出てくるといった現状の施工プロセスに大きな変化が生まれる。それが施工のDXだろうと考えた。
この仮説を日本以外で検証しようということで、建設工事のデジタル化が進んでいると考えられたドイツのアウトバーンの工事を見にいったという。ドイツの建設プロセスを長期にわたって調査し、入札から何をするのか、施工計画で何をするのか、本施工にわたって何をしているのかを詳細に調べた。すると、施工中はほとんどデジタル化がされておらず、現場で起きたことを目で見てアナログで報告していた。デジタル化されているところは主に入札から落札までだったが、すべてを網羅しているアプリケーションもなかった。やはり一つのプロセスのデジタル化でしかなかった。
四家氏らは、調査結果をプリントアウトしてチームで議論。将来登場するだろう技術を含めて、様々な技術が登場すると何が起こるのかを想定し、プロセスを組み直した。入札のときにしっかりと現況とシミュレーションした結果が計算できていれば、正確な積算ができる。受注できれば、そのまま計画実行ができる。実行されれば、現場で起きたことはすべてリアルタイムに精度良く高速処理されてデータが上がってくるので、管理者はそのままデータを見てPDCAを回すことができる。このような大きなプロセスの変革ができると考えた。
高速リアルタイムPDCAで何が変わるのか。土木工事は土を動かす量自体は変わらない。土を動かすための機械・人・エネルギーが少なくなるとコストに反映できる。工期が短くなるとそのぶんもコストに反映する。また、早く工事が終われば次の受注機会が増える。建設業は安全や生産性は他産業と比べると低い。デジタルを活用することで、安全と生産性を飛躍的に高めることができるという。
四家氏は「それも『遅れていた』のではなく『待っていたのだ』と思う。10年前はコストも技術も追いついていなかった。ちょうどいま、やりたいことができるようになってきた」と語った。
「コト」を繋ぐDXスマートコンストラクション
2019年、コマツの新しい中期経営計画が始まった。ここで今のコンセプトのもと、機械の進化と、オペレーションを最適化する“コト”の2軸で、施工にDXを起こそう、そして安全で生産性の高い、クリーンな未来の現場が実現できる、施工DX、つまり「モノ」だけではなく「コト」の最適化もしていこうと考えた。
DXスマートコンストラクションは、現場全体にいる機械、人、サプライヤーのデジタル化の層、それらを処理して、データを情報に変えるプラットフォーム、そしてアプリケーションの3レイヤーからなる。レベル1では可視化できるようになり、レベル2では課題発見・分析ができるようになり、レベル3では最適化ができるようになり、レベル4では最適な施工計画を作って、最適なタスクを作って渡すことができるようになると考えているという。
スマートコンストラクションのソリューション群は様々なアプリケーションやデバイスで構成されている。現場にいるICT建機や、既存建機をICT化するレトロフィットキットから上がってくるデータがプラットフォーム上で処理されて、シミュレーションからタスクが渡される。
AWSを選んだ理由は4つ。世界中どこでも高品質なサービスが提供できること、スピード感をもって実行したいときに様々なリソースが用意されていること、多くの技術パートナーがすでにAWSを基盤にして開発を行なっていたこと、そしてスマートコンストラクションの姿勢とAWSの顧客姿勢・企業風土に共感できるものがあったことだと語った。
高い可用性と拡張性でスマートコンストラクションを支える
AWS執行役員技術統括本部長の岡嵜禎(おかざき・ただし)氏はAWSが考える建設業への貢献について改めて述べた。たとえばデータの可用性。ドローンやICT建機からのデータをどこからでもアクセスして活用できるようにし、工期を劇的に短縮する。様々なソリューションを組み合わせて全体のプロセスの最適化を目指す。様々な情報をデータレイクで繋げて、全体のDXを推進する。俊敏性、コスト削減、拡張性・弾力性、幅広い機能、グローバル展開といったクラウドならではの価値が評価されたという。
建設現場とアプリをデジタルツインで融合しているところも特徴だという。デジタルツインを使うことで、データを活用しながら未来を予測することができる。スマートコンストラクションでは仮想サーバー、コンテナ、サーバーレスの3手段が状況に合わせて使われている。
スマートコンストラクションの新領域ではサーバレスで開発が行なわれている。クラウドネイティブなのでサーバー管理が必要なく、スケーリングが柔軟、アイドル時のリソース確保が不要といったメリットがある。岡嵜氏は「顧客のリソースをより本質的なところにシフトするにはサーバーレスアーキテクチャが適している」と述べ、「高い可用性と拡張性がAWSの特徴だ」と強調した。
スマートコンストラクションではアプリケーションの開発、運用の工数削減、市場へのスピードアップ、建設生産プロセスの安定運用、ICT建機増加への対応力向上、工期短縮、データのつなぎ・見える化、データの現場間連携と全体最適、現場の高度化と施工作業の最適化、建設DX世界展開などで貢献しているという。